恩を仇で返す(‘_L’)のようです
- 1 ◆s7L3t1zRvU 2009/06/06(土) 23:49:21.19 ID:3zd4U0990
- ゲリラでながら参戦
思いついたので罪人合作参加させていただきます
- 3 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/06(土) 23:52:46.44 ID:3zd4U0990
- 「神父様、神父様、わたしは懺悔しなければなりません」
神父フォックスは、またか、と思った。
冷たい牢獄に呼び出されたら必ずこれを聴くからだった。
爪'ー`)「どういたしました」
(‘_L’)「ああ、良かった神父様。わたしのお話を聴いてくださいませんか」
爪'ー`)「ええ、どうぞ」
看守が近くから椅子を引き寄せた。
いつもの通り、神父は腰をかけた。
(‘_L’)「お願いします、聴いていただきたいのです」
- 4 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/06(土) 23:56:39.00 ID:3zd4U0990
- 話は何度も聴いたことのあるものだった。
男は一月にその話を何度もする。
その日は、内容が一周する日だった。
(‘_L’)「わたしが始めて罪に手を染めたことについてです」
爪'ー`)「……ええ、聴きましょう」
(‘_L’)「ありがとうございます。ありがとうございます」
陰気臭い石床にひざまづいた男は憐憫を誘った。
しかし、神父の内心はため息に満ちていた。
爪'ー`)「それでは、どうぞ」
- 5 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 00:00:21.25 ID:7ZCAPZP00
- ***
ありがとうございます。
それでは始めます。
わたしは捨て子でした。
乞食として、何人かの子供と一緒に暮らしておりました。
同じ境遇の子が集まる吹き溜まりで育ちました。
荒んだ目はしておりませんでした。
友達がいればなんとかなりました。
盗みはやりましたが、生きるためでした。
ある日、大人がやってきました。
( ´_ゝ`)「お前ら、このままでいいのか」
- 6 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 00:02:58.57 ID:7ZCAPZP00
- 大人は二人いました。
(´<_` )「俺達について来いよ。美味いもん食わしてやる」
何人かは興味を持ったようでした。
わたしもその一人でした。
しかし、仲間のほとんどはそうではありませんでした。
(,,゚Д゚)「大人は信用できねえ。きたねえことばっかりする」
('A`)「何度も騙されて来たんだ! 帰れ!」
( ´_ゝ`)「話だけでも聞けよ」
(´<_` )「別にとって食おうってんじゃないんだから」
- 7 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 00:06:47.00 ID:7ZCAPZP00
- アニジャとオトジャと名乗りました。
見た目の通り、彼らは兄弟でした。
(#,゚Д゚)「うるせえ! やっちまえ!」
腕っ節の強い一人がコブシを振り上げました。
年長の何人かが駆けました。
木の棒を振り回す者もおりました。
(#゚∋゚)「うらああああ!」
( ´_ゝ`)「まったく。近頃のガキときたら」
(´<_` )「手加減してやれよ。死なせるとめんどうだ」
アニジャと名乗った方は、ひらり、身をかわしました。
すれ違いざまにアゴをパンチしていきました。
一番の腕自慢のクックルが倒れました。
- 8 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 00:11:40.13 ID:7ZCAPZP00
- それからアニジャは当時リーダーだったギコに近寄り、言いました。
( ´_ゝ`)「おうおう、威勢だけか? 乳離れには早かったか?」
(´<_` )「おい、あんまり調子くれてると」
(#,゚Д゚)「っざけんなよ!」
(;´_ゝ`)「うっ、おっう!」
ギコの得意の頭突きがアニジャのみぞおちに入りました。
アニジャは怯みました。
(,,゚Д゚)「へへへ! たいしたことねえな!」
(´<_` )「まったく兄貴は油断がすぎる」
しかし、いつの間にかギコの背後に回っていたオトジャがギコを殴りました。
ギコは倒れました。
わたしはそれをずっと見ていました。
- 9 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 00:14:58.77 ID:7ZCAPZP00
- (;´_ゝ`)「すまんすまん」
(´<_` )「構わない。で、お前ら、まだやるか?」
仲間全員が首を横に振りました。
逃げもしませんでした。
わたしもそうでした。
わたしは彼らの話を聞く準備ができていたからです。
だって、大人がみんな悪いとは思っていませんでしたから。
そうでしょう?
――続けて。
わかりました神父様。
それから、わたし達は大人二人の話を聞きました。
- 10 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 00:20:09.48 ID:7ZCAPZP00
- ( ´_ゝ`)「と、言うわけで、俺らの仲間にならないか」
提案と言うのでしょうか。
すみません、勉強はしたことがないので。
オトジャがその説明をします。
(´<_` )「簡単に言うと、おつかいをしてもらうだけでいい」
( ´_ゝ`)「そうそう」
(´<_` )「お前黙ってろ。適当な家の前で飯を恵んでもらって、帰ってくるんだ」
わたしにもできそうな仕事でした。
ご飯をもらってきて、二人のアジトに帰ればいいのです。
馬鹿なわたしにもできそうでした。
ギコを始めとした何人かだけが黙っていなくなりました。
多くの子供はどうしようか迷っているようでした。
わたしは迷わず、アニジャ達の後を追いました。
- 12 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 00:27:18.29 ID:7ZCAPZP00
- アジトとは、町から少し離れた小屋でした。
わたしと女の子が二人と、赤ん坊が一人そこについていきました。
彼女達は姉妹で、赤ん坊はやっぱり捨て子でした。
ノパ⊿゚)「本当にご飯をもらうだけ?」
( ´_ゝ`)「ああ。これから別の町に行く」
川 ゚ -゚)「どうしてここの町じゃない?」
(´<_` )「俺達がそうやってお前達を働かせているのは、あんまりよくないんだ」
( ´_ゝ`)「子供を働かせるなんてな」
煙突掃除をする子供もいる町なのに、なんだかおかしいな、と思いました。
でも、口に出さずにおきました。
遠くで教会の鐘が二つ鳴りました。
その町ではお昼に二つ鐘が鳴るのです。
――ええ、そうですね。
- 13 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 00:31:13.32 ID:7ZCAPZP00
- ( ´_ゝ`)「お腹が空いたろう。そろそろ行ってきな」
(´<_` )「そうそう、ご飯がもらえてももらえなくても、ちょっとしたことは覚えるんだぞ」
ノパ⊿゚)「何を?」
姉妹の妹の方が訊きました。
そういえば、彼女はヒートと言いました。
すっかり忘れていました。
ようやく名前が思い出せました。
( ´_ゝ`)「そこの家がお金持ちかどうか、さ」
(´<_` )「違うだろ。子供がいるか、お母さんがどんな人か」
( ´_ゝ`)「ああ、そうそう。お父さんがどれくらい若いか、もな」
川 ゚ -゚)「……? わかった」
行って帰ってきたら、少しのお金がもらえる約束でした。
- 15 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 00:34:12.74 ID:7ZCAPZP00
- わたしは結局その日、どの家でもご飯がもらえませんでした。
どこでも汚いものを投げられました。
でも、いつもそういうことはされていたので慣れていました。
とぼとぼ帰ると、お腹が鳴りました。
泣きそうになりながら、心配になりました。
しかし、心配は心配で終わりました。
( ´_ゝ`)「お疲れさん。ほら、食べろよ。風呂は?」
(´<_` )「お前どうしたんだ。ぼろぼろじゃないか」
アニジャとオトジャはわたしを優しく迎えてくれました。
怒られなかったのです。
それにびっくりしました。
姉妹はまだ帰っていませんでした。
その間に、回った家のことを二人に話しました。
- 16 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 00:38:22.42 ID:7ZCAPZP00
- 二人は優しく話を聴いてくれました。
それまで、必死に話しても、聞き流す大人ばかりでした。
だからまたびっくりしたのです。
