('A`)は撃鉄のようです

375 名も無きAAのようです[sage] 2015/05/30(土) 22:37:09 ID:nPOKjnFo0


 ――叩きつけるような雨が降っていた。
 空のずっと向こうまで、灰色の雲が続いている。

 暗雲に覆われた昼下がり。
 ホテルに入ったギコ達は、それぞれ自由に休息を取っていた。


(,,゚Д゚)「……素直ヒート」

 窓辺に立ち、外をじっと睨んでいるギコが口を開いた。


ノパ⊿゚)「……んだよ」

(,,゚Д゚)「……けっこう良い部屋に泊まるんだな。
    俺達のリーダーは金持ちなのか?」

 ギコは振り返って室内を見た。
 彼の言うとおり、このホテルはクソワロタの中でもかなり上等な施設だった。

 木目のフローリングにクリーム色のカーペットが敷いてあり、その上にはL字形のソファがある。
 ソファの前にはコーヒーカップを置いたテーブルが一つ。コーヒーを淹れたのはギコだが、まだ口はつけていない。
 テーブルの向こうにはテレビ台と薄型テレビが設置されており、その両脇には細長のスタンドライトと観葉植物があった。

.
376 名も無きAAのようです[sage] 2015/05/30(土) 22:38:04 ID:nPOKjnFo0


ノパ⊿゚)「事の大きさを考えれば当然だ。
     寝込みを襲われる可能性は低い方が良い」

 ヒートはソファから離れた食事用のテーブルに居た。
 こちらのテーブルはキッチンに程近く、五人分の椅子が用意されていた。

 彼女はその中の一つに腰掛け、机上で手を組んで静かにしている。
 ギコに話しかけられなければ、彼女はずっとそのままだっただろう。


(,,゚Д゚)「……案外、全員同室で良かったのかもな」

ノパ⊿゚)「アタシらの大食いに感謝しろ、ってな」

 ヒートは普段通りに軽口を叩いたが、彼女は無表情だった。
 大きな考え事をしながら平静を装っているのだと気付くのに、大した洞察は必要なかった。


(,,゚Д゚)(なおるよの事含め、今後の話はダディクールが帰ってからだな……)

 ギコはコーヒーカップを手に取り、ぬるくなったコーヒーを飲んだ。

.
377 名も無きAAのようです[sage] 2015/05/30(土) 22:38:46 ID:nPOKjnFo0


(,,゚Д゚)「……おい」

ノパ⊿゚)「……んだよ。話があるなら一回で済ませろ」

(,,゚Д゚)「棺桶死になんか持ってってやれ。
     女だろ、気を利かせろ」

ノハ;-⊿-)「……コーヒーと水道水しかねぇのにどう気を利かせろってんだ、ったく……」

 ヒートは小言を呟きながらも席を立った。
 電気ケトルで早々に湯を沸かし、コーヒー粉末と一緒にカップに注ぎ込む。


ノパ⊿゚)「おら、持ってけ」

(;,,゚Д゚)「……いや、なんで俺が」

ノパ⊿゚)「お喋りは他所でやれって言ってんだ。
     人を気遣うフリして自分慰めてんじゃねえよザコ」

 コーヒーカップをテーブルに置き、ヒートは勢いよくソファに飛び込んだ。
.
378 名も無きAAのようです[sage] 2015/05/30(土) 22:40:19 ID:nPOKjnFo0


(,,゚Д゚)「寝るなら寝室で寝ろ」

ノハ-⊿-)「……あんまり女扱いしてっと殴るぞ」

(,,゚Д゚)「お前三十路入ってんだろうが。
    女扱いされんのもここらが限界だ、ありがたく思え」

ノハ#-⊿-)「マジでブッ殺すぞ」

(,,゚Д゚)「じゃあオッパイ触っても文句言うなよ」

ノハ-⊿-)「別にいいぜ。だけど触って文句言ったら殺すからな」

(,,゚Д゚)「そのサイズなら文句無しだ。良かったな」

 ヒートは最後に「あいあい、まったくだぁ」と欠伸交じりに言い、ギコに背中を向けた。


(,,゚Д゚)「……」

 話し相手を失ったギコは改めて外を見た。
 それと同時に、外の人影が電柱の後ろに身を隠した。

(,,゚Д゚)(……バレてもいいって感じだな。
     あれの後ろには何が控えてんだか……)

