('A`)は撃鉄のようです

704  ◆gFPbblEHlQ[sage] 2015/12/26(土) 00:37:17 ID:Hzh2RXDs0

≪1≫



 ――ざっと三十年前。



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705 名も無きAAのようです[sage] 2015/12/26(土) 00:37:57 ID:Hzh2RXDs0



 世界は黒白に分かれていた。

 空は黒、大地は薄雪の白に。

 風にたゆたいながら降り注ぐ雪はわずかな月光を乱反射し、夜を照らすに十分な光を蓄えている。



( "ゞ)「――――よっ」

 はっきりと明暗を分けた雪原に少年の肢体が翻る。
 その様子に力強さはなかったものの、しかし確かな存在感があった。

 ふわふわと舞い降りる雪、その中の一粒を狙って打ち出された軽い拳。
 その一撃は、狙った雪を微動すらさせなかった。

 拳の先に、狙っていた雪がぴたりと触れる。
 それを機に、少年は次の拳を撃ち出した。


 以上の動作は一瞬。
 少年は、これと同じ一瞬を数時間と続けていた。
 今はまだ秒間1回だが、この少年はいずれ秒間100回を可能とする逸材だった。

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706 名も無きAAのようです[sage] 2015/12/26(土) 00:38:41 ID:Hzh2RXDs0



 ――少年、デルタ関ヶ原には天賦の才があった。
 努力による補強は当然あったが、彼の強さはあらゆる歯車が寸分狂わず噛み合ったように完璧だった。

 有象無象の超能力など真っ向勝負で粉砕できる強さは既にある。
 実際、当時13歳のデルタ関ヶ原でも能力者相手には負け知らずだった。

 むしろ、無能力者の方にしか勝てない相手が居なかった。



爪゚ー゚)「よくもまあ、飽きんなあ」

 デルタが勝てない相手代表・じぃは気配なくデルタの背後に立ち、呆れたように呟いた。


 彼女の赤みがかったしなやかな金髪は薄雪と同様に光を含み、ほのかに輝いている。
 老齢に差し掛かるというのに、彼女の風貌は年相応の衰えをほとんど見せていなかった。
 美しさを保ったまま年老いるという理想の生き方を、彼女はその通りに実現していたのだ。

 しかし、保たれているのはその若々しさだけではない。
 強さの概念において、彼女はこの世の誰よりも頂点に近い存在であった。


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707 名も無きAAのようです[sage] 2015/12/26(土) 00:39:41 ID:Hzh2RXDs0



( "ゞ)「……ンだよ、じぃ様」


爪゚ー゚)「メシの時間だ。さっさと戻らんか」

 彼女こそ先代八極武神その人。
 たった一人で武神を旗揚げし、この世に“武の領域”を確立した張本人。
 元々“八極武神”とは集団ではなく、彼女個人を表す言葉だったのだ。


 ドクオが母者に聞かされた話では、先代武神は看板通りにきっかり八人。
 しかし実際はじぃ一人。この時点で、母者の話はデタラメだった事が確定する。


( "ゞ)「……メシって、」

 デルタは構えをとき、遠くの空を一瞥した。
 視線の先には、暗闇に立ち上る細い白煙があった。

( "ゞ)「あれは無視か」

爪゚ー゚)「何を言う、貴様とて無視して鍛錬を続けておっただろう。
     まさか先程の轟音が聞こえなかったとは言うまい?」

 じぃの言う通り、このやり取りのたった一分前に事は起きていた。

 彼らが住まう屋敷に何かが墜落し、それが爆発を伴う激しい大炎上を巻き起こしたのだ。
 デルタは完全にシカトしていたが、事は一刻を争うものであった。

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708 名も無きAAのようです[sage] 2015/12/26(土) 00:40:28 ID:Hzh2RXDs0


爪゚ー゚)「まぁオレもよく分からん。だからオレはメシを食うと決めた」

( "ゞ)「いやメシも火の中だろ。まさか燃えカスを食うのか」

爪゚ー゚)「森で適当にイノシシでも獲ってくるつもりだ。
     あの火力なら丸焼きもバーベキューも思いのままだろう?」

( "ゞ)「……乗った。今夜は肉でいこう」

爪゚ー゚)「応とも。ノルマは十匹だからな、心して掛かれ」

 二人は火災現場を背に颯爽と歩き出した。
 この時、火中の屋敷には流石母者が取り残されていた――


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709 名も無きAAのようです[sage] 2015/12/26(土) 00:41:09 ID:Hzh2RXDs0