( ´_ゝ`)「ほー。それはそれは。それじゃゴミも豪勢だったんだな」
(´<_` )「馬鹿なこと言ってないで頭流してやれよ」
せっけんの香りがあんなにもいい匂いだとは知りませんでした。
今でもせっけんの匂いをかぐと二人を思い出します。
懐かしいです。
( ´_ゝ`)「……じいさんしかいなかった?」
(´<_` )「女中はいた、と。なるほどな」
お風呂で話したことはたくさんありました。
姉妹が帰ってきました。
彼女達は笑っていました。
- 17 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 00:43:21.73 ID:7ZCAPZP00
- 川 ゚ -゚)「ご飯もらえたぞ」
ノパー゚)「赤ちゃんにも!」
( ´_ゝ`)「良かったじゃないか! さあ、晩飯も用意してるぞ!」
姉妹はご飯を食べながら、わたしと同じように話しました。
アニジャもオトジャも楽しそうにそれを聴きました。
わたしも笑いました。
大人が言う冗談は分かりづらかったですが、二人のは簡単でした。
楽しかったです。
( ´_ゝ`)「それじゃ、お前らは今日はこの辺で寝てくれ」
(´<_` )「すまんな。明日、毛布くらいは買ってやれるといいんだが」
アニジャ達は夜になると出かけていきました。
わたしはその夜、わくわくしてあまり寝られませんでした。
質屋で買った毛布でも、仲間達と使っていたものよりマシだと思ったからです。
- 19 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 00:47:13.18 ID:7ZCAPZP00
- アニジャ達は朝には帰ってきていました。
( ´_ゝ`)「おっす。朝飯、そこにあるぞ」
パンと暖かいスープでした。
クリームの入ったスープは美味しかったです。
パンもしわしわじゃありませんでした。
がじりとやると、ぱらぱら破片が落ちる、新しいパンです。
ヒートと、そうです、クールです、お姉さんの方はクール。
クールと一緒に喜びました。
( ´_ゝ`)「お前ら、晩飯豪華なのと寝床まともにするの、どっちがいい?」
突然の質問に驚きました。
どっちも想像できないことでした。
赤ん坊が泣き出しました。
(´<_` )「こいつのおしめと乳母探しが先か」
みんなで笑いました。
- 20 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 00:51:08.88 ID:7ZCAPZP00
- アニジャ達はそうやって、時々わたし達にものをくれました。
最初は生活に必要なものでした。
段々と玩具ももらえるようになりました。
二人も少しずついい服を着るようになりました。
( ´_ゝ`)「ん、そこの話、もっとしてくれないか」
(´<_` )「そこって、お前分かりやすく言えよ。家の作りは? 絵に描けるか?」
わたしも仕事をこなせるようになりました。
みすぼらしい服じゃなければ、家でご飯ももらえました。
それでも、毎回ではありませんでした。
ある日、帰り道でギコに会いました。
ギコは店屋さんに捕まって殴られていたところでした。
(,,;Д;)「ごべんなさい! ごめ、ごめんなざい!」
「また盗みやがったな小僧!」
- 21 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 00:54:39.97 ID:7ZCAPZP00
- (,,;Д;)「うああああ、わああああああ!!」
わたしは見ていられませんでした。
痩せ細ってしまったギコはあわれでした。
肩をこっそり叩かれます。
( ゚∋゚)「おい、久しぶりだな」
クックルがグループのリーダーとなっていたようでした。
ギコのことを尋ねました。
アニジャ達のことで、仲間達とケンカをしたようなのです。
( ゚∋゚)「良いもの食ってるな……よこせよ……」
ギコを助けるのではないか、と思っていました。
そうではありません。
単にわたしを見かけて、お土産のりんごに目をつけただけだったのです。
- 22 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 00:58:00.41 ID:7ZCAPZP00
- (;´_ゝ`)「お前どうしたんだよその怪我」
(´<_` )「おい、兄貴、薬草摘んでこい」
( ´_ゝ`)「おう!」
(#´_ゝ`)「って命令すんな!」
クックルはわたしを殴ってりんごを奪いました。
その間に、ギコはおまわりさんに連れて行かれました。
「あくどうをとっちめてやった!」と店屋さんは笑っていました。
わたしは、全然笑えそうにありませんでした。
その原因は、ギコであり、店屋さんであり、クックルであり、怪我のせいでした。
(#´_ゝ`)「へいお待ち!」
(´<_` )「素直でよろしい」
- 25 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 01:01:10.96 ID:7ZCAPZP00
- ノパ⊿゚)「大丈夫かー?」
川 ゚ -゚)「薬草、換えようか」
姉妹はアニジャ達に代わってわたしを世話してくれました。
夜だったからです。
大人二人はまたどこかに行っていました。
ノパ⊿゚)「わ、どこに行くんだよ! 外は暗いぞ!」
でも、わたしは外に出ます。
外の空気が吸いたかったのもあります。
一人になりたかったのもあります。
――しかし、本当は違った。
そうなのです。
わたしはアニジャ達の後を追いかけたかったのです。
- 27 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 01:04:55.68 ID:7ZCAPZP00
- クールが心配そうにすりおろした薬草をくれました。
ほっぺたに塗るとひんやりしました。
お礼を言って、暗い森を行きました。
町に入ると、お昼にりんごをくれた家に行きました。
途中で渡った橋で足音がうるさかったです。
ミーガンデルス川を渡す橋です。
灯りがないので何度もつまづきました。
それでもわたしは行きました。
( ´_ゝ`) (´<_` )
そして、見つけました。
暗くて分かりづらかったですが、アニジャ達です。
- 28 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 01:08:24.73 ID:7ZCAPZP00
- 二人は静かにその家のある建物に入りました。
大きな家ではありませんでした。
三階建てで、五つの家族が住んでいました。
同じようにドアをくぐりました。
暗い中で、ぎしぎし、階段が軋んでいました。
わたしも続きました。
階段の上の方で、ドアが開いていました。
昼間の家です。
声がしました。
- 29 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 01:10:45.97 ID:7ZCAPZP00
- 「何だ! あんた達は!」
「静かに。死にたくなければな」
「油断するなって言ったろ兄貴」
一人は家の主のおじさんでした。
時計職人のおじさんです。
有名な職人だったそうです。
「……!」
どたばた、と音がしました。
わたしはどっきりして、思わず立ちすくんでしまいました。
がつん。
鈍い音がして、静かになりました。
- 30 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 01:13:39.36 ID:7ZCAPZP00
- 「おいおい兄貴」
「わりい、つい」
何が起きたか分かりませんでした。
暗がりでぶるぶると震えていました。
とにかく怖かったのを覚えています。
「急げ」
それから、何かをあさる音が続きました。
一階で人の気配がしました。
大きな音で起きたようでした。
「意外と持ってるな。よしよし、ずらかるか」
半開きのドアと、一階のドアが開いたのは同時でした。
- 32 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 01:16:50.10 ID:7ZCAPZP00
- 下を向けば、ランプを持った男の人がいました。
その建物の大家さんだったようです。
太ったハゲの男の人でした。
その人は叫びました。
「何をしてる!」
上を向くと、オトジャがこちらを見ていました。
(´<_`;)「兄貴、急げ!」
(;´_ゝ`)「げっ!」
わたしは間に挟まれて動けませんでした。
オトジャが駆け下りてきました。
思わず飛びのきました。
- 33 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 01:20:20.27 ID:7ZCAPZP00
- 大家さんは怒ってもっと叫びました。
「泥棒だ! 泥棒がいた!」
(;´_ゝ`)「黙れよ親父! って、おまっ!?」
「なっ!?」
その時、ようやくわたしに気付いたようでした。
――アニジャですか? オトジャですか?
