('A`)は撃鉄のようです

149  ◆gFPbblEHlQ[sage] 2015/01/04(日) 18:39:04 ID:F4FhWaM20

≪1≫



「お嬢さん、あんたも変な人だぜ」

 店に居るたった一人の客を相手に、酒場・バーボンの経営者である大男はそう言った。
 綺麗に磨いたグラスにワインを注ぎ、それをカウンター席の女性に差し出す。

ミセ*゚ー゚)リ「ありがとう。そういう貴方は……普通の人みたいね」

 優しく笑い、彼女は大男からグラスを受け取った。
 ふくよかな下唇にグラスの縁を乗せ、口の中へワインを送っていく。
 大した味ではなかったが、彼女は処世術に基づき、満足そうな表情を作って見せた。

「こんな店をやってるから堅気に見えたか? これでも、こないだまで牢屋の中だったんだぜ?」

ミセ*゚ー゚)リ「あら、どうして」

「向こう側に歯向かったんだ。言いたかないが、ザマァないって奴だ」

ミセ*゚ー゚)リ「……どうして、その牢屋を出られたんです?」

 聞かれると、大男はニヤリと頬を弛ませた。

「つえぇ奴が出てきたのさ。まさか看守長までブッ倒すとは思わなかったけどな」


.
150 名も無きAAのようです[sage] 2015/01/04(日) 18:41:37 ID:F4FhWaM20



( A )「オウッフ……」

 その時、スウィングドアが軋みながら開き、一人の男がフラつきながら店に入ってきた。
 途端、男は糸が切れたように床に落ち、そのまま微動だにせず沈黙した。


「……ドクオか……?」

 大男は訝しげに眉間をすぼませ、ドクオらしきそれに近づいた。
 それは不細工なドクオだった。

 大男は床に倒れたドクオをひっくり返し、彼の頬を叩いた。

「おい、ドクオ! お前ドクオだろ!?」

(゚A゚) ※連戦、長距離移動から来る疲労困憊、筋肉痛

 それから程なくして、更にもう一人が店に入ってきた。
 大男が顔を上げると、ちょうど二人目の男が床に落ちていく所だった。


( ゙゚Д゙゚)「カッハァ……」

( ゙゚Д゙゚) ※毒物による体調不良、貧血、しかも目が見えない


.
151 名も無きAAのようです[sage] 2015/01/04(日) 18:42:49 ID:F4FhWaM20


 揃いも揃ってズタボロの二人を見回し、大男は参ったと言わんばかりに頭をかいた。


「……どういうこったよ……」



ミセ*゚ー゚)リ「……大変そうね」

 騒々しくなった背後をよそに、彼女は静かにグラスを揺らした。

.
152 名も無きAAのようです[sage] 2015/01/04(日) 18:45:06 ID:F4FhWaM20


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 目的地の酒場に到着したドクオとミルナは、その日を丸々休日とした。
 二人のズタボロっぷりを見かねた大男もそれを認め、しばらく店に居付いていいと言ってくれた。

 武器は地下倉庫にたっぷり用意してあるらしく、ダディとの待ち合わせにもまだ時間がある。
 ドクオは今日からの数日間を休息に当て、万全の体制を作るために使おうと考えた。
 ミルナもそれに賛成しており、二人のちょっとした旅はこれで呆気なく終わった事になる。



('A`)「……」

 ドクオは店先の岩に座り、ぼんやりと空を眺めていた。


 微弱な風を全身で感じ取りながら、雲の動きを目で追い続ける。
 たまに足元を変な虫が通り過ぎていく。そいつに息を吹きかけて遊んだりもする。
 大きな欠伸もするし、かゆい所があれば即ポリポリしていく。

('A`)「……ハァ」

 ドクオはそんな動作をして思考を誤魔化し続けていたが、
 彼は自分がエクストの両脚を千切り、消し炭に変えてしまった現実を受け止めきれずにいた。

 能力者同士が戦うのは銃と銃を向け合うのとなんら変わりない。
 どちらかが“その気”になれば、その時点から戦いは現実の殺し合いに発展する。
 死んだ方が負けという現実が始まれば、超能力は単なる人殺しの道具になってしまう。
 エクストとの戦いを経てそれを実感したドクオは、感情に任せて拳を振るった事を深く後悔していた。

