( ^ω^)くたびれ30男のようです

3 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/06/23(水) 23:57:16.66 ID:Yrb6sCmrO
 俺は生まれたそばから父親を亡くしている

 聖フーマス病院の分娩室で彼は絶命した。

 僕はと言うと、右手で握り潰した父の心臓なんかには目もくれず泣きわめいていた。

 母、そして双子の兄とはそれから会っていない。

 物覚えつく頃に、自分がスーパーヒーローのアカデミーにいることを知った。

 ( ^ω^)くたびれ30男のようです

4 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/06/24(木) 00:02:10.63 ID:DeEEGvy/O
 似たような異端児が多く生まれた年だった。

(,,゚Д゚)「お菓子食べる?」

 急速に成長する体質の友人がいた。

 当時の肉体年齢が20を過ぎていたから、15歳で死ぬと言われていた。

 でも、それは実現しなかった。

 11歳の誕生日に自爆テロで彼は死んだから、予想は4年もズレた。

(,,゚Д゚)「このお菓子美味しいよ」

6 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[一人称は僕に置換しといてください] 2010/06/24(木) 00:11:47.30 ID:DeEEGvy/O
 アカデミーに同期は9人もいたが、3人は犯罪を食い止める際に亡くなった。

 思春期を「兄弟」の死と、悪意や狂気への対抗に費やした僕らは一言で片付ければ

 ひどく冷めていた。

 養父のモナー氏がよく抱きしめてくれたのを覚えている。

( ´∀`)「君らは大多数の善人を守る大切な存在だ。誰もが君らを愛してるよ」

 そんなふうにして、額にキスをするのだ。

 僕が投げた鉄パイプで民間人をずっぽりと貫いてしまった後も、変わらず。

 他にすがる相手はいなかった。

 スーパーヒーローの研修生達は、唯一の拠り所を頼りに生きた。

8 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/06/24(木) 00:17:22.16 ID:DeEEGvy/O
 ショボンという男がいる。

 サイコメトリーとテレキネシスを持つフワフワとした男だった。

(´・ω・`)「たぶん、こっちに犯人がいるよ」

ノパ⊿゚)「早く終わらせてトムとジェリー観たいな!」

 彼は、パイロキネシスを備えた少女、ヒートと共に悪人退治を行うことが多かった。

 その日、僕らは下水道に逃げた「トカゲ」を追っていた。

 わざと姿を見せた上で痕跡を残す、快楽殺人者だった。

11 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/06/24(木) 00:23:17.19 ID:DeEEGvy/O
 「トカゲ」の罠は狡猾だった。

 ヒートの発火能力を逆手に取られ、僕は右腕に大火傷を負わされた。

 ショボンが慌てて炎を吹き飛ばしている間、ヒートは錯乱状態だった。

 薬が切れたように見えた。

 精神安定剤もヌイグルミもそこにはなかった。

 無線機でモナー氏の声。

「気絶させろ」

 「兄弟」を殴ることは、結局できず仕舞いだった。

 ヒートは自らの炎で焼けてしまったのだ。

13 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/06/24(木) 00:31:25.66 ID:DeEEGvy/O
 「妹」がぐずぐずに崩れる時、「トカゲ」がいつもの鼻歌とともに現れた。

「哀れ哀れ、人は哀れ
 泣けよ人よ、環の中で
 進め道を、道化面で
 死せよ人よ、塵の上で」

 ショボンが崩落した壁を念力で飛ばしたが、完全に的外れな場所で砕けた。

(´・ω・`)

 ヒヤリとした悲しみが僕の頭にも流れこんできた。

 ショボンはヒートが好きだったのだ。

 9歳の夏だった。

 「妹」は僕の右腕と一緒に埋葬された。

15 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/06/24(木) 00:40:17.27 ID:DeEEGvy/O
 15歳にもなると「兄弟」はかなりタフになっていた。

