('A`)は撃鉄のようです
- 716 名も無きAAのようです[sage] 2014/02/08(土) 14:25:44 ID:ymq1rMDs0
≪1≫
|;(●), 、(●)、|「あっ……」
219号室前の集まりを目にした瞬間、ダディクールは事の次第を把握した。
拳に血をつけたドクオ、気絶し床に倒れた能力者連中、肩で息をしているギコ……。
|;(●), 、(●)、|(まさか一人で全員倒したのか? 予想以上だぞ……)
ドクオが彼らを返り討ちにした。
ダディは察し、戦慄して固唾を飲み込んだ。
('(゚∀゚;∩「こ、これ、マズイんじゃないかな……」
驚愕している間もなく、なおるよが廊下の向こうを指差して呟いた。
ダディも視線を上げ、なおるよが指したものに目を向けた。
J( 'ー`)し「初日どころか一時間経たずに、こんな……」
そこに居たのは、レムナント監獄の看守長カーチャンだった。
.
- 717 名も無きAAのようです[sage] 2014/02/08(土) 14:26:24 ID:ymq1rMDs0
J( 'ー`)し「……ドクオがやったの……?」
(;'A`)「……ごめんなさい」
J( 'ー`)し「……誰か、何があったか説明してちょうだい」
カーチャンは廊下を見回した。
( ゚"_ゞ゚)「……」
その途中、棺桶死オサムと目が合ったので、カーチャンはオサムに向けて質問した。
J( 'ー`)し「……何があったの?」
( ゚"_ゞ゚)「……彼が、私を助けてくれました」
J( 'ー`)し「……助ける? あなたが苛められていたところを、ドクオに助けられた?」
( ゚"_ゞ゚)「はい。ですからドクオ君に非はありません。
私を苛めに来た彼らも、既に相応の手傷は負っています」
オサムの言い分はまったくのデタラメだったが、誰も口出ししなかった。
話した内容から察するに、彼がこの場の全員を助けようとしたのが分かったからだ。
彼は監獄内でもかなり陰気で目立たない人間で、なにより看守側に優秀な模範囚として認識されていた。
下手に他の者が喋るよりずっと信憑性が高く、現にカーチャンはオサムの作り話を真に受けていた。
.
- 718 名も無きAAのようです[sage] 2014/02/08(土) 14:28:00 ID:ymq1rMDs0
J( 'ー`)し「……苛めの首謀者、それとドクオの二人。前に出てきてください」
(;,,゚Д゚)(……首謀なんかいねーぞ……)
( ゚"_ゞ゚)(……このババア、喧嘩両成敗主義か……)
だがオサムの画策も空しく、カーチャンが全員を見逃すことはなさそうだった。
しかしこれはダディクールにとっては好都合。ドクオを脱獄計画に誘うには最高の展開だった。
|#(●), 、(●)、|「ギコーーーーーー!!」
(;,,゚Д゚)「うおっ!?」
突然の怒号。
渦中の全員が一斉に振り返り、ダディクールを捉えた。
彼らの視線も構わずに、ダディはギコに早足で近づき、彼の頭を脈絡なくブッ叩いた。
|#(●), 、(●)、|「バカ野郎! お前、バカ野郎!」
(;,,゚Д゚)「???????????」
全員が全員、なんだコイツという目でダディとギコの一部始終を見守った。
.
- 719 名も無きAAのようです[sage] 2014/02/08(土) 14:28:43 ID:ymq1rMDs0
|#(●), 、(●)、|「お前言ってただろ!? ここを出て故郷に帰りたいって!」
(;,,゚Д゚)「は?」
|#(●), 、(●)、|「なのに何でこんな事したんだお前ェ!!」
(;,,゚Д゚)「え、いやっ……」
途端、ダディはギコの頭を脇に抱え込み、
|;(●), 、(●)、|「ドクオ君を頼む」
一言、それだけを告げた。
|#(●), 、(●)、|「オラァ!!」
(;,, Д )(芝居にしても荒すぎる!)