.
153 名も無きAAのようです[sage] 2015/01/04(日) 18:46:02 ID:F4FhWaM20


「なんだよ、死人みてぇなツラしやがって」

 店から出てきた大男はそう言い、ドクオが座る岩の隣に来た。


('A`)「死んだように生きてりゃこうなる」

「……器用だな、俺には出来ねぇ」

 大男は肩を竦めて言い返すと、ドクオに新しいシャツを放り投げた。
 それは白い半袖シャツだったが、今ドクオが着ている返り血まみれのシャツよりは幾分か上等だった。
 ドクオは大男に礼を言い、さっさと服を着替えた。


「あの男、目が見えてないな」

('A`)「らしい」

「かたや視力無し、かたや血塗れか……」

 大男は肩を落として言った。

「ま、俺には関係無いから事情は聞かん。だが、この店に厄介な客が来るのは御免だぜ」

('A`)「……来ないと思う」

「……どうしてそう思う?」

('A`)「あっちは制圧作戦の為に戦力を集めてるんだ。
   それをわざわざ分散するような真似はしないだろ」

「……確かに。お前意外と冷静だな」

('A`)「自分でもビックリだよ」

.
154 名も無きAAのようです[sage] 2015/01/04(日) 18:47:00 ID:F4FhWaM20

 ドクオは呆然としたまま、大きな間を置いてから尋ねた。

('A`)「なあ、あんた、人殺しの経験はあるか?」

「……そういう奴じゃなきゃ監獄には入ってねえ」

 そう答えると、大男は地面に腰を下ろした。

「変な事を聞くんだな。お前、ここがどういう場所か知ってんのか?」

('A`)「掃き溜めだろ」

「……違いねえが、それは向こう側の人間のセリフだな。
 ここは人殺しも強盗もある、ただの無法地帯だ。金と力がありゃ不自由は無い、そんな場所だ。
 目に見える自然は確かに綺麗に見えるが、その上に生きる俺達はゴミクズの極み。そうだろ?」


('A`)「……そうだな。忘れてた」

('A`)「……俺はそういう人間だったな」


「……そう意味深な事を言われても分かんねぇぞ。喋るんなら分かりやすく、だ」

 ドクオは困ったように両手をあげた大男を見て微笑み、すぐに表情を戻した。

('A`)「親友だった奴がいるんだ」

 ドクオは、躊躇いなく先日のことを口走った。

.
155 名も無きAAのようです[sage] 2015/01/04(日) 18:49:06 ID:F4FhWaM20


('A`)「昨日、そいつの両脚を俺が潰した。
    服の返り血はそいつの血だ」

('A`)「……初めて人を殺そうと思った。だから少し思い詰めてたんだ」

('A`)「でもまぁ、それも開き直れた。今はメシを食いたい」

「……メシか? そいつぁ分かりやすっ――」

 その時、大男の言葉を遮って大きな物音が轟いた。店の中からだった。
 二人は一瞬目配せし、すぐに立ち上がって駆け出した。



.
156 名も無きAAのようです[sage] 2015/01/04(日) 18:51:15 ID:F4FhWaM20

≪2≫


 店内では、ミルナと一人の女性が相対していた。

 ミルナは拳を固めて立ち上がっており、女性の方は椅子に掛けたまま落ち着いている。
 二人の間にあったテーブルは粉々に粉砕されており、今はもう跡形も無い。
 テーブルを破壊した際の余波なのか、周囲のテーブルも方々に吹き飛んでいた。