 ギコはカーテンを締め、一人静かにダディクール達の帰りを待ち続けた。

.
379 名も無きAAのようです[sage] 2015/05/30(土) 22:42:11 ID:nPOKjnFo0

≪2≫



 ダディクールが向かった先には、古い教会があった。


 この場所は放棄区画の隙間に生まれた小さな空き地で、四方は建物の背中に囲まれていた。
 ここに出入りできる道はたった一つ。しかもその道は網目のように入り組んだ狭い路地と繋がっているのだ。

 ダディいわく、ここまで迷わずに来れたのは運が良かった。
 彼も教会には久し振りに来ると言っていた。
 もっとも、この場所が何なのかは最後まで一切語らなかったが。


|(●),  、(●)、|「……居てくれよ……」

 ダディはなおるよを背負い直し、教会の扉を叩いた。
 雨音に負けないよう、強めに数回。

 ノブが回り、扉がゆっくりと開け放たれる。


|(●),  、(●)、|「……急用だ。この死体を運んでほしい」

( l v l)「……どっちの死体だよ。俺の目の前には死体が二つあるんだが」

 扉の向こうには教会の主であろう神父服の男が立っていた。
 彼の冗談に顔色一つ変えず、ダディは教会に押し入った。

|(●),  、(●)、|「とにかく邪魔する。後ろのは私の連れだ」

(; l v l)「久し振りに来たかと思えばコレかよ……」

.
380 名も無きAAのようです[sage] 2015/05/30(土) 22:43:10 ID:nPOKjnFo0


(; l v l)「あーあー、びしょ濡れで入りやがって……」

 男はダディが通った後の床を一瞥し、軽い溜め息をついた。
 それを見かねたドクオは一歩前に出て、男に話しかけた。

('A`)「すんません。俺がやっときます」

( l v l)「……知らん顔だな。お前も組織を抜けたクチか?」

('A`)「……組織?」

 聞き返すと、ムネオは何かに気付いて息を呑み、苦い笑みを作って目をそらした。

(; l v l)「いやあ? なんでもねえよ」

 ムネオはダディの後を追い、逃げるように教会の奥に行った。


(; l v l)「モップはあっち、タオルは後で持ってこさせる。
     連れが礼儀知らずじゃなくて安心した。掃除、頼んだぜ」

('A`)「あ、はい……」


('A`)(……まあ、やるか)

 ドクオはさっさとモップを用意し、床掃除に取り掛かった。
.
381 名も無きAAのようです[sage] 2015/05/30(土) 22:44:29 ID:nPOKjnFo0


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



 床掃除を終えて暇になったドクオは、
 教会で唯一やれる暇潰しに興じるため、最前列の長椅子に座って薄汚いステンドグラスを見上げていた。
 女神か神様かよく分からないが、なにか神々しい感じのデザインだった。