三人がです。
子供がいることに驚いたようでした。
(;´_ゝ`)「こい!」
ぐい、と手が引かれました。
オトジャが大家さんを殴り倒しました。
たまらず大家さんが玄関から転がり出ました。
- 34 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 01:24:38.98 ID:7ZCAPZP00
- 外の道で腕を引っ張られました。
強く握られていたので痛かったです。
何も言わずに二人は走っていました。
窓から灯りがちらほら見えました。
段々増えてくるのは、声も一緒でした。
それらはわたし達を追いかけているようでした。
(#´_ゝ`)「どうして着いてきたりなんかしたんだ!」
(´<_` )「……」
小屋にようやく辿りつくと、わたしは雷に打たれたように動けなくなりました。
アニジャが怒ることなんか想像できなかったからです。
わたしは話しました。
「あいつら、夜になったら盗みや殺しをするらしいな」
クックルがそう言っていたことをです。
- 35 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 01:27:16.73 ID:7ZCAPZP00
- 殴られたことも悔しかったですが、二人を侮辱されたのが嫌でした。
よくしてくれたアニジャやオトジャがそんなことをしているだなんて。
考えられないことだったからです。
(;´_ゝ`)「そ、それは……」
アニジャはお酒のビンをぐいっと傾けました。
少しだけ、ランプに揺れた中身が綺麗だと思いました。
(´<_` )「それは違うぞ」
オトジャが後を引き継ぎました。
彼は話し始めました。
(´<_` )「夜じゃないとできない大人の話があるんだ」
- 36 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 01:30:25.92 ID:7ZCAPZP00
- (´<_` )「昼間は聞かれたくないことがあるんだが、分かるかな」
大人の女の人が夜道で男の人を誘うのを思い出しました。
きっとそれに似たものだろうと、わたしは頷きました。
(´<_` )「お前は賢い。分かるだろう? 大事なことだから、夜がいいんだ」
今度は、あいまいに頷きました。
夜である理由は分からなかったのです。
(´<_` )「だけど、それを勘違いする奴もいる。さっきの親父だな」
(;´_ゝ`)「……」
アニジャは下を向いて黙っていました。
- 37 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 01:33:30.84 ID:7ZCAPZP00
- (´<_` )「ここだけの話な、それは儲け話なんだ」
なるほど、だからみんなが寝る時間なのか。
そう、わたしは合点がいきました。
(´<_` )「だから、泥棒って言う奴もいる。自分の金がどうにかなると思うんだな」
(;´_ゝ`)「そ、そうなんだよ」
(´<_` )「部屋で音がしたのは聞いたか?」
首を縦に振りました。
(´<_` )「あの家の親父がちょっと取り分で文句つけてきてな。それでこうだ」
オトジャはコブシで頭をこつんと叩きました。
ケンカしたら、どっちも痛いのに、と思いました。
でも、それは言わずにおきました。
(´<_` )「明日謝ってくるけどな」
- 38 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 01:37:39.31 ID:7ZCAPZP00
- (´<_` )「だから今日のことは、お前は心配しないで寝ていいぞ」
それっきり、わたしは頭を撫でられて寝床に連れて行かれました。
翌朝、わたしは姉妹に少しだけ怒られました。
しかし、彼女達にはアニジャ達のことを言いませんでした。
昼の仕事の時でした。
いつものように町で家を探していると、声をかけられました。
前の晩に会った大家さんでした。
「お前、無事だったのか? あの二人はどうした?」
わたしは「二人とケンカするつもりだから言わない」と答えました。
すると、大家さんは言いました。
「……そうだな。仲直りしたいから、良かったら会わせてくれないか」
わたしは、考えました。
そして、すぐに仲直りするなら、という言葉を信じることにしたのです。
- 39 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 01:43:04.42 ID:7ZCAPZP00
- アニジャ達の言葉は信用できました。
全部の大人は悪いわけじゃないことも知っていました。
だから、三人を引き合わせることにしたのです。
大家さんは小屋へと案内される前に少しいなくなりました。
戻ってくると、にこにことわたしにアメを買ってくれました。
それを食べながら、小屋へとわたしは歩きました。
オトジャはわたしを見ると不思議そうな顔をしました。
(´<_` )「随分早いじゃないか。どうしたんだ?」
大家さんは後ろで木に隠れていました。
心の中で笑いながら、わたしはオトジャに近づきました。
「今だ!」
わっ、とおまわりさん達が森から現れたのは、その時でした。
- 40 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 01:46:31.32 ID:7ZCAPZP00
- (´<_`#)「なっ!?」
「かかれ! 逃がすな!」
大騒ぎの中でわたしは呆然としました。
オトジャは怒って刃物を手に取りました。
薪割用の斧です。
ばぁん。
それが弾かれました。
大家さんが後ろにいました。
その横にいたおまわりさんがピストルを撃ったのです。
(´<_`#)「ちくしょう! お前、裏切ったな!」
始め、誰のことを言っているかわかりませんでした。
(´<_`#)「こいつ、どん底から救ってやったのに……」
- 41 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 01:50:12.00 ID:7ZCAPZP00
- おまわりさんがオトジャを地面に倒しました。
何人もの制服を着た大人です。
一人だけのオトジャがかなうはずもありませんでした。
(´<_`#)「知らないフリしてやがったな!」
オトジャの目が見えました。
わたしと目が合っていました。
組み伏せられたオトジャの目と。
(´<_`#)「いくらだ! いくらで俺達を売った!」
どうしてわたしにわけの分からないことを言うのか、本当にわかりませんでした。
「アメをやったら簡単に案内してくれたぞ?」
大家さんが代わりに何かを答えました。
(´<_`#)「なんだと!」
- 42 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 01:51:59.42 ID:7ZCAPZP00
- 「まったくもって、子供は扱い易いな」
(´<_` )「……ちっ」
オトジャがどこかに連れて行かれる時、小さくつぶやきました。
(´<_` )「恩を仇で返しやがって」
しばらく、小屋の横でわたしは立っていました。
姉妹が帰ってくるまで、ずっとです。
***
- 44 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 01:56:01.20 ID:7ZCAPZP00
- (‘_L’)「今なら分かります。わたしが案内したせいでオトジャは捕まりました」
神父はため息を隠しもしない。
木製の椅子が軋んだ。
爪'ー`)「そのことは貴方に罪はなかった。むしろ、神は貴方を赦します」
何度も繰り返した言葉を、神父は発した。
囚人は顔を上げて鉄格子に駆け寄った。
(‘_L’)「優しくしてくれる人に仇で応えたのです! 悔やんでいます!」
(‘_L’)「わたしは彼を捕まえさせてしまいました! オトジャは死刑でした! 死にました!」
爪'ー`)「彼は人を殺害しているのですよ?」
それは、と囚人は格子から手を離した。
- 45 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 01:59:34.50 ID:7ZCAPZP00
- 爪'ー`)「神がお赦しになる前に、貴方に罪はない」
その件に関しては、と付け加える神父。
恩人を裏切ること。
恩人が人に害なす存在であったこと。
いずれも子供がどうしようもないことだ。
そうやって、これまでも彼は囚人に説いていた。
(‘_L’)「ありがとうございます……ありがとうございます……」
男は牢屋の隅に戻り、暗がりで膝を抱えた。
こうなるともう外界とは接触を持ちたがらない。
神父はそれを知っていた。
囚人に向かって十字を切ると、神父は牢獄を出た。
- 46 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 02:02:49.62 ID:7ZCAPZP00
- 爪'ー`)「また、同じことを悔いています」
(´・_ゝ・`)「本件とは何も関係のないことです」
爪'ー`)「……ええ」
デミタス裁判長は神父から懺悔の内容を聞いていた。
教会と密接な関係にある司法機関。
懺悔はひとつの証言として筒抜けだった。
(´・_ゝ・`)「来週のこの日、死刑は執行されます」
爪'ー`)「ちょうどいいかもしれません」
(´・_ゝ・`)「と、いいますと」
爪'ー`)「彼の話はそれくらいで終わるのです」
- 47 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 02:06:30.37 ID:7ZCAPZP00
- 囚人フィレンクトの話は、一度始まると毎晩行われる。
過去をなぞったそれは、いつも同じ内容だ。
(´・_ゝ・`)「一ヶ月に一度、必ずでしたか」
爪'ー`)「それも今回で終わりですが……」
(´・_ゝ・`)「彼は罪人。魂の救済は任せます」
頷く神父と、裁判長は別れた。
残された神父が夜道で一人ごちる。
爪'ー`)「罪人の救済ですか。肉体からの開放を公開処刑でなどと……」
爪'ー`)「世はいずこでも腐敗を始めている」
こつこつと、彼の靴が石畳を叩いた。
- 48 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 02:09:39.84 ID:7ZCAPZP00
- 「神父様! 神父様はいらっしゃいませんか!」
懺悔が三日目になった。
神父フォックスは連日、それを聞かされていた。
聴いてくれ、と囚人は言う。
しかし、内容は代わり映えしないのだから、半ば聞き流してしまうのは仕方ないだろう。
囚人フィレンクトが神父の姿を認める。
すると、彼は決まって虚ろな目に光を宿すのだった。
- 49 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 02:11:21.40 ID:7ZCAPZP00
- 爪'ー`)「どういたしました」
(‘_L’)「ああ、良かった神父様。わたしのお話を聴いてくださいませんか」
爪'ー`)「ええ、どうぞ」
看守が近くから椅子を引き寄せた。
いつもの通り、神父は腰をかけた。
(‘_L’)「お願いします、聴いていただきたいのです」
(‘_L’)「わたしの三つ目の罪についてです」
- 50 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 02:14:49.92 ID:7ZCAPZP00
- 神父は少し身構えた。
それには理由があった。
話の内容が不穏な空気を持ち始めるからだった。
どう妙であるか、神父には説明がつかない。
しかし、明らかに変なのである。
この件に関しても、彼は無実と思えるのだが。
爪'ー`)「聴きましょう」
(‘_L’)「ありがとうございます。ありがとうございます」
囚人服の膝で手を拭うと、男は頭を下げる。
ひどく、汚らしい格好だった。
- 51 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 02:22:00.59 ID:7ZCAPZP00
- ***
入れられた孤児院を出ても生活は変わりませんでした。
姉妹と幼いデレはまだ、そこを出る歳ではありませんでした。
なんとか食い扶持を得る必要がありました。
学もありませんでした。
わたしはいくつかの下働きを得ました。
それでも稼げるのは少しでした。
一日に9ベルデ。
少しだけの食事を二回と部屋代でいっぱいっぱいでした。
貯金が欲しかったのです。
苦しい生活をしていました。
- 53 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 02:27:01.01 ID:7ZCAPZP00
- ドブ掃除を終えると、ギコに会いました。
彼はすっかりたくましくなっていました。
軍隊に入ったと聞きました。
(,,゚Д゚)「またやせたな」
それだけ言うと、彼はいなくなりました。
臭い水の詰まりを直しながら、わたしはそれを見送りました。
( ´∀`)「おい、ぼうっとするな。仕事が遅いモナ。1ベルデ減らすモナ」
必死に頼み込んでも駄目でした。
その日は全部で13ベルデもらえる約束だったのに。
13ベルデの大半だったうちの1ベルデ。
夕食のパンを減らさねばなりませんでした。
- 54 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 02:30:21.11 ID:7ZCAPZP00
- 惨めな気持ちはさらに追い討ちをかけられました。
部屋ではネズミが穴の開いていなかった靴下をかじっていました。
まともな服が全てなくなったのです。
くもの巣をはらうと、わたしはそのまま寝ました。
共同住宅の女中は夕食に呼びもしてくれませんでした。
――随分、言葉が達者になりますね。
そうですか?