 同時に、アウトローな気質も表に出る時期だった。
  _
(#゚∀゚)「もうアカデミーの言うことをきくのはうんざりだ!」

( ´∀`)「ジョルジュ、お前のためを思って……」
  _
(#゚∀゚)「親父ヅラするな!」

 よくジョルジュはモナー氏を否定した。

 補導された彼を迎えに行くモナー氏は悲しそうにしていた。

 この頃からジョルジュはビールを飲み続けている。
  _
(#゚∀゚)「感謝もほとんどされねぇ仕事に意味があるか!?」

20 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/06/24(木) 00:46:43.13 ID:DeEEGvy/O
  _
( ゚∀゚)「俺はここを出て普通の人間として、普通の生き方をするんだ」

 そういう彼の両手両足はそれぞれ鋭い爪が覗いていて、僕はそれらから目を反らすのに必死だった。

 満月の晩にその程度の変化で済んだのは、珍しいことだったのだ。

 ジョルジュの機嫌を損ねたいとは、今でもあまり思わない。

(´・ω・`)「僕らに普通の暮らしって、できるのかな」
  _
( ゚∀゚)「望めばなんでもできるさ!」

 モナー氏の口癖を発した途端、きまりが悪そうにジョルジュはツバを吐いた。

 僕は少しだけ笑った。

21 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/06/24(木) 00:51:35.75 ID:DeEEGvy/O
 夜中にヒートの墓参りをしていると、柵を「すり抜ける」影に気が付いた。

ζ(゚ー゚*ζ「ゲッ、リーダー」

 嫌なヤツに捕まった、とデレは舌を出した。

 父さんに報告するぞ、と脅しつけても、本人はひょうひょうとしたものだった。

ζ(-△-*ζ「この年にもなればデートくらいするものでしょう?」

 彼女はそのまま、アカデミーの宿舎まで「すり抜け」た。

 一人残された僕は、「この年」にもなれなかったヒートの墓石を撫でた。

23 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/06/24(木) 00:53:48.58 ID:DeEEGvy/O
 その頃から僕は、なんといえば良いのか……

 正直に言ってしまえば

 「兄弟」とのズレを意識していた。


 僕は「普通」を望まなかったのだ。

25 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/06/24(木) 00:59:23.96 ID:DeEEGvy/O
 「普通」は弱い。

 僕が「普通」でないから強いのか、それとも逆なのかは分からない。

 それでも――片腕が作り物にされているとはいえ――一般人よりは明らかに強く、特別だ。

 生まれが少し違うことは、僕を人間でも浮いた存在にしていた。

 それだけで自己認識は可能だ。

 もがいて「自分」を捕まえに行く必要はない。

 バックパッカーをして何ヶ月も無駄にすることはないのだ。

27 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/06/24(木) 01:06:03.24 ID:DeEEGvy/O
 望まれた仕事を必要に応じて受ける。

 そんな、まさに天職であるヒーローの地位を棒に振ろうとする「兄弟」。

 僕には彼らが分からなくなっていく。

 ただ墓石の下に眠る妹達だけが、僕を肯定してくれる気がした。


 チームに生まれた曖昧な不和を広げながら、アカデミーの面々は18になった。

 サプライズが待っていた。

30 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/06/24(木) 01:13:23.11 ID:DeEEGvy/O
 ジョルジュがついに屋敷を出たのだ。

『くたばれ偽善者ども』

 そんな粗末な書き置きが残された翌年、デレもボーイフレンドと駆け落ち。

 それらを受けて、モナー氏が心労で倒れた。

 医師を目指したメンバーのクールは舌打ちを隠さなかった。

川 ゚ -゚)「恩知らずめが……!」

 産声で両親を破壊した彼女は、僕と心境を同じくしていたようだった。

 全幅の信頼を寄せた養父に仇成すなど、信じられない、と。

川 ゚ -゚)「わたしはここにいますよ」

 病室で彼女はよくそう言っていた。

33 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/06/24(木) 01:18:24.56 ID:DeEEGvy/O
川 ゚ -゚)「長くないかもしれない」

 ただ心労だけを理由に、モナー氏は昏倒したのではなかった。

(´・ω・`)「……そうだね」

川 ゚ -゚)「知っていたな? お前、どうして――」

(´・ω・`)「父さんが言うなって」

川 ゚ -゚)「それは、まさか、そんな」

 年に一度か二度だけ、回避できない運命を予知する。

 それがモナー氏の能力。

 モナー氏がそう言ったということは、そういうことなのだろう。

35 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/06/24(木) 01:25:25.37 ID:DeEEGvy/O
(´・ω・`)「父さんはずっと我慢してたんだよ」