('A`)「……」

 思考は不思議と穏やかだった。
 神様のおかげなのか、止まない雨が逡巡を遮っているのか。
 どちらにせよ、今のドクオはシンプルに物事を考えていた。

 そこに足音が近づいてきた。
 目線を落とすと、肩にタオルを掛けたダディクールがすぐそこに居た。

|(●),  、(●)、|「タオルとホットミルク、砂糖入り」

('A`)「……ああ」

 ドクオは渡されたタオルで全身を拭った。
 ダディはその間にドクオの隣に腰掛け、彼と同じようにステンドグラスを見上げた。

|(●),  、(●)、|「……なおるよの事は終わった。
           実家に送りつけるような真似は出来ないが、彼の故郷で弔うよう依頼した」

|(●),  、(●)、|「名前は刻まれないが、ちゃんと墓も立つ。
            この一件が終わったら墓参りだな」

('A`)「……そうだな」

.
382 名も無きAAのようです[sage] 2015/05/30(土) 22:46:15 ID:nPOKjnFo0


|(●),  、(●)、|「……さ、早くみんなの所に行こう。話し合う事もある」

('A`)「……なあ、死にたいって思った事はあるか?」

 ドクオは唐突に質問した。
 ダディは飄々と答えようとしたが、思いとどまって真剣に答えた。


|(●),  、(●)、|「……思うだけなら、何度かは」

('A`)「……そっか」

|(●),  、(●)、|「……聞いた割りに、随分と素っ気無い反応だな」

('A`)「……ごめん。俺は、死にたくないって思った事がないんだよ。
    無自覚にでも 『俺は生きてて当然なんだ』 とか思ってたのかな、俺は……」

 ドクオは席を立ち、ダディクールと一緒に教会を出て行った。
 空は未だに暗く曇っており、土砂降りの雨がひたすら降り注いでいる。


|(●),  、(●)、|「……ついでだし、神に快晴でも祈るか?」

('A`)「てるてる坊主で十分だろ。帰ったら作るよ」

 二人は再び、雨の中を走り出した。
.
383 名も無きAAのようです[sage] 2015/05/30(土) 22:48:07 ID:nPOKjnFo0

≪3≫



 ギコ達の部屋を見張っていた男は、交代と報告の為に一時間程でその場を去った。

 男は離れたところに停車していた大型トラックに近づき、運転手に合図を送った。
 トラックが動き出し、男を迎えに近づいてくる。
 男が助手席に乗り込むと、トラックはすぐに発進した。


「対象に動きは無い。とりあえず現状を教えてくれ」

「……あっちで起きた殺しの現場に対象が居たらしい。それがこの仕事の発端」

「……それだけ? それだけか?」

「……早く帰って、報告を済ませよう」

 運転手は渋い表情で言った。
 言いたい事は分かっている、という口調だった。

「下っ端だとしても、俺達だって組織の一員だろ……。
 給料どころか、最低限の情報すら貰えないとはな」

「……仕方無いんだよ。仕事があるだけマシだと思っておこう」

 二人はそれぞれ不満を思い浮かべ、それぞれに飲み下した。


.
384 名も無きAAのようです[sage] 2015/05/30(土) 22:50:13 ID:nPOKjnFo0


 数分後にトラックが行き着いたのは、商店街から少し離れたシャッター街だった。
 この通りで開いている店は既に片手で数えるぐらいで、ここも早々に放棄区画の一角に加わるだろう。

「……おい」

 そんなシャッター街を進んでいく最中、運転手が小さく声を掛けた。
 助手席の男は目を閉じて眠っていたため、その一言に気付かない。


「――おい!」

 大声で放たれた二度目の呼びかけで、助手席の男はようやく目を覚ました。

「なっ、なんだよ……」

「あの煙、支部の方向じゃないか!?」

 そう言われておずおずとフロントガラスを覗き込む。
 見上げると、空に向かって立ち上る大きな黒煙を見つけた。
 その方向には運転手が言ったとおり、彼らのアジトがある。


「――支部に連絡を取る! 急げ!」

 男は携帯電話を手にして支部との通信を試みたが、コール音が続くばかりで誰も応答しない。
 遠くの空に見える黒煙。それを見ながら、彼らは何かを予感していた。

.
385 名も無きAAのようです[sage] 2015/05/30(土) 22:52:26 ID:nPOKjnFo0



 ――やがて彼らが支部に到着した時、予感は現実として目の前に現れた。
 組織のレムナント支部とその周辺の光景は、跡形もなく、火炎に飲み込まれていた。


「う、嘘だろ……」

 燃え盛る炎を前にトラックを止め、運転手は息を呑んだ。
 支部として使っていた三階建てのビルは粉々になって崩壊し、今は瓦礫の燃えカスでしかない。

 近隣の建物も一つ残らず崩壊・炎上しており、その一帯は、ただの焼けた荒野と化していた。


「……本部には伝言を残した。行くぞ」

 助手席の男はそう言ってトラックを降りた。
 支部で待機していた他の能力者達はどうなったのか――という自問に、全滅という答えを出しながら。


「バカ野郎! 逃げた方がいい! 見つかる前に――」

 その瞬間、運転手の言葉が爆発にかき消された。
 男は背中に焼けるような熱風を受けながら、咄嗟に振り返った。

.
386 名も無きAAのようです[sage] 2015/05/30(土) 22:54:22 ID:nPOKjnFo0


 振り返ると同時に、男の右肩がふっと軽くなった。
 男は一瞥して理解する。右腕は、消えて無くなっていた。

「お゙っ……!」

 突然の激痛に傷口を押さえて身を捩る。
 男はなんとか目を見開いてトラックを見直したが、そこには炎の塊があるだけだった。
 運転席で黒い影がバタバタしているが、あれを助けている余裕は最早無い。