――最近の話になるほど、言葉遣いが普通になってきます。
そうですか……。
ところで、この話は以前も?
――……続けて。
- 55 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 02:35:23.98 ID:7ZCAPZP00
- パブのゴミ出しや酔っ払いの処理。
汚物の洗浄、掃除、皿洗い。
わたしの仕事はいずれも休み無く、日常を削っていきました。
生きる意味が分からなくなっていました。
時々届く姉妹からの手紙だけが励みでした。
彼女達は、今も孤児院で肩身が狭い思いをしている。
そう思うと、仕事も頑張れたのでした。
( ´∀`)「持っていけ。どうせ余りもんモナ」
始めは給料をいかにしてだまくらかすかを考えていたモナーさん。
パブの主人である彼は、食料を分けてくれることがあった。
( ´∀`)「捨てる予定だった干し肉モナ。食え」
- 56 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 02:37:43.86 ID:7ZCAPZP00
- 段々と柔らかくなる態度に、わたしも親しみを覚えていった。
仕事は楽ではない。
それでも、くじけることはなくなった。
――なった……?
え?
――あ、いえ。
どうしたんですか?
……。
とにかく、わたしはどうにか生活していきました。
いくらかの蓄えもできそうでした。
- 57 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 02:42:15.35 ID:7ZCAPZP00
- ( ゚∋゚)「ようようよう。酒売ってくれよ」
クックルはチンピラのまま成長しました。
腕力にものを言わせる方法で、仲間をまとめていたようです。
当時、彼は金を騙し取ることを覚えたようでした。
それでも、あまり成功しているようには見えませんでした。
( ´∀`)「金が無い奴には売らんモナ。おとといきやがれ」
( ゚∋゚)「けっ! そんな風に惨めな仕事してる奴だけが酒を飲めるってか?」
( ´∀`)「警官を呼ぶぞ」
舌打ちをするクックルの目が、いやらしくわたしをねめつけました。
町中で会うと、彼は必ずそうするのでした。
- 58 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 02:46:50.62 ID:7ZCAPZP00
- (,,゚Д゚)「また会ったな……」
戦時中ではないにせよ、孤児出身のギコは激務に追われていました。
ご存知の通り、将官になどなれるわけがないのです。
ほとんどがいわゆる下っ端のする仕事。
軍人とは言え、その内容は警備や見回りでした。
(,,゚Д゚)「クー達は元気か」
孤児院に残った姉妹と赤ん坊だった少女。
彼女達と彼は連絡を取る術がありませんでした。
(,,゚Д゚)「変わりないならそれでいい」
わたしの体調か、それしか彼は聞きませんでした。
彼はクックルとはまったく違う成長をしていました。
- 59 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 02:53:32.16 ID:7ZCAPZP00
- 孤児院から出なければならない年齢に達するクール。
彼女からの手紙には切羽詰ったことが書かれていました。
『娼館に売られる! 助けて!』
二人は美しく育つはずだとよく言われていました。
その姉妹をがめつい院長が放っておくはずもありませんでした。
早急に生活資金を調達する必要がありました。
それまでよりも、もっと早く。
貯金は16タイラスと83ベルデ。
それでも、姉妹と赤ん坊を養うと三ヶ月ももたない。
姉妹が一緒に働いたとしても半年もつかどうか、でした。
まず、わたしは借金を考えました。
- 60 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 02:56:52.26 ID:7ZCAPZP00
- わらにもすがる思いで相談したのは、モナーさんでした。
事情を話し終えると、反応を待ちました。
食材の仕込みをひと段落した彼は、口を開きました。
( ´∀`)「……それで?」
わたしが代わりに口を閉じることになったのでした。
( ´∀`)「金が貸せるほど余裕があるように見えるのか?」
( ´∀`)「お前みたいなぐずを雇うほどなのに」
地下にあるモナーさんのパブは、安酒しか置いてない店でした。
料理も簡素なものばかり。
大きな儲けは出せない道理だったのです。
- 61 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 03:03:13.89 ID:7ZCAPZP00
- 次に話を持ち出した相手はギコでした。
ようやく捕まえることのできた彼も、つれない態度でした。
(,,゚Д゚)「生活が苦しいのはお互いさまだ……。すまないな」
眉間にシワを寄せて考えるそぶりはありました。
しかし、それだけです。
思っていたような答えはもらえませんでした。
(,,゚Д゚)「一人なら、なんとか養えるが」
粘った結果、その言葉が引き出せました。
あとは手紙を送って孤児院と話をつけるだけでした。
わたしは急ぎ、代筆を頼み、手紙を投函しました。
急ぎの便で、3ベルデ。
それでもわたしは支払いを渋りませんでした。
- 62 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 03:08:19.87 ID:7ZCAPZP00
- 『お姉ちゃんは売られてしまった。もう行方が分からない』
わたしはコブシがすりむけるまで壁を殴りました。
滲んだ血が壁紙を汚したことを女中が怒りましたが、気にしませんでした。
埃っぽい部屋でわたしは泣きました。
肉親がいないわたし達にとって、仲間こそがそれに近いものでした。
友達こそが兄弟でした。
卑しい身分の出だろうと、それは変わりません。
それでも、意思が疎通できてこそです。
(,,゚Д゚)「クーが……」
いつものような仏頂面で、ギコはそれっきり黙りました。
- 63 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 03:13:25.56 ID:7ZCAPZP00
- その年から、街灯の点けられる時間が遅くなっていました。
燃料代節約のための市政でした。
ミーガンデルス川の橋の上で、わたし達は沈黙していました。
(,,゚Д゚)「俺がデレを引き取る。ヒートは頼む」
翌日、わたしは休みをもらい孤児院に行きました。
院長とは顔を合わせませんでした。
それでよかったと思います。
わたしのポケットにはナイフがありましたから。
ノパ⊿゚)「……」
ヒートの目は真っ赤になって、まぶたは腫れてしまっていました。
彼女を抱きしめると、わたしは謝罪を口にしました。
ヒートは首を振って泣き始めました。
- 64 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 03:18:53.65 ID:7ZCAPZP00
- 彼女はクールを探すつもりだったようです。
二人で一つの部屋に住むようになってから、それを聴きました。
ノパ⊿゚)「頑張って稼いで、すぐに探し出す。すぐに……」
わたしもそれを助けるつもりでした。
ギコにも伝えて、できればみんなで暮らしたかったのです。
ノパ⊿゚)「ただいま」
しかし、思うようにも行きません。
彼女は、昼は物売りを、暗くなるまでに裁縫をしていました。
それでも貯金はあまり増えません。
生活の息苦しさと、年頃の女の子らしさを追えない辛さ。
彼女は孤児院を懐かしむ瞬間すら見せました。
- 65 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 03:23:00.03 ID:7ZCAPZP00
- ζ(゚ー゚*ζ「お姉ちゃん!」
ノパ⊿゚)「デレ……」
ギコのところに引き取られたデレがわたし達の部屋に来ました。
デレはおしゃれに着飾って、可憐な様子でした。
ζ(゚ー゚*ζ「大丈夫? ちゃんと食べてるの?」
ノパ⊿゚)「うん、大丈夫、だよ。だいじょう、ぶ」
後になるほど、ヒートはデレに嫉妬していたのです。
わたしの方に来たばっかりに、苦労をする。
口には出さずともそれが表情に出ていました。
嫉妬。
