(-_-)「2・14 狂犬事件」のようです
- 1 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/08(月) 13:39:31.36 ID:rPqnFgpP0
- 君らにだって誕生日があるように僕にだってあった。
まーまー、今回は「そういう」誕生日の話じゃないんだ。
誰だっけ、ほら哲人が言ったろ?
人は二度生まれるってやつ。
人として生まれるだとか、素敵な台詞だよね。
中学生の時はひきこもってそんなんばっかり読んでたよ。
あ、そうそう。
どうも、僕はヒッキーと申します。
高校二年生を控えた今、狂犬を名乗らせてもらってます。
静かーにね。
- 2 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/08(月) 13:43:39.27 ID:rPqnFgpP0
- どこから話したもんかな。
「狂犬」の誕生日に焦点を当てるだけなら、二月十四日だけで話は終わるんだけど。
でもさ、それだけだったらつまんないし、なにより僕が満足しないんだ。
君らにも、少しは「僕」のことも知って欲しいしね。
だから初めの事件、去年の四月八日から語るべきだと考えた。
話下手だから聞き苦しい点もあるかもしれない。
ま、簡単に言ってしまえば、その日、早速高校デビューに失敗しているんだよね。
僕という人間はさ。
- 3 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/08(月) 13:47:33.95 ID:rPqnFgpP0
- 「4・8 没落事件」
(-_-)(ヒッキーって呼んでくれよな。趣味はギター、特技はお菓子作り。一年よろしく)
(,,゚Д゚)「以上、よろしく」
(‘_L’)「ありがとう、それじゃ次」
(-_-)(ヒッキーって呼んでくれよな。趣味はギター、特技はお菓子作り。一年よろしく)
( ・∀・)「モララーでっす。中学ん時は陸上部でハードル飛んでたんだけど――」
(-_-)(ヒッキ、ヒッキ、ヒッ)
(;-_-)ゲロォ
ζ(゚ー゚;ζ「わっ、きったなっ!」
- 4 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/08(月) 13:51:47.67 ID:rPqnFgpP0
- 僕は朝食の納豆と味噌汁とを、机にすっかり吐き戻してしまったんだ。
知ってる? 同じ大豆同士ってよくなじむんだよ?
だばだばと漏れた液はようく広がった。
悲鳴の伝播速度には負けたけどね。
(-_-)(終わった)
そりゃ吐くわけだと保健室で思ったよ。
中学時代はお情けで卒業させてもらって、他人に囲まれたのも数ヶ月ぶりだもん。
ξ゚⊿゚)ξ「親御さん呼んだから、よく寝てなさいね」
保険医の先生はまだ若いのに、しっかりと対応してくれた。
案内されたベッドは中学のそれより少し、上等だったね。
そんなことに気付けたのは、やっぱり常連だからっていう不名誉な経験からなんだけど。
- 7 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/08(月) 13:58:22.63 ID:rPqnFgpP0
- ソクホウ高校の保健室ってベッドが三つもあって、僕は窓際に寝かされたんだ。
カーテン越しに差す陽光が熱くてね。今でも思い出すよ。
(-_-)(また暗黒の中学時代再来か。いつも僕はそうだ、いつも大事なところでミスするんだ)
(-_-)(体育のサッカーでボールを回されて、焦って手で拾っちゃうし)
(-_-)(テスト中にお腹が痛くなってトイレから出られなくなるしさ)
(-_-)(ホントくずだよ、欠陥人間だよ。生きてても意味がないんだ。最悪だ)
この時の僕は劣等感のカタマリ――いや、今もないわけじゃないよ――で、自分を卑下しまくってた。
隙さえあれば、考える時間が一秒でもあれば自己嫌悪。
後悔先に立たずだって?
僕の人生の先には後悔のフラグがゴロゴロして、どうしようもない状態だった。
先人の言葉なんてのは現代人には通用しないんだ。
自分が望もうと望まなかろうと、ストレスはあっちからやってくる。
いやおうなく僕らは波に飲み込まれて、胃に穴開ける運命なんだ。
- 10 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/08(月) 14:02:54.62 ID:rPqnFgpP0
- ひきこもるのが僕の最高の手だと信じてたね。
幸い、親はそれなりに僕を養ってくれる自信があったし、篭城準備は完璧さ。
時折、実家に帰ってくる嫁入り三年目の姉以外、ストレスはおおむね回避できたし。
ネットの広大な海でおなじみの言葉を書き込みながら、僕はよく呟いたよ。
(-_-)「死にたい」
(-_-)「誰か殺してくれないかな」
(-_-)「隕石が降ってきて世界が終わればいい」
よくもまあここまで俯いて生きられるもんだ、なんて中学の先生は言ってくれた。
馬鹿いっちゃいけないよ。
前を向いたら誰かと視線があって気まずいじゃないか。
足元を見て転ばないようにうずくまってるのが賢い生き方さ。
(-_-)「もう死にてぇよ……」
- 13 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/08(月) 14:07:15.56 ID:rPqnFgpP0
- 目元に掌を当てて、涙が滲んだら誰か心配してくれるだろー、なんて考えてた。
そんな時だったね、肝が凍ったのは。
「うるさいんですけど」
(;-_-)「!」
さっきも言ったと思うけど、ベッドは三つあった。
どれもカーテンで区切られてて、様子はわからなかったけど、先客がいたらしい。
自分に向けた死ね死ねコールを聴かれた。
しかも、それをうるさいと怒られた。
(;-_-)(やば、また、吐きそ)
関連記憶が芋づる式に一本釣りだった。
注意も叱責も罵声も全部、ここに繋がる。
ストレス。
ぐっ、ぐっ、て胃が暴れた。
- 16 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/08(月) 14:11:03.23 ID:rPqnFgpP0
- 首元に昇ってきた心臓と、裏返る胃の感触。
これが嫌だから僕は、僕は、壁の中に生きたかっ――
シャッ
( <●><●>)「聴こえましたか。うるさ」
(;-_-)「!」
短時間に二発も撃ったの経験は君らにはある?
(;-_-) グボッビシャ
オレンジっぽい水を吐くマーライオンになるんだよ。
知ってる人にはくどくどとすまないね。
ビタバタタタ
しかもなかなか止まらないんだ。
- 17 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/08(月) 14:14:40.78 ID:rPqnFgpP0
- 四月八日の事件はこんな感じだった。
山火事よりも素早く噂が広まったね。
そりゃあ神経伝達速度とタメはったんじゃないの?
翌日には色んな方面からアプローチがあったよ。
( ・∀・)「お前中学時代イジメられてたんだって?」
(,,゚Д゚)「くせぇんだけど」
刺々しく深々と刺さる言葉達。
剥き出しの刃を振るえるクズは死ね。
でも、それよりも死んで欲しいのが自分だった。
- 18 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/08(月) 14:18:18.00 ID:rPqnFgpP0
- 意地になって失敗を取り戻そうとしてみたさ。
僕だってまた同じ轍を踏みたくないってのが本音だった。
運命、宿命、どっちが変えられないもんだっけ?
どっちでもいいけどね。
哲学をかじったばかりの自分が、少しばかし「価値ある人間」みたく思ってた頃でもあった。
だからちょっとは頑張った。
(-_-)「ね、ねえ、きょきょきょ、教科書見せてください」
ζ(゚ー゚*ζ「え……いいけど……」
ζ(゚ー゚*ζ チッ
ところで、二週間くらい耐えたのって頑張ったうちに入る?
- 19 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/08(月) 14:24:42.90 ID:rPqnFgpP0
- 「5・1 GWの屈辱」
なんとか学校に復帰しようと克己心を奮い立たせようとしたのが、大型連休中。
ゴールデンウィークっていう、ひきこもり人達には縁遠い日々だった。
(-_-)「まだいける、僕はまだ生きていける、いける」
春の気温の高さか風の爽やかさか、まあその手の要素が僕を健やかな気持ちにさせたんだ。
いつもだったら後ろめたくて怖い朝日が違って見えたね。
オタクがひょんな出会いでリア充になるスレを読んだのも、関係あったかもしれない。
スペックの「キモヲタ」を信じて希望を持ったんだ。
変化は外にあり!
僕はまず、アマゾンの利用を止めて書店に歩いていった。
ニュータイプと少年Aが欲しかったんだ。
- 21 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/08(月) 14:31:06.18 ID:rPqnFgpP0
- しかし早速失敗を予感したね。
なんせ僕ら一家は、とある理由で住み慣れた土地を離れてたんだ。
中学から離れた、僕でも入れるような高校の最寄駅付近まで引っ越して二ヶ月、土地勘なんか皆無だった。
とある理由? 訊くなよ、そんな野暮なこと。
(;-_-)(人が多い。服を笑われてる気がする……)
道行く人は休日を満喫する若者ばかりで、足は駅に向かってる。
僕なんかに構ってくれそうになかった。
線路を挟んで向こうに見えた本屋に辿り着けない。
自分のダメさを痛感するばかりで、気付けば現在地が分からない。
家を出たときに持ってた勇気のストックは、歩いているだけで急激に消費されていった。
- 23 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/08(月) 14:35:15.10 ID:rPqnFgpP0
- (-_-)「死にたい」
ほら、またこれだ。
自分で思いながら、その四文字はノンストップ。
(-_-)「死にたい死にたい死にたい」
目の前に広がる春の街に降り注ぐ隕石、の妄想。
外回りのサラリーマンが頭を砕かれて死んだ。
アスファルトはえぐれて集団で歩く高校生達に多段hit。
ははは、死ね死ね、僕も連れて行ってくれ。
天国でなくてもいいから――
( ・∀・)「待てよギコ、女の子もいるんだからな!」
(,,゚Д゚)「早くカラオケ行こうぜ!」
僕も、連れて行って、くれ?
- 26 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/08(月) 14:40:51.12 ID:rPqnFgpP0
- 頭に描いていた大惨事はさくっと消え去って、現実が急にクリアになった。
アスファルト連弾に殺されたはずの高校生の一人が、僕の方に顔を向けた。
即座に僕は俯いて、物陰を探す。
下げた視線に映る丈の短いスウェットと汚れた靴。
日曜日にプリキュアの間に流れる小学生向けのスニーカーと似た形だ。
母親が買ってくる靴だから黙って履いていたんだけど……。
(;-_-)(いやだ、見つかりたくない、会いたくない)
まさかここまで言って話の展開が分からない奴はいないよね?
もしいたら、すぐ辞書で予定調和とか、その辺の単語を調べてみなよ。
大体こういう時はこうなるってのが、お決まりなんだよ。
( ・∀・)「よーう! ヒッキーじゃねーか!」
こうなるんだ。
ノートに書いて赤線引いておきな。
- 27 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/08(月) 14:45:56.46 ID:rPqnFgpP0
- 華の高校生が七人、集まってた。
男が三人に、女が四人。
自己紹介の時に人の名前なんて聞いてられなかった。
でも、これだけは見た目で本能が理解した。
「こいつらは僕の上位種だ」ってね。
認めたくないもんだけど、人間も動物なんだよ。
直感は大体あってるし、こと、関係性については正確性が増す。
経験ないかな。
こいつには敵わないって肌で感じた経験は。
ζ(゚ー゚*ζ「……うわ」
それと、嫌悪感を全身で知った経験についても尋ねておこうかな。
- 29 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/08(月) 14:50:00.60 ID:rPqnFgpP0
- ( ・∀・)「どうしたんだよゲロ男w 寝ぼけて出てきちゃったのか?ww」
(,,゚Д゚)「止めろよモララーww」
笑いってのは不思議だよ。
笑ってる人がいると自分も笑顔になるんだ。
(;-_-)「あは、あははは」
どうだい?
いい笑顔だろ?
すごくいい笑顔だ。
無難な、無害な、踏み付けにされることを待っている従順な表情。
僕の特技といったらこれだよ。
愛想笑いっていう、やりすごしメソッド。
- 30 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/08(月) 14:54:13.98 ID:rPqnFgpP0
- ( ・∀・)「今からクラスの奴とカラオケするんだけどさー、お前も来るよなー?www」
(;-_-)「そっ、そうなんだ! へえぇ!」
ζ(゚ー゚*ζ「……勘弁してよ」
真横の席の女の子だ。
今はATフィールド張りに壁を感じる。
(,,゚Д゚)「モララー優しいからなwwwクラスメイトのほとんどに声かけてんだよwwww」
从 ゚∀从「なあ、あいつマジでくんの?」
近い距離にいたんだ。
どんなんでも聴こえるさ。
ζ(゚ー゚*ζ「……」
空気読めよっていう心の声だって聴くことができる。
人間ってのは優れた生き物だな。
- 32 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/08(月) 14:58:00.53 ID:rPqnFgpP0
- 他の女子二人は距離を置いて楽しくおしゃべりをしてたね。
僕のことは眼中にないのが見え見えだった。
無関心ってのはありがたい。
僕は一人でいたいんだから。
(;-_-)「ぼぼぼく……俺も行って、いいの?」
一人でいたかったはずだったんだ。
あーあ。
( ・∀・)「なにどもってんだよwwこいよww」
回顧録だからこそ冷静にモノが言えるだけで、テンパったらどうしようもないね。
馬鹿丸出しだよ。
もしかしたら、こいつ良い奴かもしれない、なんて思ってたんだから。
- 33 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/08(月) 15:02:44.87 ID:rPqnFgpP0
- 両肩を掴まれて、僕は連行された。
後ろから肩を押されて歩か「される」。
曲がら「される」。
横断歩道のボタンを押さ「される」。
横断中に手を上げ「させられる」。
僕は若干赤面しながら、死にたく思った。
( ・∀・)「なんかゲロヒッキー古い家の臭いすんな」
(,,゚Д゚)「俺も思った」
ζ(゚ー゚*ζ「ねえ、あたし帰っていい? 同じ部屋に入るとか考えられないんだけど」
从 ゚∀从「デレ帰るなら俺も帰ろうかな……」
後ろに立つお前らが悪い、って誰かがつっこんでくれたら何か違ったのかな。
- 34 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/08(月) 15:06:32.04 ID:rPqnFgpP0
- ( <●><●>)「……」
と、そこで僕はどこかで見た顔をグループに見つけた。
ただ一人、さっきからずっと喋っていなかった男子だ。
( <●><●>)「……」
黒目勝ちな目元にクセ毛の、細い人だった。
僕のがりがりな細さとは違って、すっと締まった印象だった。
( <●><●>)「哀れだな」
ぼそりと呟いたのを聴いたのは、僕だけだったらしい。
彼はそれっきり喋らなかった。
で、カラオケボックス到着。
- 35 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/08(月) 15:09:38.26 ID:rPqnFgpP0
- 受付で二部屋を取ると、モララーは僕に片方の伝票を渡した。
( ・∀・)「あとから他の面子も来るからそっちにいてくれよなー」
(;-_-)「う、うん」
待つこと30分。
(-_-)
隣の部屋ではドラゴンボールの主題歌が元気に歌われていた。
(-_-)
そうだよな、なんて思って、僕は黙ってた。
曲の入れ方も分からないし、本当にやることなんかなかったね。
- 36 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/08(月) 15:13:13.28 ID:rPqnFgpP0
- 部屋のドアが開いたのはそれからさらに30分後だった。
('A`)「あの、ここ?」
(-_-)(あ)
(’e’)「ドクオ、ここでいいんじゃねーの」
( ´∀`)「モナ。まあこんなこったろうと思ってたモナ」
現れた三人は揃いも揃って、なんというか、アレだった。
同族の臭いに満ちてたね。
初めの奴はドクオ、次にジョーンズ、最後にモナー。
チビガリ、中肉中背、大柄ややデブ。
ズッコケ三人組には及ばない点だらけの、さえない連中だった。
僕? 僕はどん底劇団ひとりだよ。
- 40 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/08(月) 15:17:45.57 ID:rPqnFgpP0
- ( ´∀`)「曲入れていいモナ?」
モナーは好きに曲を入れてマイクを握った。
っていうか、あのよくわかんない機械で曲選べるのか。
(’e’)「うわぁ~。頭っから五曲も入れんなよ~」
見る見る予約曲だらけになるモニター。
僕は隅っこの方でずっと黙ってた。
('A`)「ポルノいれといて。なんでもいいから。ジョーンズ、飲み物何?」
(’e’)「コーラ」
死んだ魚のような目をしたドクオが、彼らのまとめ役らしかった。
生意気そうな印象を、すこーしだけ覚えたかな。
('A`)「君は?」
すぐに、考えなおしたけどね。
- 41 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/08(月) 15:22:54.58 ID:rPqnFgpP0
- 僕はやることもないので、熱唱するデブ(こいつが女性ボーカル曲ばかり歌ったんだ)を眺めてウーロン茶を飲んでた。
喋ることもないので、どんどん水位は減るし、そもそもから中身も少ないのですぐ氷にチェンジしてたね。
氷をがりがりしながら、気だるげに歌うドクオを見てた。
そういや僕だけだったんじゃないかな。
部屋の外でニヤニヤしながら様子見に来るモララーたちに気付いてたの。
別にいいさ。
どうせ僕もこうなるんだろうなとは予想してた。
奇形をネタに金を取るサーカスってのが世界にあるけど、そんなんだろ。
いいよ、別に。
いいんだよ。
- 44 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/08(月) 15:26:13.18 ID:rPqnFgpP0
- 携帯のカメラでその様子がクラスの連中に広がったのは、すぐだったんじゃない?
