('A`)は撃鉄のようです

531 名も無きAAのようです[sage] 2013/12/15(日) 16:49:56 ID:lXN1hGMg0

≪1≫


 痛覚に刺激を感じ、横堀は脊髄反射で目を覚ました。

「眩しい」

(-@∀@)「起きたと同時に嘘を吐くな。お前サイボーグだろうが」

 会話に歯止めを掛け、横堀は目を動かして周囲を確認した。
 やけに目線が低い。

「……頭が痛い」

(-@∀@)「脳に痛覚はない」

「頭痛があるという意味だ」

(-@∀@)「それは幻痛。カッコよく言えばゴーストペイン、ファントムペイン。どっちかだ」

「……ここは技研だな。義体の換装はどの程度終わっている」

(;-@∀@)「……寝惚けてんのか? 義体の換装なんざ、こんな状況ですぐできる訳ねーだろ」

(-@∀@)「悪いが、こっちの手が空くまでは脳だけで居てもらうぞ」

 そう言われ、横堀はようやく自分が脳とその入れ物だけで机上に居ることを自覚した。
 連鎖し、記憶が想起されはじめる。レムナントの侵入者、黒フードの男、『ThisMan』。

「……早めに頼む」

(-@∀@)「心配するな。お前のチームは優秀だよ」


.

532 名も無きAAのようです[sage] 2013/12/15(日) 16:51:51 ID:lXN1hGMg0


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 横堀の世話を終えてロビーに出た途端、アサピーはそこで注目を浴びた。
 モナーとヘリカル、そして荒巻スカルチノフが、一様にアサピーの言葉を待っていた。

 アサピーは荒巻を一瞥してから話しだした。

(-@∀@)「問題ありません。頑丈なのがサイボーグです」

*(;‘‘)*(よかった……)

/ ,' 3 「ならば私は街に戻る。引き続き頼んだぞ」

( ´∀`)「あっ、お気をつけて、モナ」

 荒巻はそそくさと踵を返した。
 荒巻を見送りながら、ヘリカルがモナーに質問する。

*(‘‘)*「……何があったとか、話してくれないんですね。なんか距離感じます……部下なのに」

( ´∀`)「それが分かってるだけ荒巻さんに近い証拠モナ。
      この街の人は、あの人が何者かなんて殆ど考えてないモナ。何があったかは、後で本人に聞くモナ」

*(‘‘)*「……私、荒巻さんのことよく分かりません」

( ´∀`)「……あの人は今、非感染者をステーション・タワーまで避難させてるモナ」

*(‘‘)*「……どうやって?」

( ´∀`)「一人で徒歩で非感染者を守りながら」

*(;‘‘)*「……」

( ´∀`)「特課総出でもあの人には敵わない。事実はそれだけでお腹一杯モナ」

(-@∀@)「ま、興味本位で深淵を覗くもんじゃないってことだな」

 アサピーが会話に割り込んできた。
.

533 名も無きAAのようです[sage] 2013/12/15(日) 16:52:35 ID:lXN1hGMg0


(-@∀@)「んで、あんたらもそろそろ動くんだろ」

 上司が消えたのを良い事に、アサピーは体裁を崩して煙草をくわえた。煙草に火をつける。
 煙草の白煙が、空調の風によって左右に伸びていった。

*(‘‘)*「ええ。横堀さんにはもう頼れませんけど、事件の当てはどうにか」

( ´∀`)「うちはこれからカンパニーと合流して、レムナントの廃棄処理場に行くモナ。
      犯人は廃棄処理場に居る、可能性が高い。そういう結論モナ」

(-@∀@)「ふぅん……」

 カンパニーとは、技研と特課に続く第三の組織の通称だった。
 カンパニーはステーション・タワーを本拠地としており、同建築物の防衛を任されている。

 カンパニーは表向き観光案内所として機能する一企業だ。
 オフィスビルであるステーションタワーに入っている他企業との違いは、社員が一人残らず戦闘経験を持っているという点だけ。
 (ただしオフィスビルというのも表向きの話であり、実際は荒巻とカンパニーがタワーの全階を所有している。他の企業などない)


(-@∀@)「……おい、そういえばあの男はどこだ? まだ帰ってないだろ」

 アサピーは兄者のことを思い出しながら言った。

( ´∀`)「横堀が居ない今、肉体労働はアレの仕事モナ」

(-@∀@)「……あーん? ま、いいけどさ……」

 時刻は午後八時。
 夏の夕焼けは、もうすっかり夜の暗闇に塗り潰されていた。

.

534 名も無きAAのようです[sage] 2013/12/15(日) 16:53:15 ID:lXN1hGMg0


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 結論から遡って考えるに、横堀が出した指示は的確だった。

 横堀が指示を受け、モナーとヘリカルが行っていた“主要施設の消費電力調査”。
 この指示をした理由は、単に街の主要施設以外に光源の維持が容易な場所がなかったからだ。

 並の相手なら主要施設の電力が盗まれているという可能性は完全にゼロだった。
 しかし相手は技研にハッキングを仕掛けるほど情報戦に長け、なにより事実として街全体を効率的に破壊している。
 敵は無能ではない。横堀はそう判断し、電力泥棒の線を改めて探らせたのだ。

.

535 名も無きAAのようです[sage] 2013/12/15(日) 16:54:36 ID:lXN1hGMg0



 街の地下駐車場の一角に、長年駐車されたままの有蓋トラックがある。
 それは、流石兄者が個人的に用意しておいた簡易的な避難所だった。

( ´_ゝ`)(世話になるぜ)

 兄者はトラックの荷台に乗り込み、天井のライトを点けた。
 すると黒のオートバイが目の前に現れ、ライトの光を受けて艶やかに輝いた。

( ´_ゝ`)「さて……」


( ´_ゝ`)「それで、俺はどうすればいい」

 久し振りに来た避難所の様子を見回しながら、兄者はモナーからの通信に応えた。

『兄者には、今すぐマリスポの発電所に向かってほしいモナ』

( ´_ゝ`)「発電所……ていうとアレか。メガフロートの」

『こっちはこれからレムナントの方に行くモナ。カンパニーにはステーション・タワー内の捜査、警戒を要請済み』

( ´_ゝ`)「要所は絞れたみたいだな。流石だ」

『兄者が言うとギャグになるモナ。その言葉は弟にでも言ってあげるといいモナ』

( ´_ゝ`)「次会ったら言っとくよ」

 話しながら、兄者は腰を低くしてオートバイの点検を始めた。

( ´_ゝ`)「しかし敵が居る可能性はレムナントが一番高いだろ。お前大丈夫なのか」

『こっちはこっちで用意するから大丈夫。危ないのは兄者のほうだモナ』

( ´_ゝ`)「俺が危ない? それこそギャグだろ」

.

536 名も無きAAのようです[sage] 2013/12/15(日) 16:55:26 ID:lXN1hGMg0


『現在、街は感染者で溢れかえっているモナ』

『機動隊、陸自の抵抗あれど、感染者と非感染者の違いが分からない以上、軍隊も迂闊には動けないモナ』

( ´_ゝ`)「感染したと言っても見た目や行動に変化がある訳じゃあないからな。
      そんで唯一、半径7メートル前後に非感染者が入ってきた場合のみ、奴らは牙を剥く」

『そう。だから救助活動もまさに牛歩。こっちが危険を回避するなら、状況は膠着せざるをえない』


『まぁ簡潔に言って、もうそっちに人員は割けないという話だモナ』

『現状、唯一の避難場所であるステーション・タワーの守りを手薄にしてはならない』

『そういう意見が避難者から殺到。暴動を抑えるためにも、この事態は必要最小限の人員で片付けろと言われたモナ』

( ´_ゝ`)「……塔に逃げ込んだ金持ちがビビったか。課長はなんだって?」

『好都合だ。好き勝手に動け』

( ´_ゝ`)「同意見。俺は指示通りマリスポに向かう。通信切るぞ」

『もう一つあるモナ!』

 モナーが慌てて声を張る。
 手を止め、兄者は話の続きを待った。
.

537 名も無きAAのようです[sage] 2013/12/15(日) 16:56:23 ID:lXN1hGMg0


『初めまして』

 だが、続いてきたのはモナーの声ではなかった。
 知らない声だ。声には若さが窺えた。

( ´_ゝ`)「……誰だ?」

『カンパニーの者です。流石兄者さん、あなたには自分が同行します』

( ´_ゝ`)「お前の現在位置は技研だ。そこから俺の所に来るのに何分掛かると思ってるんだ?」

『自己紹介は会ってからします。それでは』

 一方的に言い切られたところで、通信がプツリと切れた。


( ´_ゝ`)「……」

 兄者は通信機を畳んで胸にしまい、訝しげな表情で振り返った。

( ´_ゝ`)「……ずいぶん足が速いんだな。寸前まで気付かなかった」

 振り返ると、そこには、カンパニーの制服を身に纏った少年の姿があった。

「いえ、あなたの感覚網には遠く及びません」

 少年は慎ましく受け答え、姿勢を正して流石兄者に向かった。

.