いや、羨望や怨恨かもしれません。
- 67 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 03:27:55.86 ID:7ZCAPZP00
- 二人を対比すればするほど、ヒートがあわれに見えました。
ノパ⊿゚)「ちょっと、体調がよくない、みたい」
ζ(゚ー゚*ζ「ホント? ごめんなさい……お姉ちゃん達疲れてるだろうに」
最後の一言がヒートをさらに傷つけました。
つややかな金髪を油で整え、ふっくらした顔をしたデレ。
彼女に、ヒートは一層疲れて見えたようでした。
ノパ⊿゚)「……ごめんね」
申し訳ない気持ちで、わたしはその晩、食事が喉を通りませんでした。
ヒートも裁縫の仕事がはかどらないようでした。
- 68 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 03:33:33.33 ID:7ZCAPZP00
- 厳しい冬が部屋の窓から漏れいる季節になりました。
( ´∀`)「持ってけ。寒いだろうからモナ」
モナーさんがわたしにビンを差し出しました。
度数の強い、それも店の中では多少なり高級な酒。
わたしは帽子を脱いで何度も礼をしました。
新年を祝うには暖かい肉くらいあった方がいい。
そう思ったのはセイア川の橋を渡っていた時でした。
ヒートにたまには贅沢をさせてやりたかったのです。
わたしは踵を返して肉屋を目指しました。
( ゚∋゚)「何だよ、いい酒持ってんじゃねーか」
- 71 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 03:41:03.25 ID:7ZCAPZP00
- 灰色の空が雪を落とし始めていました。
わたしは人の頭ほどもある美味しそうな羊肉を抱えて帰宅しました。
ノパ⊿゚)「わあ! どうしたんだこれ!」
ぱっと明るい表情になったヒートが、わたしに駆け寄りました。
やりかけの刺繍を放り出して、抱きついてきました。
ノハ*゚ー゚)「今晩はお腹いっぱい食べられるね!」
久しぶりに見た晴れやかな表情でした。
わたしも笑いながら、彼女を腕に抱きました。
その晩食べた肉料理は、とても美味しかったです。
あれに勝る食事を後にも先にもした覚えがありません。
- 72 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 03:45:57.90 ID:7ZCAPZP00
- 「ちょっと訊くが、この酒は置いてあるか」
しかめっつらの巡査がドブをさらっていたわたしに尋ねました。
わたしは正直に、その店で扱っていることを伝えました。
相棒らしき巡査がもう一人現れると、彼らはモナーさんを探しました。
( ´∀`)「それは確かにウチで扱っていますモナ。それが?」
警官相手でも態度をほとんど変えないのがモナーさんでした。
しかし、その日はなんだか様子がおかしかったのです。
警官二人と話し、帳簿を見せた後のことです。
( ´∀`)「お前、こないだやった酒はどうしたモナ」
わたしは、正直に話すのが嫌で落として割ってしまったと言いました。
- 73 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 03:49:55.74 ID:7ZCAPZP00
- ( ´∀`)「ふむ……。ならいい」
モナーさんは何かを恐れているようでした。
「セイアで死体が上がったよ!」
帰り道で噂好きの露天商達がそう話していました。
わたしは驚いて詳細を尋ねました。
「なんでも最近詐欺まがいのことをしてたチンピラが」
どうやら、そのチンピラというのは、クックルのことだったようです。
顔を青くしてわたしはセイア川に走りました。
(,,゚Д゚)「クックルが、死んだ」
呆然としたギコが橋の手前に立っていました。
- 76 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 03:55:03.30 ID:7ZCAPZP00
- (,,゚Д゚)「あいつ、酒ばっかりで、まともな職も持たないで」
辛そうにギコは喋っていました。
わたしは何も言わずに河川敷を見下ろしました。
洗濯用に降りられる部分がそこにはありました。
胸を深緑のガラスに突かれたクックルの死体も。
ぶくぶくに膨らんだ彼は、とても醜かったです。
冬用に少しだけ着膨れした身体が、水で余計に膨れていたのです。
わたしはそれをじっと眺めました。
(,,゚Д゚)「馬鹿野郎……」
元は仲間だった男を悼むギコが、横に並びました。
- 77 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 03:58:51.77 ID:7ZCAPZP00
- ヒートには訃報を知らせずにおきました。
ショックが強すぎると思ったのです。
わたしはぼんやりと、残った羊肉のシチューを口元に運びました。
ノパ⊿゚)「悩みごと?」
首を横に振ると、ヒートはわたしの目を覗き込みました。
薄い灰色の瞳。
綺麗だと、わたしは思いました。
今でも、そう思います。
ノパ⊿゚)「あんまり、一人で溜め込まないでね」
ふっと、笑って視線を切られました。
- 79 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 04:03:49.65 ID:7ZCAPZP00
- 翌日の夕方、わたしは店の前で人ごみに足を止めました。
口々に何かの推測をまくしたてる男女を掻き分けました。
そして、見たのです。
(#´∀`)「俺は何もしてねえモナ!」
後ろ手に縛られたモナーさんが、警官に連れられていく姿を。
警官の中には、何故かギコもいました。
(,,゚Д゚)「おう、来たか」
(#´∀`)「そうだ、お前! お前に酒を渡した! そうだな!?」
(,,゚Д゚)「言い逃れか。見苦しいぞ」
(#´∀`)「うるさい! そいつにはなしかけているんだ!」
- 80 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 04:08:29.37 ID:7ZCAPZP00
- モナーさんの言葉は途中で切られました。
警官の一人がこんぼうで彼の背中を叩いたのです。
ばしっ、といかにも痛そうな音がしていました。
(# ∀ )「がっ、はっ!」
モナーさんの息が詰まるのが分かりました。
歩くこともままならず、彼は引きずられて馬車に放り込まれました。
(,,゚Д゚)「証拠から犯人はあいつとしか考えられないんだ」
ギコが言うには、凶器に使われた酒瓶はあまり出回っていないものだったらしいのです。
町で扱っているパブはいくらもなかったと聞きました。
そして、販売数。
(,,゚Д゚)「事件前後ではどこからも売られていないんだよ。あの酒は」
- 82 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 04:17:09.94 ID:7ZCAPZP00
- (,,゚Д゚)「納品の数と在庫の数を照らし合わせれば分かる。凶器に使われた一本は、この店のものだった」
(,,゚Д゚)「譲った、と店主は言ったんだ。だがな、あの男がケチなことはみんな知ってる」
証言は申し分ないほど取れたそうです。
(,,゚Д゚)「だからこそ、帳簿の数は正確。なのに在庫が一本なくなっているのは、おかしい」
そして、クックルの酒癖の悪さ。
こちらも周知の事実であり、彼は常にお金がある方ではありませんでした。
警察の立てた推論はこんな感じだったそうです。
クックルが酒を求めて、ビンを奪おうとした。
それにモナーさんが抵抗し、ビンで殴るか、それか偶然ビンが割れた。
もみ合ううちにそれをクックルの胸に突き立ててしまった。
- 84 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 04:21:42.83 ID:7ZCAPZP00
- ――貴方はどう思われましたか。
モナーさんは無実です。
クックルが誰か他の人物とケンカになってそうなったとしか思えません。
――では、裁判でそう証言しましたか。
わたしはその場に呼ばれることがなかったのです。
ギコが、それを止めたのです。
――そうでしたか。
……モナーさんは殺人で20年以上の懲役を受けています。
――続きはありますか?
