(*゚ー゚)人間プラスチック爆薬
- 2 名も無きAAのようです 2013/12/29(日) 15:42:38 ID:V2b20sxk0
- ――毒ガスが噴き出した。
勢いよく、まさに毒ガス!って色で。
それは倒れた男の腰元の装置から噴出していて、
私はとにもかくにもその場を離れるしかなかった。
セッショウセキ
「【殺生石】とやったらすぐに離れろ」
もはや【死の六族】で言わない連中はいないと思う。
斃れた殺生石の一族の者はある伝承に沿って最後っ屁(汚い? 失礼)をかます。
決して忘れていたわけじゃないんだ。
ただ、その男が思いの外簡単に倒れたから、肩透かしにあっただけ。
(;*゚ー゚)「やだ、匂いついちゃう」
私は急いで得物をバッグにしまって立体駐車場を後にした。
まあ、電話しておけばウチの人が来て後処理してくれるでしょ。
振り返ると、男の体はぐずぐずに溶けはじめていた。
……しーらないっと。
- 3 名も無きAAのようです 2013/12/29(日) 15:43:32 ID:V2b20sxk0
(*゚ー゚)人間プラスチック爆薬のようです
.
- 5 名も無きAAのようです 2013/12/29(日) 15:45:28 ID:V2b20sxk0
- マンションのドアを開けた。
(;*゚ー゚)「うー、さぶさぶ。ただいまー」
o川;゚ o゚)o「わわっ、しぃお帰り! ちょっとアレ取ってアレ! 手ぇ離せないの!」
ミシンの前でばたばたと手足を動かしながら、顔だけをこちらに向けるキュート。
わずかに、ころり、ころり、と鳴る髪留めと、優しい香水の香りが私を迎え入れた。
(;*゚ー゚)「アレってどれよ」
o川;゚ o゚)o「あのー、あの、あのええい! いいや自分で取る!」
自作アクセサリの納期が迫っているのでキュートはテンパってた。
OLやりながらの副業はすごいけど、この子、抱え込みすぎるからなあ。
o川;゚ー゚)o「それで? そっちの仕事はどうなのっ?」
だだだ、とミシンが速度を上げる。
(*゚ー゚)「んー、もう慣れたよー」
- 6 名も無きAAのようです 2013/12/29(日) 15:46:21 ID:V2b20sxk0
- 冷蔵庫からマウンテンデューの缶を取り出しながら、私は答えた。
プルタブを返しながら、今日の仕事を振り返る。
(*゚ー゚)「今日はめんどくさいお客も来なかった」
つ日
o川*゚ー゚)o「そうなんだー、よかったねー」
作業を再開するとキュートの表情が楽しそうなものになる。
o川*゚ー゚)o「こっちはね、セクハラ親父が来て大変だった。初対面で連絡先渡されたの。キモくない?」
(*゚ー゚)「キュートはそういうの惹きつける天才だからねー」
つ日
o川;´ー`)o「嬉しくないぃ」
とかとか話してる間にも作業を止めない。
さっすが小物師、仕事完璧。
- 7 名も無きAAのようです 2013/12/29(日) 15:47:03 ID:V2b20sxk0
- o川*゚ー゚)o「でもさ、実際どうなの? レストランのウェイトr――」
(*゚ー゚)「給仕!」
o川*゚ー゚)o「給仕係って。大変じゃない? 座れないし、目まぐるしく動くし」
(*^ー^)「楽しいよ。私そういうの得意だし、賄い美味しいし」
強がりでなく、それはホントのとこ。
空間把握とか順序の決まった仕事の消化とか、得意なんだ。
o川*゚ー゚)o「ふーん、あたしみたく受付でニコニコしてればいいのに。しぃ可愛いから」
(*゚ -゚)「むー、それ絶対つまんないって」
o川*゚ー゚)o「あ、可愛いってとこは否定しない」
(*゚ー゚)「キュートには負けるけどね!」
フワモテガールの愛されキュート(笑)
o川*^ー^)o「そっ、愛されキューちゃん!」
あー、マウンテンデューが美味しいなあ。
- 8 名も無きAAのようです 2013/12/29(日) 15:48:54 ID:V2b20sxk0
- ***
(*゚ー゚)「お待たせいたしました」
料理を運ぶと、最近よく来る男性が文庫本から目を上げた。
(‘_L’)「ありがとうございます」
お礼を言ってくれるお客様は正直嬉しいお客様。
次に、美味しかったまた来ますって言ってくれるお客ね。ありがたいのは。
無愛想に味だけ確かめて行かれると、私達給仕の意味がなくなっちゃう。
サービスってのは店全体でやるもんだって教わってるし、私もそう思うから。
(*゚ー゚)「小エビのフリッターとサーモンのカルパッチョです」