 精神を読み取れてしまうショボンも、間接的に未来を知っていた。

 目を伏せたショボンに、さらに噛みつくほどクールは愚かではなかった。

 僕はジョルジュやデレにそのことを伝えようとしたが、ついには叶わなかった。

 20の冬。

 雪が降る夜に、モナー氏は亡くなった。

 次元の狭間を揺れていたフォックスが二年振りに帰還し、葬儀を仕切ってくれた。

 僕は父さん、と呟いて、少しだけ泣いた。

37 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/06/24(木) 01:32:49.46 ID:DeEEGvy/O
爪'ー`)y‐「なあ、親父は笑ってたか?」

(´・ω・`)「変わらなかったよ」

 満足げにフォックスは煙を吐き出し、そのまま異次元に没入した。

 ……フォックスはモナー氏を愛しながらも憎んでいた。

 能力の使い方を教えてくれはしたが、制限されもした。

 異端児のあり方を教育されながらも普通を強要されたのだ。

 次元移動は世界に変調をもたらす、と言われ。

 もう帰ってこないのだろうな、と僕らは予感していた。

 足枷が外れた鳥は、気ままに飛ぶものだ。

40 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/06/24(木) 01:37:57.80 ID:DeEEGvy/O
 解体狂の「ノコギリ」が右腕を切断した。

 24になってからは初めての失態だった。

 クールがアシストしてくれなければ左腕も義手にしなければならないところだった。

川 ゚ -゚)「心配事か」

 軽く流しはしたが、図星を突かれて内心穏やかではなかった。

 その前日に、僕はジョルジュと再開していたのだ。

46 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/06/24(木) 01:43:38.07 ID:UCSiY8ZpO
淡々としてるのがいいな……




47 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/06/24(木) 01:44:43.60 ID:DeEEGvy/O
 寂れたダイナーのカウンターで、彼はウインナーを口に運んだ。

 4年間で生え揃ったアゴ髭がもそもそと動いていたのが印象的だった。

 すっかり酸っぱくなったコーヒーをすすると、僕は尋ねた。
  _
( ゚∀゚)「普通の生活? まあまあ楽しくやってるさ」

 確かに、と僕は思った。

 昔よりずっと表情はイージーだったし、モーターバイクから降りる時は笑顔すら見せたのだ。

 カリカリしていた狼青年の面影はなかった。

49 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/06/24(木) 01:50:13.97 ID:DeEEGvy/O
  _
( ゚∀゚)「今度俺、結婚するんだよ。見ろよこれ。美人だろ」

 写真に写っていたのは、浅黒い肌のスレンダーな女性だった。
  _
( ゚∀゚)「……俺が選んで、声をかけて、モノにしたんだぜ」

 誇らしげに言ったジョルジュがジュークボックスにクォーターを放った。
  _
( ゚∀゚)「音楽も、教育のためのバッハやモーツアルトじゃないのにハマった」

 ロック。

 僕はこのバンドを知らなかった。
  _
( ゚∀゚)「道を選ぶってのはいいもんだぞ」

54 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/06/24(木) 01:57:27.17 ID:DeEEGvy/O
川#゚ -゚)「集中しろ!」

 ハッと、記憶から呼び覚まされた。

 瞬間、クールの発した、指向性を高めた咆吼が僕の真横を突き抜けていった。

 振り子の要領で迫るチェーンソウが爆発するのを目の端で捉えた。

川#゚ -゚)「遊びに来ているのか?」

 頭を振って「ノコギリ」を探せば、その姿はどこにもなかった。

 ただひたすら、まぶたの裏に、ジョルジュの顔が浮かぶばかりだった。

55 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/06/24(木) 02:02:23.80 ID:DeEEGvy/O
(´・ω・`)「ごめんね。すぐに復帰するから」