ミセ*゚ー゚)リ「……激しいのが好きなの?」

(#゚д゚ )「……黙れクソ女。この場で殺すぞ」」

 女性はグラスに残ったワインを飲み干し、グラスを空中にそっと置いた。
 本来なら重力に従って床に落ちるはずのグラスは、そのまま空中に静止して落ちなかった。

ミセ*゚ー゚)リ「私は利口な生き方を提案しただけ。
      目的の為なら人殺しだって厭わない、そういう生き方をね」

(#゚д゚ )「それはお前みたいな根っからの悪人の生き方だ。
     俺は俺自身の正義を捻じ曲げてまで、自分の為に生きようとは思わない」

ミセ*゚ー゚)リ「だったらこう言えば貴方は悩むのかしら。
      その生き方でどれだけの人を救い、一方でどれだけの人を苦しめ、殺してきたの?」

 ミルナは、何も言い返せなかった。
 彼女は口元に手を当てて小さく笑い、ミルナを上目遣いで見つめた。

.
157 名も無きAAのようです[sage] 2015/01/04(日) 18:52:13 ID:F4FhWaM20


ミセ*゚ー゚)リ「長生きしててもお子様なのね。
      今時、そういう人は沢山居るけれど」

( ゚д゚ )「……お前も同類だろうが」

 精一杯の反抗心を言葉にして吐き出す。
 しかし彼女は物ともせず、ミルナの台詞を否定した。

ミセ*゚ー゚)リ「私は大人よ? ちゃんとした大人の女性。
      少なくとも貴方ほど他人に依存してないし、自立してるの」

( ゚д゚ )「孤立の間違いだ」

ミセ*゚ー゚)リ「それでも構わないわ。何か問題ある?」

 彼女は言い切った。

ミセ*゚ー゚)リ「私は私一人で私の為に生きている。
      楽しい事、嬉しい事の為に生きている。私はね、これで幸せなの」

ミセ*゚ー゚)リ「楽しい事の内容に問題があるとか言わないでよ?
      これは単なる個人的な人生観なんだから。世の中のアレコレなんか知らないわ」

(#゚д゚ )「そんな勝手――ッ!」



ミセ*゚ー゚)リ「――間違ってるってね、よく言われてたわ」

 ミセリは口元に人差し指を立て、静かに呟いた。

.
158 名も無きAAのようです[sage] 2015/01/04(日) 18:54:08 ID:F4FhWaM20


ミセ*゚ー゚)リ「でもね、そう言って私を否定した人達は、誰も私に戦いを挑まなかったわ」

ミセ*゚ー゚)リ「私が悪いと思うなら殺しに来ればいい。裁けばいい。
      大なり小なり超能力者が居るんだから、大勢で私を嬲り殺せばいいと思った」

ミセ*゚ー゚)リ「しかし彼らはそうしなかった。私はしばらくして気付いたわ。
      彼らはね、私を利用して自分の立ち位置をアピールしたかったのよ」


ミセ*゚ー゚)リ「正義と悪の構図がね、欲しかっただけなの」

ミセ*゚ー゚)リ「彼らはね、『悪に立ち向かう正義の僕私』を演出して、利益を上げようとしたの」

 そこまでを言い、彼女はカウンターに置きっ放しだったワインボトルに視線を送った。
 するとボトルは宙に浮かび、彼女が空中に置いたグラスに近づいてワインを注いだ。

 彼女はグラスを持ってワインを煽り、口を開いた。


ミセ*゚ー゚)リ「話が逸れたけど、私が言いたい事は一つだけ」

ミセ*゚ー゚)リ「ミルナさん、貴方は元の世界に帰りたいんでしょう?
      その為に必要なものは準備出来ているわ。足りないものは、あと貴方だけ」

( ゚д゚ )「……目的が手段を正当化する。大義名分があれば、大悪党も正義の味方だ」

 ミセリは背筋を正して言った。

ミセ*゚ー゚)リ「……そうね。私達という集団は完全完璧な『黒』よ。
      およそ悪と言うに相応しい、そんな悪者達の集まりだわ」

ミセ*゚ー゚)リ「しかしそんな黒でさえ、tanasinnの前では純白のように光り輝く。
      それを知らない貴方ではないでしょう?」


ミセ*゚ー゚)リ「それに……別に初めてって訳でもないんでしょう?
      tanasinnを倒す為に他人を使い捨てるなんて、今までの世界ではよくやってたらしいけど?」