「くっそ――」

 男は唾棄し、残った左手で光源を取り出した。
 しかし出来なかった。その時すでに、男の左手は地面に落ちていた。

 死の直前、男の眼前を黒い影が過ぎる。
 何が起きたのか、誰にやられたのか。
 そのどちらも理解出来ないまま、男は後ろから心臓を貫かれた。



( д )「…………」

 ミルナとしての意識を失いながら、なお動き続けるその肉体。
 黒甲冑を着た“それ”は、男の胸に突き刺した腕を引き抜き、喉を鳴らした。



.
387 名も無きAAのようです[sage] 2015/05/30(土) 22:56:06 ID:nPOKjnFo0




 「――『天を仰ぐ狂戦士。かの者は、真紅の丘に死を刻む』 」




 燃え盛る景色、降り注ぐ雨。
 終わらない喧騒の中に、穏やかな声が入ってきた。

 黒甲冑は獣のように背中を丸め、声の方に体を向けた。





ミセ*゚ー゚)リ「……みたいな」

 薄ら笑みを浮かべた女――ミセリが、炎の向こうに立っていた。


ミセ*゚ー゚)リ「お久し振り。まさに狂戦士って感じね」

.
388 名も無きAAのようです[sage] 2015/05/30(土) 22:57:41 ID:nPOKjnFo0



( д )「…………」

ミセ*゚-゚)リ

 ミセリは笑みを消し、緊迫した表情になった。
 作り物ではない本物の表情。彼女にそうさせるだけの威圧感が、“それ”にはあった。


ミセ*゚-゚)リ「……良い感じだけど、その力はまだ必要無いの。
       これ以上暴れても困るでしょうから、止めてあげる」

 瞬間、彼女を中心にして突風が起こった。
 風が周囲の雨粒と炎を吹き飛ばし、一瞬の静寂を作る。


ミセ* - )リ「――≪終焉する原初の業火≫」

 静寂を破り、ミセリは囁くように言葉を発し始めた。
 黒甲冑はそれを攻撃と判断し、大地を蹴ってミセリに急襲する。


ミセ* - )リ「 ≪断罪者は剣を収め、地を這う骸を哀れ見る≫ 」

 二文目を言い終えた瞬間、ミセリの背後から無色透明の鎖が飛び出した。
 鎖は黒甲冑の右腕にぶつかると同時に、彼の右腕と融合してその動きを止めた。

.
389 名も無きAAのようです[sage] 2015/05/30(土) 22:59:52 ID:nPOKjnFo0


(# д )「■■■■■■ッッッッッ!!!!」

 ――途端、鎖は呆気なく引き千切られた。
 技も特別な力も用いず、純粋な力だけで。

ミセ* - )リ「 ――≪不在の鎖、餓狼の爪牙を戒める―― 」

 眼前に迫った黒甲冑の拳。それに応じ、更に言葉を繋げる。
 今度は四つの鎖が出現し、黒甲冑の四肢に融合した。

(# д )「――――――ッ」

 だが、これも数秒ともたずに破壊。
 口早に続きを発しながら、ミセリは大きく退いた。
 鎖を切られる程度は想像の範疇ではあったが、思わず体が逃げてしまった。


ミセ*;゚ー゚)リ「――全ての骸は彼の地の扉を叩く者なり≫」

ミセ*;゚ー゚)リ「≪骸に群がる亡者を繋ぎ、貪り尽くす鉄鎖の再現≫――」

 ミセリの詠唱が終わろうとした時、黒甲冑の頭上に光が落ちる。
 雨が止み、神々しい光が空に満ち溢れた。

 黒甲冑の意識が頭上にそれた瞬間、ミセリは最後の一文を口にした。


ミセ*;゚ー゚)リ「 ――【Over fiction・Gleipnir】――」


.
390 名も無きAAのようです[sage] 2015/05/30(土) 23:01:05 ID:nPOKjnFo0


(#゚д )「――――」

 空を見上げた彼の双眸が捉えたのは、黄金色の光を受けて乱反射する透明な鎖。
 数は千。その全てが、彼を捕縛しに襲い掛かってきていた。


 鎖の一本が飛び抜けて迫ってきた瞬間、黒甲冑は空高くに飛翔した。
 体を丸めて回転し、空中でスピードを増加させる。
 鎖は空中を駆け巡り、黒甲冑に追随していく。


ミセ*;゚ー゚)リ(……これで駄目となると、こっちも無傷じゃ済まないわね)

