('A`)は撃鉄のようです
- 73 名も無きAAのようです[sage] 2013/04/03(水) 21:12:17 ID:WFAf4TNY0
≪1≫
('A`)「……」
とてつもなくブサイクな顔をした少年が一人。
名をドクオといい、彼はどうしようもない根暗クソ野郎だった。
ドクオは、 『レムナント』 という場所に住んでいた。
高く、分厚い壁に囲まれた荒野。省かれ者の集う場所。
行き場を失った者達が最後に辿りつく場所、それがレムナントだ。
そんなレムナントの片隅にある、小さな町。
ドクオの家はそこにあり、彼の居場所もまた、そこにあった。
.
- 74 名も無きAAのようです[sage] 2013/04/03(水) 21:13:24 ID:WFAf4TNY0
朝方、八百屋のおばちゃんが野菜を表に並べていた。
ドクオは小屋の陰に身を隠しながら、おばちゃんの様子を遠くから窺っている。
ドクオの作戦はこうだ。
おばちゃんが店の奥に引いた瞬間、野菜とお金を交換し、逃げる。
結果、誰とも遭遇せず野菜を獲得できるという寸法だった。
完璧な作戦だった。
(゜д゜@ 「あら、いらっしゃい」
(;'A`)「エッ・・・」
普通に見つかったので、ドクオは俯きながらおばちゃんの前へ行った。
.
- 75 名も無きAAのようです[sage] 2013/04/03(水) 21:14:13 ID:WFAf4TNY0
(゜д゜@ 「いやぁ、あいかわらず湿ったハンペンみたいな顔だねぇ」
(;'A`)「オ・・・オハ、オス・・・」
湿ったハンペン顔の根暗クソ野郎は吃った声で挨拶を済ませると、急いで欲しい物を手に取った。
キャベツ、たまねぎ、オヤツに食べるリンゴなど、今日一日分の食材を次々と選ぶ。
(;'A`)(あれ・・・トマトが無い。無いぞ・・・)
(゜д゜@ 「ん? どうかしたかい?」
(;'A`)「ウェス! アノ・・・トマッ・・・」
(゜д゜;@ 「……?」
(;'A`)「トマ・・・トマッ・・・」
('A`)
('A`)「トメェイトゥ」
(゜д゜@ 「yeah」
素晴らしい英会話だった。
かくしてドクオは食材を手に入れ、自分の家へと帰っていった。
.
- 76 名も無きAAのようです[sage] 2013/04/03(水) 21:15:10 ID:WFAf4TNY0
この町は、とてもとても小さな町である。
レムナントにある他の地域と比べても、この町の生活水準はかなり低い部類に入る。
電子機器の類も十分には無く、立派な家など一つも建っていない。
だが、これらの不自由を意にも介さないほど、この町には“情”というものが溢れていた。
事実、湿ったハンペン顔であり、さらには日常会話もロクに出来ない根暗クソ野郎が、今日もこうして雑草のように生きている。
町は平和だった。争いの種も無く、ましてやその芽が出る兆しも無い。
情があり、明日がある。この町は確かに貧しかったが、そういうものに満ちていた。
しかし、ドクオにはこの平和が堪らなく もどかしかった。
平和とは“間”である。そして“間”はいつか終わりを告げる。
ドクオはそう確信し、漠然とした“何か”を待ち望んでいるのだった。
.
- 77 名も無きAAのようです[sage] 2013/04/03(水) 21:16:08 ID:WFAf4TNY0
この町に建っている建物は、どれも一朝一夕で建てたような掘っ立て小屋ばかりだった。
町には似た風貌の小屋が十列ほど並んでおり、それぞれ店にしたり自宅にしたり、自由に活用している。
ただしレムナントの土地は全体的に荒地なので、ぶっちゃけ住み心地は悪かった。
ドクオの家もそんな掘っ立て小屋の一つで、彼の家は、町から少し離れたところにポツンと建っていた。
彼に両親という存在はない。いつからそうだったか誰も知らないが、少なくとも、ドクオはずっと一人で生きている。
気がつけばこの町に来ており、気がつけば町外れの小屋に住んでいた。誰がこう教えた訳でなく、ドクオ自身がそう認識していた。
('A`)(トメェイトゥ……)
('A`)(……恥ずかしい……死にたい……)
小屋に着いたドクオは野菜を片付けると、悶々としたままベッドに転がった。
見上げると、雨の日には全力で雨水を迎え入れるガバガバの天井が、青空を覗かせていた。
('A`)(ただでさえ死にたいのにトメェイトゥって……もう死のう……)
( 'A`)(首吊り用のロープは……)
そのロープは今、外で洗濯物を吊るしていた。
('A`)(練炭は……)
ご飯を炊いていた。
('A`)(詰んだ……死のう……)
( 'A`)(あ、でも死ぬ為の道具が……)
('A`)
('A`)(やっぱ詰んだ……)
.
