('A`)は撃鉄のようです
- 733 ◆gFPbblEHlQ[sage] 2016/02/05(金) 10:29:12 ID:pjhP36rI0
≪1≫
( "ゞ)「……なんだ、まあ、アレだな」
デルタはそう呟き、頭をかきながら前に出た。
目前には敵。人間という箍を外したミルナが、すぐそこで待ち構えている。
( "ゞ)「アレだ…………」
(# д'゚)
( "ゞ)「……おら、掛かって来い。
今さっき出掛かった言葉を呑んで、一発相手してやる」
(# д'゚)「―――」
デルタが煽るまでもなく、ミルナを取り巻く黒煙は鋭利な刃となってデルタに襲い掛かった。
一瞬で作り出された数十の刃――だが、それが砕け散るのもまた一瞬。
.
- 734 名も無きAAのようです[sage] 2016/02/05(金) 10:30:14 ID:pjhP36rI0
( "ゞ)「……終わりならもう言うぞ」
幾多の黒煙の刃を粉砕し、握り潰して宣告する。
デルタの目は「さっさとしろ」と言いたげに、冷たくミルナを見据えている。
(; д'゚)「…………なンだ、お前ハ……」
tanasinnの力を得て暴走しているとはいえ、ミルナの攻撃は確かに必殺だった。
それが呆気なく、まるでクモの巣を払うかのように一掃された。
その事実に対して脅威を覚えたのは、ミルナではなくtanasinnの方だった。
( "ゞ)「なんだ、喋るのか? てっきり叫ぶだけの暴走野郎と思ったが」
ハ、と分かりやすい嘲笑をこぼすデルタ。
( "ゞ)「でもな、俺が誰かなんて今更だろう。俺だってお前が誰かなんて知らん。
俺はお前みたいな格下を知らないし、お前も俺みたいな格上は知らなくて当然だ」
(; д'゚)「…………」
( "ゞ)「……なんだよその顔は。ビックリって感じのその顔は。
まさかお前、思ってたんじゃねえだろうな」
( "ゞ)「tanasinnとやらを持ってない奴に俺が負ける訳が無い。
俺はそういう連中とは生きてる世界が違うんだ、とか」
( "ゞ)「ハハハ。だったらさっぱり的外れだわ、お前」
繰り返される嘲笑。
しかもそれは馬鹿にする所か、お前など眼中にないと明言しているようなものだった。
.
- 735 名も無きAAのようです[sage] 2016/02/05(金) 10:32:27 ID:pjhP36rI0
( д )
――デルタ関ヶ原の実力を予感したtanasinnは、即断した。
まず、tanasinnはミルナという原形を捨てた。
ミルナの精神を経て形を保っていたtanasinnの力は、早々にその回路を放棄したのだ。
回路を失った力は理性を破壊し、燃料が尽きるまでミルナをひたすら暴走させ続ける。
これは先日ミセリやドクオを倒した時と同じやり方。しかし、今度のは限度未定の自殺行為。
今のミルナに出来る『全力の出し方』は、もうこれしかないのだ。
( ゚д゚ )「……陳腐な物言いだが、ムカつくぞ。
その場所は、俺が何百年掛けても到達しなかった場所だ」
束の間、正気を取り戻したミルナはデルタに向かって言い放つ。
それは単純な羨望と嫉妬――自分より強い人間への敵意。
自分より純粋に生き、純粋に強くなった男への逆恨み。
( ゚д゚ )「どうすればそこまで強くなれる? ただの人間のままで」
( "ゞ)「いや無能には無理だ。お前には才能がない、俺にはあった。
それだけの話だ。どうだ、理不尽だろう」
( ゚д゚ )「……ああ。まったく、やってられん」
( "ゞ)「だが結局それなんだよ。理不尽に見逃されるか立ち向かうか。
人の一生の構造なんざ、結局それだけだ」
( ゚д゚ )「なら、俺は後者でお前は前者か」
( "ゞ)「は? いちいち自分を美化したがる野郎だな。
俺もお前も後者だよ。ただし、お前は途中で膝を折った半端者」
デルタはミルナを指差し、当てつけのようにハッキリと言う。
.
- 736 名も無きAAのようです[sage] 2016/02/05(金) 10:33:59 ID:pjhP36rI0
( "ゞ)「まあ分不相応ってコトだ。
諦めて普通に生きたらどうだ? とりあえず就活やれよ」
( ゚д゚ )「……いい加減にしろよ。俺には」
( "ゞ)「使命役目運命役割……がある、か? 清々しいほど言い訳だな。
それより就職して家賃10万のアパートに住む想像でもしろ。よっぽど有意義だ」
( "ゞ)「俺は武人としての地位がある。金も食い物も勝手に転がり込んでくる。
だがお前には何があるんだ? ないだろ、何にも」
(#゚д゚ )「……何も知らない奴が、俺の在り方に口を挟むな」
( "ゞ)「おいおいおいおい。おい怒るなよ。才能はない、力もない。人脈も何もない。
俺はそんな人間にも実現可能な最大限の幸福を言ってるだけだぞ」
デルタは真顔で語り続ける。
至極真剣に、当然の事をミルナに語りかける。
( "ゞ)「どうだ? 幸せだと思わないか。
スーパーの特売日。安い鳥肉を買って、それを唐揚げにして食べる。
給料日には酒があってもいいな。一升瓶で鬼殺しを飲んでいい」
( "ゞ)「あるいは女だ。自然に女ができれば上等だが、金があればまあ大丈夫だ。
風俗でもいい。チンコに潤いを持てば余裕ができるぞ」
(#゚д゚ )「……そんな下らない話を、いつまでッ……!!」
( "ゞ)「……なんだと?」
下らない。その一言に、デルタの眉がピクンと跳ねた。
( "ゞ)「お前、唐揚げを馬鹿にするのか?」
しかし、両者の話はどこか食い違っていた。
.