ダディはギコを床に投げ飛ばし、今度はカーチャンに近づいた。
|(●), 、(●)、|「このバカをよろしくお願いします」
J( 'ー`)し「まさに友情……!」
迫真の演技だった。
.
- 720 名も無きAAのようです[sage] 2014/02/08(土) 14:29:24 ID:ymq1rMDs0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
J( 'ー`)し「――それじゃあ二人とも。答えてちょうだい」
(;'A`)「はい……」
(;,,‐Д‐)(酷い貧乏くじを引いた……)
ダディの三文芝居の結果、カーチャンの呼び出しにはドクオとギコが応えた。
J( 'ー`)し「この監獄は基本自由。でも一つだけルールがあります。それは何?」
,_
('A`)「?」
(,,゚Д゚)「?」
J( 'ー`)し「……ドクオ、つい十分前に教えたのに……」
(;'A`)「……ごめんなさい。あの、あれ……カーチャンさん……?」
J( 'ー`)し「いいのよ……ていうかそもそも名前すら記憶に……」
.
- 721 名も無きAAのようです[sage] 2014/02/08(土) 14:30:07 ID:ymq1rMDs0
J( 'ー`)し「……とにかく、二人はそのルールを破りました」
J( 'ー`)し「唯一であるが故に絶対の掟……そのルールとは、非暴力。
破った者には、特別な罰を科すことになっています」
カーチャンの次の一言に、ドクオの心臓が跳ねた。
J( 'ー`)し「ここの地下にある独房、『漆黒』の中へ、あなた達を送ります」
漆黒という名には聞き覚えがあった。
ステーション・タワーの地下、素直クールが居た暗黒空間だ。
ドクオには、嫌な記憶しかない。
J( 'ー`)し「ただし今回は一晩だけにしておきます。
今度やったら一週間は閉じ込めますからね」
(;'A`)「……」
J( 'ー`)し「……反省はしているようね。大丈夫、怖くないからね」
ドクオの顔色を窺ったカーチャンは安心したようにそう言った。
しかし、ドクオが顔色を悪くした理由は違っていた。
ドクオは、漆黒という言葉から連想したものを忘れるために必死だった。
あそこに入れば嫌でも考え続ける事になるだろうが、たとえ記憶の中でだろうと、二度とあんな場所に行きたくない。
フラッシュバックよりも濃厚に、ドクオの記憶にはあの瞬間の光景が焼き付いていた。
.
- 722 名も無きAAのようです[sage] 2014/02/08(土) 14:32:09 ID:ymq1rMDs0
思考が雑多に入り乱れつつある中で、ドクオはただ一心にペンダントのことを思った。
ペンダントに集中すると、一時的であれ、ドクオは平静を装うことができた。
(;'A`)(そうだ、図書館だ……能力について情報がほしい……)
『能力者の死亡と同時に能力は消失する』。
図書にこの一文さえ見つからなければ、素直クールの生存にはまだ希望がある。
素直クールが生きていると信じられる。ドクオにとってこのペンダントは、最後に残った希望の種だった。
人目には幼稚で陳腐に写るこんな物こそが、今のドクオを根底から支える唯一のものだった。
目的を思い出し、落ち着いた呼吸を繰り返す。
こうして嫌な物事・記憶に考えを巡らせる度に、ドクオは昔の自分を想起していた。
あの頃は現実逃避だけが取り柄だった。現実から逃げ出す事でしか生きていられなかった。
今の自分は、そんな昔の自分にちょっとだけ力を借りて生きているのだ。
たかがペンダント一つの小さな希望に逃避できるのも、あの頃の現実逃避の賜物に違いない。
あれだけ惨めに生きた時間が、今の自分を助けている――
そう思うと、ドクオはほんの少し、自覚する間もない一瞬、
('A`)(生きてて良かったな……)
と、清々しく己の人生を一瞥していた。
.