大体この男性は、何か二皿とワインをグラスで二杯頼んでお帰りになる。
右手を骨折しているようなので、左手だけで器用に食事を摂るのだけど、なかなかに優雅だ。
文庫本――クィネルだ――を仕舞って男性は皿を受け入れた。
静かに、そして、豊かに、食事は開始された。
- 9 名も無きAAのようです 2013/12/29(日) 15:49:35 ID:V2b20sxk0
- 「次、6番にローストロブスタ」
(*゚ー゚)「はいっ」
あの男性を観察するのは割と飽きないのだけど、そうしてばかりもいられない。
お仕事しなくっちゃあね。
6番テーブルに料理を運んだら1番テーブルのお客様のお冷を注がなきゃいけないし、
3番のお客様はそろそろお帰りになる様子で、ついでに言えば奥の部屋のオーナーのワインボトルもそろそろ空だろう。
ソムリエに目配せしてタイミングを伝えると、彼は新しいボトルを取りにセラーへと歩いていった。
その時、わずかに聴こえた音から察するに、8番テーブルで食器が落とされたらしい。
(*゚ー゚)「失礼いたします」
静かにフォークを取り換え、テーブルに戻す。
「ありがとう、気が利くのね」
(*^ー^)「いえ、お気になさらず、奥様」
- 10 名も無きAAのようです 2013/12/29(日) 15:50:59 ID:V2b20sxk0
- (‘_L’)「同じものを」
包帯の巻かれていない左手をあげてワインを所望する男性客。
(*゚ー゚)「かしこまりました」
店内はほどほどに騒がしく、心地よい空間だった。
そこに立っているのは、悪くない気分。
今までの生活が生活だったから、初めは面食らったけど、
でも住めば都というか、慣れたら居心地のいいものだった。
(‘_L’)「……」
男性客はグラスを傾けると、小さくため息をついた。
少しの隙に、私は会話してみることを思い立つ。
(*゚ー゚)「最近、よくお越しになってくださいますね」
(‘_L’)「……」
(‘_L’)「……ええ」
あ、思ったより感触悪かったかも。
- 11 名も無きAAのようです 2013/12/29(日) 15:51:40 ID:V2b20sxk0
- 話を早めに切り上げてしまった方がいいのかもしれない。
(*゚ー゚)「当店の料理はいかがでしょう」
と、思いつつ話題を提供してしまう自分。
(‘_L’)「素晴らしいですよ、実に。サービスも申し分ありません」
真っ直ぐな視線が私のそれをかち合う。
(*^ー^)「ありがとうございます」
笑ったのはまあ、マニュアル半分嬉しさ半分といったところからか。
(‘_L’)
(*^ー^)
(‘_L’)「……」
(;*^ー^)「……」
……。
- 12 名も無きAAのようです 2013/12/29(日) 15:52:26 ID:V2b20sxk0
- 「ニョッキあと12秒で出るよ!」
(*゚ー゚)「はいっ」
ぱっと時間の流れの中に戻されて、私は動きだした。
男性に軽く会釈をして、キッチンカウンタへと近付く。
(‘_L’)「……」
男性はそれ以上何も言うことなく、カルパッチョを口に運んだようだった。
(*゚ー゚)「お疲れ様でーす」
「お疲れー」
「お疲れ様」
この日も仕事はつつがなく終わった。
お客様からチップも貰ってちょっとホクホク。
- 13 名も無きAAのようです 2013/12/29(日) 15:53:45 ID:V2b20sxk0
- 駅前。
待ち合わせの場所に行くとコートとショールを身に付けたキュートが震えていた。
膝までの編み上げブーツを履いていながらも、その震えは凄まじかった。
::o川*゚д゚)o::アババババ
(;*゚ー゚)「ごめん、待った?」
がくがくと首肯。
その日は風が強くて、小雨も降ってた。
さっさとその場を後にして、深夜までやってるケーキ屋さんへと赴く私達。
今日は一ヶ月に一度定めた、スイーツ(笑)補給日なのだった。
o川*´ー`)o「あふぅ、あったかいよぉ」
ソファにもたれかかると、とろけたようにフワカワなオーラを放ちだすキュート。
サンリオのキャラクターとタメを張るくらいゆるゆるな感じだ。
そのケーキ屋は都心にある穴場的スポットで、雑誌などには取り上げられないが、
知る人ぞ知る、ケーキの名店なのだった。有名なのはチョコレート系のケーキ。
N| "゚'` {"゚`lリ「何にする?」
店主の阿部さんがオーダーを取りに来た。
