川 ゚ -゚)は演じていたようです

40 名も無きAAのようです 2013/10/08(火) 22:07:35 ID:bN3uyRuY0

o川* ー )o「初めてもらった大きな役よ。必ず成功させるのよ。いい?」

川 ゚ -゚)「うん、わかってるよ。お母さん」

川 ゚ -゚)「でも……成功させるために私は一体、どうすればいいの?」

o川* ー )o「百合になるのよ。演じる必要もないくらい、百合になるの」

川 ゚ -゚)「百合に……なる……」


百合を演じなければ。


 「カット!お疲れ様ー」

川 ^ー^)「おつかれさまです」

 「……あの子すごいな」

 「ええ。すごいですねぇ。思わぬ掘り出し物です」

 「まるであの子自身が"百合"のようだな」


百合を演じなければ。

.

41 名も無きAAのようです 2013/10/08(火) 22:09:10 ID:bN3uyRuY0

 「百合ちゃんはどういう風に演じていたの?」

川 ^ -^)「台本を読んでみて、百合は私のなりたい女の子だなぁと思いました」

川 ^ -^)「正義感があって困ってる人がいたら助けてしまう、心の優しい女の子なんです」

川 ^ -^)「だから私が百合になるっていう母のアドバイス通りに演じました」

 「へぇ~本格的だねぇ~」

 「受け答えもしっかりしてるし、本当に百合ちゃんみたいだね~」

川 ^ー^)「ありがとうございます!」


百合を演じなければ。
百合を演じなければ。
百合を演じなければ。



川 ^ー^)



百合にならなければ。


.

42 名も無きAAのようです 2013/10/08(火) 22:11:26 ID:bN3uyRuY0

川 ^ -^)「みんな、おはよう!」


 「……いつまであの子、百合気取ってるんだろう」

 「いい加減ちょっとうっとうしいよね」

 「勉強も運動もできて先生の評価高いとか、ウザすぎでしょ」

 「自分が中心に世界が回ってるって本気で考えてそう」

 「やだよねー。あんなのと仲良くなりたくない」

 「あっ。こんなこと喋ってたら、また"恥ずかしくないのか!"って怒鳴りこんでくるよー」

 「あー怖い怖い、百合ちゃん怖いわー」

 「あははははははは―――」


川  -^)


百合にならなければ。
百合にならなければ。
百合にならなければ。


.

43 名も無きAAのようです 2013/10/08(火) 22:13:51 ID:bN3uyRuY0

o川* - )o「どうしたの空。最近、お仕事もお勉強も上手に出来てないじゃない」

川 ゚ -゚)「ごめんなさい……」

o川* - )o「あなたは百合ちゃんになりたいんでしょ?だったらもっとしっかりしないと―――」

(  ω )「母さん。この子は百合じゃないんだお」

o川* - )o「わかってるわよ。でもね、この子も百合になりたがってるし、世間がそれを求めてるの。」

(  ω )「この子は空だお。誰かの、ましてや母さんの理想通りに生きる人形じゃない」

o川* - )o「何よその言い方……私はこの子の事を考えて言ってるのよ!!!」

o川# □ )o「あなたはいっつもそう!!空の事は私に任せっぱなしで後から文句ばっかり!!」

o川# □ )o「空より稼いでないくせに自分は仕事仕事っていつもいつも逃げる!!」

(# ω )「だからそれは前に謝ったお!!この子は"空"だ!!"百合"を演じさせるんじゃないお!!」

川  -゚)「あ……」

o川# □ )o「演じさせる?違うわよ!この子は"空"で、"百合"なのよ!!何が間違っているの!?」

川  - )

(# ω )「子どもにそんなことを強要すること自体が―――」

44 名も無きAAのようです 2013/10/08(火) 22:15:49 ID:bN3uyRuY0



"百合"を演じちゃいけないの?


"百合"でいちゃいけないの?


じゃあ私は、"空"はどんな人間なの?





川   )





――― わからない。



.