ミセ*゚ー゚)リ「言っておくけど、あなた、私なんかよりよっぽど多くの人を殺してるんだからね?」

.
159 名も無きAAのようです[sage] 2015/01/04(日) 18:55:16 ID:F4FhWaM20




( ゚д゚ )「……俺は……」


 ミセリの問い掛けは、ミルナにとっては古傷を抉られるようなものであった。
 仲間を集め、力を蓄え、決戦に挑み、すべてを失う。
 そんな経験を何度もしている内に鈍化していった心ですら、後ろめたい自覚はあったのだ。

 tanasinnに勝てる見込みなど無い筈なのに、俺達なら勝てると嘘を吐いて味方を鼓舞する。
 心からミルナを信用し、彼の宿命に怒りと同情を覚えるような仲間達ですら、
 世界が変わればミルナは彼らの存在を忘れ、次の世界に適応していく。

 ただ心臓を動かして生きているだけだった。
 それだけで、他人という存在の価値がどんどん下がっていく気がした。
 命の価値が分からなくなった。やがて、仲間が死んだ所で何も思わなくなった。


( ゚д゚ )「俺は……」


 ――結局のところ、ミルナは他人を利用し、その場凌ぎをしていたに過ぎなかった。
 思考を停止し、『仲間達との友情演劇』の為に同じ事を繰り返していたに過ぎない。
 精神の安寧を欲するあまり、彼は目的を見失って一時の安らぎを追ってしまっていた。

 tanasinnを倒して元の世界を取り戻すという、大義名分と言っても余りある正義の言い分が、
 その重荷が、彼という人間を少しずつ現実から遠ざけていったのだ。
.
160 名も無きAAのようです[sage] 2015/01/04(日) 18:56:20 ID:F4FhWaM20



ミセ*゚ー゚)リ「ずばり、自信がないんでしょ」

 彼女はミルナを指差し、にんまりと笑った。


ミセ*゚ー゚)リ「あの仲間達と過ごした時間は紛い物だったのか?
      俺は本当にあいつらを信用していたのか?
      一般人を死地に送り込むような真似をしたのに、俺はまだ正しさを語れるのか……」