- 78 名も無きAAのようです[sage] 2013/04/03(水) 21:16:49 ID:WFAf4TNY0
ガバガバの天井を見上げながら、ドクオは当てもなく言う。
('A`)「うわぁ~~~死にてぇ~~~~~」
「死ぬぅぅぅぅ~~~」
('A`)「いいな~~~」
('A`)
(;'A`)「――ん!?」
ドクオは咄嗟に体を起こし、天井から青空を見上げた。
,_
('A`)「……あれは……」
.
- 79 名も無きAAのようです[sage] 2013/04/03(水) 21:17:49 ID:WFAf4TNY0
川;゚ -゚)「――――ああぁぁぁああああぁぁああぁぁあぁぁぁ!!」
空から女が落ちてくる。
ドクオはそれを避ける間もなく、マヌケな断末魔を残して死んだ。
('A`)「うわっ」
次の瞬間、ドクオの小屋が粉々に砕け散った。
.
- 80 名も無きAAのようです[sage] 2013/04/03(水) 21:18:29 ID:WFAf4TNY0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
第一話 「そして夜が砕け散る」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
.
- 81 名も無きAAのようです[sage] 2013/04/03(水) 21:20:51 ID:WFAf4TNY0
(メA`)「……」
意外なことにドクオはまだ死んでいなかった。
しかし死なないまでも怪我をしており、服もボロボロで、全体的にズタボロだった。
そして顔はブサイクだった。無残と言って過言ではなかった。
(メA`)「……」
ドクオは無言で辺りを見渡した。
屋根は砕け散って既に無く、壁も穴だらけで崩れ掛かっている。
ささやかな台所も瓦礫の下に埋まり、今朝買ってきた食材は無残な姿となって地面に転がっていた。
そして先程の衝撃で引火したのか、炊飯中の練炭を中心に、真赤な炎がごうごうと燃え盛っていた。
練炭から延びた火は黒煙を上げながら広がってゆく。全焼は時間の問題だった。
ここまで小屋を粉砕され、火事になってしまっては仕方ない。
(メA`)(よし、このまま焼身自殺しよう)
潔く諦めたドクオは瓦礫の上に寝転がり、火の手が自分を包むのを待った。
.
- 82 名も無きAAのようです[sage] 2013/04/03(水) 21:21:57 ID:WFAf4TNY0
川;゚ -゚)「――ゴハァ!」
瓦礫を跳ね除け、全ての元凶が息を切らせて立ち上がった。
女はキョロキョロと視線を泳がせ、次に自分の体を見直した。
川;゚ -゚)「生きてる……?」
川;゚ -゚)「それよりここは……物置だろうか……?」
彼女は服の埃を払い、瓦礫を踏んで外へ向かった。
するとその途中、なにか変な感触が足に触れた。
彼女は二度三度と踏んでその感触を確かめてから、恐る恐る足元を見下ろした。
(メA`)「ウフフ・・・」
川;゚ -゚)「妖怪!」
(メA`)
川 ゚ -゚)「……いや、ただのブサイクか……」
川;゚ -゚)「――この顔で人間だと!?」
(メA`)「ヒドイ・・・」
.
- 83 名も無きAAのようです[sage] 2013/04/03(水) 21:22:41 ID:WFAf4TNY0
川;゚ -゚)「ああ、すまない……」
(メA`)「イイッスヨ、ベツニ」
川;゚ -゚)「あ、そうですか……」
彼女は数歩下がり、ひょいと腰をかがめてドクオに顔を寄せた。
この時点で童貞クソ野郎のドクオは限界を迎えていた。
女性と近距離で見合うのは、彼にとってこれが初めての経験だった。
川;゚ -゚)「……つかぬ事を窺いますが、ここはアナタの家ですか?」
(*メA`)「オゥフ! ソソソッスソッス・・・」
川;゚ -゚)「では、この火事は私が原因ですか?」
(*メA`)「アッハイ・・・タブン・・・」
(;メA`)「ア、デモニゲルナラ・・・ハヤク・・・」
そう言い、ドクオは火事の様子を一瞥した。
火は既に小屋中に燃え広がっており、逃げ道など作らんぞと言わんばかりに全てを焼き尽くしていた。
とどのつまり手遅れだった。
.