538 名も無きAAのようです[sage] 2013/12/15(日) 16:57:21 ID:lXN1hGMg0



<_プ-゚)フ「――カンパニーの、『エクスト・プラズマン』です」


.

539 名も無きAAのようです[sage] 2013/12/15(日) 16:58:01 ID:lXN1hGMg0

≪2≫


「いつまで続くんだかな、この夜は……」

 ステーション・タワーを囲む機動隊の一人が、仲間に向けて小言を漏らした。
 チームは二十人前後で三人の能力者を有しており、現在、ステーション・タワーに続く道路を封鎖中だった。
 駆り出された常駐警備車は十台。八車線の道路は完全に塞がれていた。

「朝食は出る。安心しろ」

 隊長が息を潜めて告げる。彼は能力者だった。

「このまま夜明け待ちか。感染者なんて今まで一人も来てないのに……」

「あいつら、どういう訳か塔から距離を取ってやがる。どういう訳か、な」


「……いや待て」

 そう言い、隊長は隊員達にハンドサインを見せた。
 チームは途端に散開し、前方を一斉に注視し始めた。


「……白のバン。あれは連絡が入ってるヤツだ」

 低速で接近してくる車両を見て、隊長はもう一度ハンドサインを出した。
 チームの雰囲気から、ふっと緊張感が抜ける。

「バリケードを動かせ。特課員のお通りだ」

 それから少しして警備車が動き、バンが通れるだけの道が開いた。
 バンはゆっくりと警備車の隙間を抜け、タワーに向かって加速していった。

.

540 名も無きAAのようです[sage] 2013/12/15(日) 16:58:41 ID:lXN1hGMg0


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        第九話 「面汚しの夜 その4」

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541 名も無きAAのようです[sage] 2013/12/15(日) 16:59:21 ID:lXN1hGMg0


 ドクオはステーション・タワーを見上げた。
 煌々とライトアップされたタワーの全貌は、田舎者のドクオにはかなり高圧的な建物に見えた。

(;'A`)(……これを上るのか……)

 心臓の鼓動が、地団駄を踏むように全身に響いていた。
 
(;'A`)(……とにかく入ろう。流石兄者の車に入ってたゲストカードで入れるだろ)




('A`)(問題は、アイツだ)

 喉に引っかかっていた緊張と不安が、ストンと腹の底に落ちた。
 戦いを前に心情がリセットされたのだ。冷静さを取り戻し、ドクオは再度、状況を確認した。


 彼は今、タワー前の木陰に身を隠しながら、タワー周辺の様子を窺っていた。
 タワーの外周に人影はない。
 恐らく、外に多数の人間を配置するのは危険だと指揮官が判断したからだ。

 『ThisMan』に感染すれば味方だろうと即時敵となる。味方が敵になれば、人情が揺らぎ動揺が生まれる。
 そういった不確定要素は何を仕出かすか分からない。ここの指揮官はその不確定要素を排除したのだ。
 敵は無能じゃない。ドクオはそう判断し、慎重に慎重を重ねることにした。
.

542 名も無きAAのようです[sage] 2013/12/15(日) 17:00:05 ID:lXN1hGMg0


 そこで問題というのは、現在、タワー周辺および一階玄関ロビーを守る、たった一人の男の存在だった。

 男はロビー中央に座り込んで腕を組んだまま、うとうとと眠っていた。
 その隣りには、鞘に収まった刀が無造作に置いてある。
 服装こそカンパニーの制服であるが、間違いなく剣士だ。
 武神シラヒーゲに似た雰囲気がある。

(;'A`)(剣士は眠らねぇ……この範囲を一人で守ってんなら、まず間違いなく見えてる)

(;'A`)(少なくともあの室内、一階の全域。下手すりゃ外に居ても気付かれる)

(;'A`)(でも裏口とかダクトとか、忍び込めそうな場所は完璧に塞がれてカメラ設置済みだったし……)

 ドクオは冷や汗を垂らし、生唾を飲んだ。

(;'A`)(……『正面突破してこい』か。だからこそアイツが問題なんだ……)



.

543 名も無きAAのようです[sage] 2013/12/15(日) 17:01:10 ID:lXN1hGMg0




 ――男はドクオの存在に気付いていた。



((( )))
( ´Д`)(……子供、にしては気配が丸い。上手く殺している……)


 彼は名前を持っていなかった。
 カンパニーに入る以前は流浪の剣客だった彼は、そもそも名前を自称する必要がなかった。
 それがカンパニーに身を置き、リーダーに名前を要求されてからは、彼はあらゆる場面で『一』を自称していた。

 由来は彼が持つ刀――“直刀”。彼が持つ直刀という種類の刀は、その刀身を完璧な真一文字に仕上げられている。
 彼が自称する『一』とは、例えこの身が世俗に揺らめこうと、決して心を曲げず、直刀の身に相応しくあろうという決意なのだ。
 己が信念を委ねた刀の一文字。その重みは、誰よりも彼が知っている。


((( )))
( ´Д`)(……)

 腕を組み、死角となった彼の手の内には、小型のモールス信号発信機が握られていた。
 彼はそれをトン、トンと二回だけ叩き、上層の司令室に合図を送った。
 合図の意味は『影有り。要確認』。

 発信機を操作する動きはうたた寝に紛れ込ませたので、外のドクオには気取られなかった。
 ただでさえ距離があり、死角の中で、おまけに迷彩まで掛けられた動作だ。ドクオでなくても大概の人間は気付けない。

.

544 名も無きAAのようです[sage] 2013/12/15(日) 17:02:23 ID:lXN1hGMg0


 信号を送ると、片耳に付けたイヤホンがすぐに起動させられた。
 このイヤホンは遠隔操作で勝手に操作される代物だった。
 彼はこれを不愉快に感じていたが、指示には従うのが部下の務めだ。


『確認した。捕まえて端に寄せておけ』


((( )))
( ´Д`)「……それは敵として、あるいは迷子の子供として」

 限りなく小さな声で、口の動きを最小に抑えて言った。


『邪魔者としてだ。あのガキはどっちでもない』



((( )))
( ´Д`)「……敵ではない、と」

『……』



.

545 名も無きAAのようです[sage] 2013/12/15(日) 17:03:04 ID:lXN1hGMg0




 その時、タワーの正面入り口であるガラス扉が、来訪者に反応して行儀良く道を開けた。


( A )

 茶色のジャケット、両手の黒手袋に握られた二つの銃。決意と敵対を含んだ鋭い双眸。
 前進を止めず、立ち向かうことを決め、逃げ道から逃げてここまで来た男。

('A`)「……道が一つなんざ当たり前のことだからな」


(#'A`)「やりゃあイイんだろ正面突破……」



((( )))
( ´Д`)「これほどの……」

 彼は言葉を続けながら、ドクオの敵対に応じるため腰を上げた。
 刀を鞘から抜き出し、脇に構えて前に出る。


.

546 名も無きAAのようです[sage] 2013/12/15(日) 17:04:34 ID:lXN1hGMg0


(# A゚)

 ドクオの威嚇するような目が『一』を睨んで光る。
 途端ドクオは走りだし、『一』との間合いを一気に詰めた。


((( )))
(; ´Д`)「これほどの敵意の持ち主が!! 敵じゃない訳ないでしょう!!」

 『一』はイヤホンを捨て、目の前の敵に全てを集中した。


((( )))
(; ´Д`)(捕獲……不殺は手こずるぞ……)

 既に二つの銃口がこちらを向いていた。
 『一』は床を蹴り、咄嗟にその場から飛び退いた。
 一瞬遅れて、『一』の居た場所を弾丸が穿った。

(#'A`)「チッ!!」

(#'A`)「どいてろ金髪リーゼント!! てめぇに用はねえ!!」

((( )))
(# ´Д`)「後光!!」

 『一』がそう叫んだ瞬間、彼が携える刀――“直刀後光”が燦然と輝き始めた。
 すると能力者が能力を発動した時と同じように、周囲の照明が激しく点滅した。

.

547 名も無きAAのようです[sage] 2013/12/15(日) 17:05:48 ID:lXN1hGMg0


 “直刀後光”の輝きに目を眩まされている内に、ドクオは『一』を見失っていた。
 しかし、頭上に気配を感じられた。

(;'A`)(やっぱ能力者か!)

 反応して見上げると、『一』が光を纏った刀を構えて飛びかかってきていた。
 反発直感が警鐘を鳴らす。回避する余裕はまだあるが、今のドクオはここで退くような生半可な男ではない。

 ドクオは銃を捨て、耐切創の手袋をつけた両手を後光の刀身に突き出した。

((( )))
(; ´Д`)(正面から受け止めッ……!?)