- 737 名も無きAAのようです[sage] 2016/02/05(金) 10:34:39 ID:pjhP36rI0
( "ゞ)「……よし決まった。たった今、この戦いの動機が固まった」
( "ゞ)「俺は今から唐揚げを馬鹿にしたお前を殺す。
これは唐揚げの為の戦いだ」
独りでに自己完結したデルタは軽く構え、鼻で笑う。
( "ゞ)「どうだムカつくか?
大義名分を背負った戦いが勝手に唐揚げ大戦争にされちまって」
(#゚д゚ )「……強いだけの男が。意思のない力なんざ、犬畜生にも劣るゴミだ」
( "ゞ)「……」
( "ゞ)「……お前は、耳障りのいい言葉で、取り繕うばかりだな」
その返答は落胆。
デルタ関ヶ原は脱力し、小さく溜め息を吐いた。
( "ゞ)「なんというか、最早、見るに堪えん……」
( "ゞ)「おいクマー! あとお前がやれ!」
踵を返し、遠くに逃げ隠れていたクマーに向けて命令する。
デルタは適当なところまで離れると、その場にドスンと腰を下ろして傍観者に早代わりした。
.
- 738 名も無きAAのようです[sage] 2016/02/05(金) 10:35:30 ID:pjhP36rI0
(;・(エ)・)「……煽るだけ煽って、結局人任せですか……」
程なくして、とぼとぼ、とぼとぼとクマーが歩いてくる。
クマーは興醒めして座り込んだデルタに恨めしい小言を零しながら、渋々ミルナに向かっていく。
( "ゞ)「おいクマー、半分でやれ。上司命令な」
(;・(エ)・)「……分かりました。死んだら弔ってください」
( "ゞ)「おうよ。山盛りの唐揚げで奉ってやる」
(;・(エ)・)(一気に死ねなくなった……)
――黒い、ぬるい風が迸る。
風速は些細だが、その風はレムナントの大地を荒々しく削り取っていた。
ぐつぐつと煮え滾る殺意と憤怒が、クマーとデルタの余裕に水を差す。
(・(エ)・)「……」
クマーが視線をミルナに向けた時、そこに彼の姿はもうない。
代わりにあったものは血肉を詰めた黒い甲冑。人ならざる、文字通りの化物。
黒甲冑から流れ出る黒い瘴気は、それこそがtanasinnが作り出す悪性の具現であった。
( `ハ´)「……あいつも無茶を言う。私が少し、手を貸そう」
(;・(エ)・)「あ、助かります……」
並び立った熊の覆面大男、槍使いの老人。
一度は途切れた戦いの呼吸は、次の瞬間、息を吹き返す。
.
- 739 名も無きAAのようです[sage] 2016/02/05(金) 10:36:11 ID:pjhP36rI0
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第二十八話 「悪性萌芽 その3」
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- 740 名も無きAAのようです[sage] 2016/02/05(金) 10:36:56 ID:pjhP36rI0
≪2≫
素直クールとドクオが武神屋敷に落ちて数週間。
屋敷の改修作業は適当なところで飽きて切り上げ、彼らはとりあえず元の生活を送っていた。
( "ゞ)「おい大根食うか」
(;'A`)「いや、食べない……。少なくとも生では」
墜落から数日目にして目覚めたドクオは、デルタの手厚い看護によってまぁまぁ復活していた。
軽度の痺れや発作的な痛みはあれど、少なくとも、内藤の研究所に居た頃よりは健康だった。
( "ゞ)「許さん。好き嫌いは死ぬぞ。いいから大根を食え」 グイグイグイグイグイグイグイ
___
* ダイコン>)'A`;)「主張が激しい割りに大根のAAが雑だ」
 ̄ ̄ ̄
tanasinnのあれこれによってメタ発言さえ許されたドクオは、渋々生の大根をかじり始める。
.
- 741 名も無きAAのようです[sage] 2016/02/05(金) 10:37:37 ID:pjhP36rI0
(;'A`)「あー……」ジャリッ ガリッ
( "ゞ)「いい食いっぷりだドン引きするくらいにな。
でもさすがに生はねえわ。腹壊すぞ」
(;'A`)「最初から言ってるだろうに……」
ここは焼け残った武神屋敷の別邸。
ドクオが寝ているその部屋は、小さいながら無駄のない綺麗な和室であった。
ドクオが外に目をやると、写真でしか見たことがないような雪景色が広がっていた。
池と鹿威しのある大庭園。けっこう金を掛けたんだろうなあ、とドクオは呑気に想像する。
( "ゞ)「あの女、ジィ様が言うにはそろそろ起きるらしいがどうする」
('A`)「……俺が最初に顔見せないと面倒だろう。その時は悪いが肩を借りる」
( "ゞ)「いや、会うつもりなら女の寝床をこっちに移す。
その方が手っ取り早い。それでいいだろ?」
('A`)「ああ。お前には手間ばかり掛けさせるな」
( "ゞ)「マジでその通りだ。この借りは絶対に返せ」
(;'A`)「……分かった。でも期待はするなよ、俺もそう長くはない……」
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- 742 名も無きAAのようです[sage] 2016/02/05(金) 10:38:21 ID:pjhP36rI0
ドクオの身体は、確実にtanasinnに蝕まれていた。
彼は内藤が作り出した人工生命で常人よりも丈夫とはいえ、このドクオにはtanasinnの適性が無かった。
しかし内藤はそれを無視し、ドクオに『tanasinnの片鱗』の失敗作を投与し続けた。
その行為はただの紙コップにマグマを流し入れるようなもので、とどのつまり、最初から彼の死滅を前提としていた。
約束された死の瞬間は近い。ドクオ自身、十分にそれを自覚している。
( "ゞ)「だから死ぬ前に返せって話だ。お前なりにな」
('A`)「分かってるさ。死んで遺せるものなんか、高が知れているからな」
( "ゞ)「……お前、自分が生き残る可能性は考えてないのか」
('A`)「ああ、まったく」
デルタの問いに、ドクオはキッパリと即答する。
『ドクオ』とは元々他人に生み出された存在。なくて当然の物が、元に戻るだけなのだ。
道具として生まれ、道具として使役され、道具として破棄される。
ドクオはそんな一生を自分の末路として疑いなく受け入れていた。
ただ一つ、それが『理不尽』であるという事を見逃したまま。
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- 743 名も無きAAのようです[sage] 2016/02/05(金) 10:39:01 ID:pjhP36rI0
( "ゞ)「……理不尽に従えばこの世は地獄だ。
お前はそれでいいのか?」
('A`)「地獄で生まれた男が地獄で死ぬ。
それはそれで、道理だと思わないか」
( "ゞ)「……思わん。だが、それがお前の道理なら最期まで貫け。
絶対に途中で膝を折るなよ。でなけりゃ死ぬほどカッコ悪いからな」
('A`)「分かった、覚えておくよ」
( "ゞ)「……“分かった”は嫌いな言葉だ」
理不尽に従う人間は、みんなそれが口癖だ」
('A`)「……」
('∀`)「……なんつうか、反抗期だな」
一連のデルタの語りを聞いて、ドクオは朗らかな笑みを見せて言った。
( "ゞ)「当たり前だ。俺はまだ十三歳だぞ」
('∀`)「にしては言い分が達観しすぎだ。
そんなに嫌いか? この世の中が」
( "ゞ)「好きな所もあるが、ピンポイントで嫌いな所がある。
ま、そんなん誰でも一緒か……」
.
