( ФωФ)ささやかな怪異を含む静かな群像劇のようですζ(゚ー゚*ζ

1 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/21(日) 21:39:06.77 ID:h2HjSlPk0
連日投下でこんばんは。
四話です。今日で完結になります。
今までの投下分は、こちらからどうぞ。

ttp://boonbunmaru.web.fc2.com/rensai/mysterious/mysterious.htm

それはそれはお世話になっているまとめはブーン文丸新聞様とブーン速様。
文丸様は昨日の今日で三話までまとめて頂いたようで大変有難く思います。



これまでのあらすじ。
・群像劇って言う割には登場人物そんなに多くない。
・昭和前半のイメージでお読み下さい。
・やっぱり二話だけ読めば大体分かります。

2 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/21(日) 21:43:46.04 ID:h2HjSlPk0


外では春の風が吹き荒れているが、店の中は穏やかなものである。

昼食時が終わったほんの僅かな休憩時間、
少し前までの、客同士のお喋りや店員を呼ぶ声、食器の擦れ合う音、コーヒーを啜る音。
そんなものが一緒くたになって、風に飛ばされたような沈黙。

客が引けた途端に存在感を増す柱時計の秒針の音と、ノートに走らせている鉛筆の音。
デレの耳に聞こえているのは、たったそれだけである。

窓から差し込む明るい光から逃げるように、薄暗いカウンターの隅に席をとり、
日記めいた文章を書くのは、ここ最近のデレの日課であった。



【おかえりなさいをしてくれる四話】



3 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/21(日) 21:48:23.23 ID:h2HjSlPk0


―あの角を曲がって、4軒目。ひときわ大きなコブシのあるおうち―


『 杉浦の家に世話になり始めてからもう随分と経ったような気が
してたけど、この日記をめくってみて、まだほんの少ししか経ってい
ないことがわかって驚いた。押しかけ同然にこの家にやってきたの
はまだほんの一週間ほど前のことだった。杉浦の家に居る時は、私
は人として生まれる前の犬の姿になってしまう。それがちっとも不思
議に感じない。本当におかしい事ばかり。坊ちゃんもそれを当然のよ
うに振舞われて、おかしい。でもそうするとなんだか落ち着いて、心地
よくて、まるで、人に生まれてきたことが間違いだったみたいな気持ち
になる。杉浦の家は本当に時が止まったみたいに、昔と何にもお変わ
りがない。この家に来たことの無いはずの私がこんなふうに言うのもお
かしいが、私の心の中にあった景色が、本当に全部そこにある。そうす
ると私の犬の記憶は本当だったのだ、泣きたいくらい嬉しいのに、泣き
方なんか知らない(この家では私は犬になるのだ)から、ただ馬鹿みた
いに尻尾を振り回して、坊ちゃんの足元にまとわりついてみたりして、
きっと坊ちゃんは鬱陶しく思っていなさる。  』
 


(;ФωФ)「これは……」

どすん、と目の前に置かれた金色の鍋。
鍋自体は、親切にも毎朝朝食を作って私の家まで持ってきてくれる妹の、
いつもの見慣れた持ち物なのだが……。

4 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/21(日) 21:53:38.86 ID:h2HjSlPk0

(゚、゚トソン「さあ、たんと召し上がって下さいまし」

(;ФωФ)「たくさん作ったなあ……」

(゚、゚トソン「ええ。たくさん作りました」

いま、妹が抱えてくる鍋の中では、
甘く煮詰められた小豆の黒色の汁(その所々から白玉が顔を覗かせいる)が、
清清しい朝に、およそ似つかわしくないのっしりとした甘い匂いを放っていた。

その濃厚な香りから、妹がこの汁粉を作るのに、かなりの量の砂糖を使っていることが分かる。

ぜいたく品の砂糖を、このようにふんだんに使っておやつを作るなど。

しまり屋の妹らしからぬことだ、と私は思い、鍋を卓袱台に置いた妹の顔をちらりと覗く。

(゚、゚トソン「何か」

(;ФωФ)「なんで朝から汁粉なんだ……」

(゚、゚トソン「うちでは、昨日の夜がお汁粉でしたので」

(;ФωФ)「夕飯に汁粉を出したのか!?
        お前、いくら内藤君が出来た夫だからと言って、いくらなんでもそれはないだろう」

(゚、゚トソン「まさか。夕飯の後にお出ししましたよ」

(;ФωФ)「お前は、夫の夕飯は普通に出して、兄の朝飯には汁粉を出すのか……」

6 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/21(日) 21:58:47.37 ID:h2HjSlPk0

(゚、゚トソン「兄様が何を仰ってるのか、私には分かりかねます。
     私は、これをおやつに持って来たのです。
     まさか兄様が、冷ご飯すら用意していないとは思ってませんでしたので」

(;ФωФ)「それはだな……。
        ほら、急に家族が増えたもんだから、どうも飯の量が予定通りに行かなくて……」

  ∧∧
ζ(゚ー゚*ζ「 ♪ 」

デレは、尻尾をふりふり卓袱台のわきに座っている。
犬だろうがなんだろうが、娘っ子は、甘いものを前にすると無条件に嬉しがるものらしい。

(゚、゚トソン「言い訳はよして下さいまし。
     ご飯がなくなったのなら、炊けばいいだけの話ではないですか。
     まったく。私が来るまで起きようともしないで。
     これでは、父様と母様に、わたくし、顔向け出来ません」

( ФωФ)「おや。都村?」

(゚、゚トソン「何か?」

( ФωФ)「いや、お前から、父はともかく、母の名前まで出るのは、珍しい事ではないかと思って」

(゚、゚トソン「そうでしょうか」

9 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/21(日) 22:01:32.63 ID:h2HjSlPk0

妹の表情はあまり動かない。

身内びいきではなく、器量はそう悪い方ではないと思うので、
もっと笑えば可愛らしいと思うのだが、
残念ながら妹は、何かあると僅かに眉をひそめるだけで、
ほとんど、感情を表に出そうとはしない。

そんな妹と、私は随分長い付き合いであるから、
彼女の僅かにひそめた眉から、
彼女の心の内を、覗き見る事が出来る。

( ФωФ)「何か、あったか?」

(゚、゚トソン「何も御座いません。平和なものです」

( ФωФ)「そうか……」

  ∧∧
ζ(゚ー゚*ζ「わん」

空腹でしびれを切らしたのか、デレが吠える。
妹はお玉を右手に、深皿を左手に持ち、
デレに向かって言った。

(゚、゚トソン「さ、よそって差し上げますから、お上がんなさいまし」

10 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/21(日) 22:05:39.58 ID:h2HjSlPk0

あろう事か、先にデレに汁粉を渡した妹は、
彼女が静々とそれに口をつけたの確認すると、
(彼女の食べ方は上品だ。間違っても畳を汚すような事はしない)
満足げに、私にも汁粉をよそってくれた。

(゚、゚トソン「ほら、兄様も。
     昔は、お好きでいらしたでしょう」

( ФωФ)「こどもの頃は、甘いものなぞ皆好きだろう」

皿を受け取る時、指の先が触れた。

軽い眩暈と共に流れ込んだ映像は、
妹に触れるたびに見る、紅色の2つのお手玉であったが、
それがいつもより、色褪せているように思われた。

( ФωФ)「うん。美味そうだ」

受け取った真っ黒な小豆の汁粉は、
やはり、私には甘すぎた。






11 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/21(日) 22:10:32.36 ID:h2HjSlPk0



私は、デレとの奇妙な生活に慣れ始めていた。
デレは家の中で寛いでいる時は犬の姿であったが、
ふと気がつくと、元の色白のお嬢さんの姿になって、
いそいそと女給の仕事に出かけたりする。

またあるいは、寝しなにクロとの思い出話なぞをすると、
すこぶる嬉しそうに尻尾を振ったり、
それから犬らしからぬ悩ましさで、ほうと溜息をついてみせたりする。
可愛いと思う。



そうかと思うと、風の心地よい夜などは、縁側に座り、じっと項垂れている。
私は横に座って、ただ、彼女の頭を撫でてやる。

そうすると、もう何度見たか分からない、
あの血生臭い、暗くて冷たい光景が私に迫ってくるのだが、
二つのどろりとした赤黒い物体は何も語ることはない。

私がこうして覗き見るだけでも、心の底が寒くなるような気持ちになるというのに、
この可愛い犬・・娘さんは一体どんな思いでこの記憶を持っているのやら、
考えるだけでも胸が締め付けられる。

私には何も出来なくて、ただ仕方なく、
なんとも切なそうな眼をじっと庭に投げかけているデレに、
干し芋などを渡してやるのだ。

12 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/21(日) 22:14:44.72 ID:h2HjSlPk0