- 14 名も無きAAのようです 2013/12/29(日) 15:54:36 ID:V2b20sxk0
- (*゚ー゚)「私はフォンダンショコラと、ソイラテ」
o川*´ー`)o「あたしもおんなじケーキー。あ、飲み物はぬるめのキャラメルマキアートでお願いしまーす」
N| "゚'` {"゚`lリ「嬉しいオーダーしてくれるじゃないの。ちょっと待ってな」
カウンタの向こうに消える阿部さん。
私達はケーキを待ちながら思い思いに、っていっても携帯いじるくらいしかないんだけど、過ごした。
o川*゚ー゚)o「あっ、早速納品したアクセのレビューついてる!」
(*゚ー゚)「お、なんてなんて?」
o川*^ー^)o「『可愛くって、見てるだけで幸せになれます。絶対買いだと思います!』だって」
(*゚ー゚)「おぉ~」
キュートの作るアクセサリには、不思議な力がある。
振る舞いにしてもそうなのだけど、彼女の創作物には人を和やかにさせる作用があった。
それは素晴らしい才能のひとつで、「私達」の中では彼女は【小物師】として有名なのだった。
- 15 名も無きAAのようです 2013/12/29(日) 15:55:39 ID:V2b20sxk0
- からん、とドアベルが鳴った。
こんな時間に自分たち以外が訪れるなんて珍しいな、とそちらを見やる。
(゚、゚トソン「……」
そこに立っていたのは、パンツスーツ姿の20代前半の女性。
私達と同い年か、少し年上に見えた。
彼女は腰の後ろに手を回すと、あるモノを手に取った。
それは、ガスマスク。
(*゚ -゚)「!」
o川*゚ー゚)o「?」
ただのガスマスクじゃない。
死んだ狐のマークが左頬に入った、【殺生石】家の特注品だ。
(゚、゚トソン「仲間の仇、取らせてもらいます」
o川*゚ー゚)o
o川;´ー`)o「なにこれ、しぃ、どゆこと」
(*゚ -゚)「キュート、阿部さん連れて逃げられる?」
- 16 名も無きAAのようです 2013/12/29(日) 15:56:35 ID:V2b20sxk0
- o川;´ー`)o「え、え、やだ、ちょっと待ってよー状況分かんないよー」
(*゚ -゚)「ごめん、後で」
(゚、゚トソン「お喋りは終わりですか?」
そう言うと共に、女は胸元から小さな金属瓶を取り出した。
そして、上部のスイッチを押すと同時に自身はガスマスクを被る。
(◎ ◎トソン『これは遅行性の神経毒。あなたを簡単に殺すのは仲間に申し訳が立たない』
ぼしゅ、という音を発し、店内の床を這い始めるガス。
次々と小瓶を取り出しスイッチを押していく女から、私とキュートは距離を取った。
o川;゚ o゚)o「あわわわわ、なにこれやばいよ、なに、毒? うそ、本気?」
(*゚ -゚)「残念だけどね」
私はバッグから得物のナイフを取り出して構えた。
そこに現れる阿部さん。
N| "゚'` {"゚`lリ「む」
背の高い阿部さんはすぐにはガスの影響を受けないだろう。
キュート、なんでもいいから早く逃げて。
なんならフォンダンショコラもってっていいから。
- 17 名も無きAAのようです 2013/12/29(日) 15:57:41 ID:V2b20sxk0
- N| "゚'` {"゚`lリ「人の店に無断でスモーク焚くとはなかなか肝の据わったお嬢さんじゃないの。火災報知器鳴っちゃうよ」
(◎ ◎トソン『ご安心を。切ってあります』
N| "゚'` {"゚`lリ「なんだって? おいおい、どういうことだい」
o川;*゚ー゚)o「阿部さん、なんかやばいみたいだから逃げよ!」
N| "゚'` {"゚`lリ「いやいや、お客を教育するのも店側の責務――」
o川;> -<)o「もー、いいから逃げるの!!」
とか、なんとか、かんとか。
キュートも人を動かす能力は、そう低くない。
阿部さんも渋々ながら手を引かれるままに裏口へと逃げていく。
がちゃん、とドアが閉まる音を聴いて、私はようやく口を開く。
ガスを吸い込まないように呼吸を最小限にしていたからだ。
(*゚ー゚)「ねえ、なんなのアンタ達。私何かした? 最近しつこくない?」
(◎ ◎トソン『あなたの家が何もしなかった時代などないでしょう?』
(*゚ -゚)「それ私には直接関係ない話じゃない」
(◎ ◎トソン『強いて言うなら、あなたがあなたでいることが問題なのです』
- 18 名も無きAAのようです 2013/12/29(日) 16:00:02 ID:V2b20sxk0
- はあ?