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「……なんだコレ、どうして誰も手伝いに来ない」

 燃え盛る屋敷の中、流石母者は静かに怒っていた。
 それは火事の原因にではなく、この一大事に一人として駆けつけない他の住民達に向けられていた。



('(゚∀゚∩「補足のなおるよ!」

 ここで補足のなおるよのコーナーが入った。
 もう二度とないであろう奇跡のコーナーが幕を開ける。

('(゚∀゚∩「母者だけど、三十年前の母者に使えるAAが無いのでAAは無いよ!」

('(゚∀゚∩「おわり!」


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710 名も無きAAのようです[sage] 2015/12/26(土) 00:41:49 ID:Hzh2RXDs0



(今夜はあまり雪が降らん。自然鎮火に頼ってたら全焼するぞ……)

 まず最初に、母者は手早く自分の荷物をまとめて庭先に飛び出した。
 その途中で屋敷中の蛇口を開けてはきたが、それが火を止めることは一切期待していなかった。
 むしろそんな事をする自分をアホか?と思うほどだった。


(……出来ることと言えば雪を集めてブッかけるくらいだが、到底一人ではやってられん)

(よって、これ以上火の手が広がる前に屋敷ごと吹き飛ばす)

 荷物を放り投げ、流石母者は片腕を振り解いた。
 瞬間、空を舞う雪を撥ね退け、鋭いの閃光が彼女の周囲に迸る。

 閃光の正体は拳戟。
 常人の目には、それが人の技であったことすら認識できない。


 その速度と威力をもって今度は屋敷に立ち向かう。
 火炎を帯びて紅蓮に染まった屋敷を見上げ、彼女はすとん、と腰を落とした。

 そして再び、閃光を纏った拳が空を切り裂く――

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711 名も無きAAのようです[sage] 2015/12/26(土) 00:42:29 ID:Hzh2RXDs0




爪゚ー゚)「――よせ、火傷では済まん」


 とたん、その言葉と同時にじぃの掌が母者の拳を受け止めた。
 勢い余って炸裂した衝撃が大地を抉り、地表の雪を一掃する。


「……イノシシ狩りは終わったのか?」

爪゚ー゚)「オレはな。あっちはまだやっておる」

 じぃが庭の片隅を一瞥する。そこには十頭のイノシシが山積みになっていた。


爪゚ー゚)「それより端に下がっておけ。巻き込むぞ」

「……火事を始末するなら」

 手伝う、と言いかけたところで、母者はぐいと後ろから肩を引かれた。
 振り返るまでも無く、母者は不満気にその手を払いのけた。


爪゚ー゚)「遅かったな、デルタ」

( "ゞ)「ああ、少ねえと思って二十頭やってた」


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712 名も無きAAのようです[sage] 2015/12/26(土) 00:43:09 ID:Hzh2RXDs0


「……じぃ様、訳を言ってくれ。これは敵の殴り込みか?」

 じぃは微笑んで頭を振り、彼女の問いを否定する。


爪゚ー゚)「あれはただの迷い犬よ。
     しかし厄介にも暴れておる、まず鎮めねば話にならん」

爪゚ー゚)「オレがさっさと済ませてくるから、貴様らはその間にメシの準備を頼むぞ」

 じぃは飄々と火炎に向かって歩き出す。
 あの中に居るものの正体は、結局母者には分からないままだった。

 母者はじぃの背中を見送った後、振り返ってデルタを見た。


( "ゞ)「今夜は鍋だ。頑張ろうな」

「……血抜きってどうやるんだ?」

( "ゞ)「……モツごと絞り出すか?」

 それだ、と両者納得すると、二人は早速イノシシの処理に取り掛かった。


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713 名も無きAAのようです[sage] 2015/12/26(土) 00:43:49 ID:Hzh2RXDs0