45 名も無きAAのようです 2013/10/08(火) 22:17:03 ID:bN3uyRuY0

 * * *

川;゚ -゚)

夢を見ていた。

昔の嫌なことを凝縮したような夢だった。
悪夢は容赦なく私の精神を蝕み、暗い気分にさせる。
警告のような耳鳴りが止まない。

川;゚ -゚)「……」

どろどろの目覚め。
寝巻が汗のせいで、悪夢と同じように体に纏わりついている。
逃れられない。

カーテンの隙間から射す寝ぼけた太陽の光が憎いほど暖かい。
春、新しい季節なのだ。
いつまでも過去に囚われていてはいけない。

"百合"を演じても彼女にはなれない、わかっている。

ぴぴぴ、と目覚まし時計が電子音を鳴らす。
時計の出っ張った部分を押し込み、電子音を止める。

耳鳴りはまだ止まない。

.

46 名も無きAAのようです 2013/10/08(火) 22:19:09 ID:bN3uyRuY0

 * * *

放課後のことである。

ξ゚⊿゚)ξ「ねぇ空。部活見学に来ない?」

川 ゚ -゚)「部活?」

ξ゚⊿゚)ξ「そ。部活」

玲の口から意外な言葉が飛び出す。
真面目に部活動に勤しむ彼女の姿は想像しづらい。
目の前の、動く度にふわふわ揺れる髪の毛が遊んでいる。

川 ゚ -゚)「玲は何部に入ってるんだ?」

ξ゚⊿゚)ξ「文芸部」

川 ゚ -゚)「ぶ、ぶんげいぶ……」

これまた意外な言葉が出てきて内心驚く。
想像上の文学少女と彼女の風貌は大きく離れていて、本を読むとは思えない。
ファッション雑誌なら山ほど持ってそうなのだが。

ξ゚⊿゚)ξ「……さっきから失礼なこと考えてない?」

川 ゚ -゚)「き、気のせいだ」

ξ゚-゚)ξ「別にいいけどさ」

47 名も無きAAのようです 2013/10/08(火) 22:22:16 ID:bN3uyRuY0

川 ゚ -゚)「部活見学だったな。行こう、行こう」

釈然としない顔の玲を急かす。
と。

ミセ*゚ー゚)リ「ねぇねぇ七尾さん、津出さん!」

ξ゚⊿゚)ξ「ん?」

香水の匂いが押し寄せる。
茶色に染まった前髪の一部を髪留めで留め、薄く化粧をした女子だ。
クラスメイトで、確か名前を御門瀬里(みかどせり)と言ったか。

ミセ*゚ー゚)リ「これから丹生束まで遊びに行くんだけど、二人とも一緒にどう?」

ミセ*゚ー゚)リ「ほら、七尾さんって引っ越してきてこの辺りの事あんまり知らないだろうし」

ミセ*゚ー゚)リ「紹介がてら、と思ったんだけど」

聞き慣れない固有名詞が出てきて頭の中にハテナが浮かぶ。
恐らくこの辺の都市部の名前なのだろう。

ξ゚⊿゚)ξ「あー、ごめんね。これから行くところがあって」

ミセ*^ー^)リ「ああ、じゃあしょうがないね。また今度行こうね!」

川 ゚ -゚)「申し訳ない」

48 名も無きAAのようです 2013/10/08(火) 22:24:48 ID:bN3uyRuY0

ばいばい、と御門が小さく手を振り、彼女と似た雰囲気の女子の輪へ加わる。

ξ;゚⊿゚)ξ「つい断っちゃったけどこれで良かった?」

川 ゚ -゚)「ん、別にいい。玲との約束の方が先だったしな」

ξ;゚⊿゚)ξ「まあ、それもあるんだけどさ……」

ξ;´⊿`)ξ「私、集団って苦手で……ああいう子もちょっと苦手だから」

ばつが悪そうに玲が頭をかく。
そういえば彼女が、知り合いと事務的に話すことはあれど、
友達と仲良く話しているところを見たことがない。

本来、玲は気難しい性格なのかもしれない。
孤独、一人ぼっち、仲間はずれ、浮いた存在……。
そんな言葉が思い浮かび、少し玲を案じた。

川 ゚ -゚)「じゃあ行こうか。待たせてすまない」