- 744 名も無きAAのようです[sage] 2016/02/05(金) 10:39:54 ID:pjhP36rI0
デルタは大きく一呼吸すると、初めてドクオから目を逸らし、語り始めた。
( "ゞ)「俺は元々、心臓を病んでいた。
俺の身体は生まれた時から早死にを約束されていた。
理不尽が嫌いなのはそれが理由だ」
('A`)「……それがなんで、ここに」
ドクオは笑みを消し、彼の話に集中する。
( "ゞ)「大した理由は無い。誰よりも弱い男が、誰よりも強くなろうとしたってだけの話。
その結果ここに来て、今に至って、それだけよ」
('A`)「……時間が無いのはお互い様って事か。
因果なものだな、この地獄も」
( "ゞ)「だとしても俺はこのまま死ぬつもりは微塵も無い。
やるだけやって、俺は俺の一生を生き尽くして死んでやるつもりだ」
('A`)「…………」
( "ゞ)「残り数年の命だが、その間に何とかして神様をブッ潰す」
しんみりした空気も束の間、デルタの話は意味不明な方向に急展開した。
それについていけなかったドクオは数秒沈黙した後、思わず「え?」と呟いてしまった。
(;'A`)「いや、えっと、なんでそうなる?」
( "ゞ)「なんでもなにも、神様が理不尽の生みの親だからだ。
だから一発殴らなきゃ死んでも死に切れん。
なんならお前の分も殴っといてやるが」
(;'∀`)「……本気、か?」
( "ゞ)「冗談言ってる暇はない。死に掛けなんだぞこの俺は」
.
- 745 名も無きAAのようです[sage] 2016/02/05(金) 10:40:34 ID:pjhP36rI0
(;'A`)「……じゃあまあ、そんな夢ある少年にひとつ助言を……」
('A`)「とりあえずハッキリ言っといてやる。
お前が殴りたがってるような神様は実在するよ」
('A`)「荒巻スカルチノフっていう爺さんがその神様と知り合いだ。
だからもし神様をブッ潰しに行く時は、荒巻の方を先に見つけるといい」
( "ゞ)「……いいことを聞いた」
(;'A`)「だが本当に神様だからな。倒すつもりなら」
忠告の途中、デルタは耳も貸さずにすっと立ち上がった。
彼は軽くストレッチをしたあと、そのまま庭に降りて雪上を歩き出した。
( "ゞ)「ちょっくら出掛けてくる。朝まで帰らん」
(;'A`)「……いや、いやいやいや待て!! 今が朝だぞ!!」
ドクオは手を伸ばしてデルタを止めようとするも、彼はそれを意に介さない。
(;'A`)ノ 「おい! お前マジで病人か!?」
( "ゞ)「闘病生活真っ只中だ。休む暇もありゃしねえ」
.
- 746 名も無きAAのようです[sage] 2016/02/05(金) 10:41:14 ID:pjhP36rI0
デルタはそう言い、結局数日後の朝まで帰ってこなかった。
そして帰ってから一番最初に言った事は
( "ゞ)「神に土下座させてきた」
簡潔な勝利宣言だった。
.
- 747 名も無きAAのようです[sage] 2016/02/05(金) 10:41:54 ID:pjhP36rI0
≪3≫
素直クールの目覚めは、スイッチがパチンと切り替わるように明確だった。
('A`)「おっ」
川 ゚ -゚)「……ドクオ? ……ここはどこだ?」
布団で横になっていた彼女は周囲を見回しながら体を起こした。
肉体的な傷はすっかり完治したらしく、彼女に痛みを訴える素振りはない。
('A`)「武神の屋敷だ。目的地だよ、俺達の」
川;゚ -゚)「……いかん、覚えが無い。あれから何があった?
本当にあそこから無事に脱出できたのか?」
('A`)「本当だ。心配するな。今、他の人を呼んでくる」
そう言い、立ち上がろうとした瞬間。
素直クールがドクオの手を掴み、震える声で呟いた。
川;゚ -゚)「誤魔化さなくていい。私は内藤に何をされた……?」
('A`)「……それを話すつもりはない。
お前が起きる前に、武神も含めてそう決めた」
ドクオは彼女の手を優しく払い、部屋を出た。
デルタが神様を倒した記念の為、屋敷の住民達は別室で宴会中だった。
そこにひょっこり顔を出すと、事を察したじぃが宴会を抜け、ドクオと一緒に部屋に戻った。
.