 光を纏った“直刀後光”がドクオの両手の平に接触する。
 同時に後光の刀身から光が噴出し、二人は一瞬にして光の激流に飲み込まれた。


.

548 名も無きAAのようです[sage] 2013/12/15(日) 17:06:47 ID:lXN1hGMg0

≪3≫


ξ;゚⊿゚)ξ「うそっ! もう始めてる!」

 この状況にはそぐわない、どこか上品で気高さすら感じさせる女性の声。
 彼女はロビー二階の手摺に駆けつけ、そこから身を乗り出して階下を凝視した。


ξ;゚⊿゚)ξ(あんな子供相手に後光を……?)

 “直刀後光”が生み出す光の領域が、今まさにロビーの中央に展開されていた。

 そして、光の中を二つの影が駆け巡っていた。
 二つの影は激しくぶつかり合い、交差するごとに火花を散らして疾駆する。

 『一』は後光を全開にしている。
 同僚である彼女には、それがすぐに理解できた。


「ツンさん、介入しますか?」

 カンパニーの制服の男が声をかける。
 男は一部隊の隊長であり、その後ろには十名の武装隊員が続いていた。
 彼らは『一』の連絡を受け、応援に駆けつけたのだ。

.

549 名も無きAAのようです[sage] 2013/12/15(日) 17:07:27 ID:lXN1hGMg0


ξ゚⊿゚)ξ「……いえ、皆さんはここで待機しててください」

 ツンと呼ばれた女性は振り返り、隊長と隊員達を一望に収めた。

ξ゚⊿゚)ξ「ただし万が一に備え、あの少年を包囲する準備だけはお願いします。
      確保と言われてますから、くれぐれも取り逃がさないように」

 皆さんは、という言い回しから、隊長はツンの思惑を悟った。

「まさかあそこに一人で飛び入る気ですか? 危険です、せめて援護射撃を……」

ξ゚⊿゚)ξ「子供の相手は数より質。それじゃあ、行ってきます」

 ツンは手摺に腰を掛け、重心を後ろに傾けた。
 彼女の体が、するりと空中に投げ出された。


.

550 名も無きAAのようです[sage] 2013/12/15(日) 17:08:08 ID:lXN1hGMg0


ξ;゚⊿゚)ξ(双決闘、力を借りるわよ)

 彼女はロビーの一階に着地した。

 目の前には、球状に広がる光の領域。
 そして彼女の両隣りには、二人の剣士が具現化されていた。

ξ;゚⊿゚)ξ(1さん一人で互角か。一撃で仕留めないと長引きそうね……)

ξ;゚⊿゚)ξ(……まずはあの領域を破壊する)

 ツンは二人の剣士を引き連れ、光に向かって走り出した。

.

551 名も無きAAのようです[sage] 2013/12/15(日) 17:08:48 ID:lXN1hGMg0


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 大きく後ろに飛び退いたところで、ドクオは小さく軽口をたたいた。

(;'∀`)「どうした能力者、大したことねーぞオイ……」

((( )))
(; ´Д`)(……どうしたものか)

 『一』――皆に1さんと呼ばれている彼の刀、“直刀後光”には超能力がある。
 周囲の光を吸収し、それを燃料に光を生み出し操る能力。
 今二人を包んでいる光の領域は、1さんではなく“直刀”後光の能力だ。

 だが、その能力があってもドクオは1さんと互角だった。
 反発直感、反射照合、簡潔な実行。
 武神に叩き込まれた三つの能力が、ドクオの地力を超能力と互角にまで引き上げていた。

(;'A`)(時間がない、さっさと倒して先に進まねえと……)

.

552 名も無きAAのようです[sage] 2013/12/15(日) 17:09:29 ID:lXN1hGMg0


「――1さん!」

((( )))
(; ´Д`)「ツンさんッ!?」

 1さんが外からの声に応えた瞬間、周囲を取り囲む光の領域に大きな亀裂が走った。
 亀裂はやがて全面に広がり、完全だった光の領域に綻びが生じた。


(;'A`)(――出られるッ!)

 ドクオは咄嗟に光の亀裂に拳銃を向け、そこに弾丸を数発撃ちこんだ。
 弾丸によって亀裂は更に広がり、外の景色が見える程になった。

('A`;)「じゃあな!!」

((( )))
(; ´Д`)「待てっ! 逃げるな!!」

 ドクオは両腕を眼前で交差させて光の亀裂に突っ込んだ。
 すると光はガラスのように砕け散り、ドクオは外の空間に飛び出した。

.

553 名も無きAAのようです[sage] 2013/12/15(日) 17:10:48 ID:lXN1hGMg0


('A`;)(アイツが追ってくる前にエレベーターまで行く!)

 ドクオは視線を前に戻した。すぐ目の前にエレベーターが見える。
 十機ほどある内の一つが一階で停止していた。ドクオはそのエレベーターに進路を定めた。



 が、その進路は不意に飛び込んできたものによって遮られた。
 赤の鎧を着た、サーベルを振りかぶった剣士。

『決闘ヲ! 申シ込ム!!』

(;゚A゚)(ここで新手ッ……!)

 不意をつかれた一瞬の遅れ。
 寸前で片腕を防御に回すも、剣士のサーベルはドクオの防御ごと彼の脇腹を薙ぎ払った。
 ドクオの小さな体は、煙のように壁際まで吹き飛ばされた。



((( )))
(; ´Д`)(……決闘者の片割れ……)

 1さんが赤鎧の剣士と、それに吹き飛ばされたドクオをそれぞれ一瞥する。
 1さんの隣りに、ツンがもう一人の剣士を連れて歩いてきた。

ξ゚⊿゚)ξ「手荒だけど、これで勝ち」

((( )))
( ´Д`)「……」

 渋々とした顔で、1さんがツンを見る。

ξ゚⊿゚)ξ「……武士道に反したかしら? それなら時代遅れよ」

((( )))
(; ´Д`)「わざわざ嫌味を言わないで」

 1さんは後光の能力を解除し、刀を鞘に収めた。
 だが、この戦いで燃焼しきらなかったものは、今も胸中でざわついたままだった。

.

554 名も無きAAのようです[sage] 2013/12/15(日) 17:11:28 ID:lXN1hGMg0


((( )))
( ´Д`)(……彼の動きに武神の影を見たが、まさかね……)

 1さんはドクオのことを思案した。
 思わずドクオの方を見ると、二階から下りてきた部隊がこの機を逃さんとばかりにドクオを取り囲み始めていた。

 その様子を見ると、胸のざわつきが急に鈍くなった。
 完全に決したこの状況に興が醒めたのだ。

 1さんはしばし沈黙してから、ドクオに背を向けた。

((( )))
( ´Д`)「先に引きます。ここの番は誰か別の方に」

 1さんはツンにそう伝え、エレベーターに乗ってどこかへ行ってしまった。。


ξ゚⊿゚)ξ「……変なの」

 呟き、ツンは隊員達に近づいた。
 隊員達の包囲の向こうからは、獣のような呻き声が微かに聞こえてきていた。

.

555 名も無きAAのようです[sage] 2013/12/15(日) 17:12:17 ID:lXN1hGMg0



(; A )「クソが……ッ!!」

(; A゚)「俺に寄るんじゃねえぞ……!!」

 ドクオは壁に片手をついて立ち、もう片方の手で包囲網にナイフを向けていた。
 だがその息は荒く、脇腹からは血が滴っている。
 赤鎧の剣士の一撃は、ドクオが着込んでいたボディアーマーを超えて彼の脇腹をすっぱり切り裂いていた。


ξ゚⊿゚)ξ「はいはい」


 ドクオに銃口を向けたままの包囲網が、一人の女性の為に隙を作った。
 その隙から包囲を突破できそうにも思えたが、ツンの後ろに控える二人の剣士が、その考えを霧散させる。


ξ゚⊿゚)ξ「身分証明とかできる?」

 ツンはドクオの前に立ち、目を細めて彼を見下した。


ξ゚⊿゚)ξ「非常事態なのは分かる? 自分が何をしたかは?」

(;'A`)「……てめえかよ、さっきの……」

 痛みに耐えかね、ドクオは壁に背中を預けた。
 そのまま、床までずるずると腰を落とす。

(;'∀`)「大したもんじゃねぇか……ンな貧相ってか華奢な体でよ、つえーんだな……」

ξ‐⊿‐)ξ「……意識はハッキリしてる。饒舌にもなった。でも質問には答えない」

 ツンは貧相というか華奢な胸のところで腕を組み、改めて結論を口にした。

ξ゚⊿゚)ξ「つまりバカ。それも特級」

.