- 84 名も無きAAのようです[sage] 2013/04/03(水) 21:24:07 ID:WFAf4TNY0
(;メA`)「アワワワ・・・」
川;゚ -゚)「本当にすいませんでした。落ちるつもりは無かったんです」
(;メA`)「イヤ、コノママジャ、ヤケシヌッスケド・・・」
川;゚ -゚)「え? あっはい」
川 ゚ -゚)「……なんか電灯的なもの貸してもらえますか?」
(;メA`)「アッハイ。テキトーニドゾ」
女は瓦礫の隙間から懐中電灯を見つけ、スイッチを押して電灯を点けた。
川 ゚ -゚)「少しの間、動けないので気をつけて下さい」
(;メA`)「エッ」
途端、女の持つ懐中電灯から光が消失した。
それと同時に女の雰囲気が一変し、ドクオは思わず 「ウヒィ」 と情けないゴミクズ同然の声を出して頭を抱えた。
一瞬の違和感。
まるで時間が止まったかのような一瞬が、ドクオの全身を固く縛り付けた。
動きたくても動けない。身の震えや、滴る汗さえ静止する。
あれだけ激しく燃え盛っていた火も、どういう訳か完全に静止していた。
何も動かない、完全な不動空間。
その空間で唯一、女だけがそっと動き出した。
彼女は口元に指を立て、ドクオに向けて言った。
川 ゚ -゚)「……【ブロック・ロック】。望んだ範囲の空間を、物質、時間、概念ごと隔離、停止させる能力。
私はこの能力を使い、家を囲うように全物質を停止させた」
川 ゚ -゚)「だから私以外の人間は勿論、空気さえ動かない。そして燃料である空気が止まれば、火も絶える。
ゆえに、一度息の根を絶たれた炎は、水をかけるより早く消えていく」
ふたたび一瞬の違和感が体を走り抜けた。それと同時に、ドクオの体を縛っていた違和感がスッと無くなった。
そして気がつけば、彼女の言うとおり辺りの火も完全に消えており、小屋には焼け焦げた臭いだけが残っていた。
.
- 85 名も無きAAのようです[sage] 2013/04/03(水) 21:25:23 ID:WFAf4TNY0
(;メA`)「……」
川 ゚ -゚)「……さて」
彼女はそう言って区切り、さらに続けた。
川;゚ -゚)「私は素直クールといいます。家を壊してしまってごめんなさい。
なんなら雑用でも、何でもしてお詫びします……」
(メA`)「……ん?」
(メA`)「……何でもする……!?」
その言葉に反応するあたり、やっぱりドクオはゴミクズクソ野郎なのだった。
(*メA`)「とっ! とり――」
意気揚々と立ち上がったところで、ドクオの足がフラァと揺れた。
火事が収まったことで緊張が解けたのか、ドクオはそのまま気絶し、素直クールの胸に倒れこんだ。
川 ゚ -゚)「……」
『 (*メA`)「とっ! とり――」 』
川;゚ -゚)(……とっとり……?)
とにかく素直クールはドクオを背負い、すっかり焼け跡と化した小屋を出た。
.
- 86 名も無きAAのようです[sage] 2013/04/03(水) 21:26:50 ID:WFAf4TNY0
≪2≫
(#'A`)「――とっ! とりあえずオッパイ!」
川 ゚ -゚)
('A`)
ドクオは自殺した。
.
- 87 名も無きAAのようです[sage] 2013/04/03(水) 21:27:31 ID:WFAf4TNY0
しかしドクオが本当に自殺する訳もなく、彼は普通に布団から起き上がり、胡坐に座りなおした。
『とっとり』の正体がゴミクズだったせいか、素直クールの視線が少し冷たかった。
気まずい沈黙を経て、素直クールはドクオに状況を説明した。
ドクオの小屋は、素直クールの落下と火事によって全壊したこと。
ここは町の小屋で、気前の良いおばちゃんが部屋を貸してくれていること。
初対面の女性におっぱいを要求してはならないこと。
ドクオはこれらの説明を重く受け止め、もう自殺しようと決意したが結局しなかった。ドクオは腑抜けクソ野郎でもあった。
川 ゚ -゚)「まぁ状況はこんな所だ。私はそろそろ家主さんを呼んでくる。食欲はあるか?」
('A`)「・・・ナイッス・・・」
川 ゚ -゚)「分かった。そこに水がある。飲んでおくといい」
彼女は立ち上がり、襖を開けて部屋を出て行った。
('A`)(……)
ドクオは盆に乗せられたコップを手に取り、その水を一気に飲み干した。
水はキンキンに冷えていた。彼の混乱気味の頭に、ツンとした刺激が走り抜ける。
('A`)(俺の家、ハデに全壊したなぁ)
('∀`)(もう住むところも無いし、さっさと死ぬかー)
.