- 748 名も無きAAのようです[sage] 2016/02/05(金) 10:42:47 ID:pjhP36rI0
爪゚ー゚)「やっと目を覚ましたか。……さて、オレの顔に覚えは?」
川;゚ -゚)「……あります。本当にありがとうございました」
素直クールは正座に座りなおし、じぃに深々と頭を下げた。
爪゚ー゚)「気にするな、些事であったぞ。
オレの名はじぃ。八極武神と名乗り、遊びほうけておる」
川;゚ -゚)「それじゃあ、じぃさん」
爪゚-゚)「待て、オレを呼ぶ時は『さん』ではなく『様』をつけろ。
でないと語感がでんじゃらすになるからな」
(;'A`)「気をつけろ、この人それでマジギレするからな」
川;゚ -゚)「わ、分かった」
川;゚ -゚)「……じぃ様、私達の事情はどこまで聞きましたか?」
爪゚ー゚)「……あー」
クールの質問に、じぃは少しばかり目を泳がせた。
人には知られたくない過去があるものだが、じぃはドクオからそれを丸々聞いてしまっていた。
開き直り、じぃは包み隠さずに答える。
爪゚ー゚)「すまんが徹頭徹尾すべて聞いた。
要はタナシンだろう? あんなものに関わるとは、災難だったな」
.
- 749 名も無きAAのようです[sage] 2016/02/05(金) 10:44:09 ID:pjhP36rI0
川;゚ -゚)「……私は、内藤の研究所から脱出する時、内藤に『人工片鱗』を投与された。
追い詰められたが故に仕方が無かったが、それは間違いだった。
それで、もうそこから記憶は曖昧ですが、私は、私ではなくなった……」
川; - )「じぃ様、ドクオ。お願いだ。私は、何をしたんだ……」
爪゚ー゚)「……だと。どうする、ドクオ」
('A`)「……まだ寝起きで混乱してるんだろう。
落ち着いたら思い出せるはずだ。今は休め、いいな」
川;゚ -゚)「わ、私はッ――!」
(#'A`)「いいから聞けッ!」
ドクオは突然語気を荒げ、彼女を黙らせた。
(#'A`)「お前は今も体を『人工片鱗』に侵食されている!
それがどういう影響を与えているか分からないが、少なくとも今、お前はお前らしくない!」
川;゚ -゚)「……だが……」
(#'A`)「……何があったか話すのはいい。
だがその『忘れた振り』はお前らしくない。そう言っているんだ」
(#'A`)「お前があの時の事を忘れている訳がない!
tanasinnには人の心身を乗っ取るだけの意思は無いんだぞ!」
川;゚ -゚)「……私は、嘘なんか……」
.
- 750 名も無きAAのようです[sage] 2016/02/05(金) 10:44:56 ID:pjhP36rI0
言い淀み、狼狽した素直クールに対し、ドクオは更に言葉を続けようとした。
しかし、じぃがそれを遮って二人の間に割って入る。
爪゚ー゚)「問答も結構。だがなあドクオ、これじゃあ埒が開かんぞ。
そろそろ折れてもよかろうに」
(#'A`)「……それじゃあ今以上に悪化するだけだ」
爪゚ー゚)「その時はオレが相手をする。問題あるか?」
川;゚ -゚)「……なんだ、なんの話をしている?」
素直クールの呼び掛けにも答えず、ドクオはじぃに怒りの矛先を向ける。
(#'A`)「問題ある。今後それを繰り返しても彼女は助からない。
彼女にこの後遺症を克服させるには時間が必要だ」
爪゚ー゚)「貴様バカか? 時間が無い者に時間が必要なのは当然だ。
ゆえに限り限られた時間の中で妥協と最善を尽くす」
爪゚ー゚)「なればこそ、今は妥協が最善だとオレは思うが……。
はて、貴様はその理想の為に限りあるものを使い潰すつもりか?」
(#'A`)「……」
ドクオは、言葉を噛み潰した。
感情的に言い返す事はできる。しかし、その言葉には中身が伴わない。
解決に近付くための言葉を、ドクオは思いつくことが出来なかった。
.
- 751 名も無きAAのようです[sage] 2016/02/05(金) 10:46:02 ID:pjhP36rI0
爪゚ー゚)「……さて。とりあえず起きてメシを食うといい。
かくして今は宴会中でな、腹を満たすに余りある用意ができておる」
川;゚ -゚)「……」
('A`)「……そうしよう。お前が聞きたがってる事もそこで話す」
素直クールがドクオに視線を送ると、彼はすっかり落ち着いた様子で彼女に微笑んだ。
そこでようやく、彼女は少しだけ気を緩めることができた。
爪゚ー゚)「オレとドクオは先に行っている。
着替えは好きに使え。オレの古着だがな」
川 ゚ -゚)「……え?」
('A`)「……また後でな」
川;゚ -゚)「……あ、ああ……」
素っ気無く部屋を後にしたドクオとじぃ。
しかし、その時ドクオは見逃していなかった。
あの素直クールが、人恋しそうに手を伸ばしてきていた事を。
('A`)(……違う)
( 'A`)(お前は、こんな奴じゃない……)
.