556 名も無きAAのようです[sage] 2013/12/15(日) 17:13:39 ID:lXN1hGMg0


ξ‐⊿‐)ξ「……適当な部屋に閉じ込めおきましょう。後のことは上に任せるわ」

 ツンと部隊長が軽く目配せする。
 部隊長は無言で答え、部下二名と共にドクオに近づいた。


「痛いだろ、応急処置はするから安心しろ」

(;'A`)「……ああ、でもその前に湿布張ってくれよ……腕のポケットにあるから……」

「腰のバッグとかも預かるぞ。子供のくせに銃やら何やら、世も末だな……」

(;'A`)「……世も末だと?」

 脂汗を滴らせながら、ドクオは顎を上げて笑った。


(;'∀`)「ハッ……。これだけ便利で平和な場所が末か、まるでどっかのカエルだな」

「そいつは井の中に居るっていうアレか? 自惚れ屋が飼ってる慢心ガエル。特技は自滅と逆ギレだ」

(;'∀`)「……あんた面白いな……」

「世の中そうそう上手く行かねぇよ。現実は、お前にはちと強すぎる敵だったな」

.

557 名も無きAAのようです[sage] 2013/12/15(日) 17:14:27 ID:lXN1hGMg0


 それから十秒と経たずして、ドクオの体が脱力して横に傾いた。
 部隊長はそれを支えてやった。ゆっくり床に下ろし、振り向いて部隊に指示を出す。


「徹底的に身ぐるみ剥いで拘束するぞ。あと騙されるなよ。腕のは湿布じゃなくて爆弾だ」

 部隊長の一言で部隊が行動を開始する。
 ドクオの手足はすぐに錠によって固められた。


ξ‐⊿゚)ξ「……死なない?」

「……1さんとの戦闘、おまけに決闘者の一撃。無能の身でよく耐えたものです」

 隊員の一人に背負われ、ドクオが運ばれていく。
 見送りながら、部隊長は一つだけ呟いた。

「あれで死なない子供が居るなんざ、世も末だな……」

「どんだけ末なんすかこの世は」

 隊員の一人が呆れて野次を飛ばした。
 隊長はそれを言った隊員を鋭く睨んだ。

「俺が言う世も末っていうのは世界の末端、つまり最先端って意味だ。あのガキは時代を作るぞ」

「……深い、ですね……」

 実のところよく分かってなかったが、野次を飛ばした隊員は取り合えず神妙な顔を作ってその場を凌いだ。

.

558 名も無きAAのようです[sage] 2013/12/15(日) 17:15:43 ID:lXN1hGMg0


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 真っ暗闇の海の上。そこに浮かび、燦然と照らされた人工島。
 破壊されれば大陸の三割が光を失う主要発電施設――

( ´_ゝ`)「あそこに『ThisMan』の産みの親が、ねぇ……」

 流石兄者とエクスト・プラズマンは、発電所から遠く離れた駐車場に拠点を構えていた。
 今は夜で暗いが、ここは見晴らしがよく海と発電所が一望できる良い場所だった。
 こんな場所なら日中は混むに違いない、と兄者は思った。

 兄者は突入に備え、コンクリートに座って夕食を頬張っていた。
 夕食は、道中で買ったコンビニ弁当だった。

( ´_ゝ`)「どうだい相棒、唐揚げ一個」

 そう言い、箸でつまんだ唐揚げをエクストのほうに向ける。
 棒立ちで沈黙していたエクストが、その唐揚げを一瞥した。

<_プ-゚)フ「……どう思いますか」

( ´_ゝ`)「何がだ? まぁ食えよ。唐揚げが好物なんだろ? 食えって」

 今度はコンビニ弁当のトレーごと差し出す。
 するとエクストは誘惑に負けたのか、小さく「頂きます」と呟き、弁当を受け取って食べ始めた。

.

559 名も無きAAのようです[sage] 2013/12/15(日) 17:16:24 ID:lXN1hGMg0


( ´_ゝ`)「どう思うか、って質問だったな」

 重々しく立ち上がり、兄者は先程の質問に答え始めた。
 エクストは既に弁当を食べ終えていた。

( ´_ゝ`)「まず終わらないだろうな。たとえ『This Man』の主犯を捕まえても」

<_プー゚)フ「……裏があるとか。あとこれ美味かったっす」

( ´_ゝ`)「裏どころじゃない。面が二つだけなら楽なもんさ。……だろ? コンビニもバカにはできねぇんだ」

 兄者は大きく深呼吸をしてから、煙草に火をつけた。


( ´_ゝ`)「さっさと終わらねえかなぁ……」

<_プ-゚)フ「……」

 彼らは夜風になびく白煙を眺めた後、

( ´_ゝ`)「いけるか?」

<_プ-゚)フ「はい」

 短く言葉を交わし、駐車場を後にした。

.

560 名も無きAAのようです[sage] 2013/12/15(日) 17:17:51 ID:lXN1hGMg0

≪4≫



 マニーは机に広げた手帳にペンを走らせていた。
 それは数分、数十分、数時間と続いている行為だった。

 施設周辺の投光器がぼんやりと室内を照らす。
 時折強い光が部屋に差しこんでくるも、マニーの集中力はそれを意に介さなかった。

 最高の時間だ。最早何物にも代えられない私だけの時間だ。
 マニーはそんな事を思いながらペンを置き、手帳を閉じた。


¥・∀・¥「……今日は良い日記が書けた」


 独り言を呟いたのは、己の感覚を紙面から引き離すためだった。
 いわく、深淵を覗く時――だ。この行為をすることで、彼は現実感というものを取り戻す。


.

561 名も無きAAのようです[sage] 2013/12/15(日) 17:18:31 ID:lXN1hGMg0


¥・∀・¥「なんだい、やけに曇った表情じゃないか」

 マニーは椅子を回転させ、背後の男に微笑みかけた。
 その男は『This Man』の協力者であり、つまり、マニーこそが、今日の全てを演出した便宜上の『ThisMan』だった。


¥・∀・¥「しかし君に表情なんてものがあったとはね。君は無表情極まりないから意外だ」

「……俺を何だと思っている」

 そう言い、協力者は腕を組んだままそっぽを向いた。

¥・∀・¥「さあ? 君は一体何だ?」

 その口調は煽るように芝居じみていた。
 協力者が初めて見せた具体的な表情にそそられ、彼も反射的に煽ったのだ。

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562 名も無きAAのようです[sage] 2013/12/15(日) 17:19:53 ID:lXN1hGMg0


¥・∀・¥「……しかし、私という存在は今日で終わりだ」

 マニーは手帳を持って立ち上がり、協力者に手帳を差し出した。

¥・∀・¥「彼を出迎えてくる。この手帳は君に預ける」

「分かった。受け取ろう」

¥・∀・¥「いいか間違えるなよ『預ける』だ。私が消えてもこれは私の物だ」

 彼は捲し立てて言い切った。

¥・∀・¥「……さようならだ」

 半ば押し付けるように手帳を預け、マニーは協力者から離れた。


「……遺言は」

 協力者の問いに、マニーは少し考えてから開口した。

¥・∀・¥「死なば諸共おつりも残さず、だ」

¥・∀・¥「じゃ、行ってくる」

 マニーは小さく手を振り、最後に微笑みを残して部屋を出て行った。

.

563 名も無きAAのようです[sage] 2013/12/15(日) 17:20:33 ID:lXN1hGMg0




「……」

 一人になった協力者は窓から外を覗いた。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

   (; ´_ゝ`)
                          ┝◎━::|
         <_;プー゚)フ

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 すると、二人の男と警備ロボットの戦闘の様子が目に映った。
 戦闘は激しく、特に制服の男の動きは、今にも足元から影が千切れそうなほど高速だった。

 どちらかというと、協力者はそんなのと渡り合っているロボットの方に驚いていた。
 あまり高性能ではないだろうと高を括っていたのだが、存外役に立っている。


「じゃ、行ってくる、か」

「まったく未練がましくて最高の遺言だな」

 やがて彼の背後の暗闇に、暗闇よりも黒いものが渦巻き始めた。

 協力者は外を見るのを止め、黒い渦の中に足を踏み込んだ。
 渦の中に協力者の姿が消えていく。

 黒い渦は、周囲の暗闇に霧散して無くなった。

.

564 名も無きAAのようです[sage] 2013/12/15(日) 17:21:14 ID:lXN1hGMg0

≪5≫


 発電所敷地内の路上で、エクストは眼前の敵を睨んでいた。
 周囲には平べったい造形の発電施設が点在し、道路以外の地表には芝生が敷かれていた。


|::━◎┥

 歯車王は赤い単眼を光らせながら、マシンガンの銃口をエクストに向けたまま静止している。
 戦闘が始まって既に数分。エクストの能力は、すでに歯車王に認知されてしまっていた。


<_プ-゚)フ「……先へ進みましょう」

( ´_ゝ`)「おう」

 だが、例え銃口を向け能力解析済みであろうと、もうとっくに粗方破壊され機能不全となった今の歯車王は鉄屑に過ぎない。


( ´_ゝ`)「相手が悪かったな」

 兄者がここぞと前にでて歯車王の肩をポンと叩く。
 それを引き金に、歯車王の全身は跡形もなく崩れ落ちてしまった。

.