- 723 名も無きAAのようです[sage] 2014/02/08(土) 14:33:02 ID:ymq1rMDs0
≪2≫
総合棟、食堂――
ギコを除いたダディら三人と、棺桶死オサムがテーブルを囲んでいた。
|(●), 、(●)、|「ドクオ君とギコは、漆黒に入れられた」
だが心配はない、と付け加え、ダディは瞑目する。
|(一), 、(一)、|「たった一晩だ。それにギコが居る」
|(●), 、(●)、|「ついでにギコにはドクオ君の勧誘を頼んでおいた。
上手くいけば彼を仲間にできるかもしれない」
ノハ;゚⊿゚)「アイツに人の勧誘ができるとは思えねえんだけど……」
('(゚∀゚∩「とりあえず大丈夫なんだね! よかったよ!」
.
- 724 名も無きAAのようです[sage] 2014/02/08(土) 14:33:57 ID:ymq1rMDs0
|(●), 、(●)、|「……棺桶死オサム」
声色を変えて呟く。
反応したのは、白い肌に鋭い眼光を持ち合わせた男、棺桶死オサム。
( ゚"_ゞ゚)「……端的に言う。俺はここを出る理由がない。
だからお前達の味方にはならない」
|(●), 、(●)、|「話が早いな。だが回りくどい。
今までの君は、そもそも我々との接触を避けていた」
|(●), 、(●)、|「用か話があるんだろう。それを聞こうじゃないか」
心中を完全に見抜かれていた。
オサムは、ダディクールがこういう男だから接触を避けていた。
間もなく四十という年齢にして、既に老獪染みて底が知れない。
それはレムナントという土地では異常なのだ。
誰も特別勘繰ったりはしないが、オサムはダディクールの事を“同類”だと思っていた。
.
- 725 名も無きAAのようです[sage] 2014/02/08(土) 14:34:42 ID:ymq1rMDs0
ダディクールの過去を知っている訳ではない。
彼が言うように、オサムはこの監獄内ではダディクールに関わらないよう努力してきた。
根拠などない。しかしダディクールからは漂ってくるのだ。
自分と同じ臭い――身体に染み付いた血と硝煙の臭いが。
こいつと俺は同類だ。
故に、オサムはダディクールを根幹から嫌悪していた。
たとえ一方的な思い込みであろうと、人を忌み嫌う理由など一抹で十分だ。
( ゚"_ゞ゚)「……」
|(●), 、(●)、|「……」
二人は目を合わせたまま沈黙していたが、やがてオサムは溜飲を下げ、口を開いた。
( ゚"_ゞ゚)「……ドクオが戻ったら教えてほしい。あいつとは少し、話してみたい」
|(●), 、(●)、|「承知した」
返事を聞くと、オサムはすぐに席を立ってどこかへ行こうとした。
その歩調は、まるで何かから逃げ出すように速い。
|(●), 、(●)、|「……私は、君の正体を知っている」
足早に去っていくオサムに向け、ダディがふと言った。
オサムは一瞬立ち止まってダディを振り返ったが、またすぐに歩き出した。
.
- 726 名も無きAAのようです[sage] 2014/02/08(土) 14:35:23 ID:ymq1rMDs0
ノパ⊿゚)「……嫌われてるな」
|(●), 、(●)、|「仕方ないさ」
ダディはヒートの気遣いをあしらい、調子を切り替えた。
|(●), 、(●)、|「私達も決行までに準備をしておこう。
と言っても、つまり多勢に無勢を覚悟しておけというだけだ」
('(゚∀゚;∩「……」
ノパ⊿゚)「……心配するな。大丈夫だ」
なおるよの不安げな表情に気がついたヒートは、そう言いながら彼の肩を軽く叩いた。
ノパ⊿゚)「修羅場は慣れてる。アタシらに任せときゃすぐだ」
ノパ⊿゚)「だからお前は大将らしく踏ん反り返ってろ、な?」
('(゚∀゚;∩「わ、わかってるんだよ……」
彼らが目論んでいる脱獄計画――その発端は監獄内最年少の少年、なおるよだった。
どうしても故郷に帰りたい。彼がそれをダディに懇願したのが事の始まりだった。
そして自分が切欠となった計画は、決行まで残り二週間を切っている。
言い出した身としては、この緊張は易々と振り払えるものではなかった。
.