情報化社会って怖いね。
ま、ゴールデンウィークの思い出はこんなもんだよ。
ニュータイプも少年Aも帰りに買って、シコって寝た。
でも何でかは分からないけど、ゴールデンウィーク明け、僕はまた高校に顔を出してた。
多分あれだ。
モララーの標的が僕だけじゃないんだろうって分かったからだ。
- 45 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/08(月) 15:33:02.03 ID:rPqnFgpP0
- さて、今度はどんな話をしようか。
もう既にアナル公開してるような気持ちなんだから、隠すことはないんだ。
色々ありすぎたと言えばありすぎたけど、中学時代ほどじゃなかった。
陰湿な悪戯はいくらでも受けたけど、昔の方が酷かったな。
その思い出話は長いし、聞いてる方が気分悪くなるかもね。
あー、自分の流血体験と他人の血液とどっちが生理的にダメ?
僕自身の流血だったら、自転車三台に紐で繋がれて200m引きずられたとか、そんなん。
背中に小石が刺さって五針縫ったかな。
またあいつら、立ち漕ぎなんかするから凄い勢いでさ。
あ、頭も一部ちょっと禿げてるんだけど、その時の名残だよ。
他人の血液は、生理用ナプキンが上履きに詰められてたとかいうのなんだけど。
どっちも大して面白くもないか。
- 47 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/08(月) 15:37:00.02 ID:rPqnFgpP0
- 昼食は一人で食べてたよ。
ドクオ達が近くで食べてた時は声かけてくれることもあったかな。
気恥ずかしかったというか、傍目が気になって静かな場所見つけて食べてた。
あーあーあー、思い出した。
そうだよ、とんでもなく蒸す夏の日だ。
曇天のおもっ苦しい日に、僕は彼と初めてまともに喋ったんだった。
その日は梅雨の中ごろで、雨が降るかもしれないって良純がいってたんだ。
だから逆に、僕は屋上に行って一人の昼食を楽しもうとしたんだよ。
- 48 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/08(月) 15:43:41.72 ID:rPqnFgpP0
- 「6・25 梅雨下の接触」
ギィ
(-_-)(予想通り誰もいない)
屋上には生ぬるい風が吹いてた。
元からコンクリート打ちっぱなしで鉄臭い場所だったけど、その日は特にそうだったね。
明け方までに雨が降ってて、巻き上げられた埃がむっとする臭いしてた。
便所飯するよりは図柄も綺麗で、僕は気に入ってたけどさ。
(-_-)(水溜りばっかりだ)
灰色の空を映すばかりの水面を避けても、じっとり湿った床。
その湿っぽさったら僕と同じくらいだった。
(-_-)(うーん。どこで食べよう)
- 50 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/08(月) 15:48:56.12 ID:rPqnFgpP0
- 夏服の短い袖から入ってくる湿気が、ぶわっと上に向いた。
むかつくほどの湿気。
「お、っと」
(-_-)「ん?」
声が下のは屋上のさらに少し上だった。
昇降口の上、貯水タンクの辺り。
「危ない」
どうして声の主を確かめようと思ったか。
ひとつは、こんな天気で屋上にいる人間に興味があったため。
もうひとつは、やたら声が大きかったからだ。
「風強いな!」
- 51 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/08(月) 15:52:51.90 ID:rPqnFgpP0
- タンクの横に登るための手段は基本的になかった。
常時はしごなんて付けていたら、馬鹿が登るだろ?
高いところに登るのは煙とそういう人種だよ。
(-_-)(……)
でも、その「馬鹿」は自前の脚立を用意していた。
こういう行動力があるのは、一味違う馬鹿だ。
「~~」
鼻歌が聞こえた。
攻撃的なメロディの流れだ。
僕は脚立に足をかけて、屋上の、さらに上を覗き込んだ。
( <●><●>)「~~~」
- 53 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/08(月) 15:57:37.05 ID:rPqnFgpP0
- 彼は仰向けに寝て爆音でヘッドホンを鳴らしていた。
多分、洋楽。
ずっと僕に気付かず、雲に向けてガンを飛ばしてた。
眉間に皺を寄せて、時々パンを口元に運びながら。
感想?
色々あったけど、一つに絞るならこれだ。
「レジャーシート持ち込むなよ」
( <●><●>)「~~」
彼は青いシートの上に寝そべって、組んだ足でリズムを刻み続けてる。
- 54 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/08(月) 15:59:36.77 ID:rPqnFgpP0
- 失礼、用事があって時間空きます。
- 57 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/08(月) 16:04:01.84 ID:rPqnFgpP0
- 移動に時間がかかるので最低5、6時間空くと思います。
本当にすみません。
- 80 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/08(月) 21:25:26.29 ID:rPqnFgpP0
- ただいま戻りました。
- 81 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/08(月) 21:31:23.08 ID:rPqnFgpP0
- 彼の名前はワカッテマスという、随分聡明そうな名前だったね。
名前を尋ねられたら「ワカッテマス」と真顔で言って、周囲が困惑してた。
クラスでは僕と違う意味で静かな人間だった。
僕のはクラスメイトによる対・無機物的なものだったけど、彼のは逆だ。
人間としてきちんと扱われているのに、周りがあまり構わないのだ。
あとで、それも誤認だって分かったけどね。
逆も逆だよ。
彼の方が世界に無関心だったんだから。
(;-_-)(一人なのに僕みたいな惨めさがどこにもねーな)
クール。
安い言葉でしか表現できないけど、まさにそれだった。
- 82 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/08(月) 21:37:02.91 ID:rPqnFgpP0
- ヘッドホンの爆音が途切れた。
曲が終わったんだ。
(-_-)(難聴になりそうだ)
とか一瞬思った途端に、ワカッテマスは跳ね起きた。
( <●><●>)「雨だ」
で、僕と目が合った。
(-_-)「あ、あの、その、ごめごめん。……雨?」
( <●><●>)「……」
ぐりんと首を傾げたワカッテマスは、パンをもうひとかじりした。
ああ、と沈黙の中で僕は、彼の目の奥に無関心を看破したね。
見立ては得意なんだ。
- 85 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/08(月) 21:42:23.59 ID:rPqnFgpP0
- ( <●><●>)「なんでいるんです」
脚立の上で投げかけられた疑問を、僕は取り落とさないようにあたふたした。
急に放られたボールを手中に収めるのは難しい。
実際のキャッチボールもダメダメなんだから、言わずもがなだよ。
(;-_-)「ぼ、俺、弁当食べようとおも、それできゃタッ」
声は裏返るわ、噛むわ、口内大戦争。
舌と唇が僕に反乱するなんてのはよくあることだったけど、ひどかったね。
( <●><●>)「ああ、そうか。出しっぱなしだった。そこ、どいてください」
立ち上がった彼は、やたらめったら背が高く見えた。
曇ってて暗かったし、立ち位置の関係もあったろう。
( <●><●>)「……」
無言のときの方が多くを語る、不思議な男だった。
- 87 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/08(月) 21:46:50.03 ID:rPqnFgpP0
- ( <●><●>)「あと十秒以内に脚立からどくか、登るかしてください。困るんです」
(;-_-)「ごっ、ごめんなさい」
同級生に敬語を使いあう程度の関係です。
どうみても数年後に同窓であるだなんていえないです。
僕は迷った挙句に六秒のところで昇降口の上に登った。
(;-_-)(高い)
自慢じゃないがスリルを楽しむ人間じゃないんだ。
遺伝子レベルでそういうのが決まってるらしいけど、明らかにその部分が欠けてる自信がある。
( <●><●>)「僕が脚立上げるからブルーシートどけてください」
動かされるのは慣れっこだよ。
- 89 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/08(月) 21:51:53.38 ID:rPqnFgpP0
- ワカッテマスは脚立を貯水タンクの横に立てかけると、僕からブルーシートを受け取った。
というか、奪った。
(-_-)「なにするんですか?」
( <●><●>)「雨が来るんですよ」
(-_-)「雨……」
彼は大判のブルーシートを脚立のてっぺんにかけた。
その様子はテントを作るのに似てたかな。
小学生の頃、一回だけキャンプ教室に連れて行かれたことがあるんだ。
カレーの鍋をひっくり返したのが最後の記憶。
忘却されたかに見えたメモリアルストレスを回想していると、遠来の雷鳴が轟いた。
遠来の雷鳴。
結構かっこいい字面じゃないか?
- 90 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/08(月) 21:55:48.89 ID:rPqnFgpP0
- すぐさま「ざあ」と音がして、コンクリートに水滴が跳ねた。
( <●><●>)「間に合ったか」
非難するわけじゃないけど、彼は僕に手伝わせておいて一人分のスペースしか確保してなかった。
シートの下で胡坐をかいて、ワカッテマスが牛乳すすってたね。
僕はもちろん、そこに入り込むことなんかできなかったよ。
考えてもみてくれ、そんな勇気があったら一人ぼっちの経験値なんか貯められないだろ。
遠足でレジャーシートをくっつける相手は誰か?
もちろんお決まりの先生だよ。
まあ、それはそれとして。
(;-_-)(どっ、どうしよう!)
- 92 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/08(月) 22:01:52.91 ID:rPqnFgpP0
- 貯水タンクの下は汚かったし、ワカッテマスは洋楽の続きを再生開始。
雨音シャカシャカ雷鳴シャカシャカ。
にっちもさっちもいかないところで、参ったよ。
だって、あとで聞いたらそこ、屋上よりも2m50cmも高かったんだ。
行きはよいよい、帰りはこわい、登りよくても跳べないよってね。
しっかり肩を雨に降られてから決意を胸に、飛び降りたのは何分後だろう。
もちろん着地に失敗して、足を挫いたね。
予定調和ってもんさ。
尻を打ってパンツまでぐっしょり。
結局、弁当を食べたのは保健室の中だったっけ。
- 94 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/08(月) 22:06:33.85 ID:rPqnFgpP0
- 僕が彼から人間扱い(だと思いたい)を受けたのは、それが初めて。
いや、長かった。
本当にどうでもいいことばかり覚えてる。
でも、あの日のワカッテマスは、異世界にいるみたいだった。
カレーパンと牛乳を傍らに置いて、ぼんやり。
一人が好きな僕でも、そんなことできない。
彼だけの時間がそこにある気がした。
正直にいえば、凄い、と思ってた。
孤独なんじゃなくて、孤高っていうのかな?
分かるだろ?
「こいつには敵わない」
それさ。
- 96 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/08(月) 22:11:06.47 ID:rPqnFgpP0
- 芭蕉だったと記憶してるんだけど、こんなの聞いたことあるだろ。
さみだれを あつめてはやし もがみがわ
原型は、あつめてすずし、だったんだってよ。
五月の雨が流れ込んだ最上川のなんと涼しげなことよ、ってね。
でも、現地で最上川を見た芭蕉氏驚愕。
涼しげだなんていってられない力強さ、荒々しさ!
百聞は一見にしかず、の好例だよ。
なんていうのかな、僕がワカッテマスにとって言いたいのはそういうことだ。
会ってくれたら分かる、「オーラ」みたいなモノがあったんだ。
それはクセ毛にも、痩せた身体にも、財布に繋がったチェーンにも宿ってた。
とりわけ、万事に無関心そうな黒い瞳に。
- 98 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/08(月) 22:16:09.93 ID:rPqnFgpP0
- 梅雨前線がすっかり通り過ぎてしまった後に、僕がきまぐれに屋上を訪れても、彼はいなかった。
例の昇降口の上にひっそりと座って、相変わらず爆音を聴いているのかと期待してたのに。
教室で淡々と文庫本をめくる彼じゃ物足りなかったのを、否定はしないよ。
ああ、ここらで僕はアイデンティティを揺るがされたね。
無関心が良い。
一人でいたい。
そういう個人主義。
これがゆらいで仕方なかった。
ワカッテマスにだけは、無関心であって欲しくない。
そんな願望が頭の片隅で増殖し始めてたんだ。
命令を待つ犬みたいに、馬鹿みたいに口開けてさ。
- 100 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/08(月) 22:20:50.81 ID:rPqnFgpP0
- でも引っ込み思案の権化たる僕だぜ?
話しかけられると思うか?