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



爪゚ー゚)「……さて」

 じぃは火中の奥深くに踏み込み、一息ついた。
 熱を帯びた空気が喉を通り、肺の中で渦をまく。


爪゚ー゚)「オレの声が聞こえるか?」



('A`)「……聞こえている。悪かった、家を壊して」

 火炎の中に、満身創痍の男が座り込んでいた。
 既に死闘を終えてきた後なのか、全身は血と傷跡にまみれている。

 傍には倒れ伏した女が一人。
 外傷は少ないが、彼女はもっと別の部分に致命傷を受けているようだった。
 彼女に意識は無く、死んだように動かなかった。

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714 名も無きAAのようです[sage] 2015/12/26(土) 00:44:50 ID:Hzh2RXDs0


爪゚ー゚)「……その女、始末するべきだが」

('A`)「……できれば生かしてほしい。
    これは一時的な暴走だ。あと七割の相手をすれば、じき治まる」

爪゚ー゚)「であれば、三割は貴様が担ったか。
     木偶にしては上等。さぞ勇猛な戦い振りであっただろう」

('A`)「褒め言葉はいい……それより、もうすぐ目を覚ま――――」




 そこまで言って、男の挙動が停止した。



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715 名も無きAAのようです[sage] 2015/12/26(土) 00:45:49 ID:Hzh2RXDs0


 止まったものはそれだけではない。

 絶えず揺らめく筈の炎も停止し、熱風に舞う火の粉も空中に赤い点として留まっている。

 一枚の絵として張り付いた炎の空間。
 あらゆるものが流動を止めた最中、床に倒れていた女だけが、わずかに身動ぎした。



川; - )「……クソッ」

 唾棄するように呟き、女はふらりと立ち上がった。
 彼女は乱れた前髪を更にかきむしり、意識のない間に何が起こっていたのかを考える。

 しかし、思考はまとまらない。
 一から構築された正常は、彼女が内包する『異常』に侵食されて潰えていく。

 途端、蹂躙された自我に致命的な亀裂が突き抜けた。
 視界が崩落し、素直クールという人間がバラバラになる。


川; - )(意識が、途切れる――)


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716 名も無きAAのようです[sage] 2015/12/26(土) 00:46:29 ID:Hzh2RXDs0



爪゚ー゚)「――――ああ、分かっとる」

 とたん、止まっていた空間にじぃの声が響いた。
 その言葉は先程のドクオに向けられていたが、彼女の目は確かに素直クールを捉えている。


川; -゚)「動ける、のか……?」

 残された自我が単純な問いを口にする。
 じぃは得意気に頷いて答えた。


爪゚ー゚)「少し時間は掛かったがな。
     この所業、時間停止や法則支配の類とは格が違う」

爪゚ー゚)「あえて形容するなら空間そのものの乖離。
     時間や法則という縛りから、貴様が望んだ物だけを切り取っている」

爪゚ー゚)「もっとも、今はそれを制御できておらんようだが……」


川; - )

 口を動かして答えることはもうできない。
 素直クールは最後に、「後を頼む」と意思を込めた視線をじぃに送った。



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717 名も無きAAのようです[sage] 2015/12/26(土) 00:47:44 ID:Hzh2RXDs0


爪゚ー゚)(……四で足りるが、状況が悪いな)

 素直クールの強さに対し、発揮するべき力を想定する。
 『四』とはそのまま四割という意味。
 彼女の見立てでは四割で互角。四割も出せば圧倒できるはずだった。


爪゚ー゚)「……」

 じぃは己の手を見つめ、軽く拳を作った。
 しかし、その動きには薬指だけがついてこない。

 薬指をピンと立てた拳。
 それが意味するものを、じぃは逸早く理解していた。


爪゚ー゚)(この指はもう駄目だな)

 瞬間じぃは拳を思いきり振り払った。
 ブチンという音を立て、薬指が拳から千切れて離れる。

 停止空間に捕らわれた薬指は、わずかに血を滴らせてから空中に停止。


爪゚ー゚)(……ここは望んだものだけが存在を許される空間。
     そこに力技で介入した手前、こうなるのは必然というもの)

爪゚ー゚)(気を抜いた部位から空間に自由を奪われる。
     ここで戦う以上、奪われた部位は切り捨てるしかない)