- 88 名も無きAAのようです[sage] 2013/04/03(水) 21:28:17 ID:WFAf4TNY0
(゜д゜@ 「あら、本当に起きてる」
('A`)
Σ(;'A`)「ドゥーイ!」
突然の声に驚いたドクオは、布団を跳び上がって変なポーズをとった。
具体的に提示すると以下のようなポーズをとった。
('A`)ノ
ヘ( )
/<
川 ゚ -゚)(こいつ面白いな……)
素直クールの好感度が上がった。
.
- 89 名も無きAAのようです[sage] 2013/04/03(水) 21:29:09 ID:WFAf4TNY0
彼らを迎え入れたのは、ドクオが定番の買い物先としている八百屋のおばちゃんだった。
気絶したドクオを見た途端、おばちゃんがすぐ声をかけてくれたとの事らしい。
ドクオと素直クールは布団を挟んでおばちゃんと向かい合い、今朝の事情を話すべく身構えた。
おばちゃんには八百屋の店番があったため、今朝二人の身に何があったかを知らずにいたのだ。
(゜д゜@ 「それじゃあ、今朝何があったか教えてもらえる?」
(;'A`)「オイッス! アノデスネ、ソラカラネ、コノヒトガネ」
川 ゚ -゚)「私が落ちました。火事が起きたので消しました」
(゜д゜@ 「……」
(;'A`)「アッハイ、イヤモチロンジコデスケド・・・」
川 ゚ -゚)「泊まる所が無いのでしばらく泊めて下さい」
(゜д゜;@ 「……?」
('A`)「死んで詫びます。介錯をお願いします」
川 ゚ -゚)「ところで昼食とかどうです?」
(゜д゜;@ 「……」
(゜д゜;@ 「はっはぁ……いやぁ……なるほど……」
おばちゃんは良識ある優しい人物だったが、さすがにこれは意味不明すぎて苦笑いが限界だった。
.
- 90 名も無きAAのようです[sage] 2013/04/03(水) 21:30:06 ID:WFAf4TNY0
(゜д゜;@ 「……まーなんか色々あったんだね。
とりあえず、今朝の火事? ……は、アンタらが原因なんだね?」
川 ゚ -゚)「はい」
(;'A`)「ウス」
(゜д゜@ 「それで小屋は全壊、二人とも寝る場所が無いと」
川 ゚ -゚)「そうなります」
(;'A`)(こいつ俺の小屋ブッ壊したのに平然と……)
おばちゃんは少しだけ考える素振りを見せた後、呆気なく言い放った。
(゜д゜@ 「まーいいんじゃない? 直せばいいだけなんだし。
ドクオ、あんた別にあの小屋に拘りがあった訳じゃないでしょ?」
Σ(;'A`)「オゥフ! ナ、ナオスッテオマソリャ」
(゜д゜@ 「まだ昼間だし木材もどっかにあるでしょ。夕暮れには十分間に合うよ」
(;'A`)「オェェ・・・」
.
- 91 名も無きAAのようです[sage] 2013/04/03(水) 21:33:00 ID:WFAf4TNY0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
太陽が地平線に触れる頃、町は夜の暗闇に備え始めていた。
小屋の軒先にあるランタンが次々と点灯され、夕暮れの町に光の一線が輝いた。
('A`)
川 ゚ -゚)「夜、だな……」
一方で、ドクオの小屋は未だ小屋としての様相を取り戻していなかった。
ドクオの非力さが原因で、小屋を直すための木材運びだけで半日が終わったのである。
結果、ドクオは貧弱根暗童貞腑抜けゴミクズクソ野郎に進化したのだった。
('A`)
へ川 ゚ -゚)ノ 「さぁどうする。そういえばあのポーズ面白かったな」
(#'A`)「……」
川;゚ -゚)「いやぁ煽った訳じゃあないぞ。
確かにこっちの木材運びは手伝えなかったが、私は夕食の調達をだな……」
クールは気まずそうに言うと、手に提げていた袋を持ち上げてドクオに見せた。
.
- 92 名も無きAAのようです 2013/04/03(水) 21:33:56 ID:f1HDUgGc0
- omosiroi
- 93 名も無きAAのようです[sage] 2013/04/03(水) 21:35:00 ID:WFAf4TNY0
('A`)「ハァ・・・」
ドクオは木材の上に腰掛け、全壊の小屋を真顔で見つめた。
そして自分の役立たずっぷりに大きく息を吐き、溜飲を下げた。
('A`)(もう野宿確定じゃん……死にたい……)
川;゚ -゚)「そんな顔をしないでくれ。悪気は無かったんだ」
('A`)(これ真顔なのに……)
<_プー゚)フ「おいーっす」
その時、遠くから聞こえる少年の声が、沈みかけた二人の意識をはっとさせた。
川 ゚ -゚)「知り合いか?」
('A`)「イチオウ。ミッツウエノ、エクスト」
川 ゚ -゚)「そうか。エクスト君か」
エクストは二人の反応を察したのか、早足で二人のもとに駆けてきた。
.