 席を立ち、彼女はミルナから離れていった。
 そうして少し距離を取ると、彼女はくるりと体を翻してミルナを見直した。

ミセ*゚ー゚)リ「……考える時間は山ほどあったでしょう?
      もう答えは出てるんじゃないかしら。どうであれ、何であれ」

 やがて、彼女の背後に暗闇よりも黒いものが渦巻き始めた。

 彼女はミルナと目を合わせたまま、黒い渦の中に一歩踏み入った。
 黒い渦は、少しずつ彼女の体を包んでいく。


ミセ*゚ー゚)リ「人生には数多くの決着が必要である。
      前に進む為ではなく、過去を過去に留めておく為に」

ミセ*゚ー゚)リ「私の名言よ。今思いついたの。良ければ覚えておいて」

 黒い渦は彼女の全身を飲み込むと、ふわっと周囲に霧散して消滅した。
 次の瞬間には、彼女はもう、どこにも存在していなかった。




.
161 名も無きAAのようです[sage] 2015/01/04(日) 18:57:33 ID:F4FhWaM20

≪3≫



(;'A`)「どんだけ派手にすっ転んだんだよ……」

 テーブルと椅子がめちゃくちゃに吹き飛んだ店内を掃除しながら、ドクオはミルナを一瞥する。
 ミルナは椅子に座り、光を失った目でどこか遠くを眺めていた。

( ゚д゚ )「仕方ないだろ。そういう事もある」


('A`)「……お前の目、もう見えないままなのかな」

( ゚д゚ )「……直そうと思えば直せる。しかし面倒だからな、自然に治るのを待つ」

(;'A`)「自然に治るなら、まあいいんだけどさ……」

 ドクオはミルナの前に椅子を置き、そこに腰を下ろした。


('A`)「これから先も一緒に来るなら荒事だってあるんだぜ、大丈夫かよ」

( ゚д゚ )「……分からん。俺の中にあった自信は、ここ数日でかなり粉々だ」

('A`)「……そういやリハビリとか言ってたよな。どうする?」

( ゚д゚ )「……分からん」

 ミルナは同じことを繰り返してドクオをあしらい、目をそらした。
 歯切れの悪い言葉が連続したせいか、場の空気がずんと重くなる。

.
162 名も無きAAのようです[sage] 2015/01/04(日) 19:00:02 ID:F4FhWaM20


( ゚д゚ )「……そういえば、お前も故郷で何かあったんだろ?
     血の臭いくらいは分かる。お前こそ大丈夫なのか」

('A`)「……大丈夫だよ。ちょっと現実見ただけだ」

('A`)「気分は悪いけど、仕方ねえと思ってる。
    自分がどういう人間だったかやっと思い出した……そんだけ」


( ゚д゚ )「……なあ、ドクオ」

 ミルナは音を頼りにドクオの方を向いた。


( ゚д゚ )「お前には、何をしてでも帰りたい場所があるか?」

('A`)「……ある。今もその場所を目指してる」

( ゚д゚ )「……そうか。俺は今でも道に迷っている。
     帰る場所も分からないまま、ずっとだ」

 互いに目をそらしたまま、二人はしばらく口を閉ざした。
 その最中、二人は沈黙しながら真逆の事を考えていた。


('A`)(帰れるなんて思ってねえ。これはただの夢だ、分かってる……)

( ゚д゚ )(tanasinnさえ倒せれば可能性はあるが、その為には……俺はまた……)


 一人は夢が夢であると自覚し、一人は自分の夢を信じようとしていた。
 それは、この二人の決別を意味していた。

.
163 名も無きAAのようです[sage] 2015/01/04(日) 19:01:21 ID:F4FhWaM20



( ゚д゚ )「……なあ、ドクオ」

( ゚д゚ )「……俺は元の世界に帰りたい。帰って何がしたいって訳じゃない。
     どうせ死ぬなら、見慣れたあの世で死にたいんだ」

('A`)「……帰る手段は」

( ゚д゚ )「……ある」

('A`)「……じゃあやればいい。お前の好きにすればいい。
    俺は知ったこっちゃないからな、無責任にそう言うぜ」

 ドクオは表情を曇らせ、さらに続けた。

('A`)「例えそれで、自分自身の正しさを踏み躙ってもだ。
    人に恨まれたって、責められたって成し遂げたい事があるなら、それはもう 『なる』 しかないんだ」

( ゚д゚ )「……なる? 何にだ?」

('A`)「悪者にだよ。そう呼ばれる覚悟をして、間違った事をするしかない。
    間違った事をしないとどうしようもない人間なら、もう諦めてやるしかねぇんだ」

 ドクオは嘲笑し、さらに付け加えた。

('A`)「……俺は悪者だ。社会の正しさの手には負えねえ、社会不適合者のゴミクズだ。
    俺はもう、それでいいって決めた。これで結構気が楽だ」

.
164 名も無きAAのようです[sage] 2015/01/04(日) 19:02:55 ID:F4FhWaM20

(;゚д゚ )「それはっ……!」

 途端、ミルナは声を張り上げた。

(;゚д゚ )「それはただの身勝手じゃないのか!?
     悪者になるしかないって……そんなの……」

 狼狽した彼とは反対に、ドクオは冷たい表情のまま答える。

('A`)「身勝手だろうな。でも 『だから何だ、それがどうした』 だ。
    俺は元々こんな世界は大ッ嫌いでな、今更誰に何言われようが知らねぇんだ」

('A`)「俺は女一人を取り返せればそれでいい。他の全部は、もういいんだ」


('A`)「……俺はそういう身勝手な開き直り方をした。
    そりゃあ何をするにしたって、最低限の常識は守るけどな」

(;゚д゚ )(……俺には分からない。お前は、そんな簡単に他人を切り捨てられるのか?)

 ドクオを否定するその言葉は、思った直後に自分に跳ね返ってきた。

 過去の行いを思い返せば、ミルナはドクオよりよっぽど多くの悪事をこなしてきた。
 より多くの他人を切り捨ててきた。より多くの現実から目をそらしてきた。

 人を責められるほど俺は上等な人間じゃない。
 そう思えば思うだけ、ミルナは『正義』としての自分の考えを肯定できなくなっていった。

 結果を伴わない綺麗事は世迷言だ。
 そんな事は分かっていた。分かっていたからこそ、彼は現実を直視することができなかった。
 思い描いた綺麗事とは真逆の、罪悪と失敗だけが積み上げられた今という現実を。