帰り支度を終えて、二人で教室を出た。

⌒*リ´・ヮ・リ「あっ!玲ちゃーん!!」

すると遠くから玲を呼ぶ声が飛んできた。
アニメキャラのように高く、舌ったらずな声だ。

49 名も無きAAのようです 2013/10/08(火) 22:28:14 ID:bN3uyRuY0

ξ゚⊿゚)ξ「リリじゃないの」

見ると、小柄な少女が人を避けながら廊下を走ってくる。
跳ねる度に頭の後ろでぴょこぴょこ跳ねる括った髪が可愛らしい。
赤いランドセルが似合いそうだ。

⌒*リ´・-・リ「やっほー。一年生ぶりだね、元気だった?」

ξ゚⊿゚)ξ「それなりに」

⌒*リ´・ー・リ「私もそれなりだったよー」

にへらと少女が笑う。

ξ゚⊿゚)ξ「これから部室に行こうと思ったんだけど、どうしたの?」

⌒*リ´・ー・リ「へっへっへ、ウワサの転校生を一目見に来たのですよ」

ギクリ。

ξ゚⊿゚)ξ「10組から2組までわざわざご苦労さま」

⌒*リ´-_-リ「人間、興味には勝てぬ」

⌒*リ´・-・リ「で、転校生サンはどれだい?」

リリと呼ばれた少女はきょろきょろと教室内を眺める。

ξ゚⊿゚)ξ「これよこれ。すぐ近く」

50 名も無きAAのようです 2013/10/08(火) 22:31:22 ID:bN3uyRuY0

指をさされ、仕方なく玲の影から姿を現す。

川;゚ -゚)「ど、どうも。転校生です……」

⌒*リ*´・-・リ

⌒*リ*´・ヮ・リ「いたーーーーーーーー!!!」

新しいおもちゃを買ってもらった子どものように目が輝く。

⌒*リ*´・ヮ・リ「なんだよぅ玲ちゃーん!もう唾付けてたのー?!」

ξ゚⊿゚)ξ「べ、別に唾付けてたわけじゃないけど……」

川;゚ -゚)「あー、その、初めまして、七尾空だ」

高いテンションに気圧されっぱなしだが、とりあえず自己紹介をしておく。
地味に人目を引いてるのが恥ずかしい。

⌒*リ´・-・リ「初めまして!私、結城里莉子(ゆうきりりこ)!文芸部の部長やってます!!」

川;゚ -゚)「あ、ああ。文芸部の……」

ξ゚⊿゚)ξ「そ。この子も文芸部なの」

やはりこの子もイメージ上の文学少女とは違う。

51 名も無きAAのようです 2013/10/08(火) 22:33:19 ID:bN3uyRuY0

⌒*リ´・-・リ「じゃあまあ、これから部室に来るんなら丁度いいや!」

⌒*リ´・w・リ「立ち話も何だしおいでおいで!私先行ってるから!じゃーねー!」

ぶんぶんと手を振りながら走り去って行った。
台風が来たかのような騒がしさだった。

川;゚ -゚)「……」

ξ;゚⊿゚)ξ「……まあ、悪い子じゃないから大丈夫よ」

元気でうるさい幼なじみなんだ、と玲が苦笑しながら捕捉してくれる。
二人の交友関係は長く、今のやり取りからも察するに深いものなのだろう。
私が余計な心配などせずとも大丈夫だったのだ、と安心する。

川 ゚ -゚)「……」

反面、粘着質な火が胸の奥に薄ら灯った。

私は思考を止め、決してそれを表に、少しも出すことなく無意識の海に放り込んだ。

そして隣を歩く玲に気付かれないように半歩後ろを歩き始める。

 * * *

.

52 名も無きAAのようです 2013/10/08(火) 22:36:34 ID:bN3uyRuY0


从 ゚∀从


ξ゚-゚)ξ

⌒*リ*´・-・リ

川 ゚ -゚)

校内の、通称"部室棟"と呼ばれる一角に、文芸部の部室はあった。
通常の教室を半分にしたぐらいの大きさの部室には、
"らしい"本棚がいくつも置かれている。
その中には本が新旧問わず並べられていて、順序はバラバラである。
部室の中央には一般的な学校の机が四つ、島を作っている。