もちろんNOだよ。
断じて、不可。
キングオブ無難を選び続けた僕が、望んで、リア充の言う「絡む」なんて行為できるわけないだろ。
気持ち悪がられるのがオチなのは、経験則から確定的に明らか。
(-_-)「死にたい」
二の足を踏みまくって新たな何かをできない。
これが通常、それが平常。
ちょっとお熱を上げたバンドに狂う女子高生みたいにはなりたくなった。
黙って忍んで時間が過ぎるのを待つばかりだったよ。
そうして、僕は期末考査を平均点+5点の範囲でやりすごし、夏休みを迎えた。
- 101 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/08(月) 22:26:54.88 ID:rPqnFgpP0
- とあるラノベで延々繰り返していたという八月は、とかく長かった。
撮り溜めたアニメを消化して、漫画を読んで、チンコをいじって、飯を食う。
ネトゲだけは絶対にやるまいと決めていたから、ほどほどの腐り具合だった。
往年みたいにいじめっ子達が家に花火を投げ込んでくることもなかった。
平和ってのはいいことだけど、退屈なんだ。
(-_-)「帰省するの? いってらっしゃい」
三重県にある、母方の祖父母の家に行くという両親を見送ると、今度は姉が帰ってきた。
世話役だと胸を張る姉のお小言を受けて、ひきこもりが助長された。
ネットにつながってなくてもジジババ相手の方が楽だ。
- 103 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/08(月) 22:30:55.35 ID:rPqnFgpP0
- (゚、゚トソン「ごはんできたよ。起きてー」
(-_-)「……いいよ、勝手に温めるから置いといてよ」
(゚、゚トソン「馬鹿だな、あんたは。一緒に食べるためにわざわざ帰ってきてるんじゃない」
(-_-)「コンビニ弁当一人で食べても違わない」
(゚、゚トソン「わざわざ旦那を放置して弟の世話を見に来てるお姉さまに言う台詞じゃない」
(-_-)「姉ちゃん、昨日あんまり寝てないんだ。気持ち悪いんだよ」
(゚、゚トソン「じゃあ今から元気出して起きてれば夜は早寝できるね」
姉に元気を全部持っていかれたというのが、親戚一同の見解だったらしい。
- 104 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/08(月) 22:33:18.31 ID:rPqnFgpP0
- (゚、゚トソン「部活は?」
(-_-)「……」
(゚、゚トソン「友達とプールとか行かないの?」
(-_-)「……」
(゚、゚トソン「最近映画とかやってるけど、観にいこうか」
(-_-)「……」
(゚、゚トソン「友達と」
(#-_-)「うるさいな!」
(゚、゚#トソン「あんたの方がうるさいよ!」
こんな姉だから嫁入り当初、僕は嬉しくて仕方なかったんだよ。
- 106 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/08(月) 22:38:10.96 ID:rPqnFgpP0
- おっと、そうだ、こんなエピソードも加えておかないとね。
夏休みだったらこれ、っていうのをすっかり忘れてたよ。
花火、花火。
姉の来襲終盤、八月四日、海辺で花火大会があったんだ。
会場まで電車で30分もあるから、僕は嫌がったんだけどね。
(゚、゚トソン「太陽の下が嫌なら星空の下でいいから外出するわよ」
こうして引きずり出された。
しかも父親の子供の頃の浴衣を引っ張り出してきて、着付けまでされたんだ。
年頃の高校生がお姉ちゃんの前でパンツ一枚。
最悪だった。
そんなある日の事件だ。
- 107 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/08(月) 22:43:58.74 ID:rPqnFgpP0
- 「8・4 学び舎門外の乱」
(゚、゚トソン「さって。食べるわよ」
姉は僕の属性を逆転させた存在といっていい。
恨めしいことに、僕に持たされなかったものを全部持っていた。
その中でも、一番どうでもいい能力のひとつが大食いであることだった。
(゚、゚トソン「もりもりいくわよ。あんたはアンズ飴買ってきて。わたしは焼きそば買ってくる」
(-_-)「二本しかない腕はもういっぱいいっぱいなんだけど」
(゚、゚トソン「いや、だからこう持って、こう! で、こうして、ここにスペースできるでしょ!」
とにかく器用だってことが伝わったら、動きを描写する必要はないかな。
どう? っていうか僕には再現できないんだけどさ。
- 108 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/08(月) 22:49:40.56 ID:rPqnFgpP0
- 花火大会当日、多くの露天が軒を連ね、人ごみに僕はうんざりしていた。
世界で一番苦手なものを一つ挙げろっていわれたら、人ごみだよ。
(;-_-)(熱い、だるい)
まだまだ夜は蒸し暑く、「納涼花火大会」の看板にはクレームが殺到しそうな気温だった。
湿度と人の熱気で息は詰まるし、帯で腹も締まってた。
(;-_-)(帰りたいな)
汗で肌じっとり、伸びた髪のが目に入る。
帰ってクーラーの下、グレンラガンのDVD見てるのが正しい熱がり方だと今でも思う。
('A`)「金魚すくいでもやるか?」
( ´∀`)「勝負モナか?」
(’e’)「うわぁ~、賭け事はやめようぜ~」
そこでおなじみの連中に遭遇した。
- 109 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/08(月) 22:52:59.01 ID:rPqnFgpP0
- (-_-)「あ」
('A`)「お」
(-_-)「来てたんだ」
見ろよ、この態度。
どれだけ砕けてるか。
成長したもんだろ。
('A`)「ヒッキーもか。一人?」
(-_-)「いや、あ、うん」
姉には即メールで「先に帰る」とウソをついておいた。
- 110 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/08(月) 22:57:09.57 ID:rPqnFgpP0
- (’e’)「アンズ飴二刀流とかどんだけぇ~w」
(-_-)「じゃ、じゃんけんで買ったら三本も貰えたんだよ」
胡散臭い屋台のあんちゃんは気前がいいのか悪いのか分からないよね。
('A`)「まだいるなら一緒に回らないか?」
足はだるく、頭皮がかゆくて仕方なかったので、僕は首を横に振りながら、
(-_-)「うん、いいね」
快諾するという器用な真似をしてみせた。
どうやら僕も姉とちゃんと血が繋がっていたらしい。
あれ?
でも身体が自分のいうことを聞いてないから、やっぱり不器用なんだろうか?
( ´∀`)「とりあえず、金魚すくいモナ」
- 112 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/08(月) 23:02:34.40 ID:rPqnFgpP0
- モナーが金魚を10匹もすくったところで、僕は腰が痛くなって挑戦を止めた。
ドクオは確か2匹で満足、ジョーンズはゼロのまま三回、ポイを破った。
('A`)「ま、こんなもんか」
( ´∀`)「最下位がラムネおごりモナw」
(’e’)「うわぁ~だから勝負嫌だっていったんだよぉ~」
ジョーンズはどうもせこく、ねちっこい奴だった。
いつまでも引っ張ってうるさかったので、この辺りは編集でカットしよう。
花火まであと10分というところで、僕はやっぱり帰りたくなった。
ドクオに導かれた先が、かなり嫌な場所だったからだ。
( ・∀・)「あれっ……」
はい、はい。
- 113 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/08(月) 23:06:19.17 ID:rPqnFgpP0
- 神社の境内には10人強の同年代が集まっていた。
クラスで見たことのない連中の中で、僕がどうしたか。
(-_-)「……」
もちろん、場の空気に徹したよ。
空気を読みて、空気と成す。
ギコ、モララーの牽制のような視線もさることながら、知らない人々の「誰あいつ」が効いたね。
僕だって「誰自分」だったさ。
間違いない。
場違いの鑑がそこにあった。
浴衣を着た、冴えない顔の人間っていう形でね。
- 116 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/08(月) 23:09:39.02 ID:rPqnFgpP0
- 人間観察していると色々なことが分かる。
( ・∀・)ζ(゚ー゚*ζ
(,,゚Д゚)(*゚ー゚)
('A`)(’e’)( ´∀`)
从 ゚∀从爪'ー`)
グループの中で細分化された人間関係だ。
ドクオはどうやらほぼ全員と面識があるらしく、三人組と他の面子の仲介役を担っていた。
時々聞こえる話から分かったのは、小学校か中学校が同じ面々らしい。
そりゃ僕は浮くわけだ。
……いや、中学が同じでもどうなったかは分からないけど。
- 118 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/08(月) 23:15:24.89 ID:rPqnFgpP0
- 一発目の花火が打ち上げられた。
ドン
腹に響く音を聴きながら、僕は浴衣姿の女子の尻を盗み見ていた。
視姦くらいするさ、若いんだから。
ギコが馬鹿っぽく叫ぶ。
たまやもかぎやもお前の知ったところじゃないだろう。
バラバラバラ
分散する火花の灯りに照らされて、男女がアクションを起こしてた。
例えば、モララーがデレの腰に手を回すとかね。
余談だけど、彼らはその後木陰でヤッたらしい。
嘘か真かは知らないけど。
(-_-)(帰ろうかな)
- 120 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/08(月) 23:19:17.59 ID:rPqnFgpP0
- ('A`)「悪いな。内輪で盛り上がってて」
気だるげな声でドクオが言った。
僕は気にしていない旨を適当に伝えて、トイレに行こうとした。
('A`)「俺も行くよ」
(-_-)「……そう」
トイレに行った→道に迷った、というふりをするプランが潰された。
('A`)「俺がなんでギコとかと仲良くしてるかわかんないよな」
小便器に並ぶと、ドクオが口を開いた。
なんだか、ためにためて、ようやくいえましたって感じだったよ。
深刻なことを告白する、的な。
- 121 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/08(月) 23:23:03.76 ID:rPqnFgpP0
- ('A`)「中学が一緒だったんだけど、ギコもモララーもヤンキーでさ」
(-_-)「へえ」
茶髪で眉毛が細ければそんなことは分かるよ。
('A`)「ジョーンズがいじめられてたんだよ」
(-_-)(ウザイからな)
('A`)「俺もジョーンズと仲良かったから、つい関わっちゃって」
なんだろう、この目は、と僕は思ってた。
細い目が小便器の上の窓から、ずっと遠くを眺めてるんだ。
思い出すぜ、みたいな。
- 122 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/08(月) 23:30:02.78 ID:rPqnFgpP0
- ('A`)「度が過ぎてたけど、誰も口出しできなかった。先生も黙認してたよ」
どうやら、僕がその場にいたらジョーンズの代わりになっていたかもしれない。
('A`)「そんな時さ、ギコとモララーが夜遊びしてるとき、『誰か』に襲われたんだ」
「誰か」の部分が強調されていたのもあったが、思わず聞き返してた。
(-_-)「襲われた?」
('A`)「その『誰か』が二人をボコボコにして、書置きを残したんだ。『目障りだ』ってね」
ドクオが僕の方に顔を向けた。
何か含みのある、笑いを噛み殺したような顔だった。
('A`)「『誰か』は背の低い、細身の、男だったんだよ。真っ黒で、犬みたいに素早い……」
ドクオは、ニッと尖った八重歯を覗かせたのが、印象的だったね。
(-_-)「……え?」
- 125 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/08(月) 23:37:56.44 ID:rPqnFgpP0
- もやっとした気持ちを抱えて境内に戻ると、揉め事が起こっていた。
(#゚Д゚)「おい、ゴルァ! てめえ誰の女に手ェ出してんだよ!」
見ればヤンキーVSチャラ男の図ができあがっていた。
しかし数は、後者の方が倍以上多かった。
僕は頭数に入れられたくなくて、即座に気配を消したよ。
相手は地元の大学生だったんじゃないか?
今となっては分からないことだらけだけどね。
爪#'ー`)「間違ってんのそっちッスよねえ? 謝れないんすか?」
(#・∀・)「なあなあ、体触っといて『反省してまーす』とかふざけてんの?」
正当性を主張するのに感情が先立っていて、どうしようもなく馬鹿じゃないかと思った。
事実、むなぐら掴んでいたしね。
- 128 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/08(月) 23:43:15.14 ID:rPqnFgpP0
- ('A`)「……ちょっと待ってて」
ドクオは一言だけ呟いて、静かに姿を消した。
で、数秒後。
(#゚Д゚)「っざっけんなよっ!!」
喧嘩が勃発した。
ζ(゚ー゚;ζ「きゃあああ!!」
耳がつんざかれるようだったね。
(#・∀・)「オラァ!」
どうやら大学生らしき人々は酔っていたらしい。
馬鹿が怒っているだけだと思ったら、相手も馬鹿だった。
べろんべろんなロン毛など、自分で石灯籠に頭をぶつけて倒れる始末。
ああはなりたくないと心に誓ったね。
- 130 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/08(月) 23:48:17.16 ID:rPqnFgpP0
- ほんの一、二分で流血は一筋二筋じゃ済まなくなった。
大学生の一人はTシャツが首元から破れて、前衛的なヘソ出しルックに。
浴衣が乱れて解けた帯で、首を絞めるモララー。
ギコは倒れた相手に石を落とそうとして恋人に止められる始末。
不意打ち気味にそこへとび蹴り。
修羅場ってのはああいうことを言うのだろうか。
僕はというと、逃げるに逃げられず、ひたすら立ち尽くしていた。
「お前もあのクソガキ共の仲間かぁ? あぁああん?」
横合いから首を掴まれた時、実際に心臓が何mか跳ね上がったと思う。
- 132 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/08(月) 23:54:46.17 ID:rPqnFgpP0
- 赤ら顔が真横で、アルコール臭い息を吐き出しながら接近していた。
酔った父親に抱きつかれた時の不快度指数を五割増しにしたみたいだった。
人生終わったな、と思ったことは何度もあるが、この時もそうだ。
でも、もう分かってるだろ? 似ていることは何度も言ってるはずだ。
分かりやすい前振りがあれば、こういう展開が待ち受けてるって。
「シッ!」
絡み付いていた腕がずるりと落ちた。
「~~~~」
ぐにゃぐにゃと言いながら、男は気絶していた。
その後ろから、駆け抜けていく影。
黒い、細身のシルエット。
- 133 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/08(月) 23:58:40.89 ID:rPqnFgpP0
- 薄暗い境内を黒い影が疾駆した。
もう自信を持って言い切るよ。
あの動きは獣のそれだったね。
信じられる?
かなり低い姿勢で走り寄って、何か拳法みたいなものを繰り出すんだ。
喰らい付く。
その表現がぴったりさ。
滑るように駆けてはノックアウトしていくんだ。
僕は思い出してた。
ドクオの言葉を。
- 135 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/09(火) 00:05:08.90 ID:QB5uku530
- 正直僕は興奮していたよ。
アニメでも見てるみたいだった。
Production I.Gが製作したアクションみたいなさ。
とにかくぬるぬる動くんだ。
まだ花火は終わってなかった。
バラバラと小粒の花火が続いて、流星みたいなアレ。
二人が倒れて、三人目がよろめいて、踏まれていたギコが助けられた。
モララーは気絶してたみたいだし、女子は皆固まって泣いてたよ。
僕だけだ。
全部を見てたのは。
そして、超特大の花火が打ちあがる。
――ドン!
それに合わせたのかは分からないけど「黒犬」は掌底で最後の一人の顎を打ち上げた。
- 137 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/09(火) 00:09:20.91 ID:QB5uku530
- 警官が到着する音が近付いてきて、「黒犬」は身を屈めたまま駆け出した。
向かう先は神社横の雑木林で、真っ暗な闇の中だった。
(;-_-)(行っちゃう!)
でもなんて声をかければいい?
僕がこれほど口下手、話下手を後悔するのも珍しかったね。
言葉が全然出ないんだ。
ガサガサッ
そして、「黒犬」は暗闇にとけてしまったんだ。
僕は、夢うつつのまま、警官達の笛の音を聴いていた。
- 139 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/09(火) 00:14:37.09 ID:QB5uku530
- 僕らは身なりが荒れていないということで、すぐに解放されたよ。
喧嘩両成敗ってことで、ギコやモララー、フォックスとかいう男子は連れて行かれたけどね。
ドクオが戻ってきたのはそれから少し経ってからだ。
('A`)「ごめん、大丈夫だった?」
ζ(゚ー゚;ζ「ドクオはどこ行ってたのよ!?」
('A`)「ん、ちょっとね」
从 ゚∀从「もしかしておまわり呼んできたのはドクオか?」
('A`)「……まあ、そんなとこ」
ドクオはいつものように、気だるげに短く応えた。
そして、僕と目が合うと、少しだけ眉を上げる。
(-_-)「……」
ξ゚⊿゚)ξ「ちょっと! あなた達大丈夫!?」
この日は予想外のことも多々起きた。
- 141 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/09(火) 00:20:30.37 ID:QB5uku530
- 保健医のツン先生だ。
ξ;゚⊿゚)ξ「あらあらあら、随分派手に喧嘩したのね。怪我はない?」
浴衣姿の先生は、涙で化粧ボロボロのデレやハインを慰め始めた。
そして、その後ろに小さくなって所在無さげにしてる男が二人。
(;’e’)「うわぁ~……」
(;´∀`)「モナ」
こっそりと状況説明を求めたところ、真っ先に逃げたところでツン先生を見つけたのだとか。
どおりで姿を見なかった訳だ。
ていうか、もっと他に考えることはなかったのか。
(-_-)(と、考える僕は何もしていない)
- 143 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/09(火) 00:27:23.34 ID:QB5uku530
- ツン先生の指示で、僕ら無傷な男連中は帰宅を促された。
屋台のある通りは店じまいを始めていて、いくらかにぎやかさが消えていた。
だから嫌なんだ、祭りとかっていうのは。
帰り道に寂しくなるから。
それでなくても興が削がれるような喧嘩の後だ。
草食系の人間には刺激が強すぎた。
嵐の後には、余計沈黙が重いんだ。
(-_-) (’e’)
( ´∀`) ('A`)
特に、こんなメンバーの時は気まずさもひとしおだったね。
- 145 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/09(火) 00:30:34.32 ID:QB5uku530
- ( <●><●>)「おじさん、ラムネまだ余ってます?」
「おう。そうだな、半額でいいよ」
( <●><●>)「あざっす」
まだ居残っていた見物客の合間に、ワカッテマスがいた。
(-_-)
でも、その時ばかりは僕の中の「馬鹿な犬」は尻尾を振らなかった。
夕立の後のにおいが少し、頭の隅で思い出されたけど。
- 147 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/09(火) 00:34:32.31 ID:QB5uku530
- 以上が花火大会の日に起きた事件だ。
これだけは外せなかった。
僕と黒犬の出会い。
これだけは、狂犬の誕生日を語る上で欠かせない出来事だったんだ。
さて、時間をどれだけ飛ばそうか。
前置きを用意するならいくらでもできる。
逆に、話を短くするなら一瞬だ。
君らはどうしたい?