565 名も無きAAのようです[sage] 2013/12/15(日) 17:21:56 ID:lXN1hGMg0


( ´_ゝ`)「あーらら壊れちったよコレ……」

 兄者は足元の残骸を一瞥してからエクストに顔を向けた。

( ´_ゝ`)「しっかしお前けっこうやるんだなぁ。どうだ? 特課に来くるとか」

<_;プー゚)フ「……カンパニーには色々助けられてるので……」

( ´_ゝ`)「冗談。でもこれ終わったら連絡先教えてくれよ」


( ´_ゝ`)「お前にはちょっと話が――」

 そのとき、施設周辺の投光器が一斉にガタンと音を立てた。

<_;プ-゚)フ「なんだっ!?」

(; ´_ゝ`)「……いわゆる『お出まし』ってヤツだろうよ」

 投光器は揃って軌道を変え、兄者達の目の前に光を収束させた。

 それによって彼らの目の前に出来た明るみは、まるで大きな光の塊であった。
 急激な明暗の変化に、彼らはぎゅうと目を細めた。

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566 名も無きAAのようです[sage] 2013/12/15(日) 17:22:55 ID:lXN1hGMg0


<_;プ-゚)フ「誰か居ます……」

( ´_ゝ`)(先手だけは取っておくか……)

 兄者は投光器の光を吸収して能力を発動した。
 片手を軽く握り、あらためて開く。
 兄者の手の平に、半透明の小さな球体が具現していた。

 能力名『リスキーシフト』。
 球体の内側に入った人間の思考と存在を知覚する能力であり、これを知る者はリスキーシフトを『感覚網』と称している。


( ´_ゝ`)「エクスト、俺の能力は知ってるな」

<_;プ-゚)フ「はい」

( ´_ゝ`)「これの内側が思考を読まれる範囲だ」

 兄者は前方に注意を向けたまま、手の平に浮かぶ透明な球体――リスキーシフトをエクストに見せた。

( ´_ゝ`)「今からこれを拡大する。分かるか? お前ごと、目の前の敵を知覚する。
      自分の頭を覗かれたくなければ今すぐ下がれ。運良くお前は逃げ足が速い」

<_;プ-゚)フ「……」

( ´_ゝ`)「まぁ一通りの事情はデミタスから聞いてる。そしてアイツには事情を聞かされた上で、口封じもされてる。
      俺の秘密もアイツに握られてんだ。だから何があってもお前の考えは誰にも漏らさない。無論、デミタスにもだ」

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567 名も無きAAのようです[sage] 2013/12/15(日) 17:23:43 ID:lXN1hGMg0


 エクストはほんの一瞬考え、その結論として小さく笑った。
 無意識の内に俯いていた顔を上げ、エクストは言った。

<_;プー゚)フ「……そこまで知られてたら体裁取り繕う意味もねぇか」

 エクストは表情を緩めた。若者らしい清々しさが顔に浮かぶ。


<_;プー゚)フ「あとで色々話がしたい」

( ´_ゝ`)「だから言ったろ『話がある』って」

 兄者はリスキーシフトを一気に拡大した。
 球状の知覚範囲が、発電所の全域を包み込んだ。

 リスキーシフトは拡大しただけ知覚精度が落ちるが、その知覚範囲はいつでも変えることが出来る。
 よって、戦いの中で適宜知覚範囲を調整していくのが盤石というものだ。
 兄者は、まずは半径500メートルの知覚で様子見することにした。



「やぁやぁ素晴らしく素晴らしい噛ませロボットだったね」

 兄者の戦闘態勢が整った直後、投光器の光の中から声が聞こえてきた。
 リスキーシフトは、既にその人物の思考を読み取りにかかっていた。

( ´_ゝ`)(一人、こいつ一人だ。発電所には俺らを含んで人間は三人。
       こいつの頭を読んだ限りじゃ、もうロボットも控えていない――)

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568 名も無きAAのようです[sage] 2013/12/15(日) 17:24:23 ID:lXN1hGMg0


¥・∀・¥「――まぁ私自身も誰彼の噛ませなのだ。鼻で笑ってくれたまえ」

 光から出てきたのは、二十歳ほどの若い容姿の男だった。


( ´_ゝ`)(名前は、マニー……妻子なし、家族なし、能力、金融焦土……)

 次々とマニーの情報を読み取り、さらに思考の深層へと潜り込む。

 すると瞬間、リスキーシフトがマニーの深層心理の一片に接触(アクセス)した。
 マニーという人間の根幹が、能力を通じて兄者の頭に逆流してくる。
 じりじりと焼けるような感覚を伴い、マニーの思考が自分の脳に焼きついていく――。


( ´_ゝ`)(……茶番か)

 兄者は思考の深読みを止め、冷静に頭の中で結論付けた。

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569 名も無きAAのようです[sage] 2013/12/15(日) 17:25:06 ID:lXN1hGMg0



¥・∀・¥「まず邪魔者を排除する」

 脈略なく、マニーは片手を上げてそう言った。
 その手の人差し指と中指には、真っ黒なキャッシュカードが挟まっていた。


¥・∀・¥「上限70億、対象『流石兄者』――」

 マニーの言葉を発端に、施設外壁の投光器から注がれる光に異変が起こった。
 光という実体のないものが、マニーのカードを中心に螺旋を描き始めたのだ。

 塊を形容していた大量の光の全てが、たった一枚のカードに吸い込まれてゆく。
 この状況の危機を先に察知したのは、やはり流石兄者のほうだった。


(; ´_ゝ`)「おい逃げるぞ!!」

<_;プー゚)フ「なんッ!?」

 マニーの行動を逸早く悟った兄者はためらいなく踵を返した。

(; ´_ゝ`)「全速力で逃げるんだよ! この野郎はバケモノだ!!」

<_;プー゚)フ「分かった背中に乗れ! どこまで走ればいい!!」

 エクストも能力を発動してひるがえった。
 彼の両足には、膝まである流線型の装甲が具現していた。

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570 名も無きAAのようです[sage] 2013/12/15(日) 17:25:49 ID:lXN1hGMg0


(; ´_ゝ`)「どこまでも突っ走れ!!」

 兄者が叫んでエクストの背中に飛び乗る。


<_;プー゚)フ「あいよ!!」

 その直後にエクストが最速で走り出す。


¥・∀・¥「――『スキル・デフレイション』」

 マニーが掲げていた片手を振り下ろす。


 全ての動きがドミノ倒しのように連鎖し、兄者とエクストの戦いは幕を閉じた。

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571 名も無きAAのようです[sage] 2013/12/15(日) 17:26:30 ID:lXN1hGMg0







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572 名も無きAAのようです[sage] 2013/12/15(日) 17:27:22 ID:lXN1hGMg0




 夜風が戦いの空気を一掃していく。
 投光器の光もほとんど使いきってしまい、今やマニーを照らす投光器は一つだけだった。


¥・∀・¥「自動追尾かつ、ほぼ無限のスタミナを持つハイエナを送った」

¥・∀・¥「まったく酷い奴だ。あんな噛ませを送り込んで時間稼ぎだなんて」

 彼は舞台上の演者のように笑い、暗闇に向けて深々とお辞儀をした。




/ ,' 3 「今夜は西へ東へ大忙しだ」

 荒巻スカルチノフの声がしたのは、マニーがお辞儀したのとは反対の方向だった。

¥・∀・¥「これは、これは……」

 マニーは居直り、後ろの荒巻と向かい合った。

¥・∀・¥「どうにも御老体には厳しいスケジュールだったらしい。大変、失礼」

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573 名も無きAAのようです[sage] 2013/12/15(日) 17:28:31 ID:lXN1hGMg0


¥・∀・¥「さてと我が本命たる荒巻スカルチノフよ、今宵の茶番劇はお気に召されたかな?」

 マニーはもう一度荒巻に頭を下げた。
 頭を下げたまま、彼は言葉を続ける。

¥・∀・¥「この為だけに有り金全てをぶつけました。『ThisMan』、手練の刺客、その他諸々……」

/ ,' 3 「ああ。どれも水泡に帰した」

 荒巻が一言で返すと、マニーは大仰に両手を広げ、胸を張った。

¥・∀・¥「それでいい! 全てが水の泡でいい! 泡銭で大いに結構!」

¥・∀・¥「だがしかし、これらの些事で貴方はどれだけ消耗した?」

¥・∀・¥「天に聳えて全てを穿つ。名実共に化け物染みた貴方はあとどれだけ戦える?」


/ ,' 3 「……小言の好きな老人だな。で、どうする? お前にはワシが絶体絶命に見えるんだろう」

¥・∀・¥「言われずとも。今のお前など最早敵ではない」

 マニーはゆっくりと歩き出した。
 その周囲に、無数のキャッシュカードを展開させながら。


¥・∀・¥「荒巻スカルチノフ。我が尽力と全財産をもって、貴方を冥府の底に沈めよう」

/ ,' 3 「西へ東へ今度は冥府ときた。とんだ小旅行だな。皆に土産が要るようだ」

¥・∀・¥「土産? ならば私から石っころをプレゼントだ」

 周囲のカードを一枚手に取り、マニーはニマーと歪に嘲笑した。

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574 名も無きAAのようです[sage] 2013/12/15(日) 17:29:46 ID:lXN1hGMg0