- 727 名も無きAAのようです[sage] 2014/02/08(土) 14:36:04 ID:ymq1rMDs0
|(●), 、(●)、|「なおるよ、お前はまだ幼い」
('(゚∀゚;∩「……」
|(●), 、(●)、|「お前はそれをちゃんと分かっている。
自分の弱さを知っていることは、それ自体を戦略に組み込める」
('(゚∀゚;∩「ダディさん……」
|(一), 、(一)、|「……大丈夫だ。お前は必ず外へ出してやる。
故郷に帰って平和に暮らせ。お前には、それが一番似合っている」
('(゚∀゚;∩「……でも、やっぱりどうしても怖いよ……。
戦ったら絶対に誰かが傷つくよ……」
|(●), 、(●)、|「優しいな。だが、人間は元来争う生き物だ。
どうしても戦ってしまう。戦わねばならない時があるのだ。例え相手が――」
ダディは、素直ヒートを一瞥した。
|(●), 、(●)、|「――例え相手が、命の恩人であっても」
ノパ⊿゚)「……」
.
- 728 名も無きAAのようです[sage] 2014/02/08(土) 14:36:55 ID:ymq1rMDs0
|(●), 、(●)、|「それにな、私には奥の手があるんだよ。知りたいか?」
('(゚∀゚∩「奥の手? 気になるよ!」
|(●), 、(●)、|「ああ、なら教えてやろう」
ダディは微笑み、ポケットから黒い石ころを取り出してテーブルに置いた。
とたん、なおるよの視線が黒い石に向けられた。
不思議そうに首をかしげるなおるよを他所に、ダディは黒い石について語り始めた。
|(●), 、(●)、|「私がその昔、命の恩人から譲り受けた物だ。
なんでも、この石に向かって心の奥底から願うと、その願いが叶うらしい」
('(゚∀゚∩「へぇー……。本当に願い事が叶うの?」
|(●), 、(●)、|「さあ、やったことがないから分からないな。
これを譲ってくれた人も、この石を使った事は一度もないと言っていた」
('(゚∀゚∩「へぇー……」
ノハ‐⊿‐)「よくあるボッタクリだ。んなもん、カスほどの値打ちもねえよ」
ヒートはそう言ってダディの話を一蹴したが、なおるよは無垢な瞳で黒い石を眺めたままだった。
その様子に毒気を抜かれたのか、ヒートも少しだけ黒い石のことを口にした。
.
- 729 名も無きAAのようです[sage] 2014/02/08(土) 14:38:33 ID:ymq1rMDs0
ノハ‐⊿゚)「あれだ、確かあれだ。なんかの片鱗だろ?」
|(●), 、(●)、|「……『tanasinn』だったかな。そう、これは『tanasinnの片鱗』という物らしい」
('(゚∀゚∩「たなしん? 壁のこと?」
|;(一), 、(一)、|「……さあなぁ……」
('(゚∀゚;∩「……なんだか謎が多いよ……」
ダディとなおるよは小さな唸り声を上げて腕を組んだ。
ノハ;゚⊿゚)「真に受けんなよ、こんなの……」
|(●), 、(●)、|「ま、いざとなったらこの片鱗とやらを使ってやるつもりだ。
もしかしたら、これに願えばペンライトでも出してくれるかもしれないぞ?」
('(゚∀゚∩「それはすごいよ!」
|(●), 、(●)、|「だろう? 実は使うの結構楽しみにしてるんだ……」
ノパ⊿゚)「……あんた自分の年を考えろよ……」
.