- 150 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/09(火) 00:54:02.44 ID:QB5uku530
- テンション維持のためにまた間を空けます。
少し寝たらまた復活しますね。
- 151 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/09(火) 00:55:37.98 ID:QB5uku530
- グダってきてホントすみません。
今日中には完結させるつもりです。
- 173 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/09(火) 10:25:26.69 ID:QB5uku530
- 新しい朝が来た、希望の朝が。
寝すぎた。再開です。
- 177 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/09(火) 10:34:50.18 ID:QB5uku530
- そういえばもうひとつ、二月十四日に向けて変化があったことも伝えなきゃならないな。
ギコがどうやら、ヤンキーの本能を思い出したことだ。
どうも件の喧嘩で停学処分を受けて以来、尖った部分を露にしたらしいんだ。
(,,゚Д゚)「うざってぇな。どけよクズ」
廊下の端にいる僕を、わざわざ蹴りに来るようにまでなった。
何かを投げつけて笑う声が、ますます嘲るような調子になったんだよ。
今までの「いじり」とは路線を変えたんだ。
分かりやすいだろ。
残虐性だよ。
手頃な相手を見つけては、笑えない痛みを与える。
狂犬の名を冠するなら、本来こういう奴だったんじゃないかな。
- 178 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/09(火) 10:38:59.26 ID:QB5uku530
- モララーはどうしたかって?
ああいう手合いが、仲間の変化にどう対応するか知ってるだろ?
馬鹿だな、ここまで話を聞いていた君らなら経験があるはずだよ。
いじめっ子の一人が「いじり」を苦々しげに眺めていたのを見たことが。
「これだけやっちゃっていいのかな」って思ってる目。
戸惑い躊躇しながら、彼らがどうするか。
( ・∀・)「イェーイ! 死ねよカス!」
同調だよ。
朱っていうのは交わってこそさ。
混ざって溶けて、赤になるんだ。
あるいは、
(;-_-)「いっ、つ」
赤い血を流させるんだよ。
- 181 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/09(火) 10:45:17.73 ID:QB5uku530
- 奴らは他のクラスの連中とつるむようになった。
人脈こそ力なりっていうの?
マンパワー、まあ、どうでもいいけどさ。
詰まるところ、暴力は肥大、拡散していったのさ。
コミュニケーション力に秀でた連中っていうのは、どの分野にも有利なのが証明されたね。
お調子者レベルの一般生徒だって引き込んだ。
僕らみたいな弱点属性だらけの生徒はなりを潜めるばかり。
言葉は飲み込み視線は下げ下げ。
僕にとっては中学時代再来の幕開けだったのかもしれない。
ただ一つだけ違うのは、完全なひきこもりにならなかったことだ。
僕の対抗手段が守勢一辺倒にならなかったのは、ドクオのおかげだった。
- 182 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/09(火) 10:51:20.44 ID:QB5uku530
- あ、いや、だからといってカウンター手段になったわけじゃないよ。
でも、彼は学校内を移動するシェルターだった。
(#゚Д゚)「逃げんじゃねぇよゴルァア!」
(;-_-)「ひっ……ひっ……うあっ!」
ズダン
曲がり角で盛大に転んだ僕に、ギコが蹴りをくれようとした瞬間、暢気な声が降ってきた。
('A`)「あ、ギコ。何してんの」
(#゚Д゚)「あっ!?」
ドクオはこういう時、決まって首をこりこりと回しながら、冷めた目で走る僕らを見つめるんだ。
わずかに唇を歪めて、八重歯を覗かせながら。
(,,゚Д゚)「……いや、なんでもねえよ」
すると、ギコは必ず忌々しげに怒りを押し込めるんだ。
- 184 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/09(火) 10:57:20.80 ID:QB5uku530
- ( ・∀・)「おっ、いたじゃねえかゲロお、と、こ……ドクオか」
駆けた勢いを殺しながら、モララーもならう。
ギコが舌打ちをして僕らから遠ざかると、奴も同じようにした。
('A`)「大丈夫か?」
小柄なはずのドクオが、そういう風に言うと、何故か大きく見えた。
(;-_-)「だ、大丈夫」
ドクオの効力を知っていた生徒は、あまりいなかったと思う。
ジョーンズ、そして巨体のモナーはここぞとばかりにそれを利用していたけどね。
('A`)「怪我がないならよかった。じゃ、そろそろ俺は行くよ」
部活に入っているはずの二人は、先に帰宅するドクオにぴったり付いて放課後まで生き抜いてた。
- 185 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/09(火) 11:05:57.44 ID:QB5uku530
- 「10・23 杏仁の乱」
(’e’)「うわぁ~、そうだ忘れ物しちまったよ~。筆箱机の中だわぁ~」
冬服になってから少しして、階段でジョーンズが間抜けに溜息をついた。
この頃の僕はドクオ達と行動することが珍しくなくなってた。
そりゃ、前述の通り、助かるっていう気持ちはあった。
けど、仲間意識を持つのも悪くはないかな、思ったのも確かだ。
(-_-)「どうすんの?」
僕が会話に参加すると、ジョーンズはやや渋い顔をしたけどね。
こいつは僕が同じステージに立ってるのが気に食わないタチらしかった。
(’e’)「……今戻ったらギコ達がたむろしてんべ~」
それでも、ドクオが僕に普通に接しているという理由からか、返答はした。
まあ、目は合わせてくれなかったけど。
( ´∀`)「じゃんけんで負けた奴がダッシュで取りに行くモナ」
- 186 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/09(火) 11:10:12.08 ID:QB5uku530
- モナーはよく、何にも考えていないのを丸出しに発言したね。
心の支えが一つでもあれば生きられるタイプだ。
ある意味、最強の存在だともいえる。
こういう馬鹿は強い。
( ´∀`)「さーいしょーはグー」
(’e’)「うわぁ~俺勝負弱いからやだよぉ~」
お前の不備だろう、とは思っても言わないのが僕だ。
( ´∀`)「じゃーんけーん」
そして、自然、じゃんけんに参加してしまうのも。
(-_-)「あ」
('A`)「お」
パーが二人、チョキが二人。
僕らは前者だった。
- 187 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/09(火) 11:15:11.05 ID:QB5uku530
- 最後の一人まで。
バトルロイヤルみたいにいったら、重さが伝わるかな。
事実、放課後にたむろする不良グループ(ヤンキーから格上げだ)の中に飛び込むわけだし。
生贄立候補することになる。
(-_-)「じゃ、じゃん、けん」
素直に喜ぶジョーンズとモナーがけたけたと笑う横で、僕は右手を出した。
('A`)「いいよ、二人で行こう」
でも、ドクオはすぐにそう言って踵を返した。
やっぱり、その背中は小さくて大きく感じたね。
(-_-)「う、うん」
- 188 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/09(火) 11:23:17.55 ID:QB5uku530
- ('A`)「最近、ギコ達がまた調子付いてるな」
歩きながら夕焼けに染まる空を眺めていると、ドクオがそんなことを言った。
どこか深刻そうな顔つきだ。
('A`)「まあ、俺達もむざむざやられたくないよな、ヒッキー」
(-_-)「……そうだね」
返答する瞬間、少しだけ迷った。
「俺達」って響きが、こそばゆかったんだ。
中学生、小学生、幼稚園。
思い出される限り、二人一組どころか五人一組にすら歓迎されたことがない。
そんな僕を入れて「俺達」?
空腹な時に超すっぱい梅干をかじるのと同じくらい、刺激が強い言葉だったね。
- 190 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/09(火) 11:30:14.36 ID:QB5uku530
- 教室にはギコやモララーと、他のクラスにできた取り巻き三人がいた。
そして、最後列窓際で文庫本をめくる男子。
( <●><●>)
不良達の騒音に近い馬鹿笑いの中でも変わらない、ワカッテマスだった。
不良の一人が僕らを認めて、顎をしゃくった。
(,,゚Д゚)「ん」
しん、とした。
何をしなくとも、僕の背中に冷たいモノが流れたのを覚えてるよ。
('A`)「よう」
( ・∀・)「……何か用かよ」
('A`)「忘れ物」
ページがめくれる音だけが響く。
- 192 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/09(火) 11:34:23.69 ID:QB5uku530
- (,,゚Д゚)「そうか」
ドクオがジョーンズの席を探りに行く。
ワカッテマスの一つ前の机だった。
( <●><●>) ズビ
全く周囲の様子に構わず、彼は白っぽいパッケージのジュースを飲んでた。
緊張さえしてなかったら、いつかの「違う世界の何か」を感じられたのかもね。
('A`)「あった。悪い、邪魔した」
(,,゚Д゚)「構わねぇよ」
('A`)「行くか……って、おい、ジョーンズ」
振り向くと、出入り口の前でジョーンズとモナーが様子を伺っていた。
- 194 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/09(火) 11:38:31.33 ID:QB5uku530
- 表情で分かった。
あれこそが卑怯ってものなんだろうな。
あいつらはビビってたんだ。
ドクオが不在のときに二人が襲われるのを恐れてたんだ。
分かる、分かるよ君の気持ち。
もしもギコ達が教室にいなくて、自分達のところに来たら。
もしも教室にいても、外に出た自分らを見つけたら。
何かされる前に防御体勢取るのは自然なことだよ。
でも、でもな。
(’e’)「えへへへ」
その媚びるような表情は、最悪に気分が逆撫でされるんだよ。
- 196 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/09(火) 11:41:46.90 ID:QB5uku530
- ああ、と僕はすぐに理解したよ。
胸がむかつく原因をね。
あいつは僕なんだ。
僕と同じなんだ。
どうしようもなく弱く、脆い。
だから、かなり控えめに訴えてるんだ。
見逃してくださいって。
どうか僕を攻撃しないでくださいって。
始めに言ったよね。
僕の特技は愛想笑いだって。
その「むかつくぐらい惨めな僕自身」にそっくりなんだ。
だから、僕は、余計に腹が立つ。
- 197 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/09(火) 11:47:04.30 ID:QB5uku530
- 特別何かを言うわけじゃない。
僕は「自分」をどうやったら変えられるか分からないから。
マイケルジャクソンの「マンインザミラー」の歌詞分かる?
「鏡の中の奴を変えろ、自分じゃなくて」ってくだり。
要は自分を変えろってことなんだけど、本当に「鏡に映った自分」を見たらそんなこと考えられないね。
少なくとも、僕みたいな劣等種として生まれた人間は。
吐き気がするよ。
とめどなくね。
('A`)「なんだよ、結局皆来たんじゃないか」
( ´∀`)「お腹空いたから、たい焼きかたこ焼き食べて帰るモナ」
(’e’)「うわぁ~ありがてぇ~ドクオさんきゅー」
なんなんだろう、こいつらは。
- 199 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/09(火) 11:51:09.44 ID:QB5uku530
- ぺらり、と背後で紙のめくられる音がした。
ワカッテマスだ。
僕は彼にはなれない。
彼が「鏡の中の自分」ではない。
急に絶望が押し寄せたよ。
本当に、どうしようもない。
「早く出てけよ……」
ギコの取り巻きがシビレを切らして言った。
僕は、雷に打たれたように姿勢を正したね。
('A`)「行こう、ヒッキー」
もやもやを払い、僕は教室を出ようとした。
- 201 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/09(火) 12:27:00.21 ID:QB5uku530
- が、そこで「僕」がふざけた行動に出た。
いや、もう止めてしまおう。
アイツを僕自身と重ねるなんて、ゲロ男の僕でなくても反吐が出る。
(’e’)=3 フッ
こともあろうに、アイツは虎の威を借りながら、ギコ達を鼻で笑った。
大したことねえな、って感じで。
僕は、すぐにまた振り返ったよ。
もちろんね。
- 202 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/09(火) 12:30:38.68 ID:QB5uku530
- トマトが熟れていくのを早回しで見たような気分だったね。
(,,゚Д゚)
(,,゚Д゚)
(#゚Д゚)
それも、五つが同時に。
ガァン
蹴り上げられた机と椅子が教室の床を這ったよ。
激しく周りを押しのけながら。
ゴルァ、っての?
ギコ特有の威嚇なんだけど、そん時は本当に効果てきめんだった。
僕は完全に直立不動になっちゃったんだ。
- 204 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/09(火) 12:35:40.41 ID:QB5uku530
- ジョーンズ達が逃げていく音を聴きながら、中間地点で棒立ちだよ。
僕ができることと言ったら、やっぱりこれだ。
(;-_-)「あはははは」
死にたい。
おなじみ隕石か大地震でソクホウ高校壊滅の様相を思い描こうとした。
無理だった。
( <●><●>)「あ……」
( <●><●>)「あっ!?」
そこで、イレギュラーを起こしうる人間といったら、一人しかいなかったね。
彼だよ。
- 207 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/09(火) 12:41:27.22 ID:QB5uku530
- それも意に介さず教室を横切っていくギコを他所に、彼は続けた。
( <●><●>)「杏仁!?」
さすがとしか言いようがなかった。
彼は異次元から急に意味不明なことを叫ぶんだ。
( <●><●>)「ちょっ、え!? はっ!?」
見れば吹っ飛んできた椅子が机を揺らし、ジュースのパックが倒れている。
そして漏れ出している白っぽい液。
( <●><●>)「ちょ、あ、ギコ!?」
今頃何が起きたか理解したらしい。
荒れた教室を出ていく不良達を見咎めて、ワカッテマスは眉間に皺を寄せた。
( <●><●>)「……杏仁」
- 210 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/09(火) 12:46:58.05 ID:QB5uku530
- すい、と立ち上がったワカッテマスは、すぐに文庫本を放り投げた(しかもかなりぞんざいにだ)。
そして、整った白い歯並びをむき出しに、走り出す。
( <●><●>)「おいおいおい、おいおいおいおい」
ゆっくりと小走りだったのが、出入り口に到達する頃には駆け足に。
引き戸に手をかけ、強引なコーナリングを果たすと、ワカッテマスは姿を消した。
(;-_-)「はっ!」
気付けば残されたのは僕だけだ。
教室に漂う杏仁豆腐の香り。
倒れた杏仁ドリンクの掃除をすべきか一瞬考えて、しかし僕は教室を出た。
彼を追いかけなければと思ったんだ。
でも、廊下には足音と怒鳴り声が響くばかりだった。
(;-_-)(いないし!)
- 211 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/09(火) 12:51:47.71 ID:QB5uku530
- 考えたよ。
なんで僕は走ってるのかって。
バックレたら僕にはなんにも起こらないじゃん。
全部ジョーンズが悪いんだから、あいつがシメられるのは当然なんだ。
なのに、僕は50mを9秒で走る脚を回してる。
すぐに息は上がって、階段を登りながら混乱にあえいだ。
なにやってんだ。
「待てやゴルァアアア!!」
三年の教室がある四階から声がする。
ばたばたと足音が遠ざかっていく。
(;-_-)(死ぬ!)
でも、止まらない、止まれない。
- 212 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/09(火) 12:54:47.96 ID:QB5uku530
- 渡り廊下の前でワカッテマスが一人を捕まえていた。
威圧感たっぷりに、胸倉を掴んでたよ。
( <●><●>)「ギコ、どっち行った?」
「うるっせぇな! 離せよ! 関係ねえだろ!」
パン、と音がした。
「う、お?」
頭突きってこんな音がするもんじゃなかったと思うんだけど、どうだろう?
( <●><●>)「どっち?」
「あ、あっち……」
第二学棟の方に、震える指先が向かった。
- 214 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/09(火) 12:59:16.25 ID:QB5uku530
- 「おろ、ろろろおおお?」
どさっと倒れ込んだ不良AだかBだかCは、悪態を吐きながら目を回してたね。
僕はその横を駆けながら、彼を追ったよ。
第二学棟は僕らが入学する二年前に建った。
生活臭がまだ馴染んでない中に、杏仁ドリンクの香りを辿った。
(;-_-)(元気すぎるだろみんな!)