- 94 名も無きAAのようです[sage] 2013/04/03(水) 21:36:08 ID:WFAf4TNY0
<_;プー゚)フ「……こりゃ中々ハデに壊れてんな……」
エクストは小屋の残骸を一瞥してから、ドクオに細長い袋を投げ渡した。
開けると、中には一人分の寝袋と弁当箱が入っていた。
<_プー゚)フ「どうせ野宿だろうと思って借りてきたんだ。
あとメシだ。中身はサンドイッチ具無し」
('A`)「……」
ドクオは弁当箱からサンドイッチを取り出し、それを開いた。
パン パン
↓ ↓
⊿ ⊿
↑
なにも挟まってない
('A`)
.
- 95 名も無きAAのようです[sage] 2013/04/03(水) 21:37:29 ID:WFAf4TNY0
('A`)
ガッカリを通り越したドクオを無視し、エクストは素直クールと向き合った。
<_プー゚)フ「アンタか、噂の人ってのは」
川 ゚ -゚)「ああ、ちょっと訳ありでな。まぁ今夜は私も野宿組さ」
<_プー゚)フ「それ、八百屋のおばちゃんがウチに泊めてもいいって言ってたぞ」
('A`)(マジか)
<_プー゚)フ「ただしドクオを除く」
('A`)(死のう)
川 ゚ -゚)「……ドクオか。そういえば名前を聞いてなかったな」
川 ゚ -゚)「よろしく。ドクオ君」
(;'A`)「ウェ・・・ウェス」
川;゚ -゚)「……」
<_;プー゚)フ「あーいいよ。コイツ四六時中こんなんだから」
真面目に応えようとした彼女を、エクストが呆れ顔で遮った。
.
- 96 名も無きAAのようです[sage] 2013/04/03(水) 21:38:21 ID:WFAf4TNY0
<_プー゚)フ「まーいいや」
ぶっきらぼうに言いのけ、エクストは踵を返した。
<_プー゚)フ「アンタも早めにおばちゃんの小屋行った方がいいぜ。
ドクオは凍え死なないようにな」
<_プー゚)フ「あとまぁ一応言っとくが……」
彼は振り向き、ドクオに強い視線を送った。
<_プ-゚)フ「……手、出すなよ」
(*'A`)「ダッ・・・ダスカイ!」
<_プー゚)フ「出せねーの間違いだろ! じゃあな!」
そう言い捨て、彼はまた駆け足で町の方へ戻っていった。
二人はそれを見送ると、ささやかな沈黙に身を委ねた。
.
- 97 名も無きAAのようです[sage] 2013/04/03(水) 21:39:08 ID:WFAf4TNY0
川 ゚ -゚)「……さて」
エクストが去って間もなく、クールは困った顔で小屋(全壊)を見上げた。
川;゚ -゚)「この小屋、一体どこから手をつければいいんだか……」
('A`)「エッ」
川;゚ -゚)「おいおい、このままだと本当に野宿だぞ?」
('A`)「・・・」
かくして、小屋の再建が始まった。
.
- 98 名も無きAAのようです[sage] 2013/04/03(水) 21:44:04 ID:WFAf4TNY0
≪3≫
「やっと一息つけるな」
紆余曲折を経てようやく小屋が元に戻った頃には、もう辺りはすっかり暗くなって星が出ていた。
素直クールはトタン屋根に上ると、屋根に腰を下ろして夜空を見上げた。
「君も来るといい。今夜は星がよく見える」
彼女は微笑んでドクオに語りかける。
ドクオもそれを受け、梯子を上って屋根に上がった。
「……あの」
「どうした、座らないのか?」
「なんで、俺を助けたんですか?」
それは、些細な違和感だった。
小屋全壊の原因は素直クールにこそあるが、彼女は空から落下するような事情を抱えた女性だ。
そんな彼女の事情を察すれば、ドクオには、彼女が自分を助ける理由が見当たらなかった。
彼女ほど親しみある人柄ならば、昼間の時点で寝床と夕飯を確保するのは簡単な事だっただろう。
それこそ、あの火事場にドクオを放って自分の事だけに終始することもできた。
ドクオには、彼女がそうしなかった事への違和感が募っていた。それは不信感や懐疑心と言っていい。
とにかく今まで感じたことのない感情の波が、ドクオの心を大きく揺さぶっていた。
.