- 752 名も無きAAのようです[sage] 2016/02/05(金) 10:46:42 ID:pjhP36rI0
爪゚ー゚)「……十六回だ。貴様があれの説得に敗した回数」
縁側をトコトコ歩きながら、じぃは改まってその結果を口にした。
('A`)「……」
爪゚ー゚)「何度繰り返したところで同じだったと思うがな。
ま、これであの女が『望んだこと以外は受け付けない』と理解したか?」
――素直クールは、この数日間に十七回目覚めていた。
そして先程の一回を除いた十六回の中で、彼女は明らかな異変を起こしていた。
('A`)「恐らく……いや、もう確信した。あれは内藤の人工片鱗が原因だ。
素直クールは、感情の箍が外れかかっている」
('A`)「なんというべきか……弱くなってしまったんだ。あの女は、精神的に。
人工片鱗は彼女の精神を変えてしまった。強くあろうとする精神に、毒を混ぜた」
.
- 753 名も無きAAのようです[sage] 2016/02/05(金) 10:47:22 ID:pjhP36rI0
目覚める度、素直クールは自分が内藤に何をされ、何をしたのかを聞こうとする。
しかしそこで本当の事を教えると、彼女は“笑う”。
儚げに目に涙を溜めながら、悲しい事があり悪い事もしたけれど、これからは――と語り始める。
言うなれば悲劇のヒロイン――彼女はそれになってしまうのだ。
かといって真実を告げずに彼女の願いを拒否し続けると、
彼女は再び気を失い、深い眠りについてしまう。次に起きた時、この時のやり取りは全て喪失している。
つまり、今の彼女は都合のいい言葉しか受け付けない。
('A`)「……あの女は本物の『tanasinn』に関わり、俺よりよっぽど酷い道を歩いてきた。
だがそれでも分かるんだ。彼女はどんな悲劇であろうと、決して『過去のもの』にはしなかった」
('A`)「救われなくとも足掻いてきた。殺され掛けても何かを救おうとしてきた。
報われなくとも、たとえ叶わない願いであっても、それを否定する言葉を吐く人間ではない」
('A`)「そんな女が、誰よりも今を見て生きていた女が、
今ある問題から目を背けて 『これから』 と言った」
('A`)「……俺はそれを認められない。確かにあれも彼女の一面だろうが、決して本心ではない筈だ。
俺の知っている素直クールは、もっと強い人間なんだ……」
爪゚ー゚)「……それは貴様の願望だ。事実と妄想がごちゃ混ぜだぞ。
彼女の在り方は彼女が決める。それが清々しいほど現実逃避であろうとな」
じぃの言葉でふと我に返る。
ドクオは眉間を指で絞り、嘆息を零した。
(;'A`)「……すまない。俺にも彼女と同じ傾向があるらしい。
また変な事を言ったら、咎めてくれ……」
爪゚ー゚)「うちはメンヘラを二匹も飼えるほど寛容ではないからな。
殴ってでも言い改めさせるから安心しておけ」
.
- 754 名も無きAAのようです[sage] 2016/02/05(金) 10:48:02 ID:pjhP36rI0
宴会場に足を踏み入れると、ドクオはまず、疑問を持った。
目の前で起こっている宴会――というか乱闘に対して、これが一体何の集まりなのか分からなくなったのだ。
(# "ゞ)「おい阿部ェ!! その肉は俺のだっつってんだろ!!」
N|#"゚'` {"゚`lリ 「黙れ処女! 自分のモノなら胃の中に入れてから言え!!」
(;'A`)「……じぃ様、これって食事の場なのか?」
爪゚ー゚)「見て分からんか? 鍋も鉄板もあるだろう」
(;'A`)「あるのは分かる。でも調理器具として扱われていないぞ」
(# "ゞ)「テメェもだクソ忍者!!
さっきからちょくちょく盗んでんのバレてっからな!!」
X
∠ ̄\∩
|/゚U゚|丿 「――激しく奪取、そして咀嚼」
(`二⊃
( ヽ/
ノ>ノ
UU
.
- 755 名も無きAAのようです[sage] 2016/02/05(金) 10:48:43 ID:pjhP36rI0
飛び交う拳、焼ける肉。床や壁をことごとく粉砕し、ひたすら肉を奪い合う者達。
ゲイと忍者が入り乱れた乱闘焼肉パーティは、ドクオとじぃを無視してなおも混迷を深めていく。
爪゚ー゚)「貴様もあれに混ざったらどうだ。
死ぬかもしれんが楽しいぞ? 陰気なツラも変わるだろうて」
(;'A`)「……遠慮しておく。死を娯楽にするには未練が多すぎる……」
爪゚ー゚)「ははは。未練あっての人生だぞ。死ね」
(;'A`)「えっ、いやッ!」
ドッ、とドクオのケツを蹴り飛ばすじぃ。
ドクオも寸で踏み止まろうとするも、数歩前進した先は既に戦場であり――
( "ゞ)「よう兄弟。お前も肉か?」
(;'A`)「ちがっ……違う違う違う違う!!」
N| "゚'` {"゚`lリ 「なるほど騙まし討ちか。新入りにしては知恵があるな」
(;'A`)「すぐ下がるから待ッ――――」
.