 鎖と黒甲冑の速さはほぼ互角だった。しかし互角では駄目だ。彼を捉え切ることは出来ない。
 今のミルナは数本、数十本程度の鎖なら簡単に振り払える。
 生半可な拘束など無意味に等しかった。

ミセ*; ー )リ(対価の後始末は、後の私に任せましょう――)

 しかし、まだ術はある。
 ミセリは息を整え、次の一手に備えた。

.
391 名も無きAAのようです[sage] 2015/05/30(土) 23:05:47 ID:nPOKjnFo0


(# д )「――■■■■■■■」

 千の鎖に追われながら空中を疾駆する黒甲冑。
 近づく鎖を薙ぎ払い、弾き、砕きながら、彼は何かを呟いた。



               breaking my body.
ミセ* - )リ「――――≪血肉の器が砕け散る≫」

 新たな言葉が始まった瞬間、ミセリの両目は真紅に染まった。
 彼女の足元に、赤い閃光が迸る。

               Even if I see all unreason
ミセ* - )リ「 ――≪血は空を流れ、肉は大地に解けていく≫ 」

            I pray.      The end of ideal world.
ミセ* - )リ「 ≪しかして神に叛逆し、孤独の旅路に意味を問う≫―― 」



(; д )(――――止まれ)

 心の奥底に閉じ込められた精神が、暴走した体に命令する。
 悪意と怨嗟の濁流は、そんな小さな言葉すら飲み込んで暴走を続ける。

 黒甲冑の背中に、四つの撃鉄が具現化した。
 撃鉄から噴き出す黒い閃光は翼のように空に広がり、彼の肉体を更に加速させた。
 黒甲冑は音すら置き去りにする速度に達し、鎖の追跡を完全に振り切った。