もう、少し。
- 85 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 04:24:06.93 ID:7ZCAPZP00
- ( ∀ )「げはっ……うっぇ……」
わたしはモナーさんが馬車に乗せられた瞬間の言葉を思い出せます。
今でも夢に見ます。
( ∀ )「恩を仇で返しやがって……」
(,,゚Д゚)「まだ言うのか」
( ∀ )「クソが……」
「出せ」
馬車は拘置場へと動き出しました。
***
- 86 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 04:28:09.36 ID:7ZCAPZP00
- 爪'ー`)「……」
(‘_L’)「わたしはそうして、またわたしによくしてくれた人を駄目にしました」
囚人は自らの頭を掻き出した。
爪でがりがりと削られる皮膚。
血が出ても、気にする風でもない。
爪'ー`)「おやめなさい」
(‘_L’)「後悔してもしきれません。いくらでも懺悔することがあります」
空いている方の手が太腿を掻き始めた。
そちらは既に繊維がほつれてしまっていた。
爪'ー`)「まずは、それをおやめなさい」
- 87 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 04:31:29.02 ID:7ZCAPZP00
- はっとして囚人が手を止めた。
(‘_L’)「ありがとうございます……ありがとうございます……」
それきり、彼はいつもの位置に戻ってぶつぶつと始めるのだった。
爪'ー`)「また明日参ります。またその時にでも」
返事はなくとも、神父は牢獄を後にした。
こもった空気を抜け出すと、外は冷えた空気に満ちていた。
外套の襟を立てる神父。
爪'ー`)「やはりおかしい。できすぎている」
彼は同じところに執着しているのだった。
- 89 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 04:40:31.69 ID:7ZCAPZP00
- 爪'ー`)「いつも偶然で周囲の人間が……」
何故、囚人フィレンクトは疑われることなく、恩ある人間が捕まるのか。
爪'ー`)「妙なタイミングで起きる偶然」
語られることの無い空白期間に何かがあるのだろうか。
彼は「偶然」を自らのせいであると悔いている。
爪'ー`)「……」
言いようのないひっかかりを感じる神父は、首をすくめた。
一陣の冷風がセイア川の上を撫でたのだ。
吹きさらしでは仕方の無いことだ。
神父は、ふと思いついたようにセイア川を見下ろした。
- 90 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 04:43:11.33 ID:7ZCAPZP00
- 爪'ー`)「どの橋の下にいたかは聞いていませんね」
彼が見下ろした先に、洗濯場はない。
もう数十メルタル下流に行ったところにそれはある。
件のパブもそちらの方だ。
神父はそこまで思考を廻らして、頭を振った。
爪'ー`)「わたしは警察機関の人間ではありません」
かじかんだ指先に息を吐きかけながら、彼は歩いていった。
- 91 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 04:44:30.73 ID:7ZCAPZP00
- 「神父様、神父様、わたしは懺悔しなければなりません」
爪'ー`)「ええ、いつでも」
(‘_L’)「ああ、良かった神父様。わたしのお話を聴いてくださいませんか」
爪'ー`)「もちろん」
看守が近くから椅子を引き寄せた。
いつもの通り、神父は腰をかけた。
(‘_L’)「お願いします、聴いていただきたいのです」
(‘_L’)「わたしがこうやって捕まることになった事件についてです」
- 92 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 04:49:26.97 ID:7ZCAPZP00
- 最終日。
囚人フィレンクトはついに明日死刑が執行される。
明朝一番に断頭台が作動する。
彼の首はそれ以降、胴体とともにはいられない。
(‘_L’)「聴いておいていただきたいのです。懺悔したいのです」
爪'ー`)「ええ、ええ」
囚人はほっとして喋りだす。
- 94 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 04:57:15.68 ID:bZuIQ5tjO
- フィレンクトどうなるんだ
どうなるんだフィレンクト
- 96 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 05:02:48.39 ID:7ZCAPZP00
- ***
わたしが23歳になりました。
店もなんとか落ち着いて、休暇を取ることができました。
とはいえ、たった三日でした。
ヒートはその三日でクールを迎えに行くつもりでした。
ノパ -゚)「……」
しかし、彼女の顔色は優れませんでした。
ノパ -゚)「わたしはなんとかこうして普通に過ごせている」
生活は忙しかったですが、以前のような不健全さがなくなっていたのです。
互いにある程度健やかに太ることができました。
特にヒートは成長する時期に栄養が摂れたので、すっかり美しい女性になっていました。
- 98 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 05:08:51.97 ID:7ZCAPZP00
- ノパ -゚)「デレも、ギコ兄さんのところで幸せにやっている」
デレはわたしよりも十は年下でした。
なので、その頃には少女が垢抜けてくるのです。
ご存知でしょう?
――すみません、わたくしは聖職者として
それは申し訳ありません……。
ばら色の頬、ぷっくらとした唇、控えめな胸元。
ギコの元で教育も受けられ、知的な美しさも備えていました。
ノパ⊿゚)「姉さんだけ、ひどい目に合わせた……」
それらを受けられなかったのは、彼女だけです。
クールだけがわたし達と離れて不幸に見舞われていました。
- 99 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 05:16:02.82 ID:7ZCAPZP00
- ヒートは一刻も早く姉を見つけ出そうと尽力していました。
資金を蓄えては、近くの町から順に娼館を訪ねていったのです。
わたしは彼女の心持ちが痛いほど分かりました。
もし、見つけたとして、愛する姉が見知らぬ男に抱かれているのです。
早く救えるならそれは良いことです。
ですが、そんな状況を妹が認めるのは酷です。
そして、姉としても見られたくは無いでしょう。
ノハ;⊿;)「可哀想。姉さんが、本当に可哀想……」
ヒートは胸が張り裂けそうな、切ない嗚咽を漏らしました。
朝になれば、馬車に乗ってクールに会える。
そう言って慰めた後、わたし達は寝床に入りました。
- 101 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 05:20:47.38 ID:7ZCAPZP00
- ヒートは目的の建物に入るなり叫びました。
ノパ⊿゚)「姉さん! クー姉さん!」
二つ隣の町へは急ぎの馬車で一日弱かかりました。
なのでその頃には、娼館が業務を行っていました。
女主人が迷惑そうな顔で出迎えてきました。
イ从;゚ ー゚ノi、「お客さん、ちょっとちょっと。上のお客がシラケちゃうじゃない」
中年の女主人が口元に人差し指を当てて言いました。
ノパ⊿゚)「クールは? クールという女はここにいるんだろう」
- 102 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 05:26:05.73 ID:7ZCAPZP00
- ややあって女主人が「ああ」と納得した顔になりました。
イ从゚ ー゚ノi、「クールかい。今は『スナオ』で『接客中』だよ」
ヒートの表情が凍りつきました。
接客中、とは、つまりそういうことですから。
わたしも同じくして、顔が青くなっていたのでしょう。
その建物は二階建てで、パブのようなホールが一階。
二階へは暗がりにある扉から行けるようでした。
ヒートは何も言わずにずんずんとそちらに歩いて行きました。
ノパ⊿゚)「姉さんッ! クー姉さんッ!」
イ从;゚ ー゚ノi、「ちょっと! 誰か! このお客さん止めて!」
その声に応えるように、二階の踊り場には男が待っていました。
- 103 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 05:30:56.61 ID:7ZCAPZP00
- 【+ 】ゞ゚)「待て」
右顔面に怪しげなマスクを着けた男でした。
傷の入った鼻筋と見開いた瞳がさらに異様さをかもし出していました。
ノパ⊿゚)「どいて。姉さんを迎えきたの」
【+ 】ゞ゚)「物事には順序というものがある……?」
ノパ⊿゚)「クー姉さん!」
ばたん。
二階奥の木戸が強く開かれました。
シーツを裸体に巻きつけた女性。
腰までの美しい黒髪が、廊下のランプにつややかに煌いていました。
- 104 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 05:34:08.94 ID:7ZCAPZP00
- 川 ゚ -゚)「まさ、か。ヒートか?」
ノパ⊿゚)「姉さん」
動きが止まった隙に、仮面の男がヒートとわたしの肩を強く掴みました。
川;゚ -゚)「ヒート!」
【+ 】ゞ゚)「落ち着け。でないと話はできん」
ノハ#゚⊿゚)「離せ! クソ!」
イ从゚ ー゚ノi、「やっちゃって」
ヒートの首がぐっと一瞬握られました。
ぐる、と彼女が白目をむくと、仮面の男が言いました。
【+ 】ゞ゚)「これ以上騒ぐなら殺す」
- 105 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 05:37:58.51 ID:7ZCAPZP00
- 空き個室にヒートは運ばれました。
仮面の男がそれを補助してくれました。
【+ 】ゞ゚)「……おい、お前」
ベッドにヒートを寝かせると、彼はわたしにビールを差し出しました。
【+ 】ゞ゚)「クールをここから連れて行きたいか」
わたしは何を言うでもなく、首を強く縦に振りました。
この男ならば話が早くつきそうだと思ったのです。
【+ 】ゞ゚)「条件がある」
彼は指を三つ立てました。
- 106 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 05:44:13.51 ID:7ZCAPZP00
- 【+ 】ゞ゚)「満たすのは条件はどれか一つでいい」
一つ目の指が折られました。
【+ 】ゞ゚)「『スナオ』はウチの看板商品でな。手放すのはかなり惜しい」
【+ 】ゞ゚)「まだ、これからあいつはかなり稼げる。つまり、分かるな?」
わたしは頷きました。
【+ 】ゞ゚)「300タイラス」
凄まじい高額でした。
300タイラスと言ったら、一人が質素に暮らせば十年以上は持つ額です。
到底払える金額ではありません。
【+ 】ゞ゚)「では次だ」
- 107 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 05:48:39.14 ID:7ZCAPZP00
- 二つ目の指が折られました。
【+ 】ゞ゚)「代わりがいればいいんだ。代わりが」
【+ 】ゞ゚)「いるんじゃないのか、まだウブで売れそうなのが」
脳裏にデレが浮かびました。
可憐な少女を娼館に身代わりとして置く?