- 756 名も無きAAのようです[sage] 2016/02/05(金) 10:49:26 ID:pjhP36rI0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
宴会から一晩過ぎた翌朝、ドクオと素直クールは屋敷の庭先に立たされていた。
なにやら“けじめ”をつけると言っていたが、その実何をするのかはまだ聞かされていなかった。
雪降る早朝に呼び出されて十分ほど経過。
デルタの怒号や忍者がその辺を飛び交った後、じぃはデルタに肩車された状態でドクオ達の前に現れた。
('A`)「……じぃ様、顔色が悪いようだが」
爪;゚ー゚)「ああ、朝まで酒を飲んだせいでな……」
( "ゞ)「今から寝るって言って聞かねえから無理矢理連れてきた」
爪;゚ー゚)「今日は弟子入りの予定だったが……明日でいいか?」
(;'A`)「……え、弟子入りするのか? 俺達がか?」
爪;゚ー゚)「そうだ。貴様ら二人とも、強さ弱さを持て余しているようだしな」
吐き気を抑え込むように呻いた後、じぃは脂汗を拭った。
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- 757 名も無きAAのようです[sage] 2016/02/05(金) 10:50:06 ID:pjhP36rI0
爪;゚ー゚)「ドクオ。貴様は弱過ぎる。だから強さを教え込む」
爪;゚ー゚)「素直クール。貴様は強過ぎる。だから弱さを教え込む」
('A`)「……」
川 ゚ -゚)「……それぞれ、真逆のことを教えるのか?」
ドクオとクールは共通の疑問を持って言葉を詰まらせた。
じぃの言葉に対する違和感は一つ。
弱いから強くする。それは分かる。
しかし、強いから弱くするというのはどうにも理解が及ばなかった。
爪;゚ー゚)「……デルタ説明してやれ」
( "ゞ)「面倒を押し付けるな」
爪;゚ー゚)「頭の上で吐くぞ。いいのか」
( "ゞ)「そん時はお前の顔面に吐き返してやる」
爪; ー )「う……っぷ!」
(;'A`)「……おい。これ本当に吐くんじゃ――」
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- 758 名も無きAAのようです[sage] 2016/02/05(金) 10:50:46 ID:pjhP36rI0
……激しい音はなかった。
しかし、じぃは口元に手を当てることもなく、当然のようにデルタの頭に吐瀉をぶちまけていた。
中身を全部吐くまでの数秒間、しゃびしゃびのゲロが脳天から流れ滴る最中、
( "ゞ)
デルタ関ヶ原、真顔――!!
( "ゞ)「……吐き終わったか?」
爪; ー )「……ああ」
( "ゞ)「よし」
するとデルタはじぃを投げ捨てて馬乗りになり、己の喉に手を突っ込み――
(; "ゞ)「――お゙ッ!!」
宣言通り、顔面への吐瀉返し――!!
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- 759 名も無きAAのようです[sage] 2016/02/05(金) 10:51:47 ID:pjhP36rI0
爪゚ー゚)「すっきりした所で話の続きだ」
( "ゞ)
ゲロまみれの二人が平然と話を戻そうとしている。
ドクオは風呂に入るべきだと言おうとしたが、自分までゲロを浴びせられる気がして何も言えなかった。
爪゚ー゚)「ドクオ。貴様はそこそこ強い、が、それは内藤とやらが与えたものなのだろう?」
( 'A`)「……根本を言えばそうだ。俺はあの男の製作物だからな」
爪゚ー゚)「ならばその時点であの男から逃げ切れんと理解しろ。
貴様の行動は全て筒抜け。逃げても戦っても手の平の上だ。
それに、ここに来たのも内藤が言ったからに違いあるまい?」
('A`)「いや、ここに行くと言い出したのは素直クールだが……そうなのか?」
ドクオが一瞥すると、彼女は軽く頷いた。
川 ゚ -゚)「その通りだ。私も、もう次に頼るならここしかないと思っていたが」
爪゚ー゚)「まあつまりな、内藤が知りうる範疇のままでは話にならんという事だ。
だから単純に強くする。デルタの次くらいにはしてみたいな」
(;'A`)
無理だと反射的に言いたくなったが、
それだと「だからこそ」と言われて逆に大変な事になりそうでドクオは何も言えなかった。
この人達相手には変に口を挟まない方が安全だと、彼は薄々勘付いていた。
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- 760 名も無きAAのようです[sage] 2016/02/05(金) 10:52:27 ID:pjhP36rI0
爪゚ー゚)「で、今度は素直クールだが、貴様はもう十分に強い。
相手したオレが言うんだから自信を持っていいぞ」
川;゚ -゚)「……その時の事は、あまり覚えていないんだ」
爪゚ー゚)「仕方あるまい。あの時の貴様は己の能力に利用される外殻でしかなかった。
貴様は確かに強い。が、それは貴様自身の強さとは別々のものだ」
爪゚ー゚)「貴様は己の能力を持て余している。制御しきれず、扱う事すら出来ていない。
そこを手っ取り早く矯正するには、それはもう弱さを自覚し克服するしかない」
川 ゚ -゚)「……それは、ドクオと同じように特訓するだけでは駄目なのか?」
爪゚ー゚)「駄目だ。貴様は今、時速0kmとマッハ1しかないようなふざけた戦闘機同然だ。
間を知って徐々に加速する事を覚えねば、明日にも自滅しかねん」
爪゚ー゚)「それに人工片鱗とやらの面倒もあるからな、弱さは克服してもらうぞ。
聞いた話では、人工片鱗は人の悪意を際限ナシに増大させるらしいが……」
爪゚-゚)「……弱い人間の悪意は狂気に直結する。
これでもオレは善良市民だ。若人一人、正してみせよう」
真意はその一言。回りくどく、しかし的を外さず、じぃは目的を語った。
とどのつまりは自制心の強化。じぃが素直クールに施す特訓は、ただそれだけだった。
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- 761 名も無きAAのようです[sage] 2016/02/05(金) 10:53:07 ID:pjhP36rI0
爪゚ー゚)「まーそんなに気負うことでもない。
貴様ら二人とも才能なんかまるで無いからな、オレも長い目で見ている」
(;'A`)「初日から俺達のやる気を削ぐな」
爪゚ー゚)「数年掛けてゆっくりやればよい。
それまで最低限身の安全は約束してやる」
爪゚ー゚)「内藤とか顔付きとか、そういうのが来たら問答無用で追い返すから安心せい」
川;゚ -゚)「……そ、その時は、私も加勢する」
固唾を飲んで言い切った素直クールを、ドクオは静かに否定する。
(;'A`)「素直クール、多分この人達なら大丈夫だ。普通にあいつらより強いぞ」
川;゚ -゚)「いや、でも」
(;'A`)「俺が保証する。一人でも十分だが、じぃ様とデルタが組んだら多分誰も勝てない」
爪゚ー゚)「あらゆる異能を物理で殴り尽くす主義だ」
( "ゞ)「おなじく」
(;'A`)「実際、お前の完全停止能力もじぃ様の物理に負けた。
もう理屈抜きで思考停止していい。この人達は、死ぬほど強い」
川;゚ -゚)「え、えー……!?」
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- 762 名も無きAAのようです[sage] 2016/02/05(金) 10:53:52 ID:pjhP36rI0