(#'゚'д )「オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙!!」

 最高速度を維持したまま、向きを転じてミセリに立ち向かう黒甲冑。
 人としての在り方を失って得た力で、彼はまた、同じ道を歩もうとしていた。

.
392 名も無きAAのようです[sage] 2015/05/30(土) 23:07:39 ID:nPOKjnFo0



             I crave   【Breaking The Rules】.
ミセ* - )リ「 ――≪誰も居ない、一人きりの荒野の果てで≫」


 ――直後、赤と黒の閃光が雨空を引き裂いた。

.
393 名も無きAAのようです[sage] 2015/05/30(土) 23:08:20 ID:nPOKjnFo0

≪4≫




 ドアが二度叩かれた。
 ギコは超能力を即発動できる状態で、ドアに向かった。


(,,゚Д゚)「……なおるよは一緒か?」

 「……下手な冗談は止めておけ」

 その答えと声色に一定の信用を置き、ギコはドアを開けた。


(,,゚Д゚)「……早く入れ。監視されてる」

|(●),  、(●)、|「ドクオ君、入るぞ」

('A`)「……ああ」

 ギコは二人を招きいれると、廊下の左右を見渡してからドアを閉めた。


.
394 名も無きAAのようです[sage] 2015/05/30(土) 23:09:12 ID:nPOKjnFo0



('A`)「……ミルナとオサムは?」

 リビングに入り、ドクオはここに居ない二人の事を聞いた。

(,,゚Д゚)「棺桶死は寝室を独占中だ。相当きてるらしい。そっちは知らん」

 ギコは寝室のドアを一瞥して答え、素直ヒートの頬を力強くひっぱたいた。
 彼女を起こすにはこれぐらい必要なのだと、ギコは数日の共同生活で十分に理解していた。

ノハ;゚⊿゚)「いってえ!!」

(,,゚Д゚)「ダディクールとドクオが来たぞ。今後の方針を決める」

|(●),  、(●)、|「ドクオ君、オサムを呼んで来てくれ」

('A`)「分かった」

|(●),  、(●)、|「寝てたら起こさなくていいからな」

 頷き、ドクオは寝室にそっと入っていった。

.
395 名も無きAAのようです[sage] 2015/05/30(土) 23:10:46 ID:nPOKjnFo0


('A`)「……オサムー……」

 寝室内は暗く、電気は点いていなかった。

 寝室にはベッドが三つあった。
 窓際のベッドに腰掛けている人影に、ドクオは声を掛けた。

('A`)「……オサム? 俺だ、みんな揃ったぞ」

【+  】ゞ゚)「……お前か。すぐに行く」

 その時、外で唸るような雷鳴が起きた。
 光が大地に落ち、部屋の中を真っ白に照らし出す。


(;'A`)「――――ッ!?」

 部屋が光に満ちた一瞬、ドクオは自分の目を疑った。

 棺桶死オサムの胸には大きな裂傷の古傷と、拳ほどの風穴が開いていた。
 そこに収まっているべき器官は、無い。

 やがて部屋に暗闇が戻る。オサムは服を着直し、立ち上がった。


(;'A`)「……お前……」

【+  】ゞ゚)「……気にするな。峠は越えた」

 オサムはドクオの横を通り過ぎ、リビングに出た。
 しかし、ドクオはその場に立ち竦んでしばらく動けなかった。

.
396 名も無きAAのようです[sage] 2015/05/30(土) 23:11:55 ID:nPOKjnFo0


(;'A`)(……あの位置、心臓だよな……)

(;'A`)(……本当に無いのか、心臓……)


(;'A`)(……なんなんだよ……)

(;'A`)(なおるよも、ダディクールも、お前も……)

 ドクオは片手で頭を支え、ふらりとベッドに腰を下ろした。
 猛烈な立ち眩みだった。


(; A )(……クソッ! なにが起こってんだ!)

 ドクオは今まで、自分一人の問題にしか向き合ってこなかった。
 他人への興味なんて微塵も無かったし、興味が無いという自覚すら無かった。

 ゆえに彼は、多くの他人に囲まれている現状に対して、とても強い違和感・乖離感を覚えていた。


 今までは何があっても一人で開き直り、思い込み、なあなあにすれば前進出来た。
 彼の中には自分と素直クール以外の人間が居ないのだから、ある意味それは当然の事だった。

 今日の事だって、開き直ればいつも通りに戻れる。
 死んだ奴は弱い奴だ、他人の過去も事情も知らねぇ、どうでもいい――

.
397 名も無きAAのようです[sage] 2015/05/30(土) 23:12:06 ID:Du3bMv260
Fate感あるよな
398 名も無きAAのようです[sage] 2015/05/30(土) 23:12:36 ID:nPOKjnFo0


 ――だが、ドクオはなおるよの死を開き直れなかった。
 思い切って開き直ろうとする度に、息苦しくなる程の不快感が体内を駆け巡った。

 なんとかこの感覚を鎮めようと色んな思考を巡らせるも、全てが失敗した。


(; A )(気持ち悪い……なんだってんだよ、クソ……)

 開き直りは個人の問題は片付けられるが、他人の問題は絶対に解決出来ない。
 ドクオはまだ、その事を知らなかった。

(; A )(……)