 「ギア」のロボットが放ったミサイルの怪我で、ショボンは病院にいた。

(´・ω・`)「それにしてもリーダー。どうしたんだい、その様は」

 ゆるゆると、しかし抜け目なく、彼はきいた。

 僕の体に触れてしまえば「読める」のに、それをしないのは僕ら「兄弟」の礼儀だった。

(´・ω・`)「そう……。元気なら、よかったんじゃないかな」

 ジョルジュとの件を白状すると、ショボンは遠い目をした。

57 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/06/24(木) 02:06:30.88 ID:DeEEGvy/O
(´・ω・`)「それで?」

 僕は何でもない風を装って、分からないふりをした。

(´・ω・`)「とぼけなくてもいいよ。混乱してるんだろ」

 チョコ・バーを少しかじって、僕は頷いた。

(´・ω・`)「『普通』ってなんなんだろうね」

59 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/06/24(木) 02:13:02.42 ID:DeEEGvy/O
( ・∀・)「失礼、そろそろ検査の時間です」

 担当医のモララー氏が時間を告げ、僕らは別れた。

 早くも夜風が冷たくなり始め、枯れ葉が舞う季節となっていた。

 コートの襟を立てながら屋敷に戻ると、罵声が僕を文字通り吹き飛ばした。

 クールが何かに怒っている。

川 ゚ -゚)「――」

 弾け飛んだドアから覗いた顔は恐ろしいほど冷静だった。

60 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/06/24(木) 02:18:55.70 ID:DeEEGvy/O
ξ゚⊿゚)ξ「いいから金出しなさいよ。政府からも給料出てるんでしょ」

 くたびれたコートに、安っぽいバッグを合わせた女が倒れていた。

川 ゚ -゚)「━━━━」

 見覚えのある女に、クールの怒声(というか騒音)が叩き付けられた。

ξ゚⊿゚)ξ「っざけんじゃないわよ!」

 壁に頭を打ち付けたデレは、落ち窪んだ眼窩の下に怪しい光をたたえていた。

 クールが屋敷を粉砕する前に、僕は仲裁に入った。

62 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/06/24(木) 02:25:00.31 ID:DeEEGvy/O
 デレが屋敷を去ってからの経歴は酷いものだった。

 悲惨な3年は、駆け落ちした男が薬に手を出したことに始まった。

 音楽で一旗上げようとコネクション作りに訪れたパーティが原因だという。

ξ゚⊿゚)ξ「何よ、悪いっていうの? スピードくらい誰だってやってるじゃない」

 あとは、ご覧の通り。

 彼女は健全な肉体、精神、そして透過能力を失っていた。

 残ったのは濁った瞳とアルコール臭い吐息。

 男の愛すら、残らなかったのだ。

64 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/06/24(木) 02:31:14.71 ID:DeEEGvy/O
川 ゚ -゚)「私達を捨てた人間が戻ってきて助けろと? バカげてる」

 あまり騒がれては評判に関わる、と顧問弁護士は判断し、デレに金を握らせることにした。

 二ヶ月弱は暮らせる額だが、覚醒剤のレートに換算すれば一月ももたないだろう。

 しかし、デレは満足げに立ち去った。

 これが自由を手にした女の値段か、とクールは嘲笑した。

川 ゚ -゚)「二度来てみろ。次は全てを原子に還してやる」

66 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/06/24(木) 02:38:00.47 ID:DeEEGvy/O
( ・∀・)「私達一般人をどう思いますか?」

 義手の接触を検査してもらうために、僕はモララー医師を訪れていた。

( ・∀・)「脆弱、非力。数が多いだけ?」

 ずいぶんと卑下したような物言いに、口をつぐんだ。

( ・∀・)「自分で人生を決定できる可能性と、簡単に破壊され得る弱さが、ほんの紙切れ一枚の裏表に共存しています」

 僕は薄い氷の上を這いつくばる人間を想像した。

( ・∀・)「そうです。薄氷を踏みぬかないようにしているんですよ……慎重に」

 それきり、彼は黙ってしまった。

 気の利いた言葉が浮かばず、義手だけを動かした。

69 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/06/24(木) 02:48:21.83 ID:DeEEGvy/O
 「兄弟」は28歳になった。