.
165 名も無きAAのようです[sage] 2015/01/04(日) 19:05:02 ID:F4FhWaM20


 改めて外に出てきた今、ミルナは選択をしなければならない。
 それは至極単純な話、戦うか戦わないかの二択である。

 tanasinnと関わり、もうこの世界と無関係ではいられない彼は、このどちらかを選ぶ義務がある。
 もちろん義務を放棄して死ぬのも一つだ。
 荒巻に頼めば彼は快くミルナを殺し、かくしてミルナは全ての義務から解放されるだろう。

 だが、それでは駄目だとミルナは思う。

( ゚д゚ )(……死ねば楽になるなんて、それこそ一番最初に考えた)

( ゚д゚ )(死ぬのは別にいい。ただ、何も成し遂げられないまま死ぬのは――)



('A`)「――おい、大丈夫か?」

 ドクオに声を掛けられると、ミルナはハッとして顔を上げた。
 駆け巡った考えが急停止し、彼はドクオの存在を思い出す。

('A`)「……さっき聞いたんだけどさ、地下の武器庫を寝床にしていいって。
   雑用はやっとくから休めよ。顔色悪いぜ」

( ゚д゚ )「……」

( ゚д゚ )「……すまん。先に寝る。
     だがそういうお前も万全じゃないんだ、早めに切り上げろよ」

(;'A`)「お前が散らかしたんだろうがッ」

 そう言ってミルナが席を立つと、彼の目の代わりをするべく、ドクオも腰を上げた。
 ドクオはミルナの手を取り、彼を地下に案内していく。

.
166 名も無きAAのようです[sage] 2015/01/04(日) 19:06:05 ID:F4FhWaM20


('∀`)「野郎の手なんか握りたくないんだが?」

( ゚д゚ )「……」

(;'∀`)「……」

 おかしな雰囲気を打開するために放ったドクオのボケは全く意味をなさなかった(実際面白くなかった)
 変な汗を拭い、喉を鳴らして仕切りなおす。


(;'A`)「明日、お前用の杖でも作ろうぜ。武器にも出来るしな。便利だろ?」

 沈黙を誤魔化し、ドクオはぺらぺらと話し始めた。
 手を握るという行為によって、ミルナが自分の心を覗き見ている事にも気付かず。

( ゚д゚ )「……心が決まった。もう、大丈夫だ……」

('A`)「……?」

 ミルナは独り言のように言い、ドクオはそれを聞き流した。


.
167 名も無きAAのようです[sage] 2015/01/04(日) 19:07:58 ID:F4FhWaM20


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 レムナントでの諸用を終えた後、ミセリはメシウマ側に移って都内観光を楽しんでいた。
 彼女は数多くの店に入り、目に付いたものを一つ残らず買っていった。
 荷物は超能力で浮遊させればいいので、彼女の買い物は留まる所を知らなかった。


ミセ;*゚ー゚)リ(……さすがに買い過ぎたか)

 荷物の積みあがり具合がそこらへんのビルを超えようとして、ようやく気付く。
 彼女は仲間からコピーした瞬間移動能力を発動し、荷物をすべて本拠地にすっ飛ばした。
 それと同時に携帯電話が鳴り響く。ミセリは携帯電話を耳に当てた。