もうホント意味わかんない。
こないだも同じこと言われたし、家に尋ねてもよく分からないって言われるし、
とりあえず降りかかる火の粉は払うけど、私なんか納得いかないんですけど!
(*゚ー゚)「決めた。流石に、そろそろ話聞かせてもらうからね」
す、とナイフを右手に構え、左を後ろに半身の姿勢を取る。
スタンダードなファイティングスタイル。
(◎ ◎トソン『――【殺生石 トソン】。参ります』
(*゚ -゚)「……私は名乗んないよ」
- 19 名も無きAAのようです 2013/12/29(日) 16:02:22 ID:V2b20sxk0
- 初めに、体が少しだるくなった。
すぐには死なない毒だとは理解したけど、長時間戦っていては助からないことが分かった。
相手の得物は各種ガスの入った瓶。
噴射タイプのガス瓶から目潰しっぽいのを出して、隙を作ってから、別の毒で攻撃するのがスタイルか。
即刻致死性の毒ガスを流すか、ケーキに毒を混ぜれば暗殺できたのに、馬鹿じゃないの、この子。
(;*゚ー゚)「とはいえ」
入口のガラス戸には赤いレーザーポインタが三つ、点を作っていた。
近付いたら狙撃を受けること間違いなし。
窓を破壊して空気を取り入れる隙も与えて貰えない。
っていうか、阿部さんの店を簡単に壊すのは気が引ける。
できるだけ、いたぶった上で殺すつもりなんだ、こいつ。
私の動きが鈍る前から、割といい動きでナイフをかわしていく殺生石トソン。
このままだとジリ貧ってヤツだった。
- 20 名も無きAAのようです 2013/12/29(日) 16:03:30 ID:V2b20sxk0
- 一度、組み付いてガスマスクをはぎ取ってやろうとした。
でも、噴射された催涙ガスがモロに当たりそうになった。
私は即座に身を引くと、木製カウンタの上を転がり、向こう側へと着地した。
少しだけ息を吸うと、呼吸器の近くに付着したガスで喉や鼻がひりついた。
(;*゚ー゚)(やばいなあ、すごくめんどくさい相手だ)
防毒訓練は受けているし、低酸素状態での運動も強制されてきたから、
ここで動き続けてもあと10分は多分戦闘できる。
でも、勝ち目があるかどうかで言うとまた別の話だ。
ナイフを投擲してもいいけど、恐らくかわされるだろう。
私は拳銃を持ち歩かない性質だし、仮にガスが引火性だったら大問題だ。
死なばもろとも? ナンセンス。
うーん。
(◎ ◎トソン『隠れるのもいいですが、それでは長く苦しむだけですよ。早く出てきてください』
(*゚ー゚)「苦しませるのが目的なんだったんじゃないの?」
(◎ ◎トソン『早めに終わらせようという優しさですよ』
(*゚ -゚)「よくいう」
- 21 名も無きAAのようです 2013/12/29(日) 16:04:38 ID:V2b20sxk0
- そういえば。
(*゚ー゚)「アンタやられたら何のガス出すわけ?」
(◎ ◎トソン『神経毒を中和するガスですよ』
(*゚ー゚)「立つ鳥跡を濁さずってこと?」
そうなりますかね、と殺生石。
(◎ ◎トソン『痕跡を残したくはないのですよ。同じでしょう? あなたも』
ちょっと私には分かりかねるところだった。
だって、元から、死んだら何も残らなくない?