 それまでにデレは3回屋敷を訪れ、今は裁判の末に刑務所に入れられている。

 ちなみにアカデミーの名誉のため名前は伏せられているし、厳密には精神病棟だ。

 ジョルジュは結婚、子供を二人もうけて慎ましくも、幸せにやっているようだ。

 ショボンとクールは僕と相変わらず悪人を捕まえに奔走していた。

 「ノコギリ」を捕まえ、「ギア」を海底に叩き込み、「カメレオン」を闇に葬った。

 銀行強盗レベルならまだしも、大量虐殺などとは無縁になり始めた。



 そんな頃、ヒートが蘇った。

70 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/06/24(木) 02:55:28.59 ID:DeEEGvy/O
ノパ⊿゚)「寒い、寒いよ。父さん、ショボン……どこ……」

 ヒートは「トカゲ」の罠により殺される直前の姿で街をうろついた。

 僕が駆け付けた時には。警官が一名、バーベキューになっていた。

 少女を保護しようと近付いた矢先に炎に呑まれたのだという。

ノハ;⊿;)「とっ、父さん……何も見えない……助けて……」

 嗚咽が炎をくねらせ、涙はアスファルトを溶かし、空を焦がした。

ノハ;⊿;)「うえっ、ここ、どこ……帰りたい……」

71 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/06/24(木) 03:00:11.71 ID:DeEEGvy/O
(;´・ω・`)「ヒートッ!」

 ショボンが走り寄る寸前、腕をとった。

(;´・ω・`)「はっ、離してくれ! 僕ならテレパスで……!」

 ショボンの顔色がみるみる青くなっていった。

(´ ω `)「た、魂が、傷付いて、声が届かない」

川 ゚ -゚)「……やるしかない」

 その瞬間にも、電器屋のディスプレイが爆発していた。

72 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/06/24(木) 03:05:07.63 ID:DeEEGvy/O
『それで、ヒートは?』

 ジョルジュから珍しく電話があった。

 大火災の原因は、ニュースにより国外まで広まっただろう。

『その、やった、のか?』

 慎重に言葉を濁したジョルジュに無言で応えた。

 ショボンのいる部屋でこれ以上続ける話題ではなかった。

75 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/06/24(木) 03:10:39.00 ID:DeEEGvy/O
川#゚ -゚)「今度は父さんを……!」

 犯人「ネクロ」は次々に「兄弟」の遺体を蘇生し、ついには「父」までをも操った。

(´・ω・`)「もう、一想いに」

川 ゚ - )「ああ。予知能力に気をつけろよ」

 涙は枯れていた。

 そういえば、モナー氏の葬儀をした晩から泣いていなかったかもしれない。

 もしかしたら、それも勘違いかもしれない。

 僕らは涙を流さない生物なのかも。

 なんだかおかしい。

76 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/06/24(木) 03:12:16.20 ID:DeEEGvy/O

 ほとんど関わりのない住民のために

 家族を殺さなければいけない僕達は

 人間として、生物として、決定的におかしい。

77 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/06/24(木) 03:16:43.97 ID:DeEEGvy/O
 僕の機械の右腕は養父の心臓を抜き取った。

 動きを止めていた内臓に体温は感じられなかった。

 なんの感慨もなく、感想もなく、右手はそれを握り潰した。

 生まれた時にしたことだ。

 無意識でできたことをいまさらどうして実現できないだろう。



( ・∀・)「それがあなたの普通な生き方だからでしょう」

 モララー医師はそっけなくそう言った。

79 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/06/24(木) 03:21:46.52 ID:DeEEGvy/O
( ・∀・)「生まれた瞬間にあなたは人殺しとして決定されているんです」

 口角を優しく上げながら、彼は続けた。

( ・∀・)「ようやく証明されました。長かった、実に長かった」

 首に注射を打たれた。

 薄暗い病室に、笑顔が浮かび上がった。

( ・∀・)「最高のステージで、お話しましょう」

――兄さん

80 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/06/24(木) 03:27:47.50 ID:DeEEGvy/O
 爆発的な音声を顔面に受けて、僕は目覚めた。