三分も走ると、体が乳酸だらけになって悲鳴を上げた。
悪いけど、短距離も長距離も苦手なんだ。
無距離移動しか継続してやったことがない。
つまり、ひきこもりさ。
脳味噌なんか、こんなに血流良くなったのは久しぶりと見えて、キンキンに痛んだ。
- 215 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/09(火) 13:04:02.34 ID:QB5uku530
- ぜぇはぁ、とよろめくと、ひんやりした壁が僕の顔を冷やした。
(;-_-)「あつ、ハァ……ハァ……」
体力ゲージは残り数ミリ。
スパコンゲージも無し。
どうやら追ってた人々の姿のない。
本格的に何やってんだ、という感じだった。
僕はいつもの自己嫌悪に陥ったね。
何をやってもダメな自分なんだ。
走っても誰かに追いつけた試しがない。
実際の徒競走でも、人生のレースでも。
「黒犬」みたいになんか、とてもとても。
- 216 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/09(火) 13:08:08.60 ID:QB5uku530
- 外は夕暮れ、赤い空だ。
窓から臨む中庭の木々は背が高い。
ベンチに腰掛ける男女の生徒。
走っていく野球部。
耳を澄ませば吹奏楽部のヘッタクソなラッパだ。
ああ、青春の香り。
僕のいないところに存在する何かだ。
手で掴もうとしても硝子で遮られる別世界だよ。
(;-_-)(それに追いすがって何をしようってんだ、僕は)
鬱屈とした気持ちが脚の疲労と一緒に腰まで登ってきた。
実体化して首を絞めてくれ。
死にたい。
- 217 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/09(火) 13:11:25.41 ID:QB5uku530
- 「おいゴルァア! ぶっ殺すぞてめえ!」
「うわぁあああ~!! ごめんなさいごめんなさい!!」
(-_-)「!」
いた。
中庭に、やつらが現れた。
上履きのままで、ギコがジョーンズを完全に捕まえる。
そのまま乱暴にジョーンズが地面に叩きつけられる。
おいおい、僕が三階にいるのに、もう君らはそこかよ。
青春の徒は脚が早いな、なんて思った。
そして、僕の体は「彼」の登場を期待して、再び走り出した。
- 220 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/09(火) 13:20:57.85 ID:QB5uku530
- (#゚Д゚)「なあ、なあ、きい、てんの、かっ!?」
上から見た位置にはやつらはいなかった。
モララーが後ろから羽交い絞めにして移動しながら、ギコが一言ごとにパンチ。
教師達に見つかりにくい場所へ引き込もうとしているようで、なかなか頭が回るもんだと感心した。
あ、いや、今だからそう思うだけだ。
当時は泣きじゃくるジョーンズが哀れで恐ろしかったよ。
絶対ああはなりたくない。
(#゚Д゚)「ゴルァ! てめえドクオいりゃ何やっても許されると思ってんのか!」
僕は一階の渡り廊下からこっそりとその様子を眺めてた。
ワカッテマスは、いない。
ジョーンズがべろべろに顔を歪ませながら、何かを言ってるだけだ。
ドクオもモナーもはぐれたのか、いない。
- 221 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/09(火) 13:25:13.90 ID:QB5uku530
- ギコはどうも人心掌握に馴れてるようだったね。
しかも、ジャンル「恐怖」方面。
普通、不良漫画ってグーで腹を殴るだろ?
あいつは一味違った。
頭を平手で打つんだよ。
それで、何度も繰り返して、大げさに振りかぶる。
相手が目を瞑ったら、ようやくみぞおちを殴るんだ。
緩んだ腹筋にめり込む拳や膝は強烈だった。
僕が中学時代に受けた暴力は道具を使ったものだったけど、高校生だからね。
腕力がその時の比じゃないんだ。
とにかく、痛そうだった。
(;-_-)(……)
- 223 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/09(火) 13:30:28.71 ID:QB5uku530
- ギコの細すぎる堪忍袋の緒がぶち切れて数分、誰もジョーンズを助けない。
ワカッテマスも現れない。
(;e;)「ずあああぁあ」
( ・∀・)「うるせえなあ」
不良ABも到着して、いよいよもってジョーンズが絶望に呻いた。
僕もこんな風に誰かに傍観されていたんだろうか。
たぶん、僕以外にも誰かがこの様子を見てる。
いや、観てる?
第三者で在り続けてるんだろうな。
無関心を装ってるんだ。
本当は暴力をみて色めき立ってるんだ。
否定できるかい?
そんな感情をさ。
「――ギコ!」
- 224 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/09(火) 13:32:33.89 ID:QB5uku530
- ああ。
感嘆詞を何度使ったことか分からないけど、そうなんだ。
ああ。
やっぱり、彼の声は頭上から降ってくる――
( <●><●>)「とうっ!」
しかも、よりにもよって、三階から飛び降りながら。
- 225 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/09(火) 13:36:18.58 ID:QB5uku530
-
(゚_゚)「ええええええええ」
落下する細身が夕日に重なって、僕は目を細めた。
なんだこの光景。
( <●><●>)「よ、とお!」
足から着地、そのまま前回り受身。
こともなげに、ワカッテマスは推参した。
( <●><●>)「ギコ!」
- 226 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/09(火) 13:37:13.07 ID:QB5uku530
-
そして、
( <●><●>)「とろける杏仁、231円」
弁償を要求しにきただけだった。
- 230 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/09(火) 13:42:31.39 ID:QB5uku530
- 時が止まったね。
ギコは唖然としてた。
ジョーンズの嗚咽だけが中庭の隅から聴こえてたよ。
あいつ、そういえば股間が濡れてた。
( <●><●>)「ん」
ワカッテマスは右手を突き出しながら、ずんずん迫った。
ギコに向かって、真っ直ぐ。
どうやら僕以外は上履きのまま土の上を歩くのに抵抗がなかったらしいね。
乾燥した空気に、土ぼこりが小さく立ってた。
( <●><●>)「ん」
ずい、と眼前に掌を突き出されて、ギコは我に返った。
- 233 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/09(火) 14:02:07.14 ID:QB5uku530
- (,,゚Д゚)「あ゛? わけわかんねえこと言うんじゃねえ!」
ワンテンポ、彼は息をついてから言った。
( <●><●>)「僕もわけわかんないです。まだ半分以上入ってたとろける杏仁がダメにされるなんて。
読書中に飲食ができるから僕は教室にいたのに、それを邪魔されて、ますますわからない。
何をもって君が杏仁を無駄にしたのか分からない。でも、そんな僕も二つだけは分かってます」
驚いたよ。
ここまでどわっと喋るだなんて予想してなかったからね。
そんな風に言い切ってから、彼はギコの肩に手を置いて、右手を出したんだ。
(,,゚Д゚)「うっ」
僕からは表情は見えなかった。
でも、ギコのたじろぎ方から、とんでもなく恐怖を煽られたことは分かったよ。
遠くでもよく聞こえた。
彼は声が大きかったんだ。
「とろける杏仁の値段と、それを請求するべき相手です」
- 235 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/09(火) 14:06:59.52 ID:QB5uku530
- どうしたと思う?
お笑いなんだ。
(,,゚Д゚)「……」
なんとギコは支払ったんだよ!
しかも、たぶんぴったり一円単位で!
ジョーンズだって口を開けて見上げてたね。
凄かった、本当に。
プレッシャーっていうのかな。
彼は僕の上の上の存在なんだと確定したね。
こいつには敵わない、のさらに上位種。
僕は首を小さく横に振りながら呟いたよ。
わーお、ってね。
- 236 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/09(火) 14:13:21.46 ID:QB5uku530
- ( <●><●>)「君が弁償してくれることは分かってました。ありがとう」
(,,゚Д゚)「いや、いい」
(;・∀・)「……」
それで、ワカッテマスは僕のいる渡り廊下まで来たんだ。
ちらっと僕を見て、首を傾げると緑色のマットで上履きの底を擦って、そのまま行ってしまった。
入れ替わりで飛び出してきたのは、厳しいことで有名な体育教師だった。
凄い剣幕だったね。
_
(#゚∀゚)「何やってんだてめぇら!」
すると、腹の底から震え上がる怒声に、不良が蜘蛛の子を散らすように走り去るんだ。
ヒエラルキーってのは怖いよ。
多分社会的にはそこまで高くない地位の体育教師が、高校では絶対の力を持ってるんだから。
権力ってのは相対的なもんだと、とくと思い知らされた。
で、ようやく、二月の事件に話は繋がるんだ。
- 237 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/09(火) 14:20:32.75 ID:QB5uku530
- うちの高校は頭の悪いとこがあってさ。
三年の大学受験ギリギリの時期でも行事を開くんだ。
その年度、っていうか先月か。
ちょうどバレンタインデーの日に、イベントが開催される予定があった。
生徒会がリア充の集まりで、そういうの大好きらしくてね。
当然僕はその日、病気になる予定を入れておくつもりだった。
でも、そうは問屋が卸さないってのが高校生活。
(-_-)「あれ?」
体育館でステージに立って色々な出し物をやろう、なんて張り紙があった。
演劇部、吹奏楽部、合唱部。
大小さまざまなグループが名前を連ねられているポスターだ。
偶然目を通したのが幸か不幸か。
(;-_-)「あれっえええ!?」
僕はバンド演奏の欄に名前をぶちこまれていた。
- 239 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/09(火) 14:27:19.22 ID:QB5uku530
- 詳細キボンヌ。
懐かしい響きを頭に響かせながら生徒会室に飛び込んだのは、三日後だった。
何故三日もタイムラグがあるかを訊く奴はいないよな。
リア充の巣窟に単身突撃する勇気を溜めるのは、かなりカロリーを要求されるんだ。
(-_-)「え?」
「ああ、だから、ジョーンズ君が登録してくれたバンドだよね? 期待してるよ」
「君、ギター弾くんだ。すごーい、どんなのをやるの? レミオロメン聴きたーい」
「ラッドだよ、やっぱラッド」
知らねーよなんだよそのバンド。
「ドクオがボーカルなら大丈夫でしょ。あいつ顔に似合わず歌上手いから」
さっぱり状況が掴めなかった。
- 241 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/09(火) 14:30:45.25 ID:QB5uku530
- (’e’)「いやぁ~、たまにはそういう青春的なのをさぁ~」
(;-_-)「か、勝手に名前使ってそういうこと!」
(’e’)「サプラーイズっていうかぁ~?」
青あざが引いて久しいジョーンズは、すっとぼけやがった。
まあ、そのおかげで理由は分かったよ。
(,,゚Д゚)( ・∀・)
あいつらに目をつけられたんだろ、って。
('A`)「仕方ねーな。ちょっとくらいやってやるよ。引っ込みつかないんだろ?」
( ´∀`)「死ねジョーンズ」
(’e’)「悪かったよぉ~ww」
ああ、モナーに同意だ。
死ね、ジョーンズ。
- 244 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/09(火) 14:36:16.69 ID:QB5uku530
- 幸いなことに練習スペースはドクオの口利きで確保できた。
週2で軽音部の隅と、電子ドラム?を借りられた。
僕は父親のアコースティックギターを多少弾けたし、ジョーンズも何故かエレキギターを持っていた。
ベース不在でも仕方ないか、とドクオがまとめる横で僕は舌打ちを隠せなかった。
(-_-)「ジョーンズ、ギターはどれくらい?」
(’e’)「これがCだろ? これがD? F、Fは練習中かなぁ~ww」
( ´∀`)「かっこつけだろ、死ねジョーンズ」
ここに来てモナーの毒舌が花開いた。
安寧を破壊せしめんとする対象には容赦ないのが露呈した一瞬だ。
ドクオだけが安定感抜群に日々をすごした。
('A`)「あと一月と半分だ。やるしかないだろ。曲を決めよう」
- 245 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/09(火) 14:40:30.75 ID:QB5uku530
- 正直練習なんてしたくなかったよ。
当日、何か理由をつけて休んでしまえばいいじゃないか。
と、思った自分が甘かった。
練習後、吐く息が真っ白な夜のことだ。
校門を出た僕は、ギコに捕まった。
(,,^Д^)「おう。練習ご苦労じゃねーかww」
いやに上機嫌な分、こちらのテンションはがた落ちだった。
ただでさえ、ジョーンズのミスにいらだっていたんだから。
(-_-)「な、なに?」
(,,゚Д゚)「なんだよその声、喧嘩売ってんの?」
(;-_-)「いやっ、そんなこと!」
- 246 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/09(火) 14:44:59.81 ID:QB5uku530
- (,,^Д^)「お前、今回バンド頑張ってるんだよな?」
にやついた顔を作って、ギコが訊いた。
僕は正直なので、答えに窮してしまったんだ。
(;-_-)「いや、それは……」
(,,^Д^)「お前、今回バンド頑張ってるんだよな!?」
威圧的な声色で、ギコが被せてきた。
(,,゚Д゚)「逃げんなよ」
(-_-)「!」
(,,゚Д゚)「万が一、そんなことになったら三年間たっぷり楽しい目にあわせてやるよ」
こんな、感じだったよ。
十二月、歳末脅迫フェアは。
- 248 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/09(火) 14:52:24.26 ID:QB5uku530
- フォークソング用のギターってのは、あんまり大きな音が出ないんだ。
マイクで音を拾って、増幅機械を通して、スピーカーから鳴らす。
この機材を揃えるのに、僕は初めてブルーレイディスク購入を我慢した。
身を切る想いで化け物語の初回限定版を見逃した。
その間もジョーンズはミスを連発し、適当な演奏をした。
最も意外だったのが、モナーのドラムセンスだ。
というよりは、リズム感か。
とにかく、派手さはないが堅実に正確なビートを刻んでくれた。
保身的な人間でも、二通りのあり方があるんだと初めて知ったね。
口は悪かったけど練習に遅刻はしなかったし。
('A`)「ジョーンズ、また繰り返すところ間違ってるぞ」
(’e’)「短いアレンジっていうかぁ~? ダメかねぇ?」
( ´∀`)「死ね」
(-_-)「うん」
(’e’)「あ?」
- 250 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/09(火) 15:06:58.15 ID:QB5uku530
- ジョーンズは卑怯を体現してたね。
僕以外にはにやにやとしてるんだ。
僕が加害者以外に殺意を抱くのは珍しいことなんだよ。
同族嫌悪っていうの?