- 730 名も無きAAのようです[sage] 2014/02/08(土) 14:39:53 ID:ymq1rMDs0
≪3≫
ドクオとギコは、目隠しと手錠をされて看守達に牽引されていた。
ドクオは自分の部屋――219号室からはもう大分歩いたように感じていたが、
自分が今、具体的にどこに居るかはまったく検討がついていなかった。
看守達が二人に目的地を悟らせないよう、進路をぐちゃぐちゃにしているのだ。
一方、レムナント監獄に長く暮らしているギコは、自分の現在位置を大体把握していた。
(,,‐Д‐)(219号室、二階から一度階段を上がって、第二生活棟の三階)
(,,‐Д‐)(今度は三度下り、同棟の一階……)
(,,‐Д‐)(右折して、歩く……総合棟に入った!)
このように極めて冷静に道程を記憶していたギコだが、一つだけ致命的なミスがあった。
三階から階段を三階分下りた場合、そこは地上一階ではなく地下一階である。
したり顔で覚えた道順が大半間違っている事も知らず、ギコは頑張って道順を記憶し続けた。
.
- 731 名も無きAAのようです[sage] 2014/02/08(土) 14:40:34 ID:ymq1rMDs0
J( 'ー`)し「――着いたわ」
カーチャンの一言で、ドクオとギコの拘束が解かれた。
紆余曲折を経て二人が行き着いたのは、灰色の壁に四方を囲まれた小部屋だった。
ギコが周囲に視線を巡らせる。
前後に鉄扉があり、後ろの扉の両脇には二人の看守がついていた。
前の扉は後ろのものより一層と分厚く、不自然にくすんでいた。
(,,゚Д゚)(なんだ……?)
違和感を覚え、ギコは前の扉を注視した。
よく見ると所々に錆やへこみがあり、扉はかなりの年月を感じさせる状態にあった。
鉄扉には古ぼけた大きな閂が一つ。近くに操作盤はなく、施錠はこの閂一つだけのようだった。
(,,゚Д゚)(俺達ならまだしも、メシウマ側の施設がこんな脆弱なものを採用するのか……?)
まるで別世界から持ってきたかのように老朽した鉄扉。
異様な存在感を放つそれに気をとられている内に、カーチャンが口を開いた。
.
- 732 名も無きAAのようです[sage] 2014/02/08(土) 14:41:14 ID:ymq1rMDs0
J( 'ー`)し「この扉の先が特殊監房『漆黒』になります。一晩、入ってもらいます」
カーチャンはドクオとギコを見た。
二人とも顔色を変えず、そっぽを向いて人の話を聞いていなかった。
今更気にするまでもないので、彼女は半ば事務的になって淡々と話を進めた。
J( 'ー`)し「今回の件はこれで幕切れ。以降、蒸し返さないように」
J( 'ー`)し「私達はこれで下がります。それじゃあ……」
(;,,゚Д゚)「いや待て、トイレとかはどこだ」
J( 'ー`)し「その奥ですよ」
(,,゚Д゚)「扉の奥が全部トイレって事か?」
J(;'ー`)し「さっき漆黒って言った……。その中にトイレもベッドもあります」
(,,゚Д゚)「そうか。分かった」
J(;'ー`)し(本当に人の話を聞かない人ばっかり……)
付き添いの看守二人が後ろの鉄扉を開放する。
カーチャン達は小部屋を出ると、二人に一言残して扉を閉め切った。
J( 'ー`)し「よく反省なさい」
.