川 ゚ -゚)「ようやく起きたか」

(´・ω・`)「安心したよ」

 そこは広い、円形のボイラー室のようだった。

 正三角形の頂点を作るように、僕らは磔にされていた。

(´・ω・`)「薬で念力が使えないんだ」

川 ゚ -゚)「救援も……期待できないな」

81 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/06/24(木) 03:33:44.13 ID:DeEEGvy/O
( ・∀・)「人間がいつ決定されるのか」

 部屋に入ってきたモララーは、怪人然とした服装などしていなかった。

 「ネクロ」のユニフォームは黒のスラックス、白のシャツ、か。

( ・∀・)「生まれた時か、それとも環境か、教育か」

 「ネクロ」は中央に置かれた黒く長いバッグを開く。

 隙だらけの背中にクールが声を当てようとした途端、胸にナイフが突き立てられた。

82 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/06/24(木) 03:37:11.71 ID:DeEEGvy/O
川;゚ -゚)「カッ――ヒュウ――!」

 ナイフの持ち主、それは、予想され得る限り最悪の人物だった。

ξ゚⊿゚)ξ「もう片方の肺も潰しておこうか」

 デレ。

 薬物依存症の「妹」が、平然と「兄弟」を突き刺した。

( ・∀・)「まだ死なれたら困る」

ξ゚⊿゚)ξ「あっそ」

 時間差で、クールの口から血液が溢れた。

85 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/06/24(木) 03:44:32.98 ID:DeEEGvy/O
( ・∀・)「親に求められて人格を作るのか、自ら求めて変化していくのか」

 ボディバッグの中には、中年男性の死体が詰められていた。

 どうも古いものを復元したもののようだ。

( ・∀・)「僕はどうしたらよかったんだろう。ねえ、兄さん。教えてくれよ」

 死体が、上体を起こした。

 胸には、心臓があるはずの位置には、空洞があった……。

( ・∀・)「どうして殺人狂いの兄さんは金持ちの家に行けたんだい? 父さんを、こんなにしておいて!」

86 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/06/24(木) 03:50:24.86 ID:DeEEGvy/O
( ・∀・)「実の息子に夫を奪われた母さんが、僕をどう扱ったか知ってるかい? 知らないよね?」

 モララーは、弟は、シャツの前をはだけた。

( ・∀・)「僕達は一卵性の双子。僕は父さんを殺したヤツと同じ顔をしてるんだよ。そんな僕がどうされたと思う!?」

 アイロンの形にひきつれた胸の火傷がてかてかと光を返す。

( ・∀・)「僕には母さんを満足させられなかった。愛するにも、憎むにも、半端だった」

(´・ω・`)「……それで復讐をね」

87 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/06/24(木) 03:56:05.54 ID:DeEEGvy/O
( ・∀・)「復讐? 違うよ。僕は復讐しない」

 本物の父親の死体が、右手を尖らせた。

 変色した爪の先が、僕の胸にあてがわれる。

( ・∀・)「僕は人生を変えられただけ。でも、父さんは人生を止められた」

 愛に溢れた生活の可能性を消されたんだ、とモララーは言って、目をつむった。

( -∀-)「僕の恨みなんか父さんの足元にも及ばない」

川;゚ - )「ハァハァ……ゴブッ……!」

 僕を助けようとクールが口を開いたが、飛び出るのは血の塊ばかりだった。

88 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/06/24(木) 04:00:36.40 ID:DeEEGvy/O
 ゆっくりと僕の胸に爪が刺し込まれていく。

(´・ω・`)「それで終わり?」

 焼けるような痛みの最中、ショボンの声を聴いた。

( ・∀・)「僕の人生は今日始まるんだよ」

(´・ω・`)「いや、そうじゃない」




  _
( ゚∀゚)「遺言ってのがそれで終わりかってことだろ」

91 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/06/24(木) 04:10:23.99 ID:DeEEGvy/O
 新手の登場に、父親の死体は動きを止めた。
  _
( ゚∀゚)「なんだよ、生き残り組の集まりか。勘弁しろよな」