特に、一番うじうじしてる時の自分を見てるみたいで最悪だ。
そのくせ、僕に弦の張替えを居丈高に依頼するんだ。
殺伐とした空気になるのも仕方なかったと思うよ。
ドクオがまとめ役としていてくれなければ、空中分解してたはずだ。
バンド名は「ブラックドッグ」。
僕が皮肉めいた気持ちで提案したら、すんなり通った。
僕らは飼い犬さ。
- 252 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/09(火) 15:12:30.57 ID:QB5uku530
- 年が明けて、二週間が経った。
超低温の寒空、僕ら高校生は登校日を迎えていた。
ギィ
(-_-)(やっぱり誰もいないか)
雪が降りそうな昼休み、屋上に人影はなかった。
キンキンに冷え切った大気に、あえて体をさらしたい生徒なんか少ないわけだ。
バンドをやるからといって、誰かに気をかけられるわけでもない。
昼食は一人で手早く食べてしまうに限る。
ギコ達の目を逃れる意味でも、苛立ちを覚えない意味でも。
マフラーをして軍手をはめれば真冬日も凌げる。
モナーくらい脂肪があればよかっただろうけど、高望みはしなかったね。
(-_-)(風除け風除け)
「ィッッキシ!! ぶわっ、さむっ!!」
- 254 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/09(火) 15:17:12.20 ID:QB5uku530
- (-_-)(あ、いるんだ)
いつもの昇降口の横に、脚立が立っていた。
あの日と同じに、耳を澄ませばシャカシャカと音が聴こえる。
「ううぅうおお。さ、ィクシュン! おおおお」
ヘッドホンで難聴になってるに違いない。
僕はワカッテマスの元へ、無意識に登って行った。
( <●><●>)「だ、だんぼ、暖房」
いつの間にこいつは燃料ストーブを持ち込んだんだろう。
というか、毛布まで。
(-_-)「やあ」
誰だ、という風に首を横に向けるワカッテマス。
( <●><●>)「……ああ」
僕を確認すると、すぐに彼はストーブ点火に意識を戻した。
- 256 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/09(火) 15:20:53.92 ID:QB5uku530
- (( <●><●>))「きゃた、きゃたた、きゃた!!」
声がすごいデカイ。
(-_-)「ん。うん」
ずるずると脚立を上げると、いつぞやのブルーシートを被せるように言われた。
(-_-)「これでいい?」
ストーブの上にテントを張り、毛布に包まったワカッテマスに尋ねる。
(( <●><●>)) コクンコクン
(-_-)「って、ことはそろそろ雪が」
やっぱり降った。
- 257 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/09(火) 15:24:43.32 ID:QB5uku530
- 僕は頭にはらはらと落ちる雪を払って、貯水タンクの横で弁当を広げた。
雨に比べたらこんなもんあってないようなもんだ。
(-_-)(保温弁当箱にすればよかったな)
早速唐揚げに箸を突き立てたところで、僕の横に毛布のカタマリが現れた。
( <●><●>)「なに、何やってんですか、こっちこっち」
(-_-)「え?」
いつの間にかヘッドホンを首元に落としたワカッテマスが、僕をストーブの方に招いた。
( <●><●>)「さむっ、寒いから、体温、体温わけてください」
(-_-)「え? え?」
予想外だった。
- 260 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/09(火) 15:28:23.21 ID:QB5uku530
- 二十秒後、大判のブルーシートの屋根の下、僕らはホームレスみたいに縮こまっていた。
なんと気持ちの悪いことに男二人で一枚の毛布にだ。
( <●><●>)「ごごご、げ、限界か」
(-_-)「……」
どうやらこの気温でも空を睨み続けていたらしい。
制服越しでも体の冷えが伝わった。
(-_-)(なんだ、馬鹿なんだ)
そういう結論に落ち着いた。
彼の手元には、とろけるマンゴー(冷たいの)が握られている。
( <●><●>)「そそ、そそ、そ、そういえいえいえば、ギター」
- 261 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/09(火) 15:32:25.45 ID:QB5uku530
- ( <●><●>)「しぶっ、渋いですね、アコギの、君の?」
意味が分からなかった。
( <●><●>)「選曲、選曲が、渋い。うん。渋いです」
歯をカチカチ鳴らしながら、ワカッテマスは続けた。
( <●><●>)「ナイス」
それっきり、とろけるマンゴーをすすって彼は黙った。
僕も黙った。
雪が強く降り始めて、屋上が白く染まった。
ストーブが赤々と燃えている。
(*-_-)
だから僕の顔が熱いのも、その熱のせいだということにしておこう。
- 263 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/09(火) 15:36:38.40 ID:QB5uku530
- 「2・14 狂犬事件」
Xデーはやってきた。
ストレスはいつも時間経過で好き勝手に向かってくる。
僕の胃はやっぱり絶賛嘔吐準備万端。
震える指先がびっくりするほどnotユートピアだった。
それでも馬鹿正直に会場の控え室に行けたのは、ギコの電話があったからだ。
高校でドクオ達以外に携帯の番号を知っているのはあいつらだけだ。
ご丁寧に一週間前から電話は鳴り止まなかったね。
出るとこうだ。
「休むなよ」
以上。
応答はいらないから行動で示せってことだろう。
- 264 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/09(火) 15:40:18.28 ID:QB5uku530
- バンドメンバーの面々の紹介をしておこう。
ボーカル、ドクオ。
気だるげにイヤホンで曲の最終確認をしている。
ギター、ジョーンズ。
青ざめた唇を今にも吐きそうにわなわな震わせている。
ドラム、モナー。
頭でリズムを刻みながらきのこの山を食べている。
僕?
今朝方一回吐いたのでそれなりに落ち着いてたよ。
マーライオンは再現しそうではなかったね。
(,,゚Д゚)「おう、お前らにプレゼントだよ」
訂正、吐き気復活。
- 265 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/09(火) 15:45:13.58 ID:QB5uku530
- 差し出されたのは、マスクだった。
(,,゚Д゚)「これ着けて登場したらかっこいいべww」
( ・∀・)「天www才wwww」
前日の奴らの会話が思い出されるよ。
(,,゚Д゚)「お前のはこれなwww」
僕に渡されたのは、とあるアメリカンコミックのヒーローを再現したものだった。
バイクが変形して、それを装着したヒーローは犬に似た姿になるんだ。
それをこいつらが知ってるかは分からない。
でも、おあつらえ向きに、そのマスクのモデルは「black dog」といった。
(,,゚Д゚)「最後に俺らの前で見せてみろよwwww」
強制されるがままに、僕らは演奏を開始した。
- 269 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/09(火) 15:54:33.41 ID:QB5uku530
- マスクを着けての演奏は、馴れるまで面倒だった。
ジョーンズはせっかく特訓(やつなりのだけど)した成果があまり出せていなかった。
(,,゚Д゚)
なんせほとんど手元をみないで演奏するのなんて、好き好んで練習しないだろ?
B級映画だって車の目隠し運転する局面なんかないよ。
(,,゚Д゚)
だが、結果的に僕はむしろ、周りが見えなかったことで安定したプレイを果たすことができた。
ドクオの声もよく伸びたし、モナーは視野が狭くても大して問題なかったらしい。
(,,゚Д゚)「おい……ゲロ男、ちょっとこっちこい」
それが、何かギコの気に食わなかったようだった。
- 270 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/09(火) 15:58:41.31 ID:QB5uku530
- 控え室を離れ、僕は学棟の隅に連れて行かれた。
(,,゚Д゚)「手、出せ」
(-_-)「え」
(,,゚Д゚)「おい、早く出せっつってんだよ」
渋々僕が両手を差し出すと、次の瞬間、思い切り引き倒された。
そのまま背中に乗られ、耳元で囁かれる。
(,,゚Д゚)「右と左、どっちが潰れると困る?」
ぞっとした。
ここまでやるか、と。
(;-_-)「やめ、やめて!」
(,,゚Д゚)「静かにしろよ」
- 272 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/09(火) 16:01:55.43 ID:QB5uku530
-
抵抗する前に、右手の人差し指が根元から逆に折られた。
目の奥に、盛大に火花が散った。
暴れて自分から頭を床にぶつけた。
そちらの痛みの方がマシだった。
一度やられてみるといい。
言葉じゃないもんが走るから。
- 275 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/09(火) 16:06:04.44 ID:40N2eAxEO
- ひいい
- 276 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/09(火) 16:06:56.15 ID:QB5uku530
- 「~~~~~~~~!!」
次は、左手の人差し指だ。
ギコが片手で手首を、もう片方で爪の先を固定。
今度は、じっくりと捻られていく。
わざとだ。
(,,゚Д゚)「なんでお前らまともな演奏してんの? 特にお前」
ぎりぎりといってくれたらいいんだけど、指だととりあえず痛いだけなんだ。
限界だ、限界、というところで、ギコは一旦動きを止めた。
(,,゚Д゚)「面白くねーだろ。お前らがヘッタクソなのをやって笑いもんになんなきゃ、やる意味がねー」
「~~~~~!!」
(,,゚Д゚)「なぁっ!?」
ポグリとなって、激痛が左腕にも走った。
単純計算、倍の苦痛だ。
- 279 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/09(火) 16:09:10.18 ID:QB5uku530
- 指を折られた僕は、放置された。
体が冷えて、痛みは余計に酷くなった。
体力が奪われてどうしようもない。
死ぬ、死んだ方がマシだ。
自転車で引きずられた時や、ペニスにタバコを押し付けられた時みたいに。
惨めだ。
死ねばいい。
死にたい。
と、思ったのは昔のことだ。
- 280 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/09(火) 16:11:53.99 ID:QB5uku530
- 「このままで終われるか……」
気が付いたら僕は保健室に向かっていた。
とにかく、ツン先生ならなんとかしてくれるに違いない。
なんせ彼女はまがいなりにも医者だ。
指は「手の甲の方に」曲がったまま痛んで動かないが、なんとかしてくれるに違いない。
なんとかしてくれ。
あいつらだけは許せない。
奴らの鼻をあかしてやる。
絶対に、絶対に許せない。
「暴力がだめでも、僕さえギターが弾ければ……!」
- 282 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/09(火) 16:14:48.81 ID:QB5uku530
- 意地だ。
これだけ手のこんだ、時間をかけたものをぶち壊されて黙ってられない。
あのニヤけた面を凍りつかせてやる。
ワカッテマスが褒めてくれたモノを見せ付けてやる。
悔しいし、痛いし、むかつくし、やっぱり世界人類滅亡しちまえって思ったよ。
でもまだ僕は死にたくない。
僕らのステージまで一時間もない。
(メ-_-)「何やってんだ僕は」
言いながら、依然曲がったままの指で僕は歩く。
- 285 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/09(火) 16:19:21.45 ID:QB5uku530
- もう子供じゃないんだよ。
僕だって。
ガラ
(メ-_-)「先生、ツン先生」
そこには、誰もいなかった。
だが、ベッドの全てにカーテンが引かれていて、一つのベッドから物音がしていた。
「はいっ!? ちょっと待って!?」
しゅるしゅると音がして、数分後、カーテンをくぐって先生が現れた。
ξ*゚⊿゚)ξ「な、なあに? どうしたの?」
胸元のボタンがかけ違えられていたのを、追及はしなかった。
上気した顔を手で扇ぎながら尋ねる先生の視線が、僕の手に留まった。
ξ゚⊿゚)ξ「って、その手どうしたの!」
- 286 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/09(火) 16:23:14.51 ID:QB5uku530
- ( <●><●>)「あ、君は」
さっきのカーテンの向こうから、もう一人現れた。
手にひらひらした布を持ったワカッテマスだ。
痛みで歪んだ僕の視界が確かなら、それは女性モノの黒いパンツだった。
が、それを気にする余裕はない。
(メ-_-)「動くようにしてください」
ξ;゚⊿゚)ξ「馬鹿なこと言わないで! 少なくとも脱臼してるのよ!? 早く病院に!」
(メ-_-)「いいから、なんとか動くようにしてください」
年上に命令するのは始めてだ。
しかも先生。
ヒエラルキー下克上、天上天下。
脳味噌を訳の分からない単語が並びまくった。
(メ-_-)「あと一時間ないんです」
- 288 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/09(火) 16:26:38.57 ID:QB5uku530
- ( <●><●>)「今日、でしたっけ」
(メ-_-)「うん」
保健室の鏡をちらりと見たら、僕の目は血走ってた。
凄い形相だったよ。
たった数分で思いっきり頬が削げ落ちてた。
顔なんか真っ白でさ。
( <●><●>)「ふーん……。それ、もしかしてギコが?」
ξ゚⊿゚)ξ「あの一年生の?」
(メ-_-)「……それは」
ここで弱い自分が目を覚ます。
イジメの事実を肯定することに対する、嫌悪感。
(メ-_-)「なんでもいい、これ、どうにかしてください」
- 290 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/09(火) 16:29:52.49 ID:QB5uku530
- 両手の人差し指が根元で腫れていた。
すぐに変色してきて、薄い青紫になっていた。
(メ-_-)「自分じゃ真っ直ぐにもできません。お願いです」
ξ;゚⊿゚)ξ「そんなこと言っても」
( <●><●>)「見せて」
(メ-_-)「え」
ポゴ
(メ゚_゚)「―――――ッッ!!」
片方、骨をはめられただけで絶句した。
ξ#゚⊿゚)ξ「馬鹿! 素人が無茶しないで!」
( <●><●>)「もう片方行きますよ」
- 293 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/09(火) 16:33:59.07 ID:QB5uku530
- 細い靭帯っていうか腱?
ああいうのって、けっこうミキミキなるんだ。
膝をの靭帯を切ると、程度にもよるけどこんな音がするらしい。
パキン、みたいな硬質な音。
それを小規模にして、脱臼をはめなおすと、こんな感じだった。
ペギョ
「~~~~~~!!」
食いしばった歯の間から血が垂れた。
ξ#゚⊿゚)ξ「バカタレ!」
ツン先生の怒りの形相はすごかったけど、ブラウスの隙間から見えたおっぱいもすごかった。
まあ、いまだから余裕をもって思い出せるだけだ。
(#)<●><●>)「で、ギター弾けます?」
先生に頬を張られてもなお、彼は無表情だ。
- 296 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/09(火) 16:38:27.06 ID:QB5uku530
- (メ゚_゚)「ぎ、あぁ、いっ……がん、がんばって、みる」
ξ#゚⊿゚)ξ「神経傷付けたらどうするの!」
(#)<●><●>)「ぐー、ぱー」
言われたとおり指を曲げ伸ばしした。
(メ゚_゚)「ぐ、うう!」
無理やり指を動かしてみたが、やはり無理だった。
人差し指だけ、大きなりんごを掴んだぐらいの位置で止まった。
( <●><●>)「無理か」
ξ#゚⊿゚)ξ「無理に決まってんでしょ!」
(メ゚_゚)「無理じゃない!」
僕も頭をはたかれた。
気合だけじゃなんともならないことを教えられたよ、ありがとう。
- 297 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/09(火) 16:41:35.27 ID:QB5uku530
- ( <●><●>)「なら、君はここにいてください」
ワカッテマスは音もなく立ち上がって、保健室を出た。
ξ#゚⊿゚)ξ「ちょっ、こらっ! どこいくの!」
「助太刀です」
(メ゚_゚)「ワカ、くん……」
ここで、僕は目の前に火花を散らしながら、やっぱり後を追った。
(メ゚_゚)「ま、ま……」
言え、言え、もう少しだ。
ずっと言えなかった言葉だ。
(メ゚_゚)「待って! 僕も行く!」
やっと、だ。
( <●><●>)「……タフですね」
- 300 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/03/09(火) 16:49:56.32 ID:QB5uku530
- 控え室では青白さを増したジョーンズが待ち構えていた。
(’e’)「なっ、なにやってんだよ! もう出番すぐだぞ!」
それだけ言って、ジョーンズはステージに向かった。
どうせ僕がどうされたか知ってたクセに、どこまでも薄情な奴だ。
(メ゚_゚)「わかってる、わかってるよ」
床に落ちた僕のマスクを拾って、ギターに向かう。
限界はどこだろう。
人差し指を使わないでコードを押さえられるだろうか。
いや、待てよ、コード進行覚えてたっけ?