¥・∀・¥「上限ナシ、対象『荒巻スカルチノフ』……もう迷いはない。荒巻、お前を止めるのは私だ」

/ ,' 3 「ワシは、平和な今に留まっていたいと願うような脆弱な人間ではない」

¥・∀・¥「今更話し合う気はお互い無いだろう……。
       さらばだ。今夜どちらかが死ぬ。今生の別れだ」


 そのとき、彼らの上空に太陽が出現した。

 実際には、それは太陽のように灼熱を纏った岩――隕石だった。
 数は多数。目視だけで二十はある。それら隕石の全てが、荒巻とマニーの居る発電所へと落下してきていた。

¥・∀・¥「去らば友よ、然らば死ね」

/ ,' 3 「くだらん」

 マニーの言葉を一蹴し、荒巻は手に持っていたサーベルを夜空に向けて一振りした。
 一瞬、時が止まったような錯覚がマニーの体を縛った。


¥;・∀・¥「なっ……!!」

 そして気がついた時には、天上の隕石は一つ残らず真っ二つに裂けていた。
 まるで灯篭の火を吹き消すかのように、荒巻は全ての隕石を切断して見せたのだ。

¥・∀・¥「……化け物め」

 切断されて隕石としての形を失い、超能力の効力を失った隕石群は、元の形――幾千億円分の紙幣に戻った。
 大量の紙幣はヒラヒラと空中を舞い、やがて能力の対価として消えていった。

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575 名も無きAAのようです[sage] 2013/12/15(日) 17:30:26 ID:lXN1hGMg0


/ ,' 3 「死ぬ気があるなら本気で来い。石ころの相手なぞさせるな」

¥・∀・¥「……結構。大いに!」

 マニーはそう言い、先駆して荒巻に迫った。
 同時に、荒巻の姿が視界から消えた。

 マニーは戦いの火蓋を切って落とした。
 切って落とせば業火に見舞われる火蓋だということは、彼自身も分かっていた。


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576 名も無きAAのようです[sage] 2013/12/15(日) 17:31:55 ID:lXN1hGMg0


¥#・∀・¥「どうした荒巻、ノロイぞ!!」

 マニーは振り返りながら周囲のカードを取り、それを突き出した。
 カードは、背後に迫ってきていたサーベルの刃を受け止めた。

¥#・∀・¥「……考え直せ」

/ ,' 3 「止まる気はない」

 マニーのカードと荒巻のサーベルの力は互角だった。
 マニーは逸早く飛び退き、次のカードを構えて荒巻を見据えた。


¥#・∀・¥「10億、『ホワイトナイト』!!」

 雄叫びながらカードを空に投げる。
 すると、カードは空中で強い光を纏って人型に変化した。

/ ,' 3 「白騎士、ホワイトナイト……」

¥・∀・¥「こいつの相手は久し振りだろう」

 光が徐々に収まり始め、人型の全貌が露になってくる。
 それは、針のようなレイピアを正中線に構えた、白い甲冑の騎士であった。

.

577 名も無きAAのようです[sage] 2013/12/15(日) 17:34:41 ID:lXN1hGMg0


¥#・∀・¥「やれ」

(  )「御意に」

 白騎士はレイピアを一振りし、全力で地面を蹴りだした。
 荒巻もサーベルを構え、白騎士の突進に備える。


 突進の勢いのまま、白騎士はレイピアを突き出した。
 目、眉間、五臓六腑。一撃が致命傷となる箇所を、刹那の一瞬に凝縮してほぼ同時に刺突する。
 常人ならばまず避けられない。超人だろうと確実に仕留められる攻撃だった。

 しかし、荒巻はそのどちらにも属していなかった。
 荒巻は白騎士の攻撃をすべて鼻先で回避し、その片手間に、白騎士の甲冑の隙間にするりと剣を差し込んだ。
 超能力が生み出した肉体ではあるが、サーベルの感触は人間のものと同じだった。

/ ,' 3 「……強くはなっているが、ワシほどではないな」

¥;・∀・¥「おのれぇ……」

 荒巻は白騎士からサーベルを引き抜こうとした。
 しかし、返ってくる感触がやけに強かった。
 改めて刀身を見ると、白騎士が、荒巻のサーベルを両手で掴み込んでいた。


¥・∀・¥「――とでも、言うと思ったか?」

 その様子を見てニヤリと笑い、マニーは次のカードを取った。

¥#・∀・¥「100億、『クラウン・エンジェル』!!」

/ 。゚ 3 (自爆――ッ!)

 次の瞬間、白騎士の体が赤みを帯びて発光した。
 白騎士と荒巻を中心に、凄まじい爆発が起こった。

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578 名も無きAAのようです[sage] 2013/12/15(日) 17:35:48 ID:lXN1hGMg0

≪6≫


/ ,' 3 「……」

¥・∀・¥「……」

 二人の間には大きな炎があった。
 マニーが生み出した『ホワイトナイト』の自爆が残したものだ。


/ ,' 3 「白騎士はお前の相棒でもあった」

 視界を遮る炎が揺らめき、荒巻の顔がほんの少し見えた。

¥・∀・¥「ああ」

/ ,' 3 「……お前はそれを殉じさせた」



/ ,' 3 「たかが片腕のために」

 海風が二人の間の炎を一陣でかき消した。

 途端、マニーの視線が荒巻の右腕に釘付けになった。
 荒巻の右腕が、先程の自爆によって吹き飛んでいたのだ。
 思えばサーベルも見当たらなかった。白騎士の自爆は、荒巻の肉体を確実に破壊していた。

.

579 名も無きAAのようです[sage] 2013/12/15(日) 17:37:03 ID:lXN1hGMg0


¥・∀・¥「どうした荒巻、顔色が悪いな」

/ ,' 3 「……終わりだよ」

 荒巻はマニーの胸元を指差した。
 マニーは不思議に思い、差された場所に目をやった。


¥・∀・¥「ああ……?」

 サーベルが、己の肉体――心臓を貫いていた。
 大量の血が胸から流れ出て行く。マニーはすべてを自覚すると、地面に両膝をついた。


¥・∀・¥「……いつの間に……?」

 心臓を貫かれてもなお発した問いに、荒巻は静かに答えた。

/ ,' 3 「……」

¥・∀・¥「……相打ちにしては……分が悪いな……くはは……」

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580 名も無きAAのようです[sage] 2013/12/15(日) 17:37:51 ID:lXN1hGMg0


¥・∀・¥「……だが……」

 朦朧とし始めたマニーの目が、荒巻を再び捉えた。

¥・∀・¥「だが……全力も出さずにここで終わるのは、やめておこう……」

 心臓を貫かれながらも、マニーはその目に生気を取り戻した。
 マニーは胸に突き刺さったサーベルを握った。皮肉にも、さっき自爆させた白騎士と同じように。
 そしてそれを、痛みを無視して乱暴に引き抜いた。


¥;・∀・¥「……中々痛いな」

 マニーは再び周囲にカードを展開させた。
 そのうちの一枚を取り、また別の能力を実行する。


¥;・∀・¥「1兆、概念相殺『パックマン・ディフェンス』……」

/ ,' 3 「……ほう」

 次の能力に対して、荒巻が驚いたように反応した。
 それが気に入ったのか、マニーは無理に笑って話しだした。
.