「嫌がらせか何かか?」

 開口一番の言葉には、明確な怒りが込められていた。

ミセ*゚ー゚)リ「こんにちは。何が?」

「空から女物の服やアクセサリー、家具家電が山のように降ってきたぞ。
 つーか何が悲しくて無駄毛処理機を複数買ってんだよお前、アルパカでも飼ってんのか」

ミセ*゚ー゚)リ「……送り先間違えました。ごめんなさい。あと買ったもの見るな」

 ミセリも怒った。アルパカは飼っていない。つまりそういう事だった。


「次からは普通に宅配を使え。この量だとダンボール幾つだ?」

ミセ*゚ー゚)リ「それこそ宅配業者への嫌がらせだわ。
       荷物は適当に部屋に突っ込んどいて。次は気をつけるから」

 ミセリは反省せずに言い、そこで会話を区切った。

.
168 名も無きAAのようです[sage] 2015/01/04(日) 19:10:54 ID:F4FhWaM20


 歩道の端っこに寄ってから、彼女は本題を語った。

 ささやかな監視の目がこちらを向いている。
 彼女は監視に対して手を振って応えた。


ミセ*゚ー゚)リ「仕事は終わったわ。一応それなりに煽っておいたけど」

「……それなりか」

 電話の相手は不安そうな声色で繰り返した。

ミセ*゚ー゚)リ「あら? 仕事のパートナーが信用できない?」

「人心についてはお前の方が専門だ。お前が駄目なら適役は居ない」

ミセ*゚ー゚)リ「大丈夫よ。たとえ数万年数億年生きていようが、人は切欠一つでコロッと変わるわ」

 ミセリはゆっくりと、それこそ子供相手に話すように言った。


ミセ*゚ー゚)リ「どこかの先生も、あっという間に変わってしまった事だしね」

「……ぐうの音も出やしねぇ。そうだな、確かに人は変わる」

ミセ*゚ー゚)リ「あのミルナとかいう男、今なら貴方でも圧勝出来るほど弱いわ。
      だからこそ彼は変わる。『弱い』という事は、いつか必ず『強くなる』という事なの」

.
169 名も無きAAのようです[sage] 2015/01/04(日) 19:18:19 ID:F4FhWaM20


「……よく分からん、お前の哲学は」

 相手の反応は溜め息交じりだった。

「とにかく仕事は終わりだ。さっさと荷物片付けに帰って来い」

ミセ*゚ー゚)リ「ええ、買い物が終わったら帰るわ。あと夕飯、お願い出来ない?」

「うちは当番制で、今日はお前の番。
 遅れたら新品のパンツが食卓に並ぶからな。まず黒のひらひらを並べる」

ミセ;*゚ー゚)リ「ちょっと見ないでよ!」

 相手は一方的に通話を切った。
 ミセリは携帯電話を睨んで「どうしてこうなった」と何度も考え、やがて薄緑のスカートを翻して歩き出した。
 とにかく食卓にパンツが並ぶのだけは阻止したいので、彼女は即座に帰る準備に取り掛かった。

ミセ*゚ー゚)リ(……ミルナより、あの子の方が将来有望だったかな)

ミセ*゚ー゚)リ(いつか彼が強くなったら、また会いに――)



ミセ;*゚ー゚)リ「――あれはッ!」

 そう思った矢先、彼女は手近にあった宝石店に目を奪われ、そこに駆け寄っていった。
 彼女はその後の数時間をもショッピングに使い、メシウマという街をエンジョイしたのだった。
 食卓には黒のひらひらパンツと脱毛器具が並んだ。

.
170 名も無きAAのようです[sage] 2015/01/04(日) 19:24:44 ID:F4FhWaM20


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

     第十九話 「ドクオは泥を見た。ミルナは星を見た」

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

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171 名も無きAAのようです[sage] 2015/01/04(日) 19:26:05 ID:F4FhWaM20

≪4≫




 ――ミルナは星を見上げていた。



( ゚д゚ )「……綺麗なもんだな、どの世界でも」



 真夜中、夜風を浴びながら、一人。



 光を取り戻したミルナは、右手に掴んだ大男の亡骸から目を逸らすように、満天を見続けた。

 大男の肉体は黒い霧に変換され、ミルナの右腕に巻きついていく。

 やがて大男の全身が霧になって消え失せると、ミルナはようやく自分の右手を見下ろす事が出来た。

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172 名も無きAAのようです[sage] 2015/01/04(日) 19:27:37 ID:F4FhWaM20




( ゚д゚ )「…………」



 言葉を失ったまま、ミルナはしばらくその場に留まった。
 人を殺したという罪悪感すら抱けない自分を、彼は冷ややかに自嘲する。


( ゚д゚ )「……こんなもんだったな、人殺しなんて……」


 ドクオが居てくれて、何かを取り戻せる気がしていた。
 しかしそれも気のせいだった。今のミルナに、そんな気持ちは微塵も無かった。

 自分の中に戻りつつあった何かを、ひっそりと、胸のうちで絞め殺す。
 こみ上げる感情は途端に息絶え、感情の波もやがて治まった。


 ミルナは振り返り、店に帰っていった。
 彼が立ち去った後には、大男が居たという痕跡は何一つ残らなかった――



.



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