- 99 名も無きAAのようです[sage] 2013/04/03(水) 21:45:03 ID:WFAf4TNY0
「なんで、か……」
ふと、彼女の表情が陰りを見せた。
だがすぐに問いの答えを見つけたのか、彼女はドクオを自分の隣りに座らせると、そっと語り始めた。
「君は優しさについて考えたことはあるか?」
「……優しくないものなら、沢山見てきた」
「そうだな。優しくないものは目に見える。『優しくない』 には大体の場合、行動が伴うからな。
だから目に見える。辛いものは、どうしても目に見えてしまう……」
彼女は語気を弱めてそう言った。
ドクオは聞いちゃいけない事を聞いたのかと思い、気にして彼女の方に顔を向けた。
「ドクオ、優しさは目には見えないんだ」
「っ……!」
ドクオが顔を向けた先で、二人の視線が一直線に交わった。
今にも夜に溶けてしまいそうな彼女の黒髪を、優しい夜風が緩やかになぞった。
「優しさは人の心の中にしかない。だから目に見えない。
優しさが見たくても、人の目はそれを映さないんだ」
今宵の月光に栄える素直クールの全ては、ドクオの知る全てを超越していた。
彼女の言葉は、まるで鼓膜を素通りして脳に染み渡るようだった。
.
- 100 名も無きAAのようです[sage] 2013/04/03(水) 21:46:25 ID:WFAf4TNY0
「……ん? ちょっと待て、なんで泣いて……なにか嫌な事を言ってしまったか?」
急に慌てだした彼女を見て、ドクオは自分が涙を流していることに気がついた。
ドクオはすぐに涙を拭い、視線を夜空に向けた。だが、それでもまだ涙が頬を伝った。
「分かんない……どうして泣いてるのか、自分でも……」
嗚咽を交じらせながら、ドクオは言い続ける。
「でも……なんか知らないけど、胸の中に浮かんでくるんだよ……」
「……『救われたんだ』って……『お前は救われたんだ』って……」
「それだけなんだよ……もう、それだけで……俺は……!」
三角座りになって顔をうずめるドクオを、素直クールは静かに抱き寄せた。
「ドクオ、君は何歳だ?」
「……9歳……」
若すぎる。
当てもなく湧き上がった熱い感情を前に、彼女は胸の高鳴りを隠せなかった。
「……生きてる内に、君のように自分で気付ける者は少ない。
多くの人は最期の最後でようやく気付き、ほんの少しだけ救われて、死んでいく」
彼女の抱き寄せる力が強くなる。
ドクオは今、目には見えない何かに包まれていた。
.
- 101 名も無きAAのようです 2013/04/03(水) 21:47:46 ID:f1HDUgGc0
- 熱いな・・・
- 102 名も無きAAのようです[sage] 2013/04/03(水) 21:48:21 ID:WFAf4TNY0
「今までよく抱えてきた。子供には重過ぎる荷だっただろう」
「お前が抱えてきたその荷は、楽しいことや辛いことを積み重ねて、何十年も生きてるような人間が抱えるべきものなんだ。
しかもその荷は、生きるか死ぬかっていう計り知れない重みをもっている」
「だから言うぞ……」
彼女は僅かに声を震わせた。
「……死ぬほど辛かったはずだ……」
「生きることも迷ったはずだ……」
彼女は改めてドクオと向かい合った。
二人とも、その目には涙を溜めている。
「……君が今まで立っていたのは“死線”だ。
それを死の側へ進まなかったのは、君の強さに他ならない」
「だからこそ君は強い。君がたった今救われたのなら、これからはその強さを誇るといい」
「君の優しさ、確かに私に届いていた」
.
- 103 名も無きAAのようです[sage] 2013/04/03(水) 21:49:01 ID:WFAf4TNY0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
俺は闇の中で咽び泣いた。
この胸に湧いた思いへ縋るように、俺はただ無様に泣き続けた。
“救われた” “俺は救われた”
そんな意味の分からない思いを吐き出すように、俺は一心に泣き声を上げた。
ずっと死にたいと考えて、その中で問い続けた事がある。
“自分の人生には”
“自分以外の誰が居たのか”
俺は、その誰かをようやく見つけたような気がしていた。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
.
- 104 名も無きAAのようです[sage] 2013/04/03(水) 21:50:16 ID:WFAf4TNY0
≪4≫
('A`)「……」
とてつもなくブサイクな顔をした少年が一人。
名をドクオといい、彼はどうしようもない根暗クソ野郎だった。
しかしそれは昔の話。
素直クールが町に落ち、そして「行く当てがない」と言って町に住み着いてから五年。
あの貧弱根暗童貞腑抜けゴミクズクソ野郎も14歳になり、ほんの少しだけマシになっていたのである。
.