ありえないことだと、誰だって分かることでしょう。
【+ 】ゞ゚)「毛が生え揃う前くらいで十分なんだが、どうだ?」
怒りのあまり、わたしは首を横に振ることすらできませんでした。
この男は人間ではないのではないのだろうか、と思うほどでした。
【+ 】ゞ゚)「駄目か、なら。これは簡単だろう」
三つ目の指が折られました。
- 113 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 06:00:18.30 ID:7ZCAPZP00
- 川 ゚ -゚)「本当に、本当に一緒に暮らせるんだな……」
川 ; -;)「ほん、とうに……」
ノハ;⊿;)「うん! もう、ずっと一緒だよ! もう一人じゃないんだよ!」
わたしは姉妹の再会を見守りました。
究極の美しさとは、こういうものだとわたしは考えました。
柔らかいランプの光に包まれながら、それを噛み締めました。
イ从゚ ー゚ノi、「オサムが良いと言うのなら……」
【+ 】ゞ゚)「構わない。行かせてやれ」
用心棒のような風貌でしたが、本当の主人は彼であったようです。
中年女性の立ち居地は共同経営者。
その娼館の娼婦上がりだったそうです。
- 118 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 06:06:01.84 ID:7ZCAPZP00
- ノパ⊿゚)「ごめんね……」
川 ゚ -゚)「すまない。そして、本当にありがとう。また、向こうで会おう。すぐに帰ってきてくれ」
姉妹は馬車に乗って町へと帰っていきました。
早く町に戻してあげて、身の回りを整えさせてあげたかったのです。
【+ 】ゞ゚)「……」
イ从゚ ー゚ノi、「ホントに良かったのかい? あんな上玉なかなか手に入らないよ?」
【+ 】ゞ゚)「構わない。それより、朝食の準備をしてやれ。客人にな」
主人はわたしを自室へと招待してくれました。
そこにはたくさんの置物や像、遊戯用具などがありました。
チェス盤、チェッカー、双子の像、天秤。
- 119 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 06:10:00.32 ID:7ZCAPZP00
- 二人掛けのソファを主人は勧めてくれました。
わたしがそこに腰掛けると、ちょうど女主人の方が朝食を運んできました。
黒パンとスクランブルエッグ、ソーセージ。
バターの香りがとてもよく、わたしは和やかな気持ちになりました。
【+ 】ゞ゚)「くつろいでいるな」
わたしはにっこりと笑って頷きました。
【+ 】ゞ゚)「それは良かった。俺としてもそうでないと面白くない」
【+ 】ゞ゚)「突然の出来事が面白いんだからな」
主人が仮面の下に食べ物を運びました。
わたしもそれにならって食べ始めました。
- 120 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 06:15:41.00 ID:7ZCAPZP00
- わたしはソファで、彼は簡単な書斎机で朝食を摂りました。
少しずつわたし達は四方山話をしました。
世間話だけでも、十分に楽しい時が過ごせました。
【+ 】ゞ゚)「ふう、落ち着いたな」
主人は食べ終わると上着を脱ぎました。
晩春でしたから、あまり珍しい光景ではありませんでした。
同様にわたしも脱ぎました。
【+ 】ゞ゚)「別にそのままでいいんだがな」
そうしてから、わたし達はそれぞれに食器を床に置きました。
そして、立ち上がりました。
わたしは上着を腕に巻きつけました。
- 123 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 06:22:23.19 ID:7ZCAPZP00
- ノパ⊿゚)「お帰り! どうだこれ! 似合うだろう!?」
休業中の札をかけたわたしの店では、姉妹がエプロンを着てはしゃいでいるところでした。
むさくるしい男どもに見せるには、もったいないくらいの美人が二人。
わたしはその光景に何故か誇らしさを覚えました。
川*゚ -゚)「なんだか照れるんだが」
ノパ⊿゚)「しゃきっとしてないとお尻触られるぞ!」
クールは少しだけ嫌なことを思い出したようでした。
それでも、すぐに笑顔を作りました。
頑張って、自然なものにしていたと記憶しています。
川*゚ー゚)「それは困るな!」
- 124 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 2009/06/07(日) 06:23:27.62 ID:fiO+pvA90
- 対価のほうは気になるな。
もったいぶりやがって
- 125 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 06:25:40.13 ID:7ZCAPZP00
- パブは休業の札を下ろしました。
わたしは開店してから三日後、店を出ました。
ギコには理由を伝えておきました。
彼は信じられない、といった表情でこう言いました。
(,,゚Д゚)「……本気か?」
笑っていると、ギコは諦めたようにうつむきました。
(,,゚Д゚)「わかった、任されよう」
それから、わたしは警察署に出頭しました。
(‘_L’)「アニジャという人物を四日前、刺し殺しました」
- 126 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 2009/06/07(日) 06:27:24.09 ID:fiO+pvA90
- 救えないな
- 128 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 06:30:22.69 ID:7ZCAPZP00
- 殺してしまったのです。
そうです、クールの自由と交換に、わたしはアニジャを殺してしまったのです。
それがわたしの懺悔です。
魂の救済を求めたくてこんな話をしました。
申し訳ありません、神父様。
わたしは殺人を犯しました。
***
- 129 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 06:33:47.93 ID:7ZCAPZP00
- 話は締めくくられた。
沈黙がひどく重苦しく、神父フォックスの気を滅入らせた。
爪'ー`)「なるほど……」
神父はやはり分からなくなっていた。
囚人が何をどうして殺人に至ったのか。
クールという女性の自由を交換とは?