(*゚ー゚)「ごめんだけど同意求められても困るかなー」
(◎ ◎トソン『そうですか』
言いつつガスを噴射してカウンタの周りを覆う殺生石。
こいつ容赦ない。
- 22 名も無きAAのようです 2013/12/29(日) 16:05:32 ID:V2b20sxk0
- カウンタの中から私は話し続ける。
近付いてきてくれたら楽なんだけど、わざわざそんなことしてくれないよね。
(*゚ー゚)「トソンって言ったっけ」
(◎ ◎トソン『ええ』
(*゚ー゚)「あんたの家の中で何位なの? 名前聞いたことないけど」
(◎ ◎トソン『……』
かち。
ぼしゅ。
あーしまった怒らせた。
(;*゚ー゚)「タイムタイムターイム! ただの会話じゃない!」
(◎ ◎トソン『ルーキーみたいな扱いを受けるのは屈辱ですね』
プライド高いタイプか。
はあ。
(*゚ー゚)(でもま、やりやすくっていい、か)
- 23 名も無きAAのようです 2013/12/29(日) 16:06:59 ID:V2b20sxk0
- 目がしぱしぱしてきた。
手足が少しずつ痺れを訴え出している。
勝負するなら今の内。
(*゚ー゚)「はーあ、でもがっかり」
(◎ ◎トソン『……』
私は立ち上がり、カウンタ越しに女を見た。
両手に小瓶を構えている。ひゅー、やる気まんまん。
(*゚ー゚)「こんなとこでセコイ手段使うヤツにやられちゃうんだー」
(◎ ◎トソン『せこい』
ぴた、と動きが止まる。
(*゚ー゚)「こないだのヤツの方がずっと正々堂々してたよ」
これは割と本音ね。
毒を仕込んだ鉤爪を使う人間だった。
まあ、実力はお粗末なものだったけど。
(◎ ◎トソン『だったらなんだっていうんです』
- 24 名も無きAAのようです 2013/12/29(日) 16:09:07 ID:V2b20sxk0
- (*゚ー゚)「いや、ただ残念だなってだけ。色々やり方はあるから、別に否定はしないけど」
けど。
この言葉尻を取ってくるか否か。
(◎ ◎トソン『――けど?』
(*゚ー゚)
(*^ー^)
ここであえて黙る。
私はガスを吸い込むのを覚悟して、ため息を大きくついた。
構えを解かずに、殺生石は私の言葉を待つ。
この間にも、エアコンから吐き出される暖かい風がガスを撹拌する。
充満する毒の中、私たちは見つめ合った。
(*゚ー゚)「聞きたい?」
(◎ ◎トソン『……』
- 25 名も無きAAのようです 2013/12/29(日) 16:09:53 ID:V2b20sxk0
(◎ ◎トソン『いや、別にいいです。死んでください』
(*^ー^)「えっ」
(◎ ◎トソン『別にいいです』
(*^ー^)
(;*゚ー゚)(あっれえええええ)
.
- 26 名も無きAAのようです 2013/12/29(日) 16:11:36 ID:V2b20sxk0
- ここは安い挑発に乗るべきなんじゃないの?
もっとお喋りになっていいと思わない?
これだからなまじプロ意識高いやつは!!
やり口はアマチュアのくせに!!
いいんだよ、別にね?
命のやり取りだもんね!?
(;*゚ー゚)「お喋りは嫌い?」
嫌いです、と殺生石。
(◎ ◎トソン『長い話は特に嫌いです』
次々と各種ガスを噴出していく小瓶達。
埋め尽くされていく視界の中で、私はもう正直こういう状況になることを――
- 27 名も無きAAのようです 2013/12/29(日) 16:12:42 ID:V2b20sxk0
ラッキーとしか思ってなかった。
.