≪4≫
――話の途中、携帯電話が鳴り響いた。
('A`)
<_プー゚)フ
ミセ*゚ー゚)リ「……」
('A`)「……お前じゃねえの?」
ミセ*゚ー゚)リ「えっ? あっホント……」
ミセリの着信音により、長々と続くエクストの話は間を挟む事となった。
ミセリは携帯を持ってそそくさと部屋の隅に行き、そこで誰かしらと話し始めた。
('A`)「……色々嘘があったのは分かった。でもまあ、よく覚えてられんな」
<_プー゚)フ「知らねえだろうがな、俺は物覚えがいいんだ。
忘れたくても忘れられない事が多い。お前の話もその一つだ」
('A`)「……これが『本当の事』なら、どうして俺は昔の事を覚えてないんだろうな」
<_プ-゚)フ「……それは……」
('A`)「……分かってる。続きを聞けばいいんだろ。大方、予想はついたけどさ」
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- 763 名も無きAAのようです[sage] 2016/02/05(金) 10:54:33 ID:pjhP36rI0
ミセ*;゚ー゚)リ「えっと、ちょっと気持ち悪いんですけど……」
('A` )「……お前記憶喪失だろ? 相手にそれ説明したのか?」
電話に戸惑っている声が聞こえてきて、ドクオは小声で助け舟を出してやった。
するとミセリはそれだ! と言わんばかりのガッツポーズをドクオに見せ付けた。
ミセ*;゚ー゚)リ「あの、私って記憶喪失なんです。
だから仲間とか言われても実感なくて、困ります!」
ミセ*;゚ー゚)リ「……え? 迎えに来るって、今ですか!?
いや、あの、気持ち悪いです!」
<_;プー゚)フ「ミセリちゃんよ、キモイだけじゃ話が通じないと思うぜ」
ミセ*;゚ー゚)リ「だっていきなり仲間だ迎えに行くってオッサンに言われてるんですよ!?
私って寛容ですけど、コレさすがに気持ち悪いです!」
(;'A`)「それ相手かなり傷付いてるぞ。とりあえず話聞いてやれって」
ミセ*;゚ー゚)リ「……は、はい? えっと居ますけど。
保護者っていうか、助けてくれた人……」
不安そうなミセリがドクオをチラ見する。
ミセ*;゚ー゚)リ「……かわってほしいそうです」
(;'A`)「……まあ、仕方ないか」
ドクオは渋々携帯電話を受け取ると、耳に当てて応答した。
('A`)「……もしもし」
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- 764 名も無きAAのようです[sage] 2016/02/05(金) 10:55:39 ID:pjhP36rI0
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『……もしもし』
(; ^ν^)「あーもしもし。悪いな、そんなの拾わせちまって」
( ><)「ミセリお姉ちゃん!」
( <●><●>)「いま電話中だから黙れ」
『気にしないでくれ。俺もこの子しか助けられなかった』
( ^ν^)「ん? ……ああ、アレ相手に一般人を巻き込んだのか。
そいつは駄目だな……事後処理までさせて悪かった」
( ^ν^)「とにかく一度、そっちに行ってミセリの無事を確かめたい。
場所を教えてくれないか? 瞬間移動するから準備したらすぐ行ける」
( ^ν^)「……レム、え? なっ――」
ブツン、と唐突に通話が切れる。
番外編的な方で登場した男・鵜入速人は、ぽかんとした表情で携帯電話を下ろした。
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- 765 名も無きAAのようです[sage] 2016/02/05(金) 10:56:19 ID:pjhP36rI0
( ^ν^)「……切れちった。
まあレムナントのどっかだろうし、そう焦ることもねえとは思う」
振り返り、視線の先の男に告げる。
その男――『顔付き』のリーダー格であるその男は、ゆっくりと腰を上げた。
「感知能力者が居ないのは、こういう時に不便だな」
男は冗談らしく微笑み、周囲で指示を待つ仲間達に向けて言った。
「あそこに行くなら必ず荒巻が出てくる。
少々早くなったが、戦闘はまず避けられんだろう」
「用意しろ。ミセリとミルナ、そして素直クールを奪還しに行く」
男は片手をかざして大仰に指示を下す。
しかしその言葉で動き出す者は一人も居らず、一同は言葉足らずの沈黙に呑み込まれた。
( ^ν^)「ネーノさん、用意できてねえのアンタだけだぞ」
「……」
「その名で呼ぶなら、この顔を付けてからにしろと言っているだろう」
男は照れ隠しの為に白々しくそっぽを向き、自分の顔面を一撫でした。
その行為を終えた直後、男の顔面には、先程とは別の顔が浮かび上がっていた。
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- 766 名も無きAAのようです[sage] 2016/02/05(金) 10:57:14 ID:pjhP36rI0
( `ー´)「……今日は旧友にも会えるのだ。
本人も、この顔の使用を許してくれる筈だろう」
――男は、何者でもなかった。
ネーノという人物の姿形はあっても、それは彼自身本来のものではなかった。
本来、自分がどういう姿だったのかは彼自身も覚えていない。
男は、ネーノが作り出した最後の希望。
この物語がtanasinnと決別する為に生み出された、一つの結論であった。
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- 767 名も無きAAのようです[sage] 2016/02/05(金) 10:58:30 ID:pjhP36rI0
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『とにかく一度、そっちに行ってミセリの無事を確かめたい。
場所を教えてくれないか? 瞬間移動するからすぐ行ける』
('A`)「分かった。えっと、レムナントの――――」
その時、微弱な揺れがドクオ達の体を揺らした。
揺れは数秒続いた後ピタリと止まったが、
(;'A`)「なんだ、地震――ッ!」
ミセ*;゚Д゚)リ「うわッ」
次の瞬間、地面そのものが大爆発したような衝撃が彼らを襲撃した。
予期しない、あり得ない規模の超衝撃。
最早建物の倒壊は必然――この場で唯一まともに動けるドクオには、エクストとミセリを守る義務があった。
<_;プー゚)フ「おおおッ!?」
(;'A`)「口閉じてろ!」
ふたたび微震が始まる最中、ドクオは冷静さを欠いたエクストとミセリを担いで外に飛び出した。
その直後、町にあったオンボロ小屋の数々は、藁の家が壊れるような呆気なさで次々と倒壊し始めた。
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- 768 名も無きAAのようです[sage] 2016/02/05(金) 11:00:35 ID:pjhP36rI0
ミセ*; ー )リ「い、痛い……ケツを打った……」
荒野に放り出されたミセリは既に周囲を気に掛けている場合ではなかった。
彼女はケツを抑えて地面に倒れ、もうそれどころではなかった。
<_;プー゚)フ「おい、また揺れてるぞ!! 次あんじゃねえのか!?」
(;'A`)「衝撃の出所は覚えたから下がれ!!