ふらふらと歩いていると、僕の手からマスクが奪われた。
(メ゚_゚)「え?」
――ライブが始まる。
- 5 :名無しさん:2010/03/09(火) 22:34:53
- 特設ステージなんて言われていたけど、結局は体育館の壇上だ。
そこにアンプって呼ばれるスピーカーセットと配線をしただけ。
リア充共は、体育館に並べられたテーブルの上に乗った料理をぱくつきながら、それを眺める。
アメリカのダンスパーティーのノリを想像してくれ。
あれからなんとなくエロい雰囲気を取っ払って、みんな醤油顔にしたら完成だ。
多少なり、ショボさも残しているのがミソだ。
「ブラックドッグ」の面々は、生徒達の前に並び立った。
もちろん、マスクを被った珍妙なスタイルでだ。
「何あれ、ウケ狙い? 寒いんだけど」
「あれで演奏したらかなり凄いんじゃねーの?」
「超リアルww ブラックドッグだってさw」
機材の調整をそこそこに、土佐犬のマスクを着けた大柄な男が電子ドラムを叩く。
音は、しっかり鳴ってた。
モナーは準備OKだ。
黒いラブラドールのマスクのドクオも右手を上げた。
- 9 :名無しさん:2010/03/09(火) 22:39:10
- ステージ向かって右手の男子も、エレキをぽろぽろ鳴らした。
犬のモデルはチワワ。
小さいからこそよく鳴く犬種だ。
中身はもちろん、チワワ……じゃなかったジョーンズ。
そして、遅れてステージ裾からアコースティックギターを抱えて出てきた生徒がいる。
僕だ。
会場は沸いたよ。
凄い大勢が一気に声を上げた。
どっ、と盛り上がる。
マスクのモデルはアメコミの人気作「IN CITY」のヒーロー「black dog」なんだから当然だよ。
デザインがとんでもなくクールだからね。
その点、ギコには感謝しなくちゃならない。
「すげええ!! なんだアレ!」
- 14 :名無しさん:2010/03/09(火) 22:42:54
- 「あれは! あれは!」
男子達が畏れを抱いた瞳で僕を見つめた。
隣の女子もはっとして声を張る。
「アレでしょ!? 知ってる!」
ィ'ト―-イ、
以`゚益゚以
「「ブチギレた市松人形!!」」
そろいもそろっててめえらアメコミ読まないのか。
そういうわけで、僕はライブ後、必ず「IN CITY」の布教活動しなければならないと思ったね。
まあ、それはどうでもいいんだよ。
- 16 :名無しさん:2010/03/09(火) 22:46:52
- 両手がぶるぶる震えたよ。
緊張からってのはもちろんあった。
でも、君らは知ってるよね。
ついさっき、僕は両手の人差し指を折ってるんだ。
少なくとも脱臼はしてた。
まだ両手と脳味噌の芯がじんじんしてたよ。
後で調べたところ、腱が痛められると筋肉の動きがまともに伝わらないんだ。
そこに無理に活動するための電気を通す。
すると、消耗した部品は軋むばかりで動きゃしない。
僕は、奥歯を噛み締めて会場を睨んだよ。
どこかにいるはずのギコやモララー、他の連中を探したんだ。
<
- 20 :名無しさん:2010/03/09(火) 22:52:06
- 会場には400人以上が集まってて、しかも薄暗くされてた。
暇な奴、飯を食いに来た奴、まともにバレンタインデーを恋人同士のイベントとして取る奴。
手を繋いだ男女の隙間を縫って、僕みたいな冴えない人間がぽつりぽつり。
そして、見つけたんだ。
(;゚Д゚)
取り巻きと一緒にいるギコを、ステージからわずか10m前に。
いや、違うか。
「両手を使えなくしたはずの人間が現れたことに驚愕したクズ」を僕は発見した。
いいぞ、お前は完璧におあつらえ向きの場所に立ってる。
そのポジション取りは、本来お前にとって最高の位置だった。
でも、今は真逆だ。
僕らの成功を目の当たりにするしかない立ち位置なんだよ……!
- 21 :名無しさん:2010/03/09(火) 22:53:09
- 28 :名無しさん:2010/03/09(火) 23:00:36
- MCを挟むのは一曲目と二曲目の間だ。
ドクオは両手を上げて、観客の注目を集めた。
小柄も小柄な男の、堂々たるスタンディングパフォーマンス。
黒い犬が、合図を出した。
『一曲目「スカイハイ・フライハイ」』
かったるそうな声が、マイクを通して会場に響く。
飛べ、空高く行け、壁はそこにはない、という歌詞。
青臭すぎて僕は苦手だった。
僕のチョイスは二曲目だ。
それは後で話すよ。
今はギコの驚いた顔を思い出して笑いそうなのこらえるのが大変なんだ。
土佐犬がスティックを打って、リズムを取り始めた。
1,2 1,2,3,4
- 30 :名無しさん:2010/03/09(火) 23:05:40
- 曲の進行を、歌詞になぞらえて説明しよう。
主人公は閉塞感にあえいでた。
(ここは結構ゆっくりで、しっとりと聴かせるパートだ)
ある日、荒野で転べば、そこには青空が広がっていた。
(まだ、曲のテンションは変わらない)
そして気付くんだ。はなっから自分が下ばかり向いていたことに。
(ドラムが盛り上げて、リードギターが気合を入れていく)
飛ぶための翼はすでに持ってたことを、ようやく知る。
(ハイテンポな細かいビートで一気に盛り上げていく)
こんな感じだ。
- 34 :名無しさん:2010/03/09(火) 23:10:15
- 結論から言えば、演った側からすれば微妙だが、なかなかウケた。
選曲が流行り曲に詳しいドクオのものだったからだろう。
ノリが良い部分では、観客の手拍子も合わさった。
ドクオのパフォーマンスの賜物だ。
正直、僕はほとんどまともにギターを弾けなかったね。
それでも省略形のコードで誤魔化し、リズムを守ってバックに徹した。
ジョーンズはなんだかんだ緊張で、やっぱりミスったし、ドクオは一度ハイトーンを外す。
モナーだけがミスをせずに、最後のドラムロールまでを完遂したよ。
『ありがとう、ブラックドッグです』
MCが始まる。
僕の両手は限界を超えてびくびくと痙攣していた。
- 38 :名無しさん:2010/03/09(火) 23:14:04
- マスクの下で僕は笑っていたよ。
多分、邪悪にね。
(;゚Д゚)(;・∀・)
从;゚∀从ζ(゚ー゚;ζ
だって、こんな痛快なことないだろ?
馬鹿にするつもりが、そこそこ形になっちゃってるんだから。
しかも、野次を飛ばそうにも盛り上がりは上々。
前のバンドや演劇部がどんなオナニーを公開したのかは知らない。
でも、結構イイカンジだったのは間違いない。
くくく、とマスクの内側にくぐもった声を漏らした。
本当はもっと快活に笑いたかったけど、そんなことできなかった。
何よりそんな笑い方、小学生の頃に忘れてるからね。
- 41 :名無しさん:2010/03/09(火) 23:20:13
- 『ブラックドッグは高校生らしいことをやりたいと思い結成した、即席バンドです。どうでしたでしょうか』
ドクオはどんどんと喋っていった。
見た目にそぐわぬコミュニケーション能力だ。
『俺らのメンバーを紹介します。俺が、黒のラブラドール、ドクオ』
さて、君らは思っただろ?
「マスクが奪われたっていったろ?」ってね。
『ドラム、土佐犬モナー』
慌てるなよ。
ここからが重要なところなんだ。
『リードギター、チワワのジョーンズ』
もしかして、好きな食べ物は先に食べてしまう派?
僕は最後まで取っておく方なんだ。
『そして、もう一人のギター、black dogの――』
- 44 :名無しさん:2010/03/09(火) 23:23:25
- ぶつんと音声が途絶えた。
どころか、体育館は真っ暗になった。
電気という電気が消えた。
停電だ。
その日、空は重たい曇天で、夕方にもなればかなり暗い。
加えて、暗幕で窓を覆った体育館は、本当に何も見えなくなる。
――これが、合図だった。
- 47 :名無しさん:2010/03/09(火) 23:26:49
- 会場がざわめくのは計算の上だった。
誰のって?
分かってるだろ。
「彼」だよ。
電力が戻った時、僕は「僕」になっていた。
- 48 :名無しさん:2010/03/09(火) 23:27:28
- うおおおおおおおおおおおおお支援!
- 49 :名無しさん:2010/03/09(火) 23:29:15
- きたあああああああああああああああ
- 50 :名無しさん:2010/03/09(火) 23:32:02
- 僕は「僕」を遠くから眺めていた。
体育館の全貌が見渡せる位置だ。
具体的には、ステージ対面の壁際。
皆が皆、僕に背を向けている。
完璧だった。
『ちょっと俺達が騒ぎすぎて、ブレーカーもぶっ飛んじゃったかな。えっと、どこまで言ったっけ』
ドクオがMCを続けようとすると、ステージ裾から係りの生徒が「時間がない」という合図をした。
申請したのは15分だけだったんだ。
停電だけで、半分以上が食われてた。
『分かった分かった。用意してたのは二曲だけなんだけど、後半戦行くよ。聴いてください』
- 52 :名無しさん:2010/03/09(火) 23:35:38
- 二曲目「ブラックアウト」。
少し古いイギリスバンドのロックだ。
ドクオには無理を言って英詞のまま歌ってもらうことにした。
これは一曲目に似た、ダウナーとアッパーな部分を併せ持つ曲だった。
僕の貧弱な英語力でも理解できるくらい、単語は簡単な方。
ただ、ダブルミーニングや比喩が秀逸で、中学生の僕を癒した内容だ。
まあ、父親のコレクションから偶然取り出した一枚だったんだけどね。
- 55 :名無しさん:2010/03/09(火) 23:40:01
- 歌詞はこんな感じだ。
息をする、ガスに囲まれて。
毒だらけなのを皆が知ってる。
ハイになれるか、無理してくたばるか。
決めるのは自分か? 本当に?
水面は遠い。
もがいても体は重いばかりなんだ。
ああ、目が、もう見えない。
助かろうとすればするほど、周りは闇に包まれる。
- 57 :名無しさん:2010/03/09(火) 23:43:50
- どうしようもない状況だ。
生まれながらにして、不平等なんだ。
僕が痛感して、自宅にこもった時、これを聴いた。
中二病まっさかりで、僕は没頭したよ。
深読みなのかもしれないけど、ブラックアウトは僕にも起きてた。
潜水病のひとつで、深い潜水から急速に浮上すると意識を失ってしまう症状だ。
僕はいつまでも潜り続けていた。
人間に埋もれて、望んでもないストレスに飲まれて。
もがけばもがくほど、人々は僕を哀れんだ。
何も見えなかった。
息ができなかったんだ。
今は、違う。
- 59 :名無しさん:2010/03/09(火) 23:47:32
- 体育館の上に立つ「僕」が、ギターを勝手に激しくかきならす。
めちゃくちゃだ、あの馬鹿。
でも、不思議とそれは他のメンバーと調和していく。
譜面どおりにしか弾いていないはずのチワワが引き立つ瞬間すらあった。
突然、不安になるほど急に音を小さくする。
そういう時は決まって、黒いラブラドールの泣くようなメロを際立たせたい瞬間だった。
アコースティックギターなのに、こんな表現ができるのだと驚いたね。
ぞくぞくしたよ。
跳んで、跳ねて、なのに、手元は狂わない。
凄いんだ。
とにかく、パワフルなんだよ。
- 60 :名無しさん:2010/03/09(火) 23:51:10
- black dogを、「僕」を、僕は見つめた。
そこにいる鏡の向こうの「僕」は、会場全員にとって僕だ。
意味が分からない?
悪いけど、僕だってよくわからないんだ。
あの瞬間、即席で作った最悪のバンドが、世界最高のバンドに見えたんだから。
ナチュラルハイは怖いね。
(メ _ )「ははは」
(メ;_;)「すげーや」
涙まで出るんだから。
- 61 :名無しさん:2010/03/09(火) 23:51:22
- いつの間にか「僕」になってるじゃねぇか
すげぇな…ヒッキー
- 62 :名無しさん:2010/03/09(火) 23:53:18
- 成長したね
支援
- 63 :名無しさん:2010/03/09(火) 23:54:54
- ステージに近い観客の多くが、メロに合わせて拳を突き上げてた。
惜しむらくは、そこにいるはずのギコの顔が見られないことだ。
あいつは気付いただろうか?
それとも、まだ理解に苦しんでいるだろうか?
どっちでもいいか。
停電の混乱に乗じて、僕らが入れ替わったことなんか。
だって、「僕」はまだステージに立ってたんだ。
それだけであいつらは泡を食ったはずさ。
- 68 :名無しさん:2010/03/10(水) 00:01:38
- できることなら拳でギコに同じだけの痛みを与えたかった。
手の指を逆折りされたんだから、僕は足の指を責めたかった。
正直なとこは、目には目を、で行きたいよ。
人間だから、直接的にね。
で、まっとうなカウンターは何がどうなるって、どうにもならないんだ。
堂々巡りだよ。
またいつか同じことをやられて、こっちも復讐してさ。
指を一回ずつ折り合うなんて、気持ち悪いおまじないだよ。
『blaaaaaaaaaaaaaaack―――――――-』
だったら、爽やかな青春カウンターしてやればいい。
「味方を増やす」っていう、素晴らしい抑止力でね。
『out!』
「僕」が、ガッと弦を弾いて、曲は終わった。
同時に、僕の中の、「いじけっぱなしの僕」は死んだ。
彼が、助けてくれたおかげでね。
- 69 :名無しさん:2010/03/10(水) 00:02:51
- おお…!
- 71 :名無しさん:2010/03/10(水) 00:05:25
- ***
僕の手から、マスクが奪われた。
( <●><●>)「マスクにちょっと細工しますよ。二分待っててください」
(メ;-_-)「ちょっ! 時間が!」
( <●><●>)「よっし、これでおっけい」
(メ;-_-)「早いな!」
何か黄緑のものがちょんちょんと塗られただけだった。
( <●><●>)「何故か分からないけど、多分、一曲目が終わったら電気が落ちます」
(メ-_-)「はぁ?」
マスクを被されながら、僕は先を促された。
- 75 :名無しさん:2010/03/10(水) 00:09:59
- ( <●><●>)「何故か分かりませんが、電気が落ちると、偶然付着した塗料が光ります。
それも、少ししか光を蓄えてないので、薄くぼんやりとだけ」
「ちょ、足元見えない!」
( <●><●>)「すると、君が『誰か』に背中を突かれた時、何故かマスクとギターをその『誰か』に渡したくなります。
どうしてかは分かりませんが、そういう気がしますね。どうなるかも分かりませんが」
「え……?」
( <●><●>)「そんな感じで分からないことだらけですが、僕にはひとつだけ分かってます」
「まさか、ワカッテマス、くん」
( <●><●>)「きっと、『君』がライブを成功させることを、です」
***
- 77 :名無しさん:2010/03/10(水) 00:14:35
- 僕は会場の人間が決してこちらを振り向かないことを知りながら、こそこそと体育館を出た。
まだまだ事後処理が残ってる。
バンドの面子が戻る控え室は第二学棟の一階だ。
体育館からダッシュで一分かからなかった。
でも、一般人でそれくらいだろうから、僕は一分半はかかる。
急がなきゃならなかった。
(メ;-_-)「と、とととと、と!!」
なのに、タイミング悪く、奴らは現れる。
僕は曲がり角でたたらを踏んで、なんとか身を隠せた。
(;゚Д゚)「どうなってんだアイツ……信じられねえ……」
ζ(゚ー゚;ζ「フツーに、上手かった、よね」
从;゚∀从「ああ、フツーに」
- 79 :名無しさん:2010/03/10(水) 00:18:08
- (;・∀・)「お前ホントに指折ってやったのか?」
(;゚Д゚)「ああ……って馬鹿野郎、聞かれるだろ」
二人は、デレ、ハインと分かれて何かを企んでいるようだった。
どうしようもない奴らだ。
(,,゚Д゚)「あいつらが出てくるのはこっちで合ってるよな」
どうやら、「僕」らの出待ちらしい。
嬉しくないファンもあったもんさ。
(メ;-_-)(まずい)
何がまずいって、僕が「僕」と入れ替わるタイミングがないってことだよ。
これ以上、ワカッテマスに迷惑はかけたくなかったんだ。
- 81 :名無しさん:2010/03/10(水) 00:21:38
- でも、希望は希望で終わる。
どうやってもそのルートで待ち伏せされたら、出くわすしかないんだ。
('A`)「あれ、ギコ。どうしたんだよ、まだパーティ終わってないのに」
(,,゚Д゚)「お前に用はない」
(’e’) ギクッ
身を固めたジョーンズが、目を逸らして口笛を吹いた。
掠れた音しかしておらず、最高に気持ち悪い様子だった。
モナーと「僕」だけがマスクを取ってなかった。
多分、モナーは土佐犬ヘッドが気に入ったんだろう。
だけど、「僕」は取るわけにはいかなかった。
それどころか、喋ってもまずい。
- 84 :名無しさん:2010/03/10(水) 00:25:57
- (,,゚Д゚)「ヒッキーだよな、お前」
アコースティックギターを片手に歩いていく「僕」は、シカトをかました。
そりゃそうだよ、突然他人の名前で呼ばれてもピンと来ないだろ?