- 28 名も無きAAのようです 2013/12/29(日) 16:14:39 ID:V2b20sxk0
- もうもうと立ち上る煙の中、視界は1m先が見えるかどうかというところになった。
私は目を瞑り、呼吸を抑え、頭の中に空間を描いた。
窓まで13歩、入口まで21歩、カウンタを跳び越えて辿り着くのはちょっと難しい。
走ってそちらへ行く、なんて気は起こらない。外に出て蜂の巣、なんてのはごめんだ。
足音がカウンタの裏へと回るべく近付いてきた。
その足取りから警戒を解いていないことが分かる。
あと5歩。
- 29 名も無きAAのようです 2013/12/29(日) 16:16:48 ID:V2b20sxk0
- ゆっくりとした歩みが生み出す音は壁に反響し、女の位置を割り出してくれる。
あと3歩。
独りで来てくれたことに感謝しなくっちゃあね。
あと1歩。
さて、じゃあそろそろやりますか。
(* ー )っ=ニフ
ぐっとグリップを握りしめる。
うん、ちょっと手痺れてるけど、まだ大丈夫そう。
ナイフを天井に向けて――全力で投擲。
相手が見えなくて動いてるなら当たらないかもしれない。
でも、『見たことがあって場所を覚えてる動かない物』なら絶対に当てる自信がある。
- 30 名も無きAAのようです 2013/12/29(日) 16:18:30 ID:V2b20sxk0
- がぎっ。
『何の音――』
べきん。
がっしゃん!
『――ふぎゅっ!?』
普通に吊り下げてあるけど、スピーカーって結構重たいんだよね。
- 31 名も無きAAのようです 2013/12/29(日) 16:20:31 ID:V2b20sxk0
- ***
(*゚ー゚)「で、なんなのアンタ達。最近しつこいんだけど」
初めと同じ質問を投げかけてみる。
拘束用ワイヤで手足を後ろに縛られた女は、床の上で身を捩りながら呻いた。
服をひん剥いておいたので、灰色のスポーツブラと綿パンツのみ。
……色気ないな、処女かな、この子。
(゚=゚トソン「――!!」
舌を噛まないようにハンカチを突っ込んであるので、まあ、喋りたくてもそうそう喋れる状況ではなかったんだけどね。
あとついでに奥歯に仕込んであった毒薬を無理に引っこ抜いておいたから、かなり痛いと思う。
(*゚ー゚)「あ、これ煙幕? ちょっと使わせてもらうね」
店内に煙を満たしておかないと、外の狙撃班が邪魔してきそうだからさ。
色がいくつかあって、サーモンピンクを選んだ。これ、かわいい。
煙幕を張ろうとしていると、スマホが鳴った。
バッグから取り出すと、画面には【びぃ】と表示されている。
(*゚ー゚)】「もしもーし」
『もしもしもー。しぃちゃん。今大丈夫ー?』
間延びした喋り方で、電話の主が答えた。
(*゚ー゚)】「うん、大丈夫だよー。お姉ちゃんは元気?」
- 32 名も無きAAのようです 2013/12/29(日) 16:21:20 ID:V2b20sxk0
- 『相変わらず死ねないよー、辛いよー』
(*^ー^)】「ははは、もー何言ってんだか」
一番生命力あるのに死にたがりなんだから、もう。
『そーだ。要件なんだけどさー、あのさー、外の掃除しておいたよー』
(*゚ー゚)】「あ、ホント? なんで困ってるって分かったの?」
『中の掃除するよーに電話しといてあげるからー、早めに出なねー?』
スルー。
知ってる。お姉ちゃん、また私のことストーキングしてたんだ。
(*^ー^)】「わー、もうお姉ちゃん優しいから大好き! 愛してるー!」
別に今更気にしないし、本当に愛してるしね。
『えへへ、わたしもだよー』
(゚=゚トソン「――!! ――!!」
じたばたする殺生石を尻目に、私は電話を切る。
(*゚ー゚)「で、どうする? 知ってると思うけど、ウチの【質問係】結構エグいみたいよ?」
常に新しい方法を試していくのがうちのやり方らしいから、見たことも聞いたこともない【質問】の仕方が待っているはず。
少なくともこの女の子の顔、二目と見れない感じになっちゃうんじゃないかな。
- 33 名も無きAAのようです 2013/12/29(日) 16:22:49 ID:V2b20sxk0
- (*゚ー゚)「でもそっか、失敗して帰ったら帰ったでアンタの家も許してくれないかな」