時折、犬のデレは、そうやって、なんともやり切れないような態度をとるものだから、
私は、年甲斐もなく、すっかりうろたえてしまうのだ。

しかし、そうかと思うと、人の姿のデレは、いつもの大人びたような優しい笑みを浮かべて、
妹のように、私の不精をたしなめて来たりするものだから、わけがわからない。

せめて、人の姿のまま、あんな眼をして、じっと項垂れていたのなら、
話くらいは、聞いてやれるかもしれぬのに。

彼女が、どんな仕組みで犬の姿をとっているのか、
あるいは娘っ子の姿に戻るのかは、とんと検討がつかぬが、
こちらの心配などをよそに、
デレは澄まし顔で美味そうに汁粉なぞを食っていたりする。

まあいい。
この家は、一人では広すぎる。
デレの存在は、確かに私の救いになっている。

ζ(゚ー゚*ζ「では、行ってまいります」

( ФωФ)「気をつけて。よく勤めておいで」

ζ(゚ー゚*ζ「はい」

このようにデレを送り出す時など、
さながら隠居した好々爺のような風情だと思う。



15 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/21(日) 22:17:51.39 ID:h2HjSlPk0



さて。職業柄、我が家に客は多い方だ。
客と呼んでいいのか分からぬが、妹なぞは毎日来る。

そんな風に、毎日何かしらの人が、
鍋やら悩みやらを両手いっぱいに抱えて、
私の家を訪れる。




だが、その時は珍しく、
鍋も悩みも持たぬ人が、玄関の戸を叩いた。

('、`*川「ねえ坊ちゃん。小母さん、いい話持って来たよ」

昔から何かと世話になってきた伊藤さんは、
玄関をくぐるなり、得意げな顔でそう言った。

( ФωФ)「また、見合い話ですか……」

17 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/21(日) 22:22:34.95 ID:h2HjSlPk0

('、`*川「今度と言う今度は大丈夫。
      あちらさん、坊ちゃんの仕事の事も了解して下さっててね。
      娘さんが、これがまたよく出来た子で、それでもいいって」

(;ФωФ)「いや、いや、ちょっと待ってください。
        私は別に結婚を急いでいるわけじゃあ……」

('、`*川「はいはい。とにかく話は中でさせて貰おうかねえ。
      上がらせて貰うよ。小母さん、お台所借りるからねえ」

勝手知ったると言わんばかり、伊藤さんは台所に向かった。
何せ私が生まれる前から、この家を出入りしているのである。
遠慮なぞ、しようはずもない。

(;ФωФ)「ああ、ちょっとちょっと、茶なら私が」

('、`*川「いいんだよ。坊ちゃんは座っておいで。
      なんなら、べっこう飴でもこしらえてやろうかねえ」

(;ФωФ)「私はもういい大人ですよ!」

('、`*川「小母さんには、坊ちゃんは坊ちゃんだからねえ」

(;ФωФ)「ああ……」

還暦をいくつか過ぎた伊藤さんは、
私が真に坊ちゃんであった時分から、私を坊ちゃんと呼び続ける。
妹とはまた違った意味で、けして適わぬ女性であった。

18 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/21(日) 22:25:51.61 ID:h2HjSlPk0


( ФωФ)「素直さん……ですか」

('、`*川「空ちゃんだよ。空ちゃん。
     近所でも評判の美人だよ。
     ちょっと愛想のない子だけどねえ。」

伊藤さんの淹れてくれたお茶を飲みながら、
気の乗らない見合いの話を客間で聞いた。

( ФωФ)「なんでまだ、私のところに話が。
        そんな器量の良いお嬢さんなら、いくらだって話はあるでしょう」

('、`*川「それがねえ……」

そうして伊藤さんは、茶を啜ると黙り込んでしまった。
どうやら、わけありのお嬢さんらしい。

(;ФωФ)「こちらに気のないのに、お会いしても失礼になるでしょう。
        わざわざ話を持ってきて頂いたのに、あれですが、
        今回は、ご縁がなかったと言う事で」

('、`*川「坊ちゃん。そんな事言って、今いくつなんだい。
      都村ちゃんに先越されちゃって。
      小母さん、このままじゃ、死んだ奥さんと旦那さんに申し訳なくてねえ」

(;ФωФ)「べ、別にうちの両親は、私が一人身だからと言って、小母さんに文句は言いませんよ」

21 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/21(日) 22:29:00.59 ID:h2HjSlPk0

('、`*川「全く。年食うと口だけは達者になっていやだねえ。
     坊ちゃん、昔はあんなに可愛かったのに」

(;ФωФ)「ですから、いちいち幼い頃を引き合いに出されても困ります。
        何十年前の話ですか。まったく」

('、`*川「まあとにかく、とってもいい話だからねえ。
     あちらさんがこちらの事情を了解して下さるなんて、中々ないことだよ。
     坊ちゃん、いつもそれで駄目だったろう」

(;ФωФ)「だから……」

確かに、今まで幾度か伊藤さんに縁談を回してもらったことはあった。
気乗りしないながらも、幾度か実際に会って食事をご一緒したこともあった。
大抵は、私の仕事の話になり、そこで妙な雰囲気となり、そのまま駄目になってしまう事が多い。

('、`*川「どうせ、日がな一日家にいるんだろう?
     堅苦しいのは敷居が高いと思ってね。
     四日後に、まず喫茶店で待ち合わせて、ちょっと話をして、それから食事に行けばいい」

(;ФωФ)「ちょっと待って下さい。そんな日程まで。
        こちらにも都合というものが」

23 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/21(日) 22:31:53.43 ID:h2HjSlPk0

('、`*川「四日もあるんだから、都合くらいつけられるでしょう。
      あちらさんも楽しみにして下さるんだから、ちゃんとお洒落して行くんだよ。
      ああ、そうそう。喫茶店の名前だけど、ウツダ喫茶店て言ってね。知ってるかい?」

(;ФωФ)「………知っています」

('、`*川「なら話は早い。五時に待ち合わせてあるからね。
      坊ちゃん。上手くやるんだよ」

(;ФωФ)「上手くって、そんな……」


それから伊藤さんは、あれこれと世間話をして帰っていった。

私は、二人分の茶飲みを片しながら、さて、どうしたものかと思案する。
こうなったのは偶然とは言え、デレの前で見合いなぞ出来ればしたくないが……。



25 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/21(日) 22:34:28.43 ID:h2HjSlPk0



その夜、デレは上機嫌に帰ってきた。
デレの脱ぎ捨てた着物を家の中に取り込みながら、
私は呟くように問いかける。

( ФωФ)「しかしお前、家には帰らなくていいのかね。
        当然のようにうちに居付いてるが、元いたところもあったのだろう」
  ∧∧
ζ(゚ー゚*ζ「わん」

( ФωФ)「いくら、そうやって犬だからと言ってね。
        若い娘がこんなむさい家に住み着くのは良くないね。
        君も普段は可愛らしい年頃の娘さんなのだから、
        外に出て恋でもすればいい」
  ∧∧
ζ(゚ー゚*ζ「くーん」

( ФωФ)「まあいい。まあいいさ。
        晩飯を食べよう。今日は、いい鰯がある」

  ∧∧
ζ(゚ー゚*ζ「わんわん」

( ФωФ)「よしよし」


26 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/21(日) 22:37:05.91 ID:h2HjSlPk0


デレが犬の姿をとっているときは、どうにもこの娘を侮ってしまう。
無邪気に左右に揺れる尻尾が、この子が若いお嬢さんである事をいとも簡単に忘れさせるのだ。

( ФωФ)「そう言えば、見合いが決まった。
        気は進まんが、世話になってる伊藤の小母さんの紹介だからなあ」

  ∧∧
ζ(゚ー゚*ζ「………。」

デレは、振り回していた尻尾を、はたと止めて、じっとこちらを見据えた。
その目には、美しい女の賢しさが宿っているような気がして、思わず私がたじろぐと、
先ほどの上機嫌はどこへやら、何ともなしとばかりに、ついとそっぽを向いて居間の方へ行ってしまった。


私は、まだ体温の残る彼女の着物を腕に引っ掛けたまま、
ううむと唸り声をあげた。


女の扱いとは、かくも難しいものか。


28 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/21(日) 22:40:46.84 ID:h2HjSlPk0



『 坊ちゃんに、目出度いお話が舞い込んだみたいだ。坊ちゃんは
あまり乗り気ではないけれど。乗り気でないのに結婚をすることも
なかろう、こういうことは当人どうしの気持ちが大事だし、この年まで
独身であられた坊ちゃんです、今更急いで結婚でもないと思う。そ
れに相手も聞くところに(この段落部分ここまで二重線で打ち消し)
いけない。どうしたわけか私はこのお話のことを考えると、どこか
面白くないような意地悪な気持ちになってしまうようだ。初めてこの
お話を聞いたときも、ついつい坊ちゃんに素っ気無くしてしまった。
坊ちゃんの幸せに水を刺すような私の態度はどうしたことだろう、
とても罪深いことだ。お優しい坊ちゃん。良い奥様をお迎えになら
れることは、とっても素晴らしい事なのに。私は、坊ちゃんが始めて
店に来たときに、生まれる前の犬の記憶。あの小さい可愛らしい
坊ちゃんしか知らなかったけれども、一目見てすぐにそれだと分かった。
なんにもお変わりない。私の事を、クロと同じように慈しんで下さる。
それだから、坊ちゃんをたばかっている事が、本当に申し訳ない。
早く本当の事を言わなければいけないのに。 』