- 733 名も無きAAのようです[sage] 2014/02/08(土) 14:42:51 ID:ymq1rMDs0
さて、と心の中で呟いて区切りをつける。
ギコは、今まで沈黙を貫いていたドクオに対し、満を持して話しかけた。
(,,゚Д゚)「漆黒だとよ。どうする、先入るか?」
(;'A`)「……聞きたいことがある」
しかし、ドクオはギコの言葉を無視した。
本来ならこんなガキにタメ口は許さない性分だが、先程のこともあってか、ギコは強く出なかった。
それは恐怖のようなものではなく、単純にドクオを対等の存在と認めたからだった。
(;'A`)「能力者が死んだら、能力っていうのは消えるのか?」
(,,゚Д゚)「何の話だ」
(;'A`)「能力者が死んだ時の話だ。どうなんだ?」
ギコは知識としての“超能力”を知らない。
必然的に、ギコはその質問を自分に照らし合わせて考えた。
(,,゚Д゚)「……俺の能力で言えば」
そこまで言いかけ、開口を躊躇う。
ギコは後で絶対にドクオとの決着を着けるつもりだった。
その時のことを考えれば、わざわざ今ここで能力を教えてやる必要はない。
しかしふと我に返る。
(,,゚Д゚)(……能力を教えたくらいで、俺が負ける……?)
今の思考に、自分自身のプライドが反抗を示した。
鈍ってやがる。ギコは自分の弱さを自覚し、そう思った。
.
- 734 名も無きAAのようです[sage] 2014/02/08(土) 14:43:41 ID:ymq1rMDs0
ギコはわざとらしく溜め息を吐き、さっきの続きを話した。
(,,゚Д゚)「俺の能力で言えば、それはない」
(;'A`)「……」
(,,゚Д゚)「俺の能力は金属の『具現化』……。
一度具現化したものが勝手に消えた事はない」
(,,゚Д゚)「例え俺が死んだとしても、俺が具現化した物が勝手に消えるとは思わん」
(;'A`)「……ありがとう」
(;,,゚Д゚)「……あぁ?」
反射的に荒っぽく返し、ギコは鳥肌を立てた。
感謝の台詞などレムナントではそうそう聞くものではない。
こそばゆい感覚がじわりと体に広がっていく。
(;'∀`)「ははっ……マジで助かった……」
(;,,゚Д゚)「なんだよ、気持ち悪ぃ……」
.
- 735 名も無きAAのようです[sage] 2014/02/08(土) 14:44:22 ID:ymq1rMDs0
(;'A`)「いやマジだ。マジで助かった。分かるか?」
(;,,゚Д゚)「分かんねえよ」
('A`)
(;'A`)「……だよなぁ……」
瞬間、前の鉄扉がギィと不安な音を立てて軋んだ。
ドクオもギコも咄嗟に身構えた。扉を確認すると、閂が外れ、扉に僅かな隙間が出来ていた。
隙間からは細い黒煙が這い出てきており、黒煙は二人を誘うようにユラユラと揺らめいていた。
(,,゚Д゚)「……真っ暗だな」
隙間から覗き見ただけで分かった。
その名の通り、この先の空間には完全な闇が充満しているのだ。
(,,゚Д゚)「……ま、独房と思えば気楽だな。暗いだけで、大層なもんじゃなさそうだ」
(;'A`)「……トラウマ克服期間の始まりか」
ドクオが前に出て、扉の取っ手に手を掛けた。
('A`)「開けるぞ」
(,,゚Д゚)「ああ」
扉が開くにつれて、隙間からの闇がどんどん小部屋に流れ出てくる。
ちょうど人一人が入れるくらいに扉を開けると、ドクオはギコに視線を送り、先に中に入っていった。
ギコもその後に続き、内側から扉を閉めた。小部屋に少しでも明かりを残しておくための対策だった。
こうして、漆黒――暗闇に満ちた空間での一晩が始まった。
.
- 736 名も無きAAのようです[sage] 2014/02/08(土) 14:45:15 ID:ymq1rMDs0
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第十二話 「tanasinnの片鱗」
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