- 105 名も無きAAのようです[sage] 2013/04/03(水) 21:50:56 ID:WFAf4TNY0
~~ おばちゃんの八百屋前 ~~
('A`)「うぃ~っす」
(゜д゜@ 「いらっしゃい。いつものかい?」
('A`)「おう。いつもの」
<_プー゚)フ「なぁ~にが『いつもの』だよ! カッコつけんなって!」
(;'A`)「ンだよエクスト。そんなんじゃねーよ」
<_プー゚)フ「お? クールさんこっち来てるぞ?」
Σ('A`;) ビクッ
('A`;)「……」
<_プ-゚)フ「……ドクオ君……」
(;'A`)「な、なんだよ……」
<_*プー゚)フ「まさか今、女性の名前に釣られたんですか!?」
('A`)
(#'A`)「――ブッ殺す!!」
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- 106 名も無きAAのようです[sage] 2013/04/03(水) 21:52:15 ID:WFAf4TNY0
<_プー゚)フ「ハッハァン! 腕っ節は中々でも、足が遅いんじゃ意味ねえなドクオ!」
(#'A`)「テメー逃げ切れるなんざァ思うなよ!」
<_プー゚)フ「ずっと俺が前に居てやんだ! ありがたく俺の背中でも拝んでろ!」
(#'A`)「死んでも拝むか!」
(‐д‐@ 「元気が一番、元気が一番」
川 ゚ -゚)「どうもおばさん。おはようございます」
(゜д゜@ 「あーいらっしゃい。いつもの?」
川 ゚ -゚)「ええ。でも今日はカレー作るから、ジャガイモ多めで」
(゜д゜@ 「はいよ」
(;'A`)「うわ……またカレーにジャガイモ……」
川 ゚ -゚)「イモは良いぞ」
(;'A`)「カレーにはジャガイモ入れない派だって、俺いっつも言ってるよな?」
川;゚ -゚)「はいはい分かったよ。じゃあ今夜のには入れないでおこう」
('A`)「おう」
川 ゚ -゚)(イモは摩り下ろして混ぜとこう……)
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- 107 名も無きAAのようです[sage] 2013/04/03(水) 21:52:55 ID:WFAf4TNY0
<_フ"ー゚)フ「おーい! 行くぞドクオー!」
右目にタンコブを食らったエクストが、早くも復活して遠くからドクオを呼びかけた。
エクストは既にトラックの運転席にかけていた。
(;'A`)「もう仕事かよ、めんどくせ……」
軽く愚痴を漏らし、ドクオはエクストのもとへ走り出した。
('A`)「わりーおばちゃん! 買った物は夕方まで預けとくわ!」
(゜д゜@ 「はいはい。行ってらっしゃい」
川 ゚ -゚)「頑張れよー」
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- 108 名も無きAAのようです[sage] 2013/04/03(水) 21:55:28 ID:WFAf4TNY0
これがドクオの新しい日々だった。
平和とは“間”である。そして、“間”はいつか終わりを告げる。
ドクオはそう確信し、漠然とした“何か”を待ち望み、素直クールに出会った。
今のドクオには、まるで胸にぽっかり開いた穴が塞がったような感覚があった。
これまで抱えていた濁った感情が、胸の内で青く澄みきったような――
――ドクオは、これ以上のことを考えなかった。
“あの日の出来事を理解したくない”
“いつまでもあの日を忘れたくない”
この二つの願いが、ドクオの思考を緩やかに停滞させていた。
理解とは忘却の入り口である。
ドクオはそれを知っていた。
だからこそ、彼は理解しないことで忘却を拒んだのだ。
もちろんこの世界に永遠は無い。だが、あの日を理解しないことで永遠の思い出にすることはできる。
それはまるで箱に閉じ込めたネコのように、誰にも理解されず、触られず、孤独と引き換えに小さな永遠を手に入れるような――
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- 109 名も無きAAのようです[sage] 2013/04/03(水) 21:56:22 ID:WFAf4TNY0
( 'A`)(“間”は終わった……じゃあ今は、何だ?)