581 名も無きAAのようです[sage] 2013/12/15(日) 17:38:56 ID:lXN1hGMg0


¥;・∀・¥「どうだ荒巻。お前と同じ概念相殺……。これが、私の切り札だった……」

 荒巻はマニーの肉体を注視した。
 いつの間にか、サーベルによってできた穴が塞がっていた。

/ ,' 3 「……私のとは仕様が違うようだな」

¥・∀・¥「……1兆円も出して、延命は三分か……。お前の劣化もいいところだな」

/ ,' 3 「だが、本物には一番近い」

¥・∀・¥「……嬉しいものだな、貴様の褒め言葉。かくして、別れの時もすぐそこか……」

 マニーは立ち上がって背伸びをし、大きく深呼吸を繰り返した。
 これが最後の深呼吸と背伸びになる。

 深呼吸を終えたマニーの顔は、どこかサッパリして見えた。


¥・∀・¥「おつりは8兆ほどだ。これを残していくのは至極もったいない。荒巻、相手してくれるか?」

/ ,' 3 「片腕でよければ」

 荒巻は、今はもう二の腕までしかない右腕を軽く持ち上げた。
 マニーは、荒巻の目の前に血塗れのサーベルを投げてやった。
 投げられたサーベルを左手で受け取り、荒巻はマニーの応答を待った。

¥・∀・¥「……共に過ごす未来があったと、私は今でも思う」

/ ,' 3 「……」

 残された時間は、あと二分弱。
 マニーはもう何も考えず、この最期の時を戦いに捧げた。

.

582 名も無きAAのようです[sage] 2013/12/15(日) 17:40:02 ID:lXN1hGMg0


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



 猛スピードで追跡してくるハイエナが、突如として消え去った。

(; ´_ゝ`)「……消えた? おい、ちょっと止まれ!」

<_;プー゚)フ「バカ言うな! アレ来てんじゃねえのか!?」

(; ´_ゝ`)「消えたんだよ! いいから止まってくれ!」

 マニーの能力によって逃走を余儀なくされた二人は、今は発電所近くの山奥に居た。
 エクストはあれからずっと山の中を爆走し続け、それが今、ようやく終わったのだ。


( ´_ゝ`)「なんで消えたんだ……能力者の方に何かあったか?」

<_;フー )フ「ちょいきゅうけッ……休憩すっから……」

 エクストの背中を下りて考え出した兄者から離れ、エクストは近くの木の幹に腰を下ろした。
 しかし休む間もなく、兄者はエクストに声をかけた。

( ´_ゝ`)「……おい、発電所の方に戻るぞ」

<_;フー )フ「パス」

(; ´_ゝ`)「頼む」

<_;フー )フ「……パス」

(; ´_ゝ`)「……から揚げ弁当」

<_#プー゚)フ「ンなもんが俺の背中と釣り合うかよ! しかもあれ食べかけじゃねーか!?」

<_#プー゚)フ「もういいからさっさと背中乗れよ、クソッ!」

 エクストはしょうがなく立ち上がり、兄者を乗せてまた走り出した。

.

583 名も無きAAのようです[sage] 2013/12/15(日) 17:41:09 ID:lXN1hGMg0


 一分ほどで、二人は最初来た駐車場に戻ってきた。
 エクストは疲労困憊の様子で、駐車場に着いたとたんに倒れてしまった。

 兄者はエクストを置いて、発電所と海が一望できるところまで移動した。


(; ´_ゝ`)「……」

 そこで目にしたのは、激しい光の点滅と、具現と消滅を繰り返す能力群の激突だった。


 海が荒れ、大地が軋む。
 巨大生物が海中をうごめき、空中には無数の衛星が巡回している。
 発電所は跡形もなく粉砕され、ごうごうと炎上して今なお爆発音を響かせていた。

 それらを引き起こしているのは、発電所で何かと戦っているマニーだ。
 何か……。それが何かは兄者の能力をもってしても知覚できなかった。
 しかし知覚できないからこそ分かった事もある。マニーの相手が、まず間違いなく化け物という事だ。

(; ´_ゝ`)(化け物……思い当たるのは、荒巻スカルチノフ……)

 ただ茫然と、発電所で起こる事象を傍観する。
 人並み外れた二つの存在が相反するように、あるいは同調するように、戦いがどんどん苛烈を極めていく。
 あそこに行くことは微塵にも考えなかった。『ThisMan』のことも、今の兄者はすっかり忘れてしまっていた。

.

584 名も無きAAのようです[sage] 2013/12/15(日) 17:41:49 ID:lXN1hGMg0




 ――戦いの全てが鎮まろうとしていた。



.

585 名も無きAAのようです[sage] 2013/12/15(日) 17:42:39 ID:lXN1hGMg0



/ ,' 3 「共に過ごす未来か」

 全身に様々な傷を負った荒巻が、凛として立ったまま口を開いた。
 立ちこめる炎、連鎖して続く爆発。
 それらの轟音があらゆる音をかき消そうと、それでも、マニーには荒巻の声が聞こえていた。

/ ,' 3 「……あっただろうな。今ではない未来には、確かにあった筈だ……」

¥・∀・¥「……その一言を引き出せただけで、この一夜には意味があったと思う……」

 荒巻とは逆に、マニーの体は傷一つなく健全そのものだった。
 しかし寿命は確実に迫りくる。残された時間は、もう一分もない。

 ふと、マニーの体が様相を変え始めた。
 若々しかった彼の体つきが、みるみる内に老いて枯れていったのだ。


/ ,' 3 「……」

「……面汚しだな。こんな若作りのために、私は一体どれぐらい使ったのか……」

 マニーが成り果てたのは、荒巻と同じような老齢の老人だった。
 声はかすれて腰は曲がり、顔はしわまみれで張りを失っている。
 その立ち姿、容姿は、既に戦う者のそれではなかった。

.

586 名も無きAAのようです[sage] 2013/12/15(日) 17:43:36 ID:lXN1hGMg0


「……あいつは居ないのか? 無愛想なやつだ」

/ ,' 3 「……出てきてやれ」

 荒巻がぽつりと呟いた。
 数秒あってから、突然、空中に人影ができた。
 人影は音もなく地面に着地すると、荒巻の意思を汲んでマニーに歩み寄った。



(メ._⊿)「……」

 人影の正体は、長く伸びた両耳と片目に傷のある、白いウサギであった。
 ウサギは、闇に溶け込む黒いマントをなびかせている。

「久し振りだな、だが時間がない……最期にお前を一目見れて嬉しい。ありがとう」

「……悪いが頼みがある。私が死んだらお前の力でこの体を消し飛ばしてくれ。正真正銘、一生のお願いだ」

(メ._⊿)「……」

 寡黙なウサギは小さく頷いた。

「……荒巻のこと、任せたぞ」

 マニーは最後にそれを伝え、事切れると同時に地面に倒れた。
 それから、ほんの少しの沈黙が流れた。

/ ,' 3 「……最後の頼みだ、聞いてやれ」

 ウサギ――三月兎はマニーの死体に片手を当てた。
 彼が手を触れた瞬間、マニーの体は完全に消え去ってしまった。


/ ,' 3 「……帰るぞ」

(メ._⊿)

 三月兎は振り返り、また同じように頷いた。

.

587 名も無きAAのようです[sage] 2013/12/15(日) 17:44:21 ID:lXN1hGMg0

≪7≫



( A )


( A )「……」



( A )(……マジかよ)

(;'A`)(……死んだフリ、成功したんだが……)

 ステーション・タワー中層の一室に運び込まれたドクオは、部屋で一人になった途端に起き上がった。
 それから部屋中をキョロキョロと見回した。部屋の電気は点いておらず、椅子も机も何もなかった。

 ここは空き部屋か。変に物があるより簡単確実に人を閉じ込められるな。
 ドクオはそんな事を考えながら立ち上がり、窓辺から外を見下ろしてみた。

 かなり高い。落ちたら死ぬ。
 落ちても死なない高さなら窓から飛び下りるのも一つだったが、その手は使えそうになかった。

('A`)(じゃあ外壁を上るのは?)

 窓を開け、タワーの壁を触ってみる。
 つるつるこの上なかった。

(;'A`)(……持ってきたものは全部没収されちまったからな)

('A`)(まぁ、あの場で下手に反撃したよりは利口だったと思おう……)

.

588 名も無きAAのようです[sage] 2013/12/15(日) 17:45:05 ID:lXN1hGMg0



((( )))
( ´Д`)「……よくもピンピンしていられますね」


(;'A`)「ッ!?」

 声に反応して振り返ると、壁際に1さんの姿があった。
 懐にはやはり刀がある。しかし、彼に戦闘の意思はないようだった。
 彼は完全に気配を消していた。にも関わらず余裕をもって話しかけてきたのが何よりの証拠だ。


(;'A`)「お前さっきの……1だか3だかの奴……」

((( )))
( ´Д`)「1の方です。さん付けされると1さんになるだけで……」

(#'A`)「ンなこたぁどうでもいいんだよ!!」

((( )))
(; ´Д`)「……」

 ドクオは大きく息を吐き、その場に腰を下ろした。
 わざわざ自分を待っていた相手だ。話し合う余地があると踏んだのだ。

.