 モララーに攻撃を交わされた、ジョルジュがぼやいた。

( ・∀・)「……また兄さんみたいな連中の死体を操作できるなんてね」
  _
( ゚∀゚)「ヒートも、ギコも、親父も、お前がやったのか」

( ・∀・)「親父というと、子供を売買する富豪のことかな?」

 さあな、とジョルジュが爪を尖らせた。

92 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/06/24(木) 04:20:16.64 ID:DeEEGvy/O
 人が獣に勝てる道理はなかった。

 満月に近い今夜、ジョルジュは力だけなら僕をもしのぐ。

 モララーが周囲に設置していた罠を作動させて、ようやくイーブンというところか。

 僕は父親の死体がモララーと僕との間で迷う姿を見ていた。

 やはり、僕は冷めた心持でそれを眺めるしかなかった。

93 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/06/24(木) 04:22:27.18 ID:DeEEGvy/O
 ジョルジュは左肩を拳銃で撃たれながらも、モララーを退けた。

 僕の心臓が取り出される前に救ってくれたのも彼だ。
  _
( ゚∀゚)「悪いがヤツを追いかける暇がねぇ。クーもお前も死んぢまう」

 逃げる寸前のモララーの暗い瞳を、僕は生涯忘れられないだろう。

 しかし、そうやって想いにふけっていたせいで、僕は大事な人間を忘れていた。

ξ゚⊿゚)ξ「あーあ、つまんない。皆死ねばよかったのに」

 そう、薬漬けの「妹」を。

(´・ω・`)「ちょっと、ちょっと待て、デレ!」

 「妹」がモララーの拳銃を拾って、こめかみに当て、そして――

95 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/06/24(木) 04:26:40.85 ID:DeEEGvy/O
 僕は今年30歳を迎えた。

 ひたすら、アカデミーの隅で「兄弟」のサポートをするばかりだ。

 時々思い出したように庭に出て、「兄弟」の墓参りをする。

 彼らがこうして死することを望んだのか。

 ジョルジュのように生きたかったのではないか。

 様々なことを考える。

97 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/06/24(木) 04:33:39.59 ID:DeEEGvy/O
 自分の生き方を誰かに定められることは、楽かもしれない。

 それは、選択を放棄して、考えずに生きること。

 強い感動も無いが、苦悩もない。

 僕はもう、そんな消極的な選択しかできない。

川 ゚ -゚)「どうした、外に出るのは久しぶりじゃないか」

「なんだか風を浴びたくなって」

(´・ω・`)「顔が痛む?」

( ^ω^)「少し、ひきつるよ」

99 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/06/24(木) 04:38:14.75 ID:DeEEGvy/O
 ジョルジュはいつでも励ましてくれる。

 娘達を伴って、僕を慰めに来てくれる。

 よく彼は言う。

「デレのようにもなれる。俺のようにもなれる。望んだらなんだってできる」

 快活な笑顔は、しかし、少しだけこわばっていた。

 彼自身、それに気付いていないようだった。

100 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/06/24(木) 04:39:43.29 ID:DeEEGvy/O
 おそらく、ジョルジュは僕の心の底を無意識に見つめてしまうのだろう。

 僕だって同じだ。

 いくら顔を変えても、鏡を見てしまえば、弟にそっくりな暗い瞳が僕を睨むから。

101 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/06/24(木) 04:43:25.57 ID:DeEEGvy/O

 僕は、たぶん、生まれたことを後悔しているのだ。

 死んでしまえば、僕らを取り巻く差や不安は消え去るのだから。

 もう、僕はくたびれてしまった。



  ( ^ω^)くたびれ30男のようです

      お  し  ま  い

103 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/06/24(木) 04:47:44.74 ID:DeEEGvy/O
あとがき
アメコミってキャラの青臭さがほとんどなくって
厨二病的には少し物足りないよね

かといってこれくらい青臭く迷走する主人公ってのもしんどいかしら
お疲れさまでした、おやすみなさい

106 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 2010/06/24(木) 04:58:07.21 ID:EIy2bWTqO
>>1乙面白かったよ
淡々とした雰囲気の流れが好きでした

私的には…
長編ぐらい物語引っ張って欲しかった
次回作期待してます

114 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/06/24(木) 12:29:12.47 ID:E4eP6RQh0
残ってた。無駄を省いて要所だけ取り上げるから、すごいテンポいい
これは乙だ




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