トラックの助手席で、ドクオは思考を巡らせた。
荒野を走るトラックは揺れが大きかったが、彼はそんな事は気にせず考え続けた。
( 'A`)(……)
('A`)「……わっかんねー」
<_フ"ー゚)フ「なにが」
('A`)「バッカお前、ただの独り言だよ」
<_フ"ー゚)フ「あっそ。じゃあしりとりやろうぜ」
<_フ"ー゚)フ「まずは俺からな。トンボ!」
('A`)「……なぁ」
<_フ"ー゚)フ「あ? お前しりとりも出来ねーのかよ」
('A`)「永遠に続くしりとりって、あると思うか」
<_;フ"ー゚)フ「永遠に……? いきなり何言ってんだお前」
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- 110 名も無きAAのようです[sage] 2013/04/03(水) 21:57:51 ID:WFAf4TNY0
エクストは苦笑いでドクオの顔を覗き見た。
('A`)「……」
憂いを帯びたその顔は、五年前の頃のドクオを想起させた。
エクストは真剣に言葉を考えた。
<_フ"ー゚)フ「あー……まぁ、あんじゃね?
つーか永遠って、そんなにしりとりやったら飽きるぜ?」
<_フ"ー゚)フ「それによ、自分の永遠なんてのに付き合ってくれる奴はそう居ないと思うぜ、俺はな」
( 'A`)「……そうかよ、ボンクラ」
<_フ"ー゚)フ「はっはっは――」
<_#フ"д゚)フ「――ってなんだとオラァ! マジで答えてやったのに、ボンクラはねーだろ!」
(#'A`)「アァ!? うっせーしりとりだよバーカ! さっさと次言えよ、ラだぞ!」
<_#フ"ー゚)フ「ああそうかい、じゃあ言ってやるよ! ラーメン!」
('A`)「ん?」
(#'∀`)「バァァァァァァァッカじゃねーの!?」
(#'A`)「ラーメン」ドンッ!
(#'∀`)「バァァァァァァァカ!!」
<_#フ"Д゚)フ「ジョートーだよテメー表出ろやァ!!」
(#'A`)「ああ出てやるよ!! 今度こそ白黒つけてやる!!」
こうして二人は今日の仕事に大遅刻し、しかも喧嘩で怪我をするというバカを仕出かしたのだった。
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- 111 名も無きAAのようです[sage] 2013/04/03(水) 21:59:37 ID:WFAf4TNY0
≪5≫
「俺の嫌いな話、知ってるか」
町に夕飯の香り漂う夜。ビジネススーツで全身をビシッと決めた男が、町の中を歩いていた。
彼の後ろには、彼の付き添いの者が続いている。
付き添いは男の質問を聞くと、呆れたように鼻息を漏らした。
「その話はもう何度も聞かされてる」
「目の見えない奴に空の青さを伝えるには……って奴だ。
確かにありゃあ難しい、どうにも無理難題に見えちまうな」
「だが俺はこう思う。目の見えない奴は、いったい空の青さをどう理解してんのか、ってな」
「そいつには、そいつなりの空の青さがあるんじゃねーかって、そう思えてならない」
小屋の軒先にあるランタンは、どの小屋の軒先でも煌々と輝き、夜の町に光の一線を描いていた。
しかし男達がランタンの前を歩くと、その光の一線が、どういう訳か不自然に乱れた。
それは、素直クールが自身の能力【ブロック・ロック】を発動した時と同じ現象だった。
人工の光の消滅。この現象が男達の歩に合わせ、町のランタンに発生しているのだ。
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- 112 名も無きAAのようです[sage] 2013/04/03(水) 22:00:25 ID:WFAf4TNY0
「だから俺は嫌いなのさ」
「ああいや、別にアレを最初に言った奴は嫌いじゃない。
嫌いなのは、アレを得意気に言いふらしてる奴らの方だ」
男は言い改めて続けた。
「まるで、目の見えない奴らに『空』が無いみたいな言い方をしてる奴らが、俺は嫌いなんだ」
その時、付き添いの男が立ち止まった。
“空”を語った男の方も、それに気付いて足を止める。
(`・ω・´)「能力は使うなよ、デミタス」
(´・_ゝ・`)「……使うつもりはない。シャキン、こりゃただの保険だよ。
俺らは、この町の“空”を壊しにきた訳じゃあないんだ」
二人は町を抜けると、町外れにポツンと立っている小屋へと向かった。
そして小屋に着いたデミタスは、その小屋のドアを軽くノックした。
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- 113 名も無きAAのようです[sage] 2013/04/03(水) 22:01:05 ID:WFAf4TNY0
ドアが開き、そこに住んでいる男が顔を出した。
小屋の中からは、カレーの香りが漂ってきている。
('A`)「……なんすか」
(´^_ゝ^`)「どーもこんばんは! 今夜はカレーですかね?」
(;'A`)「あっ……はい」
(´^_ゝ^`)「いーなー羨ましいなー」
(;'A`)「……」
(´^_ゝ^`)「あっ、ところで……」
(´・_ゝ・`)「――素直クールさん、ここに居ますよね」
デミタスの表情が一変する。
それと同時に、得体の知れない悪寒がドクオの背筋をなぞりあげた。
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