589 名も無きAAのようです[sage] 2013/12/15(日) 17:45:45 ID:lXN1hGMg0


('A`)「……お前、俺の死んだフリに気付いてたな。今も、なんで他の連中に連絡しようとしない」


((( )))
( ´Д`)「僕がここに居たのは単なる偶然。君がここに運ばれたのも同じく偶然」

((( )))
( ´Д`)「よって命令はないんです。君が起きたら、起きていたら連絡しろという命令は」

('A`)「……」

((( )))
( ´Д`)「ここは払いがいい職場なので、勿論後で上に連絡します。
      これでボーナスが出れば今夜はヤケ酒を飲みます。あなたのせいのヤケ酒です」

 1さんは、その後にただしと付け加えた。


((( )))
( ´Д`)「あなたに話しがない訳ではありません。
      多少、取引の余地があると、思ってくれていい」

.

590 名も無きAAのようです[sage] 2013/12/15(日) 17:46:26 ID:lXN1hGMg0


('A`)「……俺はここを脱出して下へ行きたい。できれば俺の装備を取り返した上で」

 最上階に行くのは不可能だと割り切り、ドクオは直下への進行を決めた。
 行き当たりばったりだがとりあえずタワーの中層までは来れたのだ。
 何とかなるという気がしてきて、不安はなかった。

((( )))
( ´Д`)「却下です。あなたをここから出すわけにはいかない」

(;'∀`)「……命令はねぇんだろ? さっきと言ってること違うぞ」

((( )))
( ´Д`)「個人的な嫌がらせです。仕事は無関係」

(;'A`)(死ねよ……)

 ドクオは留飲を下げた。
 さっきの戦闘をかなり根に持たれているようだった。

((( )))
( ´Д`)「僕がここから消えるというのはどうでしょう。上にも連絡しません。ある意味、自由に動ける」

(;'A`)「駄目だ。だったらお前が部屋を出るときに俺も連れていけ。最低でも部屋から出してもらう」

((( )))
( ´Д`)「ならば話は以上です。条件を出すのはあなたではありません」

(;'A`)「……分かった。お前がこの部屋から消えるというのでいい。だがもう一つ頼みたい」

((( )))
( ´Д`)「強情ですね。聞きましょう」

(;'A`)「強情はお互い様だ。……ここに居るはずの、その、素直クール……っていう人の安否が知りたい」

.

591 名も無きAAのようです[sage] 2013/12/15(日) 17:47:39 ID:lXN1hGMg0


((( )))
( ´Д`)「素直、クール……?」

(;'A`)「……まさか知らないのか!?」

 顎に手を当て思案気にしている1さんが、その名前を思いながら話した。


((( )))
( ´Д`)「僕が知らないということは、多分カンパニーの大半は知りません。僕けっこう古参なので。
      なのに、何でそんな機密を部外者が知っているんだ、という疑問は、まぁ今は置いといて……」

 意見を求めるように、1さんはドクオに視線を送った。

( 'A`)「……デミタス。それかシャキン。どっちかが知ってる」

((( )))
( ´Д`)「……あの二人ですか。雇い主ですね。彼らの来歴は私も知りません。
      一応二人に話しをしてみますが、デミタスが秘密にしていることは秘中の秘。とても容易く口を開けるとは……」

 難はありそうだが好感触が返ってきた。
 ドクオはここぞとばかりに前のめり、声を一層大きくして願った。

(;'A`)「頼む! あの人が無事ならいいんだ……。まともにメシ食って寝て動けてれば……」

((( )))
( ´Д`)「……あなた、年はいくつですか?」

(;'A`)「十六だ」

((( )))
( ´Д`)「……どうやら、とんでもない人生を送っているようだ」

(;'∀`)「自慢じゃないがな。そこそこ刺激的だ」

.

592 名も無きAAのようです[sage] 2013/12/15(日) 17:48:20 ID:lXN1hGMg0



((( )))
( ´Д`)「分かりました」

 かくして1さんは快活に言い切った。


((( )))
( ´Д`)「私からは質問が一つあるだけです。
      答えてもらえれば私は一度ここから消え、素直クールさんの安否を確かめて戻ってきます」

((( )))
( ´Д`)「そしてあなたに彼女の安否を伝えた後、また部屋から出ていき、その後はもう二度と戻りません」

(;'A`)「ああ。それでいい」

((( )))
( ´Д`)「では問います。シラヒーゲという人物を知っていますか?」

('A`)「……ああ」

 ドクオの返事を聞くと、1さんは即座に部屋のドアを開けて廊下に出て行った。



(;゚A゚)(――なにしてんだッ!!)

 ドクオは急いで立ち上がってドアノブに手をかけ、そのついでに廊下の様子を一瞥した。
 廊下にはまったく人気がなかった。今さっき出て行った1さんですら、もうその姿が見えなかった。

(;'A`)(俺が起きてることがバレたら終わりなんだぞ……)

 ドクオはゆっくりとドアを閉め、1さんの帰りを静かに待ち始めた。
.

593 名も無きAAのようです[sage] 2013/12/15(日) 17:49:00 ID:lXN1hGMg0


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



(´・_ゝ・`)「……」


 タワー上層の指令室。

 多数の職員がそれぞれの席に着き、街の現状を把握するためにモニターと向きあっていた。
 そんな部下の多忙な様子を椅子に座って眺めながら、デミタスは無言を貫いていた。
 さきほど荒巻スカルチノフに命令されたことを実行に移すかどうか、彼はそれを案じていた。


((( )))
( ´Д`)「忙しそうで」

(´・_ゝ・`)「……べーつに。ただ忙しい場所に居るだけ。代わる?」

 気付かぬ内に、1さんが自分の横に並んで立っていた。
 気配を絶つという技術らしいが、デミタスはそういうものを少しも信じていない。

.

594 名も無きAAのようです[sage] 2013/12/15(日) 17:49:57 ID:lXN1hGMg0


((( )))
( ´Д`)「あなたがガキと称したものと戦いました」

(´・_ゝ・`)「見てたよ。まぁ災難だったな。俺も意外だった」

((( )))
( ´Д`)「……私が言うとギャグに聞こえるかもしれませんが、単刀直入に聞きます」

(´・_ゝ・`)「……なるほど単刀。で、なにさ」

((( )))
( ´Д`)「素直クールとは誰です? あの少年、その人を求めてここに来たと言っていました」

(´・_ゝ・`)「ああ、交換条件はそれか」

((( )))
( ´Д`)「……なんのことで?」

(´・_ゝ・`)「いや別に。しかし1さん、あなたもやはり侮れない。スカウトしてよかった」

 デミタスは立ち上がり、周囲で忙しなく動く部下達に声をかけた。
 皆が一斉に手を止める。静寂を見計らい、デミタスは大きな声で皆に命令した。


(´・_ゝ・`)「さっき荒巻さんから連絡があった。首謀者は死亡、事態を収束させろとのことだ」

(´・_ゝ・`)「ただし今夜の事は避難訓練として処理する。テロではなく、あくまでリアルな避難訓練としてだ!」

「ふざけんな!!」

「無理に決まってんだろ!!」

(#´・_ゝ・`)「黙って働け社畜ども!! 黙れ!! それが仕事だろ、働け!!」

 喚く部下達に雑言を吐き捨て、デミタスは指令室のドアに向かった。

((( )))
( ´Д`)「どこへ?」

 去り際に1さんが問いかける。

(´・_ゝ・`)「ガキのところだ。あとのことは全て忘れろ」

 そう言い、デミタスは指令室を出た。

.

595 名も無きAAのようです[sage] 2013/12/15(日) 17:50:41 ID:lXN1hGMg0


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 廊下に出るとシャキンと鉢合わせした。
 都合が良いので、デミタスはそのままシャキンを連れて歩を進めた。


(`・ω・´)「『ThisMan』は片付いたのか?」

(´・_ゝ・`)「荒巻さんが真実を語らなければな」

(`・ω・´)「真実? ……まぁそういうのはお前に任せる」

(´・_ゝ・`)「……二年前のガキが来た」

(`・ω・´)「ああ。確かにあいつだった」

(´・_ゝ・`)「あいつは素直クールに会いたがっている」

(`・ω・´)「……馬鹿げてるな。向こうに追い返すのか?」

 デミタスはぴたりと足を止めた。
 つられてシャキンも足を止める。

(´・_ゝ・`)「いや、こっちに引き込む。そのために、これから奴を素直クールに会わせる」

(`・ω・´)「……そうか」

(´・_ゝ・`)「会いたいって言ってるんだ。会わせてやろうぜ、だったらな」

 二人はカンパニーの制服を翻し、また歩き出した。

.

597 名も無きAAのようです[Sage] 2013/12/15(日) 18:26:46 ID:FltbB2mU0
やべえ!面白い!アンタの作品好きだわ!

602 名も無きAAのようです[sage] 2013/12/17(火) 02:17:32 ID:V7Ai82qc0

見せ場ぎっしりな上に次も気になる面白い

604 名も無きAAのようです[sage] 2013/12/18(水) 09:03:48 ID:oFbxuGY60
ツンきたー!
なんか今回は特にアニメ的な場面が多い気がする
乙乙




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