どっちの方がしんどいのかな。
自分ちと人んちで怒られるのって。
(*゚ー゚)「うーん」
店内のガスが換気扇に吸い出されて少しずつ晴れてきた。
神経毒も中和されて、手先の痺れも取れてきた頃、今度は女のスマホ――あ、iPhoneだこれ――が鳴った。
名前の表示はなかった。
(*゚ー゚)】「はい、もしもし」
『この度は私どもの娘達が失礼を致しまして。申し訳ありません。殺生石のフォックスと申します』
少し深みのある、男性の声。
どうやら、殺生石の上の方の人らしかった。
『不始末は身内で片付けますので、どうか、その子をそのまま置いておいていただけませんか?』
(*゚ -゚)】「ちょっと都合よすぎやしません?」
『もちろんタダでとは申しません。こちらにできることはさせていただきます』
(*゚ -゚)】「ここ3ヶ月で4人目なんですけど……。今更信じろってのは難しいですよ、えと」
『フォックスです』
- 34 名も無きAAのようです 2013/12/29(日) 16:24:20 ID:V2b20sxk0
- 『それでしたら、ええと、こうしましょう。娘の耳元に電話を置いて、あなたは少し離れてください』
(*゚ -゚)】「えー」
『ははは、なに、ちょっとお説教をするだけですよ。我々らしく、毒づくだけです』
(゚=゚;;トソン「――――!!」
ちらりと女の方を見ると、凄まじい恐怖の色を顔に浮かべていた。
何が起きるんだろう。ちょっと興味があった。
(*゚ -゚)「んー」
つ【
(゚=゚;;トソン「――!! ――!!」
ぶんぶん首を振る女。
これはどうしたものか。
『私どもとしましても、あなたとこれ以上関係を悪くしたくはないのですよ。ですから、けじめを、ね』
あなたと、か。
私の実家との仲って言わない辺りはちょっと好感持てるかな。
「なーにしてんのー?」
- 35 名も無きAAのようです 2013/12/29(日) 16:26:04 ID:V2b20sxk0
- のんびりとした声に振り向くと、そこには傷だらけでボロに身を包んだ女性が立っていた。
ざくざくに乱雑に切られたロングヘアで、ちょっと垂れてる涎が愛らしい。
(´ρ゙#)「出てこないから迎えきちったーえへへー」
大小二本のナイフを持ったその人こそ、さっきの電話の主だった。
(*゚ー゚)「お姉ちゃん!」
音もなくそこにいることは特に驚くことじゃない。
それよりも。
(*゚ -゚)「また自分の体大事にしないでやりあうんだからーもう」
返り血と自分の血でべったりだ。
何度言っても捨て身のスタイルを変えないんだよね。
(´ρ゙#)「大丈夫ー、もう傷塞がったからー」
と言って、腕に作られた銃創を指でつつく。
どう見てもまだ傷は塞がってないよ、お姉ちゃん。
(´ρ゙#)「あー、弾出してないやー」
そして、指をそのまま肉の中に突き入れようとしたので、私は腕を掴んだ。
(*゚ー゚)「ちゃんとお医者に取ってもらおうね」
- 36 名も無きAAのようです 2013/12/29(日) 16:27:34 ID:V2b20sxk0
- (´ρ゙#)「それ誰の電話ー?」
(*゚ー゚)「あ、うん。そこの子の。今回のこと許してくれって」
(´ρ゙#)「へー?」
少しだけ考えて、私はiPhoneを耳に当てた。
(*゚ -゚)】「なんか変なことになったら許しませんからね、フォックスさん」
『ありがとうございます。それでは、トソンの近くに電話を』
(゚=゚;;トソン「――!!」
(*゚ -゚)「置きましたよ」
(´ρ゙#)「よぉー」
で、何がしたいんだろ、フォックスさんとやら……。
- 37 名も無きAAのようです 2013/12/29(日) 16:28:51 ID:V2b20sxk0
- などと考えていると、女が痙攣を始めた。
::(゚ ゚トソン:: がたがたがたがた
(;*゚ー゚)「えっ」
(´ρ゙#)「あ、おしっこ漏らしたー」
::(゚ ゚トソン:: がたがた……
びく、と大きく首を後ろに反らして、鼻血を流す女。
そして、そのまま体は固まり、小水溜まりに身を横たえたままとなった。
それはまるで、強力な毒を盛られたかのような、そんな反応だった。
(゚ ゚トソン
(´ρ゙#)「ばっちぃ」