.
718 名も無きAAのようです[sage] 2015/12/26(土) 00:48:24 ID:Hzh2RXDs0


爪゚ー゚)「――おまけに、貴様自身も厄介極まりないときた」

 じぃは素直クールに目を向け、嘲笑しながら言葉を投げかけた。




川 ゚ -゚)「……いや、そんな事は無い」

 彼女は既に別人だった。正気ではあったが、先程とは中身が違った。
 ここは望んだものだけが存在できる空間。
 故に彼女が自分自身を望まなければ、ここに彼女の自我は存在できない。

 であれば、今の素直クールがどういう存在かはすぐに分かる。
 そして、彼女の能力も。



爪゚ー゚)「間違いなく強力な能力だが、くだらん力だな」

 じぃはもう一度笑い、全身の神経を研ぎ澄ました。
 気を抜いた部位など一つとしてない。
 鋭気に満ちた全身は、この炎の停止空間でも十分な気合を放っていた。

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719 名も無きAAのようです[sage] 2015/12/26(土) 00:49:06 ID:Hzh2RXDs0



爪゚ー゚)「つまりここは夢の世界。貴様が望んだ理想そのもの」

爪゚ー゚)「まさに自己陶酔の極地と言えよう。まったくもって、見るに耐えん」


川 ゚ -゚)「好きに言え。私の在り方は、私自身が決めるのだから」


爪゚ー゚)「しかし独善の成れの果てが何も動かぬ世界とは、いや笑い話にすら程遠い」

 じぃは偶像の妄言を無視して続ける。

爪゚ー゚)「まったくもって、こいつはどうしようもなく大嫌いな性分だ。
     あの木偶には生かしてほしいと言われたが、たったいま、無理になった」




爪゚ー゚)「――膨れ上がったその独善、このオレが瓦礫の山に戻してやろう」




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720 名も無きAAのようです[sage] 2015/12/26(土) 00:49:47 ID:Hzh2RXDs0

≪2≫



 果てしなく広がる荒野。
 そのひび割れた大地から快晴の空に向かって、一本の線が立っていた。

 線の正体は十本の槍。
 一本ごとの長さは約5メートル。全長50メートル分の、ただの槍。


( `ハ´)「――――」

 それらの直立を支えているのは槍の根元に立っている細身の老人、シナー。
 彼は目前のミルナを見据えたまま、槍を支えていた手をパッと開いた。


( `ハ´)「言い残すことは」

( ゚д゚ )「無い」


 風に吹かれ、十本の槍が無造作に崩れ落ちる。
 シナーの攻撃は、その時点から始まっていた。

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721 名も無きAAのようです[sage] 2015/12/26(土) 00:51:03 ID:Hzh2RXDs0


( `ハ´)「ッ」

 シナーは手元の槍を掴み直し、それを地面に叩きつけて空中に跳ね上がった。
 反発力が最大になる瞬間で槍を手放し、棒高跳びの要領で一気に10メートル以上飛翔する。

 飛び上がった先でさらに二本の槍を手に取る。
 シナーは二本の槍を一本に合わせると、それを地面に突き立てて一点の足場を作った。

 ここまでの挙動は刹那。
 そして次の槍を掴むと同時、シナーはミルナに狙いを定めてその槍を投擲した。

(#゚д゚ )(槍使い、趣味は同じか――ッ)

 一次元を疾駆する最速無音の一撃。
 それを迎撃するため、ミルナは右腕に『マグナムブロウ』を発現して拳を振り抜いた。
 長槍と拳。真っ向から激突した二つは互いを弾き合い、次の攻撃に向けて行動を開始する。


(#゚д゚ )「――チィッ!!」

 シナーの槍の威力に押されて大地をすべるミルナ。
 僅かに負けた、という事実が苛立ちを煽り、彼の表情をより一層険しくさせる。

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722 名も無きAAのようです[sage] 2015/12/26(土) 00:52:20 ID:Hzh2RXDs0


 瞬間、シナーが視界から消える。見るなは彼を追って真上を見上げた。
 感知が遅れた――それも束の間、ミルナは即座に回避に走る。

( `ハ´)

 ミルナの上空でひるがえり、ずらっと五本の槍を携えているシナー。
 彼は四本の槍を両脚で次々と蹴り飛ばし、残した一本を両手で構えてミルナに飛び掛った。


(#゚д゚ )(曲芸風情がッ……!)