 ドクオは内心の不快感を拭い切れないまま、リビングに戻った。

.
399 名も無きAAのようです[sage] 2015/05/30(土) 23:13:23 ID:nPOKjnFo0


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



 全員での話し合いはトントン拍子で進んだ。
 話し合いの最後に、ダディクールは全員に向けて改めて言った。


|(一),  、(一)、|「まず、単独行動は禁止。そして光源を常備すること」

|(●),  、(●)、|「我々を監視する組織については私が調べておく。
            攻撃されたら仕方ないが、過激な対応はするな」

('A`)「……組織か」

|(●),  、(●)、|「本来の目的である、二週間後の制圧作戦についてだが……」

(,,゚Д゚)「当然、やるよな」

|(●),  、(●)、|「……殺される覚悟がある者だけ、な。
            既にそういう状況だという事は、全員自覚してくれ」

ノハ-⊿-)「ま、そらそうだ……」

【+  】ゞ゚)「……」

.
400 名も無きAAのようです[sage] 2015/05/30(土) 23:14:04 ID:nPOKjnFo0



('A`)「……今更悪いけど、俺、それには付き合えねえ」


 沈黙する空間に、ドクオの言葉が染み渡った。
 すると、思い思いの姿勢を取っていた面々が、一斉にドクオを見た。

 ドクオは、彼らの無言の問いかけに答えた。

('A`)「ミルナを探す。あいつが居ないのは、変だ」

(,,゚Д゚)「……そっちに集中するってか」

('A`)「……俺はレムナントがあっち側に支配されようが、知ったこっちゃない。
    ミルナを探しながら、なおるよを殺した奴を――」


(,,゚Д゚)「――本気で、言ってるんだな?」

 話を遮ってギコが問い質す。
 真剣な眼差しで、じっとドクオを見つめながら。

('A`)「……ああ。一人の方が気楽でいい」

(,,゚Д゚)「俺が言った事、もう忘れたのか?」


 間を置いてから、ドクオは最後に決定的な言葉を付け加えた。



.
401 名も無きAAのようです[sage] 2015/05/30(土) 23:14:44 ID:nPOKjnFo0






('A`)「お前らは、信用出来ない」





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402 名も無きAAのようです[sage] 2015/05/30(土) 23:15:26 ID:nPOKjnFo0


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      第二十三話 「不治のくらやみ その3」

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

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403 名も無きAAのようです[sage] 2015/05/30(土) 23:16:06 ID:nPOKjnFo0

≪5≫



 雨の中を歩く。
 水浸しの地面を歩くと、ぴちゃぴちゃと音が鳴った。

 雨の音は孤独を紛らわすのに丁度いい。
 頭にずっとノイズが掛かるようで、一つの事に集中できる。


( A )(……元々こんなだっただろうが……)

( A )(何を後悔してんだ、俺は……)


 ギコ達と別離したドクオは、混濁した感情を抱えて当ても無く彷徨っていた。

 他人という未知の存在に対して、ドクオは何一つとして答えを出せなかった。
 決してギコ達が嫌いという訳ではない。逃げ出した理由さえ、自分でもよく分かっていなかった。


 なおるよが死んでも誰も動じなかったから。
 ダディクールも、棺桶死オサムも、何かを隠してるから。
 そもそも、あの連中を信じる理由が何も無いから。

 思いつく理由を頭の中に並べても、どれも違う気がする。
 ドクオは、いつまでもこの自問自答を繰り返していた。


 答えを出せば、素直クールが自分にとって何なのか分かってしまう。
 だからこそ、彼は自問の答えをはっきりと言葉に出来なかった――


.
404 名も無きAAのようです[sage] 2015/05/30(土) 23:17:54 ID:nPOKjnFo0



 ――ドクオはただ、素直クール以外のものに心を支えられるのが嫌だった。


 たった一人の相手に捧げ、向けていた筈の心に、誰かの手が加わるのが怖かった。
 ようやく手に入れた純粋な感情を失うのが、ドクオはただひたすらに怖かった。


 一番簡単な形で言ってしまえば、ドクオは、素直クールに嫌われたくなかった。
 その思いは、彼女が知っている“あの頃のドクオ”を保持する事でしか解消出来なかった。

 だから他人を拒むしかなかった。
 自分を変えてしまうものを遠ざける以外に、ドクオには出来る事がなかった。
 それはまるで一人の神に心身を捧げるような――歪な執着でしかない。


 俺は彼女に依存・陶酔した理由の為だけに、初めての仲間すら放棄した。
 たった一人の友達ですら手にかけ、殺しかけた。

 そんな素直クールを否定するような答えを出してしまえば、ドクオには生きる意味が無くなってしまう。
 彼女の存在が生きることに直結している彼には、その答えを受け入れることは絶対に出来なかった。
 たとえ、孤立する事になっても。

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405 名も無きAAのようです[sage] 2015/05/30(土) 23:18:34 ID:nPOKjnFo0



「――――■■■■■■■■■!!」

 その時、どこかから咆哮が轟いてきた。
 肌を刺すような威圧感を帯びた、人外の咆哮だった。


('A`)「……あっちか」

 思考を遮られ、意識が現実世界に戻る。
 咆哮につられて空を見渡すと、遠くの空が黄金色に輝いていた。


('A`)「……」

 足は、自然とそちらに向かった。
 吸い寄せられるような、そんな感覚があった。



('A`)(呼ばれてる――)

 体に熱が宿り、ドクオは己の感覚に従って動き出した。

 行く先に何が待っているかも分からぬまま、少年は死と雨にまみれて――



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