その島のそれぞれの席に私達は座っている。

⌒*リ*´・-・リ「今日はお客さんでいっぱいいっぱいだなぁ」

ξ;゚⊿゚)ξ「喜ぶ前に状況を説明してよ」

玲がちらりとリリの隣に座る人物を見やる。
肩甲骨のあたりまで伸びた髪が外にはね、
少し大人びた雰囲気を帯びる中性的な顔立ちの少女だ。

少女は玲の視線の先に、他にも誰かいるのかと言わんばかりに振り返る。

ξ;゚⊿゚)ξ「いやいやあなたよ!」

53 名も無きAAのようです 2013/10/08(火) 22:39:11 ID:bN3uyRuY0

从 ^∀从「あ、あたしか。申し訳ないっす!」

从 ゚∀从「どうも初めまして、一年の灰野律(はいのりつ)です。律って呼んでください!」

从 ゚ー从「よろしくお願いしまっす!」

立ち上がった彼女はスカートを着用しており、紛れもない女子だった。
一年生だと言うのに、更に言えばまだ春だと言うのに、
ブレザーを着ずにブラウスを少しはだけさせ着こなしている。
バレンタインデーの日に女子からチョコを大量にもらうタイプの子だろう。

⌒*リ´・ヮ・リ「入部希望の子なんだよー!今年もなんにも宣伝してなかったのに!」

ξ;゚⊿゚)ξ「先輩たちの悪い風習を受け継いだのね」

⌒*リ´・3・リ「だって玲ちゃん、まーったく手伝ってくれなかったんだもん」

ξ゚⊿゚)ξ「まあその通り」

結城里莉子は不満顔だ。

⌒*リ´・-・リ「ま、それは置いといて。改めて、私が部長の結城里莉子!」

次は君だ!と玲を指さす。

ξ゚-゚)ξ「……あ、そういう流れ?」

川 ゚ -゚)「どうやらそうらしい」

54 名も無きAAのようです 2013/10/08(火) 22:43:40 ID:bN3uyRuY0

ξ゚⊿゚)ξ「私、津出玲。二年よ」

从 ^∀从「よろしくです、玲さん」

ξ゚⊿゚)ξ「で。こっちが同じく二年の、」

川 ゚ -゚)「……七尾空、だ」

川 ゚ -゚)「えー……、今年の四月から転校してきた。よろしく」

从 ゚-从「……」

川 ゚ -゚)「……?」

灰野律はじっと押し黙り、私を見る。
その視線には時期外れの転校生に対する悪意や拒絶のような負の意はなく、
逆に興味・関心のような、探るような思惑が含まれている、と感じた。
それでも耐えきれず、ついと目を逸らす。

从 ^∀从「よろしくお願いします!」

川 ゚ -゚)「あ、ああ。よろしく……」

ぱっと彼女は人懐っこい笑顔を見せた。
前世は猫か何かだろう。

⌒*リ´・ー・リ「うーん、春だねぇ。出会いの春!」

余程感激しているのか、一人でうんうん頷いている。

55 名も無きAAのようです 2013/10/08(火) 22:47:02 ID:bN3uyRuY0

⌒*リ´・-・リ「じゃあまあ、かるーく文芸部の説明をしようかね!」

⌒*リ´・-・リ「部員は今のところ私と玲ちゃん!去年は先輩が三人いたのよ」

⌒*リ´・-・リ「活動日は月水金、でも暇ならいつでも部室に来ればいいよー」

⌒*リ´・-・リ「活動内容は本読むこと。あと冊子を作ってるんだけどね、」

⌒*リ´・-・リ「その冊子に載せるための何かを書くこと」

ξ゚⊿゚)ξ「私、去年何も書いてない」

⌒*リ´・-・リ「……まあそういう人もいるから気楽にね」

苦笑いを浮かべる。
机に置いてあった修学旅行のしおりくらいの厚さの冊子を開いてみると、
彼女と去年卒業した先輩たちの名前だけ載っていて、確かに玲の名はなかった。

从 ゚∀从「やー、緩いっすねぇ」

歯に衣着せぬ言葉に思わず頷く。

⌒*リ´・-・リ「まあそんなもんかな。何か質問ある?」

从 ゚∀从「あ、じゃあ」

从 ゚∀从「兼部したいんですけど、大丈夫ですかね?」

ξ゚⊿゚)ξ「へー。兼部なんて大変なこと、すごいじゃない」

56 名も無きAAのようです 2013/10/08(火) 22:49:16 ID:bN3uyRuY0

⌒*リ´・-・リ「ほほう。何と兼部するの?」

興味深そうに玲と部長が顔を近づける。
すると、何故か少し恥ずかしそうに照れながら、灰野律が答える。

从 ゚∀从「演劇部っす」

演劇。

从*^∀从「あたし、役者になりたいんですよ」

自分の大きな夢を語る無垢な少女がそこにいた。
さっきまで大人びて見えていた灰野律はいない。
どこにでもいる、普通の夢見る少女。

ξ゚-゚)ξ「役者……」

⌒*リ´・w・リ「ほーう!でっかいこと言うねぇ!」

川 ゚ -゚)