 ミルナは咄嗟に左腕に黒煙を纏い、それを振るって蹴り出された四本の槍を弾き飛ばした。

 しかしその行動は安直すぎた。
 質量を持った黒煙は攻防共に優れた武器だが、それは同時にミルナの視界を遮るものでもあった。


 故に、空中に描かれた黒い軌跡がミルナの目前から消えた瞬間、


( `ハ´)「――ッ」

 背後に現れたシナーの一撃が、ミルナの心臓を穿とうとしていた。


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723 名も無きAAのようです[sage] 2015/12/26(土) 00:53:38 ID:Hzh2RXDs0


(;゚д゚ )「――ッッ!!」

 やられた、と思った途端、左腕の黒煙が独りでに飛び出して長槍を防御する。
 ガキッ、という短い金属音。

( `ハ´)「……便利な獲物を」

 この一撃で傷を負わせるつもりだったシナーは眉間をすぼめ、理外の黒煙に敵意を示す。
 シナーは連続してミルナを刺突したが、それもすべて黒煙に防がれてしまった。


(;゚д゚ )(いったん退く! 目が追いつかん!)

 黒煙の自動防御は、ミルナに冷静な思考をさせるだけの時間を作ってくれた。

 ミルナは黒煙の一部を脚に纏わせて脚力を大幅に強化した。
 シナーと目を合わせたまま大地を蹴り、大きく後ろに飛びのく。


( `ハ´)「――それで、逃げ切れると」

 シナーはミルナを冷たく見返し、今度はその規格外の長槍で地面を斬り払った。
 地表を引っぺがすような突風が弾け、空中に大量の砂塵が舞い上がる。
 砂の段瀑がミルナを飲み込み、再び彼の身動きを封じ込める。

(; д゚ )(小細工ばかりッ……!)

 敵が視界を遮りにきた以上、次に来るのは更なる追い討ち。
 だが、ここで防御に回れば二度と攻勢には回れない。そういう確信がミルナの脳裏を過ぎった。

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724 名も無きAAのようです[sage] 2015/12/26(土) 00:54:21 ID:Hzh2RXDs0


(; д゚ )(やりたくないが、素では相手しきれん……!)

 ミルナはtanasinnが生み出す黒煙を右腕に集中し、マグナムブロウに融和させた。
 瞬間、彼の右腕はどろりと溶解し、無形の泥になって地面に落ちる。


(# д )(――――)

 地に落ちた泥が浮かび上がり、激しく渦巻きながら肉体の一部として再構成され始めた。
 彼の超能力は姿形を変え、蝕むように全身に広がっていく。


 体内に何かが混ざり、血の流れが遅くなる。
 自分の眼球の動きにすら感覚が反応してしまう。
 記憶がバラバラに崩れ落ちていく。
 自分を形容している決定的なものが、その“何か”に犯されている。

 分かるのは痛みと熱だけ。
 五感のすべてがその二つだけで構成されているような錯覚さえある。

 そして、その錯覚を疑うことなく受け入れたとき、



(# д'゚)「――――」


 ミルナの姿は、黒い影に飲み込まれていた。

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725 名も無きAAのようです[sage] 2015/12/26(土) 00:55:02 ID:Hzh2RXDs0


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           第二十八話 「悪性萌芽 その2」

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726 名も無きAAのようです[sage] 2015/12/26(土) 00:56:31 ID:Hzh2RXDs0


(# д'゚)「――――お゙お゙お゙ッッ!!」

 周囲の砂煙を一掃し、人外の絶叫が迸る。
 大地が震え、呼応するように空気が鳴動する。


 それが止むと同時に、荒野は静寂した。


(# д'゚)「ッ」

 静寂の中、ミルナは気配を直感する。
 シナーの気配も確かにあるが、それとは別に二人分の気配が増えていた。

 喉の奥を獣のように唸らせながら、ミルナはゆっくりと振り返る。







( "ゞ)「……二で足りる」

(・(エ)・)「……残念、私は八です」


(# д'゚)「……」

 彼らが呟いた数字の意味を、今のミルナは理解できなかった。


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