(‘_L’)「懺悔がしたかったのです。わたしは話しておきたかったのです」
爪'ー`)「……懺悔は口にするだけで救いに繋がります」
いつも通りの言葉でそう返す神父。
囚人はぼんやりと彼の膝から下辺りに視線を彷徨わせていた。
- 130 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 06:37:26.40 ID:7ZCAPZP00
- (‘_L’)「ありがとうございました、神父様。わたしはこれで死を受け入れられます」
突然、囚人フィレンクトは立ち上がってそう言った。
面食らった神父が目を見開く。
(‘_L’)「最後、最後です。わたしの言葉を、断頭台でお聴きくださいますか?」
妙に生き生きとした表情で喋りだした囚人。
椅子に腰掛けたまま、神父は間抜けに喉を鳴らした。
曖昧な音を発した後、頷いた。
爪'ー`)「ええ、聴きましょう」
(‘_L’)「良かった。これで思い残すことはありません」
そうして、囚人は薄汚い寝台に横になった。
- 132 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 06:41:36.80 ID:7ZCAPZP00
- 部屋の隅でぶつぶつ言わなくなるのは、懺悔の周期が終わった証拠だった。
神父がそれを認めると、先ほどの声を聞きつけた看守がやってきた。
囚人の声はそれほど大きなものだったらしい。
「いかがなさいました?」
爪'ー`)「いえ、眠る前に祈りをあげていただけです」
不審がる看守に会釈をして、神父は鉄格子から離れた。
そのまま、彼は牢獄から出た。
爪'ー`)「整合性を失っていく話……。最後の話も気持ち悪い部分が多い」
オサムという人物がアニジャという人物であったことは分かる。
しかし、その間の話は一体どうして削られているのだろう。
寒さに震えながら、彼は首を捻る。
- 134 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 06:46:37.48 ID:7ZCAPZP00
- 爪'ー`)「いえ、わたしは」
聖職者。
神父はそれっきり、教会の中にある自室に至るまで口を聞かなかった。
そして、夜は明ける。
- 138 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 07:00:26.47 ID:7ZCAPZP00
- 処刑人としてロープを切るのは覆面を被った男だ。
斧を持って、静かにたたずんでいる。
囚人がやってきた。
(‘_L’)「神父様」
神父は聖書の一説を読み上げるべく、断頭台の横にいた。
目線があって、二人は会釈した。
集まった観衆の中には、ヒート、クール、デレの姿はない。
ギコが徹底的に彼女達をここから遠ざけていた。
「これより、死刑囚フィレンクトの死刑を執行する」
(‘_L’)「……」
すっかり頬のこけた男はぼうっと、立っていた。
なされるがままに身を預けている。
- 139 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 07:04:13.31 ID:7ZCAPZP00
- 「何か言い残すことは」
処刑人の一人がそう尋ねると、場が一層静かになった。
死刑を観覧に来た人々は元より、執行側の行動が止んだのだ。
囚人は首を小さく傾げた。
(‘_L’)「皆さんに対しては、みっつありますね」
後ろ手に縛られた彼が、口を開いた。
神父は、その手が三本の指を立てているのに気がついた。
(‘_L’)「ひとつ」
すぅ、と囚人は息を大きく吸った。
(‘_L’)「家族っていうのは、いいものですね」
- 141 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 07:08:07.05 ID:7ZCAPZP00
- 指が一本、柔らかく折られた。
(‘_L’)「血のつながりじゃなく、心のつながりです。くさい表現でしょうか」
ゆっくりと首を左右に繰り返し倒しながら、喋っていく。
ゆらあり、ゆらあり、と。
(‘_L’)「昔、偶然にも双子の片方を殺してしまいました」
(‘_L’)「最近会った残りの片割れは、二人一組のものに執着していました」
(‘_L’)「心がつながりを求めているんですね」
指がもう一本折られた。
(‘_L’)「幸せは勝ち取るものでしょうね」
- 143 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 07:11:20.79 ID:7ZCAPZP00
- (‘_L’)「たとえ、邪魔なものを排してでも、自分を変えてでも」
(‘_L’)「いいものです。わたしは、そういうものだと、知りました」
首は変わらず、横にゆるゆると倒れては、返す。
(‘_L’)「双子しかり、姉妹しかり」
(‘_L’)「わたしは蚊帳の外でもいーんですよ」
指が全て、折られた。
(‘_L’)「だから、ずっとそれを奪われたのが悔しかったんです。だから殺します」
- 144 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 07:14:53.82 ID:7ZCAPZP00
- 爪;'ー`)「!?」
不穏な空気が処刑場に溢れた。
ざわめきが広がる。
殺される人間が殺す?
殺した理由を述べるのではなく?
神父の背筋を冷たい汗が流れた。
囚人が大きく息を吸い始めた。
処刑人は手にしたピストルを囚人に向けた。
男は、フィレンクトは、叫んだ。
ただ一言、強く。
(#‘_L’)「うるさい!」
- 146 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 07:18:18.25 ID:7ZCAPZP00
- 再び場に静寂が訪れた。
今度は、ぴりぴりとした嫌なものだった。
(‘_L’)「神父様。最後の言葉、聞き届けていただけますか」
はっとして、神父は頷いた。
完全に彼も飲み込まれていたのだ。
爪;'ー`)「は、はい。どうぞ」
(‘_L’)「では、できるだけ手短に」
首をぐるりと回して、囚人が目を大きく開いた。
(゚_L゚)「調べたんです。ツテを作って」
- 149 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 07:21:22.05 ID:7ZCAPZP00
- 「父さん、なんで僕は捨てられたんでしょうか?」
「孤児院で、女の子を売るのは何でです?」
「わたしを見ても息子と思わなかった?」
声は静かに、しかし、しっかりと全員の耳に入った。
爪;'ー`)「……そ、そんな」
(‘_L’)「それだけです。神父様」
- 152 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 07:25:14.78 ID:7ZCAPZP00
- (゚_L゚)「じゃあ、先に行って待ってますから」
神父の救いの言葉に仇成した囚人。
彼に死刑は執行された。
囚人は一人の男を残酷に殺した罪で死刑が下された。
いくつもの命を奪った経験のある彼は、巧妙にそれを隠匿した。
神父は彼の首が切断される瞬間それを悟った。
過去の話の違和感の正体を知った。
そして、神父もある意味で確実に死んだ。
罪人に死刑は、確実に執行されたのだった。
完
- 163 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 07:40:48.44 ID:7ZCAPZP00
- >>156
事前情報は>>1の通りでございます。
そう、【+ 】ゞ゚)←( ´_ゝ`)ってとこで一回眠くなったんですよ。
今は復活したんですが。
とりあえずながらだったので、早めに完結させんとなー、と。
>>157
いやーマジでありがたいお言葉です。
「朝まで組」にありがとうとちょっぴりのごめんなさい、「朝から組」にありがとう。
です。
>>158
初期設定ではこう、超常現象的な身の上で、
「恩がある人に仇成しちゃう体質」にするつもりだったんですよ。
それで最後に、囚人が首飛んだ瞬間
「生からの解放ありがとう☆」←恩を感じる
→観衆全員首チョンパ!
とかが始めの構想でした。
- 169 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 07:51:28.69 ID:uWg0kSvf0
- フィレンクトが惨殺したのが兄者(オサム)で、隠匿したのはフォックスの社会的抹殺?
だけどよく分からない
あと兄者の出した3つ目の条件も分からない
馬鹿でさーせん
- 170 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 07:53:38.36 ID:DK8bN1JN0
- 俺兄者出した条件「拳で殴り合おうぜ」かと思ってた
上着を腕に巻きつけたのってそういった意味かと…
- 171 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 07:57:48.44 ID:uWg0kSvf0
- 兄者=オサムと知って、上着を腕に~は血痕隠蔽かと脳内補充してた
- 172 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 07:59:16.91 ID:7ZCAPZP00
- >>168
出たな怪人「そうですね」。
数レス、タモさんが引いたぜ。
お疲れ様でしたー。
>>169
ではでは。
惨殺したのは( ´_ゝ`)、つまり【+ 】ゞ゚)でFA
隠匿したのはフォックスが何度も聞かされた過去の話で消えた人間達の死。
ひとつだけ例として出せるのがクックル。
ビンで刺し殺したのは普通にフィレンクトでした。
( ´_ゝ`)の出した条件3→「オトジャを殺したお前を殺させろ」
ただむざむざ殺されるつもりの無いフィレンクト。
あんまり人生に意味が見出せなくなってきたアニジャ。
結局フィレンクトの方が殺人の場数踏んでたので返り討ちにあいました。
と、まあ今回は描写不足多かった。
書き込んだ後に詰め込み忘れた情報に「アウチ!」とか言ってました。
- 173 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 08:01:58.37 ID:uWg0kSvf0
- 説明どうも
確かにクックルは……
- 174 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 08:04:00.46 ID:7ZCAPZP00
- >>170-171
本当は上着巻きつけた時にアニジャにナイフを出させるつもりがあばばばば。
刃物に対しては多重の布が結構有効な盾なんです。
が、お二方の解釈でもばっちぐー。
ポイントは二つ。
アニジャはオトジャが死んだ原因を見つけてテンション上がってたこと。
結局勝ったのはフィレンクトで、アニジャはおっ死んだこと。
ぐらいですから。
あとイ从゚ ー゚ノi、は殺す前に逃げられました。
なので自首するに至った感じです。
描写不足の反省点。
- 176 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2009/06/07(日) 08:06:53.64 ID:7ZCAPZP00
- >>173
クックルの死体が上がった時にフィレンクトが
青ざめた原因を匂わせなかったのがいけなかった。
下流の方の橋で殺ったはずなのに、
それでも洗濯場で死体が出てきちゃって「げっ、マジかよ」
って感じです。
こちらも描写不足。
- 177 ◆s7L3t1zRvU 2009/06/07(日) 08:08:55.89 ID:7ZCAPZP00
- >>175
ノパ⊿゚)「お尻触られるぞ」→微妙な表情の川 ゚ -゚)
触られるくらいで動揺してたら……って感じです。
っしゃ寝ようぜみんな!
お付き合いありがとうございました!
ノシ
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