( ・∀・)「おい、聞こえてねーのか」
('A`)「なあ、お前らいい加減にしろよ」
絡むのを咎めたのは、ドクオだけだ。
モナーは聞こえないふり、ジョーンズは完全に聞いてなかった。
('A`)「知ってるぞ。ギコ、お前がジョーンズ脅迫してバンド名簿出させたんだろ?」
(,,゚Д゚)「お前はすっこんでてくれ」
('A`)「おおかた、わざと下手な演奏するようにジョーンズに言ったんだろうな」
いよいよもってジョーンズの表情がキモかった。
- 85 :名無しさん:2010/03/10(水) 00:27:42
- ドックン言うねー
- 86 :名無しさん:2010/03/10(水) 00:29:04
- とことんバレてないと思ってたことが露見して、奴は戦々恐々としてたね。
保身に走ってばかりいるからこうなるんだ。
(メ;-_-)(と、考える僕はひきこもりという最終手段を取っていたわけだ)
('A`)「なあ、もう止めようぜ。こう言わないと分からないか?」
( ・∀・)「あ?」
('A`)「『目障り』なんだよ」
例の、細すぎる堪忍袋の緒が切れる音を聴いたような気がしたね。
(,,゚Д゚)「いまなんつった」
( ・∀・)「……おい、お前、ふざけてんのか」
- 90 :名無しさん:2010/03/10(水) 00:34:38
- ('A`)「……」
完全にドクオが言い過ぎたと思った。
もしも、万一僕の想像通りなら、それもあり得る展開だったかもしれない。
(#゚Д゚)「……おい、俺がずっとお前を見逃してたのは、なんでだと思う」
('A`)「さあ?」
(#・∀・)「ギコ、マジでこいつなのか? 本当に、コイツだったのか?」
(#゚Д゚)「別にこいつでも、こいつじゃなくても構わねえ。もう我慢できねえ」
馬鹿が何言ってるか分からない人がいるかい?
言葉足らずだからね。
説明しようか?
- 92 :名無しさん:2010/03/10(水) 00:36:29
- つまり、あいつらは恐れてたんだよ。
僕が見た、あの「黒犬」が、
('A`)「もうさ、本当に夏以来、また『目障り』になってきたよ」
ドクオだったんじゃないかって。
自分らを昔シメた奴なんじゃないか、ってね。
- 93 :名無しさん:2010/03/10(水) 00:40:10
- (#゚Д゚)「もう言うことはねえな?」
(#・∀・)「花火の時には助けられたらしいけどよ、それとこれとは話は別だよな」
('A`)「鬱陶しいんだよ。いい加減、今回で手打ちにしろって」
(#゚Д゚)「あ゛あ゛あ゛あ゛、そうかよ!!」
ギコがヤンキー特有の耳ざわりな怒声とともに、拳を振り上げた。
ジョーンズは小さな女の子みたいな悲鳴を上げてたよ。
僕?
僕は、見てた。
「僕」が僕の父親のギターでギコを殴ろうとしてたのを。
- 96 :名無しさん:2010/03/10(水) 00:41:40
- ゴォンベギシャ ビィィン
(メ-_-)
(メ;゚_゚)
(メ; _ ) ゚ ゚
- 100 :名無しさん:2010/03/10(水) 00:46:10
- 話に聞いていた当時28万のギターは、ネックとボディの部分でぼっきりいった。
多分、今の価値にして4、50万はいくだろう。
「僕」は野球で言うところのフルスイングの格好で静止した。
(メ;゚_゚)(ばかああああああ!!)
(,, Д )「かっ、はっ、てめっ! ひっき、い!!」
致命打にはならなかった。
というかなってもらっても困る。
(#・∀・)「てめえ!」
ィ'ト―-イ、
以`゚益゚以
ブチギレた市松人形は、応えない。
- 102 :名無しさん:2010/03/10(水) 00:49:18
- 代わりに、様子を伺っていた僕を発見したのか、一瞬こちらを見た。
(・∀・#))「あっ!?」
クルッ
即、僕は身を隠したよ。
でも、モララーにとってはそれが命取りだった。
余所見につられて余所見。
こんなの、古いアクション映画の常套手段だろ?
ガン
( ∀ #)「ぐあっ」
あとは、ギターの部品を凶器に使わなければ完璧だったんだけどね。
- 104 :名無しさん:2010/03/10(水) 00:52:51
- よろめいた二人の間から、「僕」は逃げ出した。
こちらに向かって。
ギコもモララーも的確に脳味噌を揺らされたようで、真っ直ぐ走れないらしい。
長距離を走る僕よりチンタラやっていた。
僕の隠れる曲がり角を、「black dog」が駆けてきた。
ズポッ
そして、マスクを脱ぐと肩に手が置かれた。
( <●><●>)「あとはよろしく」
(メ;-_-)「え」
そのまま走り去ろうとするワカッテマスを、後ろから捕まえた。
(メ;゚_゚)「ちょっと!」
- 105 :名無しさん:2010/03/10(水) 00:52:54
- やっちまえ
- 108 :名無しさん:2010/03/10(水) 00:55:53
- ( <●><●>)「なんです」
(メ;゚_゚)「あ、え、そのあああっと!」
言いたいことがたくさんあっても、舌が回らない。
「ヒッキィイ!! 待てやゴルァアアア!!」
(メ;゚_゚)「あれどうすんの!」
( <●><●>)「ああ、あの『目障り』ボーイズ。……んー、そうですね」
汗に濡れたクセ毛をかき上げると、ワカッテマスは僕に一言だけ耳打ちした。
(メ;-_-)「ちょっと、ちょっと待って!」
( <●><●>)「じゃ、あとで保健室で」
- 111 :名無しさん:2010/03/10(水) 00:59:14
- (,,゚ Д ゚)「ふざけんなやゴルァア!」
わずかに右往左往するギコ。
目の焦点合わず。
( ・∀・)「ごのやろう、でめてがだだ」
喋りづらそうなモララー。
舌噛み済み。
それでも僕よりは確実に戦闘力が高い。
僕は猟銃を抱えても戦闘力が2行かないような民族だ。
その上、両手がほとんど使えないと来てる。
無茶して三分もギターを弾いたから、余計にだ。
(メ;-_-)「あわわわわ」
- 112 :名無しさん:2010/03/10(水) 01:03:14
- ワカッテマスが言ったとおりにするしか、僕には手がなかった。
(メ;-_-)「ぎぎぎ、ギコ! くん!」
こんなときでも弱気な発言なのを許して欲しいね。
すり込みってのは根強いんだよ。
(,,゚ Д ゚)「あ゛!?」
(メ;-_-)「み、『右の尻の肉だけじゃ飽き足らず、もう片方も噛まれたいのか』!?」
びた、とギコが動きを止めた。
こうかは、ばつぐんだった。
(メ;-_-)「モララー! 『体に女以外の歯型増やしたいならいくらでもやってやるよ』!」
こちらも、同様。
- 116 :名無しさん:2010/03/10(水) 01:05:54
- 頭の中で、ワカッテマスが無表情にカチカチと歯を鳴らした。
すると、急に僕に何かが降りてきたね。
(メ-_-)「やってやるよ」
汗は引いて、声の震えもなくなった。
(,,゚Д゚)「てめ、なんでそれ知って」
(メ-_-)「うるさい!」
僕は頭から二人に突っ込んで行った。
まさしく特攻。
……結果的に、僕は、手も足も出なかった。
- 117 :名無しさん:2010/03/10(水) 01:06:50
-
使えない手の代わりに
自由奔放な「黒犬」の代わりに
噛み付きまくってやったんでね。
- 118 :名無しさん:2010/03/10(水) 01:07:13
- うおおおおおしえん!
- 119 :名無しさん:2010/03/10(水) 01:09:30
- ('A`)「先生、こっちです!」
_
(#゚∀゚)「こらぁあああ、またギコお前かあああああああ」
_
( ゚∀゚)「あ?」
(メメ-_-)「ハァハァハァ」
_
( ゚∀゚)「あいつらは?」
(メメ-_-)「ハァハァハァ」
_
(;゚∀゚)「お前、腕折れてるぞ大丈夫か!」
(メメ-_-)「歯も、一本折れました」
('A`)「ヒッキ、おま……」
(メメ-_-)「勝ちました」
- 121 :名無しさん:2010/03/10(水) 01:11:04
- ヒッキー頑張った
- 122 :名無しさん:2010/03/10(水) 01:11:49
- ヒッキー男だぜ!
- 123 :名無しさん:2010/03/10(水) 01:13:01
- どうみても僕はずたぼろで、お世辞にも喧嘩に勝ったとはいえない状況だった。
でも、こういうのは逃げた方が負けさ。
僕は退かなかった。
逆に、前進してやった。
ストレスってのは向こうからやってくるって言ったよね?
それも、最初の方にさ。
で、今度はこっちから迎撃してやったんだ。
結果は、見ての通り。
骨を折られて、肉を噛む。
……馬鹿みたいだよね。
とりあえず、体中がバラバラになりそうだった。
- 124 :名無しさん:2010/03/10(水) 01:17:12
- 前歯が抜けて恥ずかしいことになってた。
右腕は、当分自分のチンコをいじれないぐらい。
保健室を経由しないで、病院に直行だったよ。
救急車の中って意外に狭いってのも、その時初めて知った。
(゚、゚トソン「バカタレ」
姉の拳の方が痛いぞ、不良ども。
(゚、゚トソン「で、どうだったわけ」
僕は、言ってやった。
(//_-)「楽しかった、かな」
もうひとつ拳が降ってきた。
- 126 :名無しさん:2010/03/10(水) 01:20:55
- これが事件の顛末。
いやあ、長々と悪い。
この事件の名前なんだけど、僕が勝手につけたんだ。
退院したら、ドクオがこっそり教えてくれたんだよ。
「お前、狂犬ってあだ名付いてるぞ」って。
ジョーンズが僕を少し避けるようになったのが、その証拠だった。
クラスメイトの一部は依然、僕に無関心だったけど。
バンド演奏を見た人が話しかけてくることもあったよ。
「僕」のスーパープレイに感動したギター小僧とか、バンドファン。
正直、困った。
- 127 :名無しさん:2010/03/10(水) 01:23:41
- やったじゃんヒッキー
- 130 :名無しさん:2010/03/10(水) 01:24:23
- 期末考査の結果はさんざんだった。
だって、右腕も指も使えないんだ。
書けなきゃ解けないのと一緒だろ?
みみずがのたくったような字は、赤点しか生まなかったね。
ふと、終業式の日に屋上へ登ってみた。
超綺麗な青空で、スカイハイ・フライハイが頭に流れた。
壁はない、ね。
いいんじゃない、たまにはそういうのも。
「ィキシッ! 杉か!」
(//_-)「花粉症?」
- 131 :名無しさん:2010/03/10(水) 01:24:39
- 結局ドクオは黒犬だったのか?
- 132 :名無しさん:2010/03/10(水) 01:27:34
- 脚立を登ると、やっぱりそこにはワカッテマスがいた。
ツン先生が裸で寝てたら、と一瞬期待したが、そんなことはなかった。
( <●><●>)「あ、君か」
(//_-)「こないだはありがとう」
ぐじぐじと鼻をすすりながら、彼はマックスコーヒーを傾けた。
甘党すぎるよね。
( <●><●>)「なにが」
首を傾けてUNKO座りをする彼は、犬みたいだ。
ティッシュを詰めて鼻栓にしてる馬鹿さ加減も凄い。
(//_-)「……まあいいや」
- 134 :名無しさん:2010/03/10(水) 01:32:17
- (//_-)「それで、ドクオは君を見たの?」
( <●><●>)「でずがね゛。ブシッ……書置きまで見られたなら、そうなんでしょ」
「黒犬」は興味なさげに見解を述べた。
( <●><●>)「随分と、せい、せい、正義漢だったですよね」
ドクオは黒犬に憧れていたと考えるのが妥当なところだ。
ワカッテマスは、本当に目障りだった二人を闇討ちしたが、誰にも見られた覚えがないという。
(//_-)「目障りだから闇討ちって」
( <●><●>)「気まぐれ、ですかね」
おいおい、勘弁してくれよ。
それを見て非力な中学生が妙な正義感に燃えちゃうようになったんだから。
- 135 :名無しさん:2010/03/10(水) 01:35:05
- ( <●><●>)「いんじゃないですか。そんなのがあっても」
(//_-)「そう」
ワカッテマスは黙って空を見つめた。
僕も黙った。
温暖な日が続いて、風は穏やかだった。
爽やかな日だったね。
壁のないところだと、こんな気持ちになる。
わくわくとした、抑えるのが難しい気持ち。
僕はどこまで行けるんだろう、って。
( <●><●>)「あ」
- 136 :名無しさん:2010/03/10(水) 01:37:05
- ( <●><●>)「脚立上げてください」
(//_-)「えっ、嘘、晴れてるのに?」
( <●><●>)「40秒後来ます」
いやいや、嘘だろ。
(//_-)「さすがにそれは」
( <●><●>)「やばい、これはやばいのが来る気がするんです」
妙にワカッテマスは焦ってた。
( <●><●>)「脚立……」
カシャーン
が、倒れて手の届かないところに行った。
- 137 :名無しさん:2010/03/10(水) 01:38:11
- (//_-)「あーあ」
( <●><●>)「仕方ない、シートそっち持ってください」
(//_-)「いや、絶対そんな」
ザアアアアアアアアア
(//_゚)「あ」
( <●><●>)「天気雨ってのが一番困るんです」
- 139 :名無しさん:2010/03/10(水) 01:41:03
- 冬服のシャツを濡らしながら、僕は街並みを見下ろした。
遠くはよく晴れていて、虹まで出ていた。
僕の中の「馬鹿な犬」が尻尾を振っていた。
生まれたばかりの「狂犬」が、「黒犬」の横で。
僕は、思いっきり笑った。
彼は、無表情のままだった。
怪我をした部分がしくしくと痛むのが、逆に、今の状況が夢でないこと証明していた……。
- 140 :名無しさん:2010/03/10(水) 01:44:09
- ***
(゚、゚トソン「あんた一人でぶつくさ何やってんの?」
(-_-)「あ、いや、ちょっとね」
(゚、゚トソン「昔のアルバム? あんたほとんど写ってないじゃない」
(;-_-)「うるさいな! いいんだよ!」
(゚、゚トソン「ふーん。ま、独り言もほどほどにしなさいよ」
(;-_-)「わかったよ……」
(-_-)「さて、僕の新しい誕生日については、こんなとこだよ」
- 141 :名無しさん:2010/03/10(水) 01:46:39
- 僕は、幼稚園、小学校、中学校の頃の僕に向かってそう言う。
正確には、当時の写真に向かってだ。
どれもかなり困った表情で、中学生の頃の奴なんか、クラス写真の右上の方に○で囲まれてる。
絶望した、僕達だ。
(-_-)「安心しなよ」
ひとつひとつ、アルバムを閉じていく。
(-_-)「なんとかなる」
スクラップになったギターを避けて、僕はアルバムを本棚に差した。
(-_-)「なんとかなるんだよ」
- 143 :名無しさん:2010/03/10(水) 01:49:10
- (-_-)「だから、せいぜいいじけときなって」
僕は過去の自分に投げかけた。
(-_-)「黒い犬が全部ぶち壊してくれるから」
「2・14 狂犬事件」
僕の第二の誕生日よりも前の僕に、僕は、エールを送る。
――狂犬から、自分をクズだと思ってる僕へ。
- 144 :名無しさん:2010/03/10(水) 01:49:50
-
(-_-)「2・14 狂犬事件」のようです
お し ま い
- 167 :名無しさん:2010/03/10(水) 12:19:08
- おつんこメモリアル
ところで質問なんだけど正義感のある中学生ってなんなのけ?
それと書き置きって?
- 170 : ◆s7L3t1zRvU:2010/03/18(木) 13:22:22
- >>167
正義感溢れる中学生
→('A`) 正義感はあるけれども実力行使には至っていない。
黒犬のことを誇らしげに話すが、自分がそうだとは言っていない。
どうやらなんらかの拍子に黒犬を目撃し、刺激を受けたらしい。
書置き
→黒犬がギコ、モララーに残した「目障り」の書置き。
これを知っているのはボコられた二人と黒犬のみ、のはずだった。
しかし、ドクオがそれを知っていたために何人かが、ドクオを黒犬だと思っていた。
こんな感じですな。
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