- 38 名も無きAAのようです 2013/12/29(日) 16:30:21 ID:V2b20sxk0
- 私のスマホが鳴る。
非通知。
(*゚ -゚)】「何したんですか?」
『私どもが毒を扱うのはご存じの通り。しかし、その毒というのも進化を続けているのですよ』
(´ρ゙#)「この子私よりおっぱいおっきいね」
『毒電波、という言葉は?』
(*゚ -゚)】「都市伝説でしょう?」
『【殺生石】自体、伝説上の名前ですから。それが姿を得て、歩いている』
つまり、電話を通じて毒を送り、電波をもって人を殺す。
それを行えるのが、【死の六族】が一席、毒使いの【殺生石】。
かなりオカルトチックだけれど、目の前で実演されちゃ信じないわけにもいかない。
(´ρ゙#)「脇の処理甘いよぉ~」
(*゚ -゚)】「これがけじめってことで受け取っていいんですか」
『ええ。ですが、これで謝罪が終わりと言っているわけではありませんよ』
- 39 名も無きAAのようです 2013/12/29(日) 16:31:23 ID:V2b20sxk0
- 『我々の情報を提供しましょう。あなたが何故狙われているのか、これから私どもが調査協力を致します』
(*゚ -゚)】「あなたの指示ではないの?」
『まさか。プロジェクトC4にむやみに手を出す意味がない』
(*゚ -゚)】「……」
割と有名なのね、私。
『オフィシャルには協力関係を明らかにできませんが、いくらかのお手伝いをさせていただきます』
(*゚ -゚)】「そう」
『あ、それとですね。娘――トソンと電話はそのままにしておいてください。こちらで回収しますので』
毒電波を発生させている殺人iPhoneには触りたくないと思っていたところだ。
これは正直ありがたいよね。
電話を切って少しすると、お姉ちゃんが口を開いた。
(´ρ゙#)「かえろー、しぃちゃん。お車回してもらうー」
お姉ちゃんは、横たわった女からまるで興味を失ったらしい。
(*゚ー゚)「うん、そうだね」
私は私でそろそろキュートに連絡を入れなくちゃと思ってたし、ちょうどいいタイミングだった。
- 40 名も無きAAのようです 2013/12/29(日) 16:32:31 ID:V2b20sxk0
- ***
o川;´ー`)o「おーそーいー、さーむーいー」
(;*゚ー゚)「ごめんごめん!」
電話を入れて5分、近くの公園に行くと、キュートが缶コーヒー
(甘党なのでMAXコーヒー一択らしい)を両手で握りしめてベンチに座っていた。
(*゚ー゚)「阿部さんは?」
o川*゚ー゚)o「可愛い男の子が出歩いt」
<アッ―――――!!
(*゚ー゚)
(*゚ー゚)「あそう」
o川*゚ー゚)o「それで、大丈夫だった?」
(*゚ー゚)「え? うん。もちろん」
- 41 名も無きAAのようです 2013/12/29(日) 16:35:10 ID:V2b20sxk0
- o川*゚ー゚)o「心配なんだよ? いつも、何かわかんないのと何かしてるじゃない」
o川;>ー<)o「やばい!」
o川*゚ー゚)o「って時はちゃんと頼ってくれないとさ」
ころころと表情を変えるキュートは、やっぱり可愛らしかった
(*^ー^)「えへへ、ありがと」
私は、素直に嬉しくって礼を言った。
o川*゚ー゚)o「なんなら実家の力も借りるからさ」
(;*゚ー゚)「それは悪いからいいよ、ホントに」
ただでさえ実家を家出同然で出てるキュートなのに、その上で迷惑かけるだなんて。
しかも原因が私って、いくらなんでも申し訳なさすぎる。
o川*゚ー゚)o「でも、しんどくなったら言ってね?」
(*゚ー゚)
(*^ー^)「うん!」
持つべきものは親友だなあ。
- 42 名も無きAAのようです 2013/12/29(日) 16:35:53 ID:V2b20sxk0
――あ、あとお金ね。
.
- 44 名も無きAAのようです[sage] 2013/12/29(日) 16:58:32 ID:iWqFo8FU0
- 乙
すっごい好みだ、続きが楽しみ
- 45 名も無きAAのようです[sage] 2013/12/29(日) 21:55:26 ID:G21/Ij6w0
- しぃがかっこいい
すげえ楽しみ
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