頭の中で、いつかの記憶が蘇る。

いや、蘇らなければならないほど深く沈んでいたわけではない。

私にいつでも恐怖を与えるために、すぐそこに潜んでいたのだ。

57 名も無きAAのようです 2013/10/08(火) 22:52:45 ID:bN3uyRuY0

演じることを止めた小さな私が少し成長した頃、もう一度演じようと思ったことがあった。

正義を体現した、憧れの"百合"を社会では演じきることはできないと知った。
しかし、誰かを演じることへの無限の可能性を捨てることは出来なかった。
例え社会の中でなくとも舞台の上では誰かを演じ、追体験することができるという可能性を。

やはり夢を見て、追うことは止められなかったのだ。

その演じる勇気が、夢が潰えた記憶。

 * * *

从 ゚∀从「演劇やろうと意気込んでたら、演劇部が廃部寸前だったんですよ」

从 -∀从「しょーがないからあたしが入ってなんとか存続」

从 ^∀从「んで、戯曲書いて演じて、自作自演で名を売ります!」

从 ゚∀从「……そのために、文芸部で文の書き方教わりたいんですけど……どうです?」

⌒*リ´・ヮ・リ「オーケーオーケー。そういうことなら私がビシバシ指導してあげるよ!」

リリと新入部員、律が和気藹々と話し始めた。
わざわざその輪の中に入る気にもならず、背もたれに体を預ける。
それよりも、だ。

ξ゚⊿゚)ξ「ねぇ、空。演劇部だって」

何の気なしにこっそり話しかける。

58 名も無きAAのようです 2013/10/08(火) 22:55:56 ID:bN3uyRuY0

川 ゚ -゚)「ん……あぁ、そうらしいな」

ξ゚⊿゚)ξ「どう?演劇」

川 ゚ -゚)「どう、って……何がだ」

ξ゚ー゚)ξ「やってみない?」

川 ゚ -゚)「……昨日も言っただろう」

川 ゚ -゚)「私は、もう演じない」

隣に座る、不自然に無表情な空から沈痛な空気を感じる。

ξ゚⊿゚)ξ「そう……」

だからそれ以上何も言う事が出来なかった。

確かに昨日、駅で空は演じることを止めたと言った。
発せられる空気はただ事ではなく、過去に何かあったであろうことが簡単に想像できた。
できていたはずだが、私には彼女の負っていた傷がどれほどのものか、
推し量ることが出来ていなかった。

それ故に質問をぶつけてみたのだが、
穴に小石を投げ込んで底を知ろうとしたら音がいつまで経っても返ってこないような、
そんな得体の知れない不安を抱えた気持ちになる。

59 名も無きAAのようです 2013/10/08(火) 22:57:15 ID:bN3uyRuY0

从 ゚∀从「ねぇ、空先輩!」

川;゚ -゚)「!」

突然投げかけられた声に空がビクリと反応する。

从 ゚∀从「先輩、さっき初めて会った時から、あたし、ピンと来たんです」

川;゚ -゚)

律が興奮した面持ちで迫る。

从 ゚∀从「背、高いですよね?声、通りますよね?」

川;゚ -゚)