これは地震じゃあない! 俺がなんとかする!!」
ドクオは二人を庇うように前へ。
左拳を地面に向かって構え、ドクオは複雑な笑顔を浮かべた。
(;'A`)(クマさん……。何しに来て、何やってんだよ……ッ!!)
微震が静止し、再びあの巨大な衝撃に身構える三人。
ドクオは超能力を発動し――光も無しに超能力を発動し、
(# A゚)「“撃動”のォ……――――」
次なる衝撃を相殺させるべく、撃動の拳を大地に突き出した。
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- 769 名も無きAAのようです[sage] 2016/02/05(金) 11:01:36 ID:pjhP36rI0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
( (エ) )「……」
( ゚д゚ )「……」
荒野に、まるで隕石でも落ちたかのような巨大陥没が出来上がっていた。
その中心には男が二人。クマーとミルナの戦いは、クマーの一撃のもとに終結していた。
( ゚д゚ )「……無様なもんだろう」
( д )「こんなに弱いのに……おれはまだ、それでも、生きてやがる――――」
ふら、と風に吹かれて倒れ込む。
ミルナは意識を喪失し、そして動かなくなった。
( (エ) )「……か」
(;・(エ)・)「――勝った! やった! あああああああああ!!」
その傍らで諸手を上げて喜ぶ熊マスク。
既にミルナなど眼中にない。クマーはもう早く帰って寝たかった。
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- 770 名も無きAAのようです[sage] 2016/02/05(金) 11:02:59 ID:pjhP36rI0
( "ゞ)「おーおーやるやる。さすが。
つっても武神のお膝元に住んでんだ、こんぐれえ出来て貰わねえとな」
( `ハ´)「……助力したとはいえ、そちらの弟子も中々よの」
陥没の中に降りてきた二人は、クマーにそこそこの賞賛を浴びせた。
上記以外にまったく本当に何の賞賛もなかったので、クマーはかなり物足りなかった。
(;・(エ)・)「あーしんどい。あーしんど」チラチラ
( `ハ´)「……こやつの止め、私が貰っても構わんか?」
シナーは地面のミルナに槍の穂先を向け、今すぐ殺さんと槍に力を込めた。
しかしそこはデルタが止めに入った。
順序は入れ替えたが、デルタは荒巻の言いつけを守るつもりでいたのだ。
( "ゞ)「待ってくれ。こいつを殺すなら許可がいるんだよ。
そいつもウチの弟子でな、すぐ近くに居るんだ」
( `ハ´)「……構わん、待とう。この程度の男、いつでも殺せる」
槍を引き、シナーは踵を返す。
デルタは気絶したミルナを担ぎ上げると、満身創痍のクマーに一応声を掛けた。
( "ゞ)「お前は来るか? ドクオのとこ」
(;・(エ)・)「あー……疲れたので後で行きます。あとで」
(;・(エ)・)(早めに行くと五万返せって言われそうですし……)
( "ゞ)「あっそ。んじゃあ先に行ってるぜ」
こうしてミルナを容易く半殺しにした武人一同は、ミルナを連れてドクオの元へと走り出した。
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- 771 名も無きAAのようです[sage] 2016/02/05(金) 11:03:39 ID:pjhP36rI0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ところ変わってメシウマ、ステーション・タワー。
来客用の部屋でデミタスと今後の打ち合わせをしていた荒巻は、突然現れた敵意に戦慄を覚えた。
(´・_ゝ・`)「……どうした爺さん。急死するのか」
/ ,' 3 「……ちょっくら出掛けてくる。お前はカンパニー全員集めて迎撃しろ」
(´・_ゝ・`)「は?」
事実はシンプルに。
荒巻は今起こり始めた緊急事態を一言でデミタスに告げた。
/ ,' 3 「顔付きの連中が雁首揃えて来るぞ。数分後にな」
(;´・_ゝ・`)「――ハァ!?」
/ ,' 3 「ワシは素直クールを連れてレムナントに引っ込む。
殺し合いにはならんだろうが死ぬ気で戦ってほしい。では失礼」
パシュ、と呆気なく瞬間移動で姿を消した荒巻スカルチノフ。
訳も分からず取り残されたデミタスは、とりあえず
(´・_ゝ・`)
(´・_ゝ・`)「……ま、書類片付けてからでいっか」
緊急事態を後回しにした。
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