翌朝やって来た妹は、見合いの話を了解しているようだった。
箪笥をひっくり返して、どの服を着せようかなどと勝手に算段を取っている。

(゚、゚トソン「やはり、洋服がよろしいかしらん。
     だけど兄様が背広の揃いなんて着たの何年前でしたか。
     痛んでなければいいけれど……」

29 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/21(日) 22:44:15.98 ID:h2HjSlPk0

(;ФωФ)「やめてくれ。喫茶で茶を飲んで、少し食事をするだけだ。
        大仰なのは困るよ」

(゚、゚トソン「あら。駄目ですよ。
     いつものよれよれのお召しで行ったら、相手は若いお嬢様ですもの。
     笑われてしまいます」

( ФωФ)「相手は私の事情も了解して下すっているようだ。
        取り繕ったって仕方ないよ」

(゚、゚トソン「またそんなことを仰って……。
     不精もたいがいにして下さいまし。
     兄様の身なりに気を払わないのは私、我慢なりません。
     髭も毎日当てるようにと、いつも言っておりますのに」

(;ФωФ)「それは、すまなんだ……」

矛先が、どうやら私のだらしない気性に向いてしまったようだ。
こうなると、妹の小言は止まることを知らない。
気の済むまで聞いてやろうと思い、私は曖昧な謝罪を口にしたきり、黙り込んだ。

  ∧∧
ζ(゚ー゚*ζ「………」

デレは、面白そうにこちらの様子を伺っている。

女どもが何を考えているか、今の私には全く検討がつかない。
妹は、傍目にはそれと分からぬが、楽しそうにあれこれ服を引っ張り出してるし、
デレは、そわそわと落ち着かない様子だ。

31 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/21(日) 22:46:37.11 ID:h2HjSlPk0

(゚、゚トソン「あら、駄目ですねこれは。虫に喰われてしまっています。
      兄様。お洋服を買いに行きましょう。
      今から背広を仕立てるのは無理でも、
      シャキっとした洋装で行けば、少しはマシに見えるはずです」

(;ФωФ)「いいよ。いい。いい。
        お前はどうしてそう大袈裟なのだ。
        たかが見合いだろう」

(゚、゚トソン「たかがなどと!」

(;ФωФ)「声を荒げるな。はしたない。
        それに見合いまでまだ日があるのだし、服のことなぞ考えなくても……」

(゚、゚トソン「どうせ兄様のことです。
     何を着るかなんて露ほどもお考えになってなかったのでしょう。
     きっと当日までその調子で、いつものだらしない服でお出かけになるに決まっています。
     だから、そうならぬよう、私がご用意して差し上げると言っているのです」

(;ФωФ)「ああ……」

32 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/21(日) 22:48:46.18 ID:h2HjSlPk0

全く、女と言うものは、どうしてこうも服に拘るものなのか。
そう言えば妹の娘時代は、帯がどうだ、合わせの色がどうだと、大騒ぎの末に着替えを済ませていた。
その時にも、色々と私の着るものについて、文句を垂れていた気がする。

  ∧∧
ζ(゚ー゚*ζ「わん!」

いったいどちらを応援するつもりなのか、デレが野次を飛ばす。

さて、年頃の娘にしては地味すぎるほど地味な着物ばかりのデレには、
この騒ぎ、どう見えているものか。




34 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/21(日) 22:51:27.96 ID:h2HjSlPk0



『 クロの話を聞くたびに。私の心の中はどんなにか満たされることか。坊ちゃん
が懐かしむように一つ一つ教えてくださる思い出話の中のクロが、どんなにか幸
せそうであることか。ここに来て良かった。生まれてからひたすらに望み続けた
願いを、やっと叶える事が出来た。私は、クロの話を聞きたかった。
クロ。クロ。私の坊や。あの子の幸せを確かめられたのなら、それで充分なのだ。

ああ、だけど。
どうしてだろう。
その気持ちに、これっぽっちだって嘘は無いのに。
それは誓って言えるのに。どうしてだが、私は、杉浦のおうちから離れ難いのだ。
故郷にいた時から感じていた、ここに、杉浦のおうちに来なければと言う激しい気
持ち。それが、ここに来てもなお、私を突き動している。時々には、何か、大事な
ものをなくしてしまった時のような、ひどくあわただしい、淋しいような心持になる
のだけれど、どうしていいかわからない。

そんな時、風にじっと当たっていると、坊ちゃんが必ず現れて下さって、
私の頭を幼い子どものように、ぽんぽんと気安く撫でて、
干柿や、飴などをくれたりする。  』



35 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/21(日) 22:54:07.20 ID:h2HjSlPk0





見合い当日の朝。
私の布団の中では、裸のお嬢さんが眠っていた。

ζ(-ー-*ζ「………」

(;ФωФ)「うわぁ!」

私は布団の中からもんどりうって逃げ出すと、
そっと、彼女の肩をゆすりながら声をかける。

( ФωФ)「起きなさい」

ζ(-ー-*ζ「………わん」

( ФωФ)「わんではない。
        日本語を喋り給え」

デレは、長い睫毛に彩られた双眸を、惜しむことなく見開いた。
昨夜、共に寝た時には、確かにこいつは犬だった。

このような事は初めてのことであった。
一体いつの間に人になったのだろう。
否、人に戻ったのだろう。

38 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/21(日) 22:57:25.66 ID:h2HjSlPk0

ζ(゚ー゚*ζ「あら…、坊ちゃんお早う御座います」

ごろりと横向きになると、
掛け布団から、肩の曲線をのぞかせて、デレは言う。

( ФωФ)「おはよう。
        見ないでいてやるから、早く服を着たまえ」

ζ(゚ー゚*ζ「……嫌です」

( ФωФ)「は?」

ζ(゚ー゚*ζ「寒いので……お布団から出たくありません」

(;ФωФ)「子どもか!!」

私が大声をあげたのがおかしかったらしい。
デレは、ケラケラと笑った。

ζ(゚ー゚*ζ「坊ちゃん。坊ちゃん」

( ФωФ)「何だ」

ζ(゚ー゚*ζ「デレ、坊ちゃんのお傍に来られて、幸せですよ」

40 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/21(日) 22:59:59.68 ID:h2HjSlPk0

( ФωФ)「それは……布団の中で言う台詞ではない。
        いや、もしかするとそれは布団の中で言う台詞なのだが……。
        お前は、少し、恥じらいが足りなすぎる」

ζ(゚ー゚*ζ「ふふ。恥じらいなんて……。
       だって、デレは、犬ですもの」

( ФωФ)「お前は……」

ζ(゚ー゚*ζ「ねえ、坊ちゃん。
       デレが、いったいどれだけ坊ちゃんにお会い出来て嬉しかったか、分かりますか?
       デレの犬の心が、どれだけここに来られるのを待ち望んだことか。
       デレの人の心が、どれだけ自分の頭がおかしくなかった事を喜んだことか」

相も変わらず布団に潜り込んだまま、話を続ける。
枕から零れ落ちた栗色の癖毛が、柔らかそうな線を描いて畳まで伸びている。

ζ(-ー-*ζ「デレは、ここから汽車で幾日もかかる北国の生まれです。
        暖かい時にはお米を作って、雪が降ったら家に篭もって機を織る。
        他に何もない、それだけのところです」

デレはまるで、まぶたの裏の懐かしい景色を探すように、目を閉じた。
きっと彼女には、その肌によく似た真っ白い雪景色が見えているのだろう。
        
ζ(-ー-*ζ「デレ、本当は、許婚だっていたのですよ。
       と言っても、家と年が近かったから、親同士の口約束で一緒になることが決まってただけですけれど。
       懐かしいなあ。父ちゃん母ちゃん元気かなあ。しょぼんも、元気でやっているといいですけれど」

42 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/21(日) 23:02:29.60 ID:h2HjSlPk0

『何しろ東北の田舎から一人で出てきたさみしい娘っ子で御座います。なにとぞ、平にご容赦を頂きますよう』
私は、いつか聞いた喫茶店のマスターの言葉を思い出していた。
自分を我が家の犬だと言い張るこの子には、その前に積み重ねられたこの子の人生があったはずだ。

( ФωФ)「その……、反対されなかったのかい?
        こっちに出てくるときには」

ζ(゚ー゚*ζ「されました。
       両親には、お前に都会は無理だと諭されて、
       許婚には、俺を捨てるのかと泣かれました。
       でも、デレはどうしても、ここに来なくてはならなかったのです。
       デレの魂の、ほんとうに芯から望むことだったのです」

( ФωФ)「ふむ……。
        君は、縁あって私と出会い、この家に来て、望みは叶ったのだろう?
        お里に、帰るつもりはないのかね?」

ζ(゚ー゚*ζ「一度、家を捨てた身ですもの。
       帰ったところで、機(はた)にも触らせて貰えないでしょう」

( ФωФ)「そうか……」

その時に私は、あのマスターの、デレに困り果てていながらも、極めて同情的な態度を理解したような心地になった。

考えてみれば、地方出身だと言うのにデレの言葉は訛りも感じられない。
いったい、どれだけの間、たった一人、あの喫茶店で女給をしながら、
私と、この家と再び縁が繋がるのを待ち焦がれていたのだろう。

43 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/21(日) 23:05:23.51 ID:h2HjSlPk0


その時、寝室の戸が開いた。

(゚、゚トソン「………兄様」

ζ(゚ー゚*ζ「あら、お嬢さん。お早う御座います。
       今日の朝ご飯は筍ですね。匂いで分かりました」

(゚、゚トソン「………兄様」

妹が私の事を二度呼んだ。
私は、二人の女を交互に見比べるばかりである。

さてこれは、何と説明すればいいものか。
いや、何と説明しても無駄であろう。

(゚、゚トソン「今日は、ちゃんと私の用意した服を着て下さいまし。
      待ち合わせの場所には、最低でも15分前には行かれますうに。
      女性をお待たせしてはいけませんよ」


(;ФωФ)「は?」

(゚、゚トソン「何か?」

( ФωФ)「いや……お前……いいのか?」

(゚、゚トソン「何がですか?」

45 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/21(日) 23:08:25.84 ID:h2HjSlPk0
( ФωФ)「それ」

私は、布団の中、素っ裸でごろごろと横になっているデレを指し示した。

ζ(゚ー゚*ζ「はい!」

(゚、゚トソン「いいも何も、兄様が飼う飼うと仰ったんですから、ちゃんと世話はされて下さいまし」

(;ФωФ)「お前……」

(゚、゚トソン「何ですか?」

(;ФωФ)「もしかして、あまりのことに、頭が働いていないんじゃないのか?」

(゚、゚トソン「まさか。そんな事はありませんよ。私は至って正常です」

( ФωФ)「じゃあ、何か言う事があるだろう」

(゚、゚トソン「では言わせていただきます。
     可愛がるのは良いですが、一緒に寝るのは如何なものかと思います」

ζ(゚ー゚*ζ「私は別に構いませんよ」

(;ФωФ)「お前は話に入ってくるな!
        都村。お前、こいつが何だか分かっているのか?」

(゚、゚トソン「ええ。だって私は、兄様の妹ですもの」

頭が痛い。
今まで現実主義だと思っていた妹は、どうやら非現実から目を逸らして生きているだけらしい。

46 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/21(日) 23:11:31.44 ID:h2HjSlPk0

都村が帰った後、デレが勤めへと出かける前の僅かな時間、居間でしみじみと茶を飲みながら話した。

ζ(゚ー゚*ζ「いよいよ今日ですね坊ちゃん。頑張って下さいまし」

( ФωФ)「だから、都村もお前も騒ぎすぎるのだ。
        どうせ上手くは行かぬ見合いなのに」

ζ(゚ー゚*ζ「あら。坊ちゃんはいい男ですもの。
       上手く行かない事はありません」

( ФωФ)「どこでそんなおべんちゃらを覚えたんだい。
        全く。若い娘というものは油断ならないものだ……」

ζ(゚ー゚*ζ「あらあら。坊ちゃん拗ねちゃって……。
       褒められると素直になれないところは、幼い頃からちっともお変わりない」

(;ФωФ)「拗ねてなど!」

ζ(゚ー゚*ζ「よく覚えています。あの数え唄。
       元は坊ちゃんがお嬢さんに教えたものでしたね。
       お嬢さんは「兄様上手上手」と言って、坊ちゃんに歌ってくれるよう度々せがんでいたのに、
       坊ちゃんたら、恥ずかしがってしまって」

(;ФωФ)「………」

そんなはるか昔の話。言われるまで思い出せなかった。
そう言えばそんな事もあった気がする。
あの歌は、元は私が母親から教えられた歌なのだ。      

48 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/21(日) 23:15:05.37 ID:h2HjSlPk0

ζ(゚ー゚*ζ「見合いの席で、そのような失礼をしてはいけませんよ。坊ちゃん。
       褒めていただいたら、たとえそれが見え透いたお世辞でも、
       ニッコリと笑って、有難う、と答えればいいんです。
       大丈夫。坊ちゃんはいい男ですもの」

デレは、私に見本でも示すかのように、ニッコリと笑って見せた。
どうしてだか、私はその笑顔に、遠い母の面影を見た気がした。

今日はデレもしっかり見守っていますから。
最後にそう結んで、彼女は化粧を直しに立ち上がった。

私をいい男だと言ってのけるデレの態度には、私に媚びるような色は一切無い。
本当に、可愛らしい坊やを褒めるような風情なのである。

愛でもない。
娘の持つ単純でおろかな恋の心でもない、ましてや憧れでも。
あの娘の不思議な態度は、一体どう解せばよいのやら。



ウツダ喫茶店へは、待ち合わせより15分ほど前に着いた。
これも妹の指示で、待ち合わせ時間丁度に現れるような不躾な真似をしてはいけないと再三釘を刺されたのだ。

しかし、待ち合わせの相手は既に居た。
涼やかなドアのベルと共に店内に体を滑り込ませると、
訳知り顔のデレが、接客用の笑顔で店の奥の四人がけの席へと案内してくれた。

川 ゚ -゚)「はじめてお目にかかります。素直空と申します」

50 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/21(日) 23:17:16.78 ID:h2HjSlPk0

白いブラウスに、青いスカートを履いた女性は、
私の存在に気が付くと、立ち上がり、軽く頭を下げた。

背筋のしゃんと伸びた、凛とした女性であった。
小さい卵型の顔には、切れ長の瞳と高い鼻、薄い唇がそれぞれ彼女を最も美しく見せる場所に収まっている。

なるほど。確かに器量の良い娘さんだ。

( ФωФ)「お待たせしてしまったようで申し訳ない。
        杉浦です」

川 ゚ -゚)「いえ。約束した時間までまだ間がありますわ。
     お気になさらないで下さい」

とりあえず席についてコーヒーを二杯注文する。
デレは澄ました顔でマスターの元へと注文を持ち帰っていった。

川 ゚ -゚)「失礼ですが、私の事はどれくらいご存知で?」

( ФωФ)「ああ、ほとんど何も。
        とにかく私の因果な商売も了解して下すっている良いお嬢さんとだけ」

川 ゚ -゚)「いいえ、私はとてもお嬢さんなどと呼んで頂けるような年齢では」

(;ФωФ)「すみません。気を悪くさせてしまいましたか?
        何せ、ほら、私がこんないいおっさんなので、
        私より若い女性は、皆可愛らしいお嬢さんなのです……」

52 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/21(日) 23:20:21.48 ID:h2HjSlPk0

川 ゚ -゚)「失礼ですが、おいくつでいらっしゃいます?」

(;ФωФ)「はあ。三十路を二つほど、越したところです」

川 ゚ -゚)「承知致しました。では、私は辛うじてあなたにとってお嬢さんなようです」

(;ФωФ)「は?」

川 ゚ -゚)「私は、今年で三十になります」

目の前のお嬢さんは、私よりも十は若く見えた。
女の年齢というものは、分からぬものである。

川 ゚ -゚)「嫁き遅れ、というものです。俗に言う」

歯に衣着せる物言いであった。
伊藤の小母さんの言い淀んだ訳は、ここにあったのかと合点した。

( ФωФ)「こう言う言い方が失礼に当たるのは重々承知しておりますが、
        その、信じられません。あなたのようなお綺麗な方が今まで独身であったなど。
        何か、事情がおありで?
        その……、一度、ご結婚されているだとか」

川 ゚ -゚)「いえ。ずっと独身でございます」

言葉が少なく、そして鋭い人だ。
とりつくしまも無いといった風情である。

( ФωФ)「はぁ……」

53 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/21(日) 23:24:19.71 ID:h2HjSlPk0


川 ゚ -゚)「私は、情のない女なので」


自虐的な呟きだとしたら、あまりにも抑揚のない言葉であった。
まるで、教科書でも読み上げるように彼女は言った。
しかも、情の薄い、ならまだ分かるが、情のない、ときっぱりと言い切ったのだ。

とても、まともであるとは思えない。

大体、見合いの席で言うような言葉ではないだろう。

私は、面食らってしまい、いやそんな、と、もごもご阿呆のような否定を口にした。

ζ(゚ー゚*ζ「お待たせ致しました。コーヒーお二つで御座います」

川 ゚ -゚)「有難う。良い香……」

ζ(^ー^*ζ「恐れ入ります」

彼女は、目の前に置かれたコーヒーに、砂糖も入れずに口をつけた。
私は、二個の砂糖を落としながら、しみじみと目の前の女性を見る。

( ФωФ)「今日は、食事に付き合ってくださるとか」

川 ゚ -゚)「ええ。そういう話になっておりますね」

54 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/21(日) 23:27:23.75 ID:h2HjSlPk0

( ФωФ)「……気が進みませんか?」

私の問いかけに、硬い表情を崩さない彼女が、ほんの少しだけ反応を見せた。
それは外見上の変化を大きく伴うものではなかったが、
ぴくり、と頬の端をわずかに動かしたように、私には感じられた。

彼女はかたん、とカップを皿に置くと、私の目をまっすぐに見つめた。

川 ゚ -゚)「そのような事を女性に尋ねるのは、関心致しませんわ」

(;ФωФ)「申し訳ない。私は……どうも、配慮に欠けるのです」

動かぬ表情のまま、彼女はさらに続けた。

川 ゚ -゚)「正直は美徳ですが、そう易々と殿方がご自分の落ち度を認めるのもどうかと。
     女が全て笑って許してくれるとでもお思いですか?」

(;ФωФ)「いや、その……」

手強い。
目の前の女は、一筋縄ではいかぬ。
私の少ない女性経験で太刀打ちの出来るような相手ではなない。

川 ゚ -゚)「見合い相手と食事をすると、両親が喜びます」

( ФωФ)「ああ、親孝行なのですね……」

川 ゚ -゚)「は?」

56 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/21(日) 23:29:33.48 ID:h2HjSlPk0

彼女のその態度で、私は酷く場違いな事を言ってしまったのだと気づいた。
慌てて、言い訳のように言葉を続けた。

( ФωФ)「私は、両親ともに他界していまして。
        肉親は、先に嫁にいった小うるさい妹がひとり。
        親孝行もできぬ間に、先立たれてしまった」

川 ゚ -゚)「それは……」

再び、カップへと伸びかけた彼女の手が、行き場を失ったように、はたと止まった。
伺うように、ちらりと上目遣いでこちらを見やった後、ほとんど呟くような声で、彼女は続ける。

川 ゚ -゚)「……ご愁傷様で御座いました」

( ФωФ)「いえいえ……」

川 ゚ -゚)「コーヒー。頂きましょう。
     折角、こんなに香の良いコーヒーなのに、冷めてしまっては勿体無い」

( ФωФ)「はい」

それからは、黙ってコーヒーを飲んだ。
素直さんは、二度三度、コーヒーの湯気の向こうから私に冷たい視線を送って寄越した。

私は、目の前の見合い相手に、妹に思うことと、同じ事を思った。
きっと、笑えばもっと可愛らしいのに、と。



57 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/21(日) 23:31:42.87 ID:h2HjSlPk0




一緒に店を出た時には、日は既に沈んでいた。
濃紺に染まった空の下は、肌寒く感じられた。

素直さんは、黙って私の後ろをついてきた。
私がどこに向かっているのか、何も尋ねない。
きっと、どこだって同じだと考えているのだろう。

お互い、気の乗らない見合いであった。
これが、成就するはずもない。

( ФωФ)「素直さん」

川 ゚ -゚)「はい」

( ФωФ)「よろしければ、手を」

川 ゚ -゚)「え?」

素直さんは、その訝しげな表情を隠そうともしなかった。
その顰められた眉の形が、妹にそっくりであった。

58 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/21(日) 23:33:54.39 ID:h2HjSlPk0

川 ゚ -゚)「何故?」

( ФωФ)「食事は、やめにしましょう。
        気がのらないでしょう。
        その代わり、ほんの少しでいいので、手を」

川 ゚ -゚)「それは、質問の答えになっていないのでは」

( ФωФ)「駄目、ですか?」
  _, ,_
川 ゚ -゚)「………」

結果として、素直さんは、差し出した私の手をとった。
その印象とは裏腹に、柔らかく暖かい、なんとも女性らしい感触であった。

私は、覚悟していた軽い眩暈の中に落ちる。

血と、土と、それから草の匂いが鼻の奥につんと広がった。
どこかの藪の中だろうか。無数の竹の葉が頭上でざわざわと揺れているのが分かる。
スコップを持った、まるで舞台役者のような美男子が、吐き捨てるように、言った。

( ・∀・)「僕は、 × が × んでも顔色も変えないような人間は、御免だよ」

61 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/21(日) 23:36:09.85 ID:h2HjSlPk0

視点が、男の顔から、たった今掘ったばかりなのだろう。目の前の穴に移る。
俯いてしまったようだ。

胸の内を焼き尽すような冷たい、あまりにも冷たい風が、体の中を吹き止まぬ。
その風が、次から次から涙を凍らせてしまうから、本来出るべきであった涙は、みな腹の中で凍ってしまった。

目の前に掘られた穴の中には、拳ほどの大きさだろうか。
赤黒いゼリーのようなものが、包み込むようにこびり付いた、それ、が、重ねて入れられていた。



ああ、私は、これを、前にも。



川 ゚ -゚)「杉浦さん?」

( ФωФ)「ああ……」

川 ゚ -゚)「どうされました?」

( ФωФ)「いえ。もういい。もういいのです。有難う御座いました」

私はそっと手を放す。
素直さんは、その態度が腑に落ちないのか、ますます不審そうにこちらを伺った。

62 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/21(日) 23:38:20.78 ID:h2HjSlPk0

私は、職業柄、この視線には慣れきっている。

( ФωФ)「素直さんは、私の職業を了解して下すっているとか」

私にとっては通いなれた坂道を、素直さんに合わせ、心持ゆっくりと登っていく。

川 ゚ -゚)「ええ。あなたの言う「職業」が、占い師というものをも含む意味なのでしたら」

一瞬、彼女が何を言ったのかわからなかった。
が、そのもってまわった言い回しの意味するところに理解が及び始めると、
その内容に、私はおもわず息を呑んだ。

口をつぐんだ私にかまわず、彼女は取り澄まして先を続けた。

川 ゚ -゚)「何か誤解がありましたら、ごめんなさい。決してそんなつもりじゃないですから。
     とかく男の方は、こと女に対しては多様性というものから遠く隔たった考え方をなさるもので、
     たとえば年増の行き遅れは心の中が寂しさで満ちていて、どんな粗末な財産内容の男性でも
     これを妾にすることはたやすい、御し易い、落としやすい、軽く手でも握ってやれば……」

私は足を止め、脇を歩く彼女に目を向けた。
軽蔑するような、まぶたの下りかかった二つの瞳が、私をはすかいから見つめていた。

川 ゚ -゚)「あら、ごめんなさい。職業の話でしたわね。
     私は別に了解したわけではありませんの。
     この通り、その気がなかったので、
     適当に返事を返していたら、伊藤さんが勝手に勘違いされてしまったというだけですよ」


64 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/21(日) 23:41:12.12 ID:h2HjSlPk0

( ФωФ)「私は、あなたの手を」

川 ゚ -゚)「御優しくも、女一人では道も満足に歩けまいと、
     立派でしっかりした社会的地位の殿方がわざわざ手を取ってお導きくださったのは、感謝していますわ」

( ФωФ)「ち、違う。そうではない」

川 ゚ -゚)「違う? 優しさからしたことではないと?」

( ФωФ)「い、いえ、それは」

川 ゚ -゚)「ですが、そのお気遣いは無用ですわ。私は一人でも家には帰れますもの。
     この年まで一人で生きてきていますものね」

( ФωФ)「そんな、貴方は。い、いや、それはいいんです。そんな事はどうでも。
       それより、貴方の手を…手は…」

いまや私を正面からじっと見つめる彼女の刺すような視線に、
私はこれ以上ひとときたりとも耐えられるとは思えなかった。

だから、こほんと咳払いをして居住まいを正し、言ってしまうことにした。



( ФωФ)「ご存知の通り、私は浅ましい占い師です。
        ですから今から言う言葉は、その占い師の、胡散臭い戯言だと思われて下さい。
        道理に適わない言葉です。
        常識で説明出来ない言葉です。
        しかしきっと……あなたのためになります」

65 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/21(日) 23:44:14.22 ID:h2HjSlPk0

  _, ,_
川 ゚ -゚)「………」

三十年近くも美しい女として生きていると、
きっと様々な道理に合わない甘い言葉を囁かれてきたのだろう。
彼女は、軽蔑も疑いも、そのまま顔に乗せて、私を見た。






( ФωФ)「素直さん。
        あなたは尊い方だ。善良で優しい方だ。
        犬が、子を産んだ時、本当は、悲しくて仕方なかったのでしょう」





川 ゚ -゚)「………」

彼女は、言われた事を咀嚼するのにいくらかの時間が必要であったようだ。
水銀灯の青白い光の下では、呆然と表情を失ったその顔は、まるで人形のようにも見えた。

68 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/21(日) 23:47:06.21 ID:h2HjSlPk0

( ФωФ)「戸惑われている事と思われます。
        出すぎた事を、申しました」

川;゚ -゚)「あ、あなたが、私に関して何をお調べになったのかわかりませんが……」

( ФωФ)「疑われる事は、慣れております。
        無理の無いことです

」川 ゚ -゚)「ええ、ええ。それはもちろん、結婚は軽々しくするものではありません。
      相手の身元くらいは、調べるのが当然のことですわね。
      それは、占い師である貴方でしたら、造作もないことだったでしょうね。薄汚い詐欺師の手法。
      人の心を惹き付けて、金を巻き上げるためのさもしい手管。
      ですが、…女がすべておろかで、その、
      私がそんなものに騙されるとでも思われたというのでしたら……」
 
(;ФωФ)「ああ……あなたというひとは……」

彼女は、この理不尽な仕打ちに声を荒げている。
それは、先ほどまでの侮蔑を含んだ冷ややかな怒りとは違う種類のものだ。

当たり前だ。彼女は客と違う。
心構えのない相手に、あんな事を言うべきではない。

だが、私にはどうも、彼女の頑なな態度が、
胸の内に深く食い込んだ心残りに、どうしようもなく身動きの取れなくなった人のそれに、
思われて、ならなかったのだ。

69 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/21(日) 23:49:58.58 ID:h2HjSlPk0

(;ФωФ)「素直さん。
        私は、出来ることなら、こんな事、言いたくないのですが……」

川 ゚ -゚)「何でも仰ればいい。
      可哀想な女一人に、何を遠慮される事がありますか」
 
( ФωФ)「あなたは……、気にしていらっしゃる。
        あの薄暗い竹やぶに穴を掘った時に、男の方に言われた言葉を。
        それはあなたの心に蔦の様に絡み付いて、
        あなたを随分長いこと、苦しめている」

川 ゚ -゚)「……適当な事を」

( ФωФ)「占い師として信じて頂かなくとも、私はちっとも構わないのです。
        だけれど、あなたは、このままでは、あまりにも……」

あまりにも、痛々しい。

( ФωФ)「繰り返してみせましょうか。あの言葉を」


私は、竹やぶの中、あの穴の前で男が彼女に言い放った言葉を、余すところなく言ってみせた。


これを口にするのは、私とて、身を切られるように辛い。
だけれど、目の前の気丈な女性は、その何倍も何十倍も、心を痛めたことだろう。

73 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/21(日) 23:51:05.73 ID:h2HjSlPk0


川;゚ -゚)「………っ」


彼女は、驚きに声を失ったようだ。
これも、職業柄、私とって珍しい事ではなかった。


( ФωФ)「素直さん、家はどちらでしょうか。
        よろしければ、送っていきます」

川 ;゚ -゚)「あなたは……」

( ФωФ)「本当の事を言うと、私も、この見合いは気乗りがしなかったのです。
        こんな浮世な商売をしているから、所帯を持つ自信がなくて。
        でも、あなたは違う。あなたは、良いお嬢さんだ。
        良いところに嫁に行きなさい。幸せにおなりなさい。
        何も。何も案ずるところはありません。」

川;゚ -゚)「………。」

彼女は、言うべき言葉を捜しているように、
幾度か口を開けては、また閉めた。
見開かれた目には、狼狽の色がありありと浮かんでいた。

( ФωФ)「本当に、あなたには、申し訳なく思います……。
        もうお会いする事もないでしょうから、どうぞ、私の事はお忘れ下さい」


74 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/21(日) 23:52:13.66 ID:h2HjSlPk0

そうだ。私の事なぞ忘れてくれて構わない。
ただ、私の言ったことを、少しでも理解してくれて、
その悲痛な心残りの慰めになれば、それで良いのだ。



彼女は、見送ると言った私の言葉を断った。
そうして、坂道を登ったところで、じゃあと、一度だけさっと手を振って、別れた。
後姿は、やはり背筋の伸びた凛とした女性のそれであったが、どこか、儚げに見えた。



( ФωФ)「………。」


彼女が辛いあまりに、頭の中で隠してしまった言葉を、私は予想する事が出来た。






僕は、 犬が死んでも顔色も変えないような人間は、御免だよ
        




76 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/21(日) 23:53:20.71 ID:h2HjSlPk0




それから、急ぎ足で家へと帰った。
誰もいない家は暗く冷たい。

玄関で下駄を乱暴に脱ぎ散らかすと、暗闇の廊下を壁に手を添えながら九歩進み居間へと入る。

窓辺のぼんやりとした明るみに、硝子のランプが浮かんでいる。
私はマッチで灯芯に火をつけると、それにほやをきせて燃えを良くする。
火が安定した頃合でそれを手にとった。

私は着替えもせぬままに、始めてクロに出会ったあの部屋へと向かう。
ランプを邪魔にならぬところへ置くと、既に朧になった記憶を頼りに、畳を一枚剥がす。
剥がしたところで、朧な記憶への自信が更になくなり、もう二枚ほど周りの畳を剥がした。

ランプが作り出した私の影が、ふすまで大きく揺れている。
影は忙しなく動き、畳を部屋の隅に立てかけた。

既に、その時点で額から耳の横から汗が吹き出ていた。

しかし、大変なのはまだまだここからである。
私は、物置からさび付いたノコギリを持ち出すと、それを床板に突き立てる。
これも、考えていたよりも重労働で、私が潜り込めるくらいの穴を開けるまで、おおよそ一時間ほどかかってしまった。

77 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/21(日) 23:54:45.29 ID:h2HjSlPk0

(;ФωФ)「はぁ……はぁ……」

やっとの事で穴を開けると、私はその底に這い蹲った。
しんと冷たい地面は、むせ返るような濡れた土の匂いがする。
左手に持ったランプであたりを照らしながら、私は目を凝らす。

必ず、必ずあるはずなのだ。

( ФωФ)「……あれ?」

手が、土とは違う感触を感じた。
すべすべとした丸っこいものを無数に踏みつけた感触。

( ФωФ)「…?」

ランプで照らすと、ぼろぼろの布切れの周りに、小豆が散乱している。

( ФωФ)「ああ……」

もうほとんど原型は留めていないが、その布の柄には見覚えがあった。

妹のだ。
妹に触れるたび、何度も何度も見る羽目になったお手玉だ。
随分長い時間が経っているが、忘れよう筈もない。

否。本当にそうだったか……?
ふと浮かんできた僅かな疑いが、あっという間に確信へと変わる。
私は、急にそれを思い出した。

79 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/21(日) 23:55:53.58 ID:h2HjSlPk0

私は、てっきりこのお手玉は、妹のものだと考えていた。

が、違う。そうではないのだ。

このお手玉は、他でもない私が、母から頂いたものだ。

それを妹が、ここに落としたか、投げたかしたのだろう。
妹は、あの真面目な妹は、だからこそ、長い間、それを悔いているのだ。

( ФωФ)「そうだったのか……」

以前、妹に、似た柄のお手玉をやろうとした事があった。
妹は、眉をひそめて、ほとんど泣き出しそうな顔をして私とお手玉を見つめていた。

ああ、私にそれを渡されるのは、妹にとってどんなにか、責められる心地がしたのだろう。

( ФωФ)「………」

何故、どうして忘れていたのだろう。
そう言えば私は、このお手玉を、妹に触らせる事すら許していなかったのではないだろうか。

それを、こんなにもすっかり忘れてしまっていた。

( ФωФ)「クロだ……」

そうだ。
お手玉をなくしたのは丁度、賑やかしい家族が増えた時で、
私はそれに気付くのにも、随分長い時間を要したのだ。

81 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/21(日) 23:57:24.77 ID:h2HjSlPk0

ああ、妹には言ってやらなければならない。
妹に必要なのは、あんな、お手玉などではなかった。

ただ一言、私が「もういい」と言えば、それで済んだ話だったのに、
全て忘れていた私には、妹を許しようもなかったのだ。



(;ФωФ)「………い、いかんいかん」



私は気を取り直す。
このお手玉を見つけたのは意外な収穫であったが、探していたのはこれではない。


地面に置いていたランプを手にとり、私は再び探し始めた。

目を凝らせ。必ず見つかるはずだ。





85 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/22(月) 00:02:58.59 ID:wIItOBuK0




『 坊ちゃんのお見合いの相手は、素晴らしく美しいけれど、まるで真冬の
洗い桶のお水みたいに、ひやりと冷たい感じのお人。お店では、坊ちゃんも
やり込められていて、マスターと二人でひやひや眺めていたけれど、あれから
どうなったかしら。どうにか、上手くやっているかしら。坊ちゃんは、ちょっと気の
弱いところもあるけれど、いい男だもの。きっと大丈夫。もし坊ちゃんがご結婚
なされるなら、それはとても素晴らしい事。正直なところを言うと、少しばかり
悲しいような気もするのだけれど、何よりも坊ちゃんの幸せが嬉しい。できる
ことなら、このノートも、クロを養って下さった、お優しい坊ちゃんやお嬢さんの
幸せなお話ばかりで埋めることが出来ればいい。杉浦のおうちでは、犬に
なってしまうから、お店でお仕事が終わってから、これを書き始めたのだけれど、
片付け終わったカウンターでこれを書いていると、マスターが何か理由をつけて、
いつも店で出しているおやつを食べさしてくれる。 デレのまわりは、こころのあた
たかな人ばかりで、本当に幸せだと思う。 』







デレが帰ってきた時には、夜も随分更けており、月も高く上っていた。

ζ(゚ー゚*ζ「ただいま戻りました」

どういうわけか、朝のように、デレは家に入っても人間の姿のままであった。

87 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/22(月) 00:05:29.53 ID:wIItOBuK0

( ФωФ)「おかえり」

私は、うやうやしく玄関まで迎えに行く。
土だらけの私の姿に、デレは面食らったようだった。

ζ(゚д゚*ζ「どうなすったんですか坊ちゃん!その格好は。
       折角お嬢さんが選んでくれたお洋服をそんなに汚して。
       まさかその年になって泥遊びもないでしょう!?」

( ФωФ)「そんな事はいい。そんな事はいいから。
        デレ、見つかったよ。」

ζ(゚ー゚*ζ「見つかった?
       何がですか?」

私は手の中に包み込んだそれを、デレの前に捧げるように広げて見せた。



私の両の手には、
小さい小さい頭蓋が二つと、
どこのものかも分からぬ骨がいくつか、
乗せられていた。





89 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/22(月) 00:07:00.82 ID:wIItOBuK0

ζ(゚ー゚*ζ「………」

デレは、それが最初、何か分からぬようであった。
だが、次の瞬間、彼女の体は目に見えて震え始めた。
そうして顔を覆って、玄関にしゃがみこんでしまう。

ζ(∩∩ζ「ああ……坊ちゃん。お気付きになったのですね。
       でも、如何して、如何して……」

( ФωФ)「これが、君の心残りだね」

ζ(∩∩ζ「ええ…。ええ。信じられません。
       私、たった今、今の今まで忘れておりました。


       大切な私の子。
       満足に産んでやる事も出来なかった、クロの兄弟たち……」



私は、デレの頭をそっと撫でた。

もう何度も見た、彼女の心残りを感じる。
湿った土の匂いと血の匂い混ざり合う薄暗く狭い場所。
頭上から僅かに漏れる光に、男の拳大の赤黒いゼリーのような物体が二つ、ぬらぬらと光っていた。

90 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/22(月) 00:09:25.75 ID:wIItOBuK0
いくら記憶の上では忘れていても、
彼女の魂は、この心残りを捨て去ることを、決して許さなかった。


この子も尊い、
善良で、優しい女なのだ。


( ФωФ)「忘れた自分を、責めてはいけないよ。デレ。
        大切なものほど、案外忘れてしまうものかもしれない。
        だから、僕はこんな妙な力を持たされたのかもしれない」

ζ(∩∩ζ「ああ……。
       坊ちゃんは、占い師として、素晴らしい力をお持ちです。
       でも、てっきり私の事を、クロだと思っているものだと……」

( ФωФ)「うん。最初はそう思った。
        でも、よくよく考えてみると、そうだ、君がクロじゃあないのは、間違い無いんだ。
        だって、クロが死んでまだ十年と少ししか経っていないもの。
        そこから生まれ変わったのだとしたら…
        いくら君が若く見えるといっても、さすがに、十歳より下には見えないな」

ζ(∩∩ζ「ごめんなさい。騙す気なぞは無かったのです。
        ただ、私をクロだと思って下すっている間は、私をクロのように扱ってくださると思って。
        知りたかったのです。クロが、私の子が、ここでどんな風に生きたのかを。」


( ФωФ)「馬鹿だなあ。
        そんな事をしなくたって、クロのことなら、いくらでも聞かしてやったのに。
        いくらでも、聞かしてやるのに」

92 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/22(月) 00:11:58.28 ID:wIItOBuK0


ζ(∩∩ζ「ああ、でも、それだけじゃない……。
       今、今やっと分かりました。
       デレの魂は、確かめたくて仕方なかったのです。
       ちゃんと生んであげられなかったあの子たちが、どうなっているのかを。
       そのために、ここに居たかったのです。
       そのために、クロになりすますような真似をしたのです」

私も、デレに合わせてしゃがみ込む。
細い指、薄い手の甲で覆われてしまったため、その顔は見えないが、
声は、震えている。

泣いているのだろう。

( ФωФ)「うん。知っていたさ。
        デレ。君のその気持ちは、あのカフェで会ったその日から、私には分かっていたよ」

ζ(∩∩ζ「ああ……申し訳ありません。坊ちゃま。」


そうしてデレは、見る間に姿を変えて、
真っ白い毛を持つ、犬の形にとなった。

あの、床下にいた母犬は随分汚れていたけれど、
きっと、こんな美しい白い毛並みだったのだろう。


93 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/22(月) 00:13:24.59 ID:wIItOBuK0


  ∧∧
ζ(゚―゚*ζ「………。」

彼女は黙って玄関の外へ走り出た。
私も下駄を突っかけて慌てて後を追うと、デレは、庭のコブシの木の下を、
その綺麗な毛並みに泥をたくさん引っ付けて、懸命に掘り返していた。

( ФωФ)「分かっている。分かっているよデレ。
        一緒に埋めてあげよう。そこには、クロも、君もいる。
        皆、一緒だ」

私も、膝をついて、素手のままデレと一緒に土を掘る。
物置に古いシャベルがあるのだが、どうしてかこの手で掘らねばならぬ気がしたのだ。


懐にしまった骨が、腕を動かすたび、しゃらしゃらと軽い音をたてる。
穴を掘るのを急かしているのか、それともお礼を言っているのか、
高揚した、妙な心持のまま、私は手を動かし続けた。


95 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/22(月) 00:15:36.73 ID:wIItOBuK0

  ∧∧
ζ(゚д゚*ζ「わん!」

まるで、もう充分だとばかりに、デレが一声あげる。
私は、そっと骨を穴の中に入れてやると、
掘った土をその上に優しくかけていった。

土を戻し終えると、コブシの花びらが一枚、弔うようにそこに落ちた。




デレ。
君はこのために、
この家に来たのだろう。





96 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/22(月) 00:18:11.55 ID:wIItOBuK0



振り向くと、裸の女がそこに立って居た。
月明かりに朧に照らされる、細く頼りなげな女だ。
土くれが、体中にこびりついている。

泣いているようにも見えるが、どうだろう。
乱れた髪の毛が顔を覆っていて、よく分からない。

その口は、閉じ方を了解していないように、少し開いて、
今にも何か言葉を紡ぎ出しそうではあるが、
出来の良い石膏像のように、その予感だけを永遠に残すようにも思われる。

( ФωФ)「おかえりデレ。
        君は確かに我が家の犬であった。
        クロは随分うちに尽くしてくれた。
        有難う。君にはいくら感謝しても足りぬだろう」

ζ( ー *ζ「………」

デレは、笑った。

まるで笑い方を知らないような、ぎこちない笑いであった。
もし、人の形をとった機械があるのなら、こんな風に笑うのかもしれない。

99 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/22(月) 00:20:37.97 ID:wIItOBuK0

( ФωФ)「そして、とても長い長い間、ご苦労だったね。
        故郷(くに)を捨てて、辛い思いもたくさんしたことだろう」

私は言葉に気を配り、詰まり詰まりそれだけ言って、彼女の髪の毛をそっとかきあげてやった。
私よりもうんと若い、か弱く可愛らしい娘さんが、そこに居た。

ζ(゚ー゚*ζ「坊ちゃん……」

( ФωФ)「坊ちゃん、ではないよ。
        私は、君よりも随分年上なのだ」

私は、自分の土に汚れたシャツを脱ぐと彼女の肩にかけてやった。
春の終わりの風は、まだ冷たい。      

( ФωФ)「わかるね。
        君はこれからは、幸せにならなくてはならないよ。
        他の、たくさんの娘さんと同じように」
   
風が、デレの細く長い髪の毛を躍らせる。
デレは、シャツが飛ばされぬよう、胸元でしっかりと抑えた。
     
ζ( ー *ζ「ああ。デレは、デレは……」

( ФωФ)「うん」

ζ( ー *ζ「杉浦のおうちを選んで、良かった。
        この、見事なコブシに誘われるように、ここの軒下に潜り込んで良かった」

101 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/22(月) 00:22:51.07 ID:wIItOBuK0

華奢な体が震えている。
健気にこちらの顔を見据えて、懸命に伝えようとしている様がいじらしい。
ついにその頬を伝い始めた涙が、ひとつ、ふたつと雫になって落ちていく。


ζ(;ー;*ζ「そうして、また、この世に、生まれてきて良かった……。
        杉浦のおうちを、坊ちゃんを、忘れないでいて、良かった……」


私は、そっと彼女の頭を撫でようとして右手を上げたが、
そこで思い直して、デレの体ごと自分の胸に押し付けるように抱きとめた。


私の目の前に広がるのは、一面の雪景色であった。
きっと、彼女の故郷の景色なのだろう。


これから、人として、娘としての幸せが、この子に訪れますように。
私は、その雪景色を見て、強く強くそう祈らずにはいられなかった。







105 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/22(月) 00:27:38.81 ID:wIItOBuK0







翌朝。デレはやはり人のままであった。
私もデレも、二度と彼女が犬の姿をとらない事が分かっていた。

( ФωФ)「もう、元いた家に帰りなさい。
        行く宛がないわけではないのだから、こんな男の家に入り浸っていてはいけない」

ζ(゚ー゚*ζ「いえ。もと、下宿させて頂いていた欝田さんへは、ちゃんと事情を説明したので大丈夫です。
       これからはきっと、私がおさんどんも出来ますし」
       
( ФωФ)「若い娘さんが、そういう訳にも行かないだろう……」

ζ(゚ー゚*ζ「そんなくらい、デレだって分かっておりますよ。
       坊ちゃん。いいえ、杉浦さん。
       こんなこと、女の口から言うのははしたないと承知しておりますが、
       デレと、結婚して下さいまし。
       それで、四方八方丸く収まるのです」

(;ФωФ)「はぁ!?」

108 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/22(月) 00:37:13.59 ID:wIItOBuK0

ζ(^ー^*ζ「坊ちゃんは、いい男ですよ」

(;ФωФ)「待て。落ち着きなさい。
        君は、色々と勘違いしている。
        思い違いをしているのだ。
        人生に焦ってはいけない。
        何事も、もっと考えた方がいい」

ζ(゚ー゚*ζ「デレは、たくさん考えました。
       これが、一番良い答えです」

(;ФωФ)「ううむ……」

私は思わず額に手をやって考え込んでしまった。
深い溜息をついてから、この娘は何もかもを間違って考えている、と思う。






111 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/22(月) 00:39:27.14 ID:wIItOBuK0


(゚、゚トソン「結婚なさいまし」

いつものようにやってきた都村は、にべもなくそう言った。

どうやら妹に、デレは一緒になって朝食を作りながら、
大体の事情を説明したらしい。

女二人が用意した朝食をつつきながら、
私は、酷く居心地の悪い思いをしながらその言葉を聞いた。


(゚、゚トソン「結構じゃないですか。
     良かったですね兄様。こんな若くて可愛らしいお嬢さんをお嫁に頂けるなんて。
     私も、兄様の世話から解放されるのかと思うと、これ以上の事はありません。」

(;ФωФ)「そんな、お前、簡単に……」

(゚、゚トソン「デレは、良い子じゃないですか。
     どんな不満があるのですか」


112 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/22(月) 00:41:01.81 ID:wIItOBuK0

(;ФωФ)「どう考えても釣り合わないだろう。
        何歳違うと思っているんだ」

(゚、゚トソン「あら。一回り以上年下のお嫁さんなんて、甲斐性の証ですよ。兄様。
     別にデレの事を嫌っているというわけではないのですから、胸を張って娶れば良いのです。
     昨日のお見合いだって、失敗なさったのでしょう。
     聞きましたよ。食事もとらずに帰って来たとか」

(;ФωФ)「もういいよ。もう……」

私は、たくわんを一つ頬張ると、それきり妹を説得するのを諦めた。
この妹は、兄の結婚を芯から望んでいるのだろう。
有難いことだと思う。



その時、玄関から「ごめん下さい」と、女の声が聞こえた。

ζ(゚ー゚*ζ「お客様ですね。出て参ります」

デレは食べかけの茶碗を卓袱台に置いて、軽やかに立ち上がると、
まるで飛ぶように玄関の方へとかけて行った。

流石女給なだけあって、腰が軽い娘だ。


115 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/22(月) 00:44:52.09 ID:wIItOBuK0

それから少しして、漏れ聞こえてくる会話が、諍うような色を帯びた。
都村が心配そうに眉をしかめる。

( ФωФ)「行って来る」

私も立ち上がり、玄関へと向かうと、
そこには、昨日の見合い相手が居た。

川 ゚ -゚)「やあ。あなたが出てきて助かったよ。
     この娘さん、先ほどから、わけのわからぬ事を言って、君に取り次いでくれないから、困っていたのだ」

彼女は今日も、昨日と同じ洋装を身に纏っていたが、
昨日と違うところは、ほとんど男装とも言うべき、ズボンとシャツの簡単な組み合わせに落ち着いているところだった。

それは彼女の冷ややかな美貌と、女性にしては高めの身長と相まって、よく似合っていた。

川 ゚ -゚)「昨日の事を詫びに来たんだ」

ζ(゚ー゚*ζ「坊ちゃん!出てきちゃ駄目です!戻られてください!」

見合い相手は、昨日とは打って変わって砕けた態度で私に言葉を投げかけた。
デレは、気に食わないのか、声を高くして喚いている。

川 ゚ -゚)「昨日は、失礼をしたね。
     私は、あなたのことをどうやらとんでもなく勘違いしていたみたいだ。
     あなたの優しさを、下手な下心と間違えて、ついつい酷い態度をとってしまった。
     許して欲しい」

(;ФωФ)「いや、私は何も……。こちらこそ、大変な失礼を」

117 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/22(月) 00:47:08.61 ID:wIItOBuK0

川 ゚ ー゚)「許してくれるのかい!
      そいつは良かった!
      やはりあなたは素晴らしい方だ」

見合い相手は、大袈裟な素振りで私を称えた。
この賢い女性にそんなことをされると、何やら馬鹿にされているように感じる。

(;ФωФ)「ああ、うう……」      

ζ(゚ー゚*ζ「ほら!坊ちゃんが困られているじゃないですか!
       約束もなしに突然やってきてなんなんですかあなたは!」

川 ゚ -゚)「君には言ってないよ。五月蝿い子だね。少し黙っていてくれないか。
      私は、杉浦さんと話しているんだ」

ζ(゚ー゚*ζ「坊ちゃん!!」

(;ФωФ)「デレ……、君は少し黙っていなさい」

ζ(゚д゚*ζ「坊ちゃん……」

デレは、何か言いたげであったが、渋々口を閉じた。
この子がこれ以上口を開くと、きっと話がこじれるだろう。

(;ФωФ)「素直さん。わざわざ尋ねて頂いて有難う御座います。
        それで御用の向きはそれだけですか……?」

118 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 2010/02/22(月) 00:47:53.65 ID:szj2NTgH0
なにこの両手に花

119 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/22(月) 00:49:25.39 ID:wIItOBuK0

川 ゚ー゚)「ああ。よくぞ聞いて下さった。
      杉浦さん、どうぞ、私と結婚をして下さいまし」

ζ(゚д゚*ζ「!?」

( ФωФ)「は……?」

川 ゚ー゚)「私は、あなたに、運命というものを、感じたのです。
      私は、あなたをこんなにも、愛したくて、たまらない」

時が、止まったような心地であった。

彼女は、清清しい笑顔を浮かべてじっとこちらを見据えている。
ああ、やはり思ったとおり、笑顔がよく似合う女性だ。

その妙な沈黙を破ったのは、デレの絶叫であった。

ζ(゚ー゚#ζ「坊ちゃんは……坊ちゃんは、デレと結婚するんです!」

彼女が、こんなに荒々しい声をあげたのを見たのは初めてであった。
だが、見合い相手は意に介さずと言った様子でそれをあしらう。

川 ゚ -゚)「なんだね君は。
     結婚するって、杉浦さんと交際しているのかい?」

ζ(゚ー゚#ζ「これからするんです!」

川 ゚ -゚)「なんだ。じゃあ、私と一緒じゃないか」

122 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/22(月) 00:52:07.37 ID:wIItOBuK0



(゚、゚トソン「あらあら兄様。
     両手に花ですね」

いつの間にやってきたのか、後ろで妹が私を茶化した。

ζ(゚ー゚*ζ「お嬢さん!どっちの味方なのですか!」

(゚、゚トソン「味方も何も。
     こういうのは、兄様が決めることでしょう」

(;ФωФ)「………」

私は、頭を抱えてうずくまりたい気分になった。

私の与り知らぬところで、私に関して、重大な事が起こっている。

(;ФωФ)「………おい、都村」

(゚、゚トソン「なんで御座いますか?」

(;ФωФ)「助けてくれ」

125 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/22(月) 00:55:05.05 ID:wIItOBuK0

(゚、゚トソン「あら。幸せものが何を仰いますか。
     兄様、私明日から、おかずを届けるのは遠慮させていただきますね。」


ζ(^ー^*ζ「坊ちゃん!デレが!デレが明日からお作りさせて頂きますね!」


満面の笑みをたたえて、デレが言った。

そんな場合でないのは分かっていたが、
この娘らしい無邪気な笑顔を見て、もうデレに母の面影を見ることはないのだろうと、確信した。

そう言えば、初めてデレと出会った時は、コブシの花が満開だった。
それも、そろそろ全て散ってしまうだろう。

128 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/22(月) 00:58:13.44 ID:wIItOBuK0
四話以上です。
有難うございました。
これで完結となります。

130 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/22(月) 00:59:33.28 ID:ZRjIah1A0
作者乙!
終わってしまうのが勿体無いな

132 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 2010/02/22(月) 01:01:10.82 ID:Bo/rhzuV0
乙!
雰囲気好きだったよ。

134 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/22(月) 01:02:21.81 ID:wIItOBuK0
何よりも推敲に物凄く時間のかかった作品でした。

度重なる推敲に付き合って頂いた某氏には、
とてつもない感謝を捧げたいと思います。

彼なくして、この四話は成り立ちませんでした。

有難う御座いました。

138 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/02/22(月) 01:31:59.10 ID:Q6oFqbPkO
おつ
すげー良かった

クロじゃないってわかったあたりで目から汗かいた。
ていうか一話から四話漏れなく汗かいた。




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