リリが、律が何を言い出すのか、興味津々にこちらを窺っている。

从 ゚∀从「独特の雰囲気ありますよね?いや、あるんですよすんごいのが」

川;゚ -゚)「あ」

空が口を開いた。
言い出すより早く、灰野が言いきった。

从 ^∀从「先輩、演劇やりましょう!」

60 名も無きAAのようです 2013/10/08(火) 22:59:25 ID:bN3uyRuY0

从 ゚∀从「先輩なら主演女優やれますよ!メインです、メイン!」

从 ゚∀从「でもあたしもメインやりたいんで主役の座を奪いあいましょう!」

从 ゚∀从「あ、不安だっていうなら、脇役からスタートしましょうよ」

川;゚ -゚)「あ、私、は」

⌒*リ´・-・リ「いいんじゃない?空ちゃん美人だし、舞台映えするんじゃなーい?」

从*゚∀从「ですよね!あたしもそれ、思うんすよ!」

从 ゚∀从「もったいないですよ!色んなもん持ってるのに、魅せないなんて!!」

川;゚ -゚)「その、演劇は……いい」

从*゚∀从「いいんすね!?やるんですね!?」

川;゚ -゚)「いや、そっちじゃなくて、あの……」

ξ゚⊿゚)ξ「律。空、そういうのはちょっと嫌なんだって」

助け舟を出す。
空が心なしかほっとした表情になり、律は露骨に落胆した表情を見せた。

从 ゚ 3从「えー……えーえーえー」

61 名も無きAAのようです 2013/10/08(火) 23:01:26 ID:bN3uyRuY0

川 ゚ -゚)「そ、そういう、ことなんだ。すまない」

⌒*リ´・-・リ「そういうことなら仕方ないねー。面白そうなんだけどなー」

兼部は律の文芸部員としての活動が疎かになるかもしれないということなのに、
さらに空にも勧めようとしていたリリは、案外文芸部自体には愛着がないのだろうか。
書ければいい、好き勝手出来ればいいということなのか。
それともそんなこと特に考えずに、単純に面白そうだということか。

長年付き合っているが、未だにリリの考えることは分からないことの方が多い。

ξ゚⊿゚)ξ「……今日はそろそろ帰る?空」

こくんと頷いた。

从 ゚∀从「先輩、あたし、諦めませんからね」

从 ゚∀从「気持ちが変わったらいつでも言ってくださいね!」

川 ゚ -゚)「ああ……」

ξ゚⊿゚)ξ「じゃあね」

川 ゚ -゚)「また」

多分、気持ちは変わらない。

部室を出る時、二人の別れの言葉に混じって空が小さく呟いたのを、
私は聞き逃さなかった。

62 名も無きAAのようです 2013/10/08(火) 23:03:17 ID:bN3uyRuY0

 * * *

ξ゚⊿゚)ξ「……なんか、ごめんね」

帰りの電車の中で、私は謝った。

川 ゚ -゚)「別に玲が謝ることはないさ」

川 ゚ -゚)「誰も悪くないんだから」

夕焼けに染まった、流れる景色を見ながら空が言う。

聞きたいことは山ほどある。
好奇心が今にも言葉として飛び出そうとする。
それをぐっと堪える。
電車の騒音できっと掻き消えるだろうと自分を納得させて。

空はただぼうっと窓の向こうを見ている。

ξ゚⊿゚)ξ「……演劇ねぇ」

ξ-⊿-)ξ「舞台に立つなんて私にとっては夢のまた夢ね」

川 ゚ -゚)「……夢」

川 ゚ -゚)「夢、か」

ξ゚ー゚)ξ「そう。夢にも思わない、みたいな」

63 名も無きAAのようです 2013/10/08(火) 23:05:34 ID:bN3uyRuY0

空が大きく伸びをした。
しかめた顔すら整っているのだから、恨めしいというより感心してしまう。

二人で座席に並び、電車に揺られる。
何か話した方が良いのだろうか、と不安になる。
それとも何も話されない方が良いのだろうか、と疑問を持つ。

人との距離は測りづらい。
人との付き合いは最小限の方が楽だ。
人の心などわからないから。

ξ゚-゚)ξ

川 ゚ -゚)

それでも私は声をかける。
空を一人にしてはいけない気がして。
今はまだ、意識的に声を届けて、私達を繋ぐ。

ξ゚⊿゚)ξ「ねぇ。空って勉強得意?」

川 ゚ -゚)「ん?まぁ、それなり……かな」

ξ゚ー゚)ξ「じゃあわからないとこあったら教えてね。私、理系科目ってちょっと苦手なの」




 第二話 おわり

65 名も無きAAのようです[sage] 2013/10/08(火) 23:33:50 ID:WSLj1./.0

空の笑顔は怖いものがあるな
ツンの探り探りな感じ好き

66 名も無きAAのようです 2013/10/09(水) 01:01:56 ID:xM1Fsc3w0

すごく好きな感じだ
ゆっくり友好を深めるの良いぞ良いぞ

67 名も無きAAのようです[sage] 2013/10/09(水) 01:44:56 ID:MyUR8J9.O
これは川 ゚ -゚)